本当に、本当に情けないことだが、私は戦うことにも、勝利することにも楽しさを感じない質だった。
本質的には、敵が不安がり、そして絶望し、悲しみにうちひしがれるのを見ることこそが好きだったのだ。
打ち砕きにくい希望ほど、破壊したときの感動は大きい。
それがいいことでも悪いことでも知ったことではない。
壊す量は大きければ多いほどいい。
が、心が完全に壊れるギリギリのラインを見極め、対象に空虚な復讐心をプレゼントするのもまた乙だ。
どんな素晴らしい詩歌、戯曲、物語がもたらす感動など、他人を傷付け征服することにより得られる歓びに比べれば些細なものだ。
ましてや愛、人間性、自己の顕示、存在意義などと、そんなものを考えたりそれに拘る必要なんてない。
私達以外が不幸ならば、それだけで私達は救われる。
私達のために、皆死ね!
________________ARES師団基地
「はあ。またARESの責任なのですか。しかも、その中でも特に私を名指しで。一体どういうことなんですか大将。」
執務室のような場所で、一つの機械と、一人の老人が会話をしている。
その一つの機械はこんななりだが人間で、そして老人もまた人間だ。
そして彼らの(少なくとも老人は)表情は明るくはなく、寧ろ険しい。
「全くもって奇妙な話なのだが、君が地球上で暴れている、と彼らは主張している。」
「それは先程聞きました。おかしいでしょう?私はここにいます。」
堂々巡り。それもそうだ。起こってはいけないことが起こっているのだから。
同一人物が二人いるなど、この科学の発展した世界では簡単には否定されるだろう。
それが一般的な人間ならば。
だが残念ながらその二人目が確認された彼と言う存在はパイロットだ。
二人いても別におかしなことはない。
再生できるからだ。
「私の体からメンタルデータは移行できたんですか?」
「きれいさっぱり移行したが、元の体に入っていたメンタルデータはそうともいかなかったようだ。」
「なるほど、つまり私は私を殺しにいかなければならないわけですね。」
「理解が早くて助かる。」
狂った会話。
でも彼らにとってはあり得ないことではなかった。
「流石に一人じゃありませんよね?」
「ああ。いつもお前とつるんでるあの二人も行かせる。
流石にお前一人に責任を引っ被せるのは酷だろうからな。」
それを聞いた機械は、その表情を読み取れない筈の自分の顔が、少しだけ笑顔になったように思えていた。
「それではまた、いってきますね。」
「なぁ~にいい話風に纏めてんのよ!アンタがちゃんとメンタルデータ管理しとけば良かった話でしょうが!」
WA2000が吠える。
そりゃそうだ。
あんな馬鹿みたいな作戦をもう一度、しかも自分以外の奴がヘマしたせいでやらなければなくなったからだ。
怒らない方が無理がある。
「まあそういうなよ。コイツに貸しつくっときゃあ後で便利かも知れねえぜ?」
飄々とした、もう一人の機械のパイロットが宥めている。
彼も変わった。
前は前は無理して明るく振る舞い、相当に病んでいたというのに、最近は本当の意味で明るくなった。
いいことだ。
「そのとおりですとも。私だって人間ですから、失敗くらい多めに見てほしいですねぇ。」
「あんたが人間語んな!」
彼らは、戦闘前だと言うのにやたらと平和だった。
そして一人目の機械のパイロットが最後に、やっと自らのしがらみから抜け出そうとしていたのだ