人間らしくない人間と、人間らしい人形   作:pilot

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クロークドールズ

「展開、作戦開始。」

 

その声とともに、とっくに夜のかやの下りたIMC保有の製造工場へと複数の人影が散る。

たかが製造工場、されど天下のIMC故か、こんなにもお祭り騒ぎの夜だと言うのにも関わらず無人兵器による防御はとても厚い。

これでも幾分か緩和されているというのだから、あの会社は底が知れない。

遥か彼方フロンティアを蹂躙しながら、コアシステムの統治も一手に引き受けるその有り様は、正に新たな神とも言えるものであった。

 

だが、鉄血たちはそれに靡かない。

かつて正規軍やグリフィン相手にしぶとく生き残った反骨精神からか、IMCが台頭した今も「人形らしからぬ人間らしさ」を秘める運命共同体としてひっそりと息をしていた。

 

「こちらパイロット、データナイフによる第一次セキュリティの掌握に成功。

さあ、さっさと突入しようぜ!」

 

そして今、新たな戦力を鹵獲した鉄血たちは、覇権を取るためでも自己を主張するためでもなく、ただ生き残るために戦うことになるのであった。

 

「防衛用のスペクターが起動した!最低限の戦闘でウロボロスを探せ!」

 

鉄血に味方するパイロットが怒号を飛ばす。

ハイエンドの人形達がロックの解除された隔壁から侵入し、基地の中へ散る。

さらに深いセキュリティエリアへと到達するためのハックを担当するチームと、実際にウロボロスを連れ出す実働部隊に別れ、事前の打ち合わせ通りに素早く配置へとついていった。

 

空気が裂け甲高い銃声を掻き鳴らされた。

 

「スペクター発見!」

 

標的となったのは、中央管制室へと向かっていたイントゥルーダー及びドリーマー、アーキテクトだった。

 

「侵入者へ警告、直ちに投降しろ。こちらの指示へ従わない場合はその場で射殺する。」

無機的な機械音声が施設内へと響き渡る。

 

数台のスペクターが銃口をハックチームへと構えつつにじりよっていた。

 

「やるしかないわね......」

「このクソ人でなしどもが!死ねッ!」

「お~こわ......」

 

最低限の戦闘に抑えろという言葉はどこえやら、凄まじい剣幕でスナイパーライフルを連射するドリーマー。

それに追随するようにガトリングガンをぶっぱなすイントゥルーダー。

怖がってる振りをして見た目相応感を出そうとするも、その手から放たれている爆発物で全てを台無しにしているアーキテクト。

 

いくら軍用兵器のスペクターといえど、ハイエンドクラスにたった4機で挑むのはいささか無理があったようだ。

あわれ四肢が弾けとび、頭部は砕け、その強固な装甲は無理矢理物量に破壊される。

数度激しい爆発と、射撃音の長い嵐が止み、響き渡り続けているのはあの機械じみた警告文のみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雑兵だと侮っていたが、中々やるじゃねえか......!」

 

エクスキューショナーは不敵に笑う。

笑ってはいたが、戦況はよろしくない。

道を切り開くのは彼女の仕事で、そして突貫するのは得意分野の筈であった。

だが相手が悪い。

最新鋭のスペクターは無線通信技術の更なる進歩により、外部からの直接的なネットワークへのハッキングは不可能となっている。

少し前までその無線通信の脆弱性につけこんだパイロットが作成した特殊な「wifiウィルス」と言われるものがあったらしいが、最近めっきり見なくなったとクロークパイロットはこぼしていた。

 

つまりデータナイフで端末経由にハックするしかスペクターの指揮を奪うことはできない。

ならばとれる行動は撃破のみ。

そしてスペクターは非常に高性能且つ安価。

屈強な成人男性が、強固な軍用プロテクトをつけていたとしても一撃で戦闘不能へ追い込む腕力、無線通信により統制のとれた戦術、更にあのパイロットと同等の耐久力など最新鋭の鉄血下級人形どころか、単純な機体性能ならばハイエンドに迫るレベルだ。

 

もうすでに数十台スクラップに変えたエクスキューショナーであるが、スペクター側も対策を練ってきていた。

スペクターのAIは深いところで全機体繋がっているとされ、それを纏めあげるスパイグラスと呼ばれる存在がいる。

それと関わりがあるかどうかはエクスキューショナーは知る由もないが、確実にスペクターの動きは変化している。

 

「ずっと引き撃ちばかりしやがって......!中々いい性格だなッ!!!」

 

先程まで常に前進制圧を行っていたスペクターの動きが明らかに引き気味になり、エクスキューショナーを近接格闘で足止めする一部と、終始遠距離から弾をばらまくその他大勢の様相を呈している。

 

「それならこっちだって考えがあるぞ!」

 

叫びつつ地面にその大降りな刀を突き立て、そのまま前方へと振り抜く。

空気が割れんばかりに響き、そして事実地が裂けた。

そのまま衝撃波となった運動エネルギーがエクスキューショナーの機動妨害のため駆け寄ってきたスペクターの脚を紙切れのように吹き飛ばす。

 

異常に肥大化したような機械部位剥き出しの右腕が赤く火照っているようにも見え、白い煙が上がっている。

 

もう右手は暫く動かないのかだらんと垂れ下がっていた。

引っ張られるように地に崩れかける機体。

だが、エクスキューショナーの目に宿る闘志はその手の熱量とは比べ物にならない。

 

「まだまだぁ!」

 

目を見開き、地を踏みしめる。

未だその心も、体も、全くもって折れる気配はない。

力無く垂れ下がった右手により崩れかけた重心を左手を巧みに動かし踏ん張りを効かせ、辛うじて保つ。

 

その隙を狙う後方のスペクター。

その機械の手に大火力の二連バレルを持つダブルテイクの後期型、エネルギーの干渉波を利用した第三の攻撃力を持つIMCの開発した技術の結晶とも言えるスナイパーライフル。

 

それの放つ複数の光弾に貫かれればいかにハイエンドとは言え大破必至だろう。

人形の高性能な目ならば、自分を狙うものがいること位認識できるはずだ。

事実彼女はダブルテイクのサイトが自らをとらえているのを知っていた。

それでも、彼女は希望を失わない。

エクスキューショナーは一人じゃない。

 

引き金にかかる鉄の指。

しかし鳴り響いたのは、エクスキューショナーの前方から、聞き慣れないIMCの兵器の発射音ではなく、むしろ後方からの聞きなれた拳銃の発砲音である。

 

「ナイスだ!ハンター!」

 

「危なっかしいな!だが、嫌いじゃあない!」

 

放たれた銃弾は正確無比に射手であった筈のスペクターの頭部を弾き飛ばし、この場における「狩人」はどちらかということをスペクターに知らしめた。

 

ハンター、エクスキューショナーのコンビは以心伝心。

それでは足りぬ、阿吽の呼吸。

いやいや彼女らは見た目が違うだけでダミーリンクしているのだ。

そう言われるほど、彼女達の連携は緻密で、そして大胆で、何よりお互いに信頼しあっていた。

 

「行くぜ!そろそろお前らの相手も飽きてきた!」

 

排熱が終わったのか、またもや前傾姿勢へと体勢を変えるエクスキューショナー。

 

「私も合わせよう。」

 

同じく姿勢を低くし、突貫する構えを見せるハンター。

 

寸分の間なれど、静寂が場を満たす。

 

次にスペクター達が敵の動きを感知するのは、自らの破壊という形になった。

 

エクスキューショナーが力強い動きで障害物ごと隊列を破壊する。

逃げも隠れも許されぬ、苛烈な攻め。

 

場が整い、刃を研ぎ終わった狩人、ハンターがその背後から飛び出していた。

異常な早さと、神がかった精度で寸分違わず急所を撃ち抜く。

逃げることや隠れることすらする暇なく、機能停止の結果のみがスペクター達に突きつけられる。

 

純粋な機体性能や、スペック、演算ソフトが全てではない。

経験と、信頼と、そして、熱意。

それらが実力差を覆すことを、この二「人」組は体現していた。

 

 

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