ドルフロタイタン概念:完璧な兵器
「サイトも使わず......あの精度......!?私達の利点奪われてるじゃない......!」
訓練所にて。
ただの訓練といっても、この時代の当たり前として、そこで繰り広げられている様相は全て人間離れしている。
壁を当然の権利だと言わんばかりに駆け、むしろ出来ないのかとバカにするかのように空を蹴り空中を滑る。
そして極めつけは、そんな不安定な状態で構えもせず敵を撃ち抜く。
そんななか、異物のように浮いたこの少女。
少女といっても機械だ。
それも元は人間、というわけでもなく、生まれもっての機械。
それにしてはやたらと人間らしい。
IMCはそういったものを投げ捨てているから、珍しいことに彼女はハモンドロボティクスの製品ではない。
彼女は旧い老舗ロボット企業、I.O.Pの誇るロングセラー商品、その出来から特に「人形」と呼ばれる高度な感情を持ったロボットの戦闘モデル、所謂戦術人形だった。
普通の軍用人形やスペクターと一線を画すその特徴は、「人間らしい」その一言に尽きる。
数百年前に草案が作られたのにも関わらず___
その後細かいアップデートがあったとはいえ、結局はI.O.Pの人形を越えるほどの「人間らしい」機械は現れることがなかった。
代わりというべきか、後続の企業は人間らしさを廃した完全な戦闘兵器の製作に着手することになる。
そういった次なる人形作りの走りであった鉄血公造は、人間らしい見た目のみを残した、感情の起伏の乏しい、ある種の想像しやすいステレオタイプのロボット少女を作った。
その後に続くことになる現在のIMCの先祖、ハモンドロボティクスなどは更に潔い。
もはや見た目も、感情体型や意思疏通をもデジタル化した、究極の効率主義に傾倒した彼らは、人間らしさを急速に喪っていく人類のニーズに一番答えていた。
そうして世界は徐々にIMC一色に塗り替えられていく。
が、現在I.O.PとIMCは互いに作るものの種別が違うので共存しているというわけである。
彼女は確かに人を越えた戦闘力を持つが、しかし国に対抗、いや国を蹂躙することすら可能なIMCの技術力の粋を集めたスペクター達には流石に敵わないだろう。
それでも何故彼女はここにいるのか。
簡単なことで、それは彼女らが戦術人形なるまえ、ただの人形に求められていたことと同じ、セラピー目的であった。
戦闘力は、軍隊に配属する名目上最低限必要だっただけでハナから期待されていないのだ。
そしてその事実が、この人形、便宜上416と呼ばれる彼女を大いに傷つけていた。
「いつもいつも私の上に誰かがいる......!完璧じゃない......完璧じゃないわ......!」
未だに改修され続けてはいるが骨董品の銃、HK416を握りしめながら恨み節を紡ぐ彼女は、病的な程の完璧主義者だった。
かつて新卒エリートだった彼女は、時代の流れに取り残されていたのだ。
更に残念なことにここの人間はどうやら暇がないらしく、セラピー目的ですらまともに機能していないことは彼女に止めを刺しかけていた。
社会のIMCによる大規模な変容は、人間を人間らしくなくしてしまった。
「恨むわ......IMC......!」
思い詰め、凄まじいやるせなさに襲われていた時、彼女の肩を叩くものがいた。
「どうした?そんな俯いて。調子が悪いのか?」
ヘルメットを脱いでいたようだが、先程無茶苦茶なスコアを出していたパイロットのようだった。
そう、パイロット。
あのスペクターも、彼らパイロットの前では塵に等しい。
だからこそ恨めしかったのに、目の前の人物はやたらと優しそうだった。
言うなればらしくない。そんな第一印象を416は抱いた。
結局人形など、軽視されざるを得ないのはここでも同じだ。
というよりも皆興味無さげである。
セラピー目的ですら使われないのかと自棄になりかけていた416にとっては、今話しかけてきてくれた彼は救いのようなものであった。
「いいえ、大丈夫です」
キリッ、そういう擬音が聞こえてきそうな程のキメ顔を作る。
やたらと表情の切り替えが早い彼女に、パイロットははにかんだような笑顔を溢していた。
彼女はそれを見て少しだけ満足感を得る。
流石私、対人の受け答えは完璧ね、と。
「そうか、良かった。
大分前に上司が紹介していたな。
君の名前は確か416だったか?」
自分の名前を言われる。
416はここに来て初めてそれを経験した。
内心はとても嬉しかったが、それをすぐ外に出してはいけない。
そう考えた彼女は、努めて平静を装い、改めて自己紹介することにした。
「ええ、HK416です。
これからもちゃんと覚えていてくださいね、パイロット」
「はは、善処するよ、416。」
これが彼女とパイロットの出会いの思い出だった。
何時か消えてしまうのだろうけど。