正直私は、あのパイロットを気に入った。
自分でいうのもなんだが、私は自己顕示欲が強い。
負けたくないし、普通ならば負けないレベルの実力はある。
でもここはそうではなかった。
普通からかけ離れ、人の姿すら簡単に捨てるようや化け物揃いのこの世界では、私の付け入る隙は何処にもなかったはずだった。
それでも私は彼に出会えたのだ。
私はそれからというもの、毎日のように彼と交流した。
何時からか彼も私も、お互いの姿を認めればすぐさま話しかけにいく、そのような仲になっていた。
私も腐るのをやめ、彼に少しでも追い付けるように努力を続けている。
もとよりだれにも負けたく無いから。
そして、彼の役に立ちたいから。
人間も人形もはっきりとした目標が出来ると強い。
私は彼のために強くなる、そういった確固たるゴールを手にいれた。
誰ともわからぬ何かに対する対抗心、それに私はずっとモヤモヤさせられていたのだが、それを上手く昇華することができたのだ。
そんな私だが数日前、心配の種が生まれることとなる。
彼が言うには、暫く私には会えないと。
それどころかこの基地から遠くへ、具体的に言えばIMC本社のある地球とは別の星へ移動しなければならないと。
何故、とは聞かない。
完璧な私は、そんなところで彼の足を引っ張ったりしない。
それに彼は強かった。
何があろうとも無事に戻ってくると私に信じさせるほどには。
それでも居ないのは心配だ。
だから今日が待ち遠しかった。
そう、今日こそが彼の戻ってくる予定日なのだ。
いち早く会いたいがため、私はこの発着場で待っていた。
ここで人形である利点が出てくる。
きっと人間ならば食事も喉を通らない、そんな精神状態だろう。
だが私は人形だ、バッテリーを持ち込み朝からここに張り付いている。
そして、その時は来た。
大きな窓の外、遠くの空の空間が歪み、ドロップシップがやってくる。
パイロットは貴重だからああやって大事に輸送されるのだ。
ドロップシップは輸送船だが、その信頼性は高い。
ほっと胸を撫で下ろすと、私はそそくさと入星ゲート出口の前に場所を移すのだった。
「......お帰りなさい、パイロット。戻ってきて良かったわ。」
重々しく口を開く。
どうしてそうなるのか、それは彼の表情だ。
私の知る限りでは、彼はこんな表情をしたことはない。
いや、これは表情ではない。
虚無だ。
何もないのだ。
体には目立った不備はない。
足も、手も、きちんとあるし、顔自体は整った彼そのものだ。
むしろ綺麗になっている。
まるで生まれ変わったかのような。
そんな印象を受けた。
「.....................」
「.....................」
沈黙。
感無量、というわけではなさそうだ。
必死になにかを手繰り寄せようとしているのか、目が泳いでいる。
何かを探している。
なにかを思い出そうとしている。
私はまるで彼が全てを奪われてしまったように見えた。
完璧とは程遠い何かに変わってしまった気がした。
いや、何が完璧なのか、彼の存在はそれを問いかけてきているようにも感じられる。
「どうしたんだ?H......K......416......?」
絞り出すように喉から吐き出された、かき消えそうなその声は、私に大きな不安を募らせた。
たった数日で、ここまで記憶が覚束なくなるものなのか。
それほどまでに激務だったのか?
そんなはずはない、パイロットたるものがそこまで苦労するような任務などもうこのコア星系には残っていないだろう。
でも私は、それについて触れるのが怖くて、恐ろしくて、そこまで突っ込んでもいい仲なのか自信もなくて、普段通り接するしかなかった。
「もう......たった数日間で忘れかけた?でも覚えていたじゃない。
では改めて、おかえりなさい。」
「ああ、ただいま。」
そのときの笑顔は、前に見たはにかんだような笑顔に似ていたが、その中にはハッキリと不安と恐怖が滲み出ていた。
私が「再生」にまつわる噂を耳にするのは、暫く後となる。