曰く、人間の体を入れ換えると。
曰く、膨大な戦闘経験を積んだパイロットを保護するためと。
曰く、しかしそれは完璧ではなく、記憶障害を引き起こすと。
一般歩兵である私が知り得たのは、これくらいのみだ。
彼の動きは相変わらずスマートで完璧だった。
いや、むしろ進化している。
仮想訓練などならば常に一番活躍するのが当然。
射撃訓練ならば百発百中。
壁を駆ければ誰も追い付けないほど速い。
私はそれを喜ぶべきだ。
でも、素直に喜ぶことはできなかった。
彼との関係は未だに続いていたが、しかし前と違って要領を得ない会話が増えた。
どれもこれも、再生による影響に酷似している。
人として当然である行為、感情、記憶が欠落している。
私は堪らなく恐ろしかった。
彼は一番優秀だったが故に、体の消耗も速かったのだ。
元々投薬、めちゃくちゃな訓練、人体改造、そんな陰惨な体制が当たり前なIMCパイロットは、体の消耗が早い。
だというのに長年戦い続けるパイロットは多い。
ともすれば年を取らないように見えるものもいる。
それらの答えが、「再生」だった。
皆は彼を完璧な存在だと思っているが、プライベートになると途端に不安に溢れた表情になるのを私は知っている。
当たり前の何かを忘れるのだ。
例えばシャープペンシルを初めて見た時のことを覚えているだろうか?
彼はそういった、人間として知っていて当たり前、そんな知識の一部が欠落したのだ。
私は彼に寄り添いたかった。
寄り添いたかったが、それでも現実は非情だ。
また彼の口から、聞きたくないその言葉を聞いた。
数日間会えなくなる、別の星へいく、と。
私は必死に止めた。
やめてほしい、次こそはどうなるかわからない。
でも彼はやめなかった。
何故ならば彼の体は「再生」しなければすぐガタが来るほどに限界を迎えていたからだ。
もうとっくにもう一度再生していてもおかしくなかったのに、彼は私が再生に関していい感情を抱いていないことを見抜き、ギリギリまで命令をはねのけていたらしい。
なんということだろうか。
結局のところ、私は他人を癒すことすらできず、ただひたすらに気遣われ、大事にされていた本物の「人形」でしかなかったのだ。
完璧に程遠いどころか、それにすら気づくことなく。
私は恐ろしかった。
忘れられることが、誰もにいてもいなくても変わらないと思われることが。
彼だけだった。
彼だけが、私と関わりを持ち、私に意識を向けてくれていた。
誰一人として人間らしさを持たないこの世界で、私達の二人だけが人間らしかった。
それも、もう終わるというのか。
私は耐えられるだろうか。
いや、きっと耐えられないだろう。
彼は耐えたというのに、私は何もなせないのだろう。
彼が幾度か再生をするうち、何時かはわからないが接点は消えた。
無論私から切ってしまったのだ。
忘れられていることを確認するのが恐ろしかった。
彼に貰ったものは、何一つとして返すことはできなかった。
結局私は、何もできなかった。
私はまた、人の居ない世界で一人となったのだ。
もはや誰が彼だったのか、訓練風景を見てもわからない。
皆一様に最適化された動きし、完璧な射撃を当たり前のように繰り返す。
私は私を完璧な存在に近付けようとしたが、真の完璧とはあれらのことなのか。
私の行き着く先も、そうだというのか。
私は悍ましくおもう。
彼にだって、もっと幸せな将来があっただろうに。
今の彼、いや、パイロットたちはそもそも何も感じてなさそうだ。
私はそのなかで、必要ともされないセラピー人形として生きていくのだ。
何故ならば、もう人は居ないから。