「......つまり貴方の彼氏は人形性愛者?」
我ながら失礼なことを言った自覚はある。
が、ここまで驚いていると如何にパイロットであろうと、人間であるかぎりは突拍子もない考えや言動が出てくるのだ。
少なくとも私はそうだった。
だが不幸中の幸いと言うべきか、相手は対人間において最高クラスのコミュニケーション能力を発揮する人形だ。
こんな頓珍漢な問いに対しても、怒ることなく平然と返事を返すため口を開いた。
「いや、彼は私が人形であるか人間であるかは知らないし、知る必要性もなかっただけだ。
そうだな、たまたま好きになった相手が人形であっただけで、私が人形だから好きになったわけではあるまい。」
何て奴だ。
人形の癖に、いや、もしくは人間ではないからこそ悟ったようなことを言う。
私は人と人との付き合いはむしろ大の苦手とするところなので、彼女の言う理論に、まるで童のように感心するしかなかった。
「彼はとても良い人間でした......私が殺されかけていたというのに、それを防ぎ、代わりに殺されてしまった。」
事実そうである。
私がヘマをしなければ死ななかった命なのだ。
金で推し測るのであれば、むしろ彼が死んだほうが合理的且つ被害は少ない。
しかしそれとこれとはまた別問題。
そもそも人の命に貴賤を見いだすことの方がナンセンスなのだ。
「そりゃあ良い男だろうとも、私の彼氏なのだからな。」
彼女は冷静に見える。
事実表面上は冷静である。
が、細かい所作には悲しみが滲み出ている。
「申し訳ない......」
自然と音声出力機器から謝罪と後悔の念が漏れる。
私はここまで悲しそうな声を出せたのか、久し振りに人らしい音を出した気がする。
「何故君が謝るんだ?戦争は皆悪くはない、強いて言うならば、皆悪い。私もかつては奪う側だったかもしれんのだからな。」
強い女性だ。
人形だからこうなのか、それとも彼女だからそうなのか。
一つ確かなのは、私は今とても後悔している。
私が信奉する秩序とは、彼等のような真面目で、普通で、無垢で、悪意を知らず、多くを望まないような者たちを守るための者なのではないのか。
秩序を守ると言う目的のために彼等を消費する行為は、それしか方法が無いとは言え私の擦りきれ消え去りそうな心にまた小さな傷を作っている。
何か、今からでも出来ることはないだろうか。
私に、私にも。
「......新しい誕生日の気分はどうです?」
「お前、たかが一人のグラントのためにまだ残党が残ってる所しらみ潰しに痕跡採取して、んでもって自費で再生まで用意したって正気か?」
「ええ、まあ正気ですよ、命の恩人なのですもの。」
それに。
彼とあの人形が再開したときの幸せそうな様子といったら。
記憶に欠けはできるというが、彼も彼女も了承してくれた。
戦争のために生まれた技術が、人を笑顔に変えた瞬間を、私は見ることができたのだ。
今でもたまに、手紙が届く。