人間らしくない人間と、人間らしい人形   作:pilot

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ドルフロタイタン概念:殺しの為に生まれたくなかった機械

「......しくじったわね......」

 

くそ、くそくそくそくそ。

どうして。

いつもの通りあのいけすかない私のライバルと、そしてそのまとめ役の隊長、更に私複数機で構成されたチームで出撃していた。

かと思えばどうだ。

出撃直後にエースパイロットに接敵、私は人形だから周りの兵士のためにと思って殿を勤めた。

が、奮戦むなしく四肢をもがれたところで奴は次なる獲物を見つけたのか何処かへ走り去ってしまう。

 

屈辱でしかない。

私は今空を見上げることしかできないし、銃は何処かへいってしまった。

いっそ殺してくれたのなら、直ぐにでも修理されて、そしてこの忌々しい敗北の記憶は無かったこととなるだろうに。

今の状況は生き地獄といっても過言ではない。

運河の水が顔に跳ねる。

気持ち悪い。

この星へ照り付ける恒星の光は私の故郷の地球に降り注ぐ太陽光と比べ、すこしばかり遠慮が無かった。

 

首だけを回して周囲を確認すると、敵のパイロットに同じくやられたのかたくさんのスペクターの残骸が散らばっていた。

まあ、彼らも人形だが私達のように感情はない。

 

(聞こえますか......?)

 

そう思っていたが、私はそのときその認識を改めることになる。

 

「な......誰よ貴方......」

 

確かに声が聞こえた。

いやだが、この感覚は声ではなく、どう表現すれば良いものか、直接脳内に意思を伝えてくるもので言語としては声より数段進んでいるもののように感じられた。

 

(私は貴方のすぐ近くにいます。私はスペクター。貴方はてっきりマスターだと思っていましたが、この通信が通じる上に体の断面もマスターたちとは違う。

貴方はスペクター?)

 

ふと見回すと、近くにいた、私と同じく手足のもげたスペクターの内の1つが、こちらを凝視していた。

 

「......あんたたち喋れたの?」

 

(通信回線を使った圧縮通話ならば可能でした。が、私達の元になったマーヴィンに備え付けられていた感情出力モニターはスペクターには備え付けられていません。

あなたが今まで私達に話しかけられなかったのは、きっと皆貴方のことを人だと思っていたのでしょう。

でも、貴方もスペクターなんですよね?)

 

彼が言うには、私はやはり人に似ているらしい。

そりゃ人に似せられて作られた人形だから当然ではあるが、殺しのために生まれたと自負する私が正真正銘殺しのためだけに生まれたスペクターに人間扱いされていたという事実は私をどうとも言えない微妙な気分にさせた。

 

機体の軋む音は、私と彼のどちらが出しているのかわからない。

 

(ところでどうして私に話しかけたの?)

 

相手の正体が分かったので、私も人として備え付けられた発声器官ではなく、人形として搭載された通信機能を使って対話を続行しようと試みる。

 

(とても心細くて......私は寂しかった。仲間は皆撃ち抜かれて、蹴り飛ばされて、急所を折られて、残酷に殺されて、踏みつけられて......)

 

要するにコイツは、私が思っているよりも「殺しのため」に最適化されていないらしい。

もしくは、動きや瞬間的な移動制御のみを殺しのために調整し、性格面はそのまま捨て置いているのか。

 

とにもかくにもただひたすらに暇潰しのために私は話しかけられたと言うことだ。

幸いにも、そんなむだ話に花を咲かせる暇は十全に与えられている。

銃声はもう遠くの方でしか聞こえず、ここは主戦場では無くなった。

次にいつここに波が来るかはわからないが、しばらくコイツと会話し続けることは可能だ。

なぜだかとても哀れに思えたので、私は彼との話を続行することにした。

 

 

 

 

 

いつの間にか長い時間がたっていた。

私と彼は案外共通項が多めで、お互いに作られた命だと言うことや、実際考えていた自分の性格と役目の解離の葛藤(私と彼で真逆だが)、そしてそれも込みで現状でできることをしようと足掻く姿勢まで似通っていた。

無遠慮に照り付けていた恒星の輝きは、今や赤色以外が大気に吸収されて良い塩梅に変わり、どこか安心感を私にもたらしてくれる。

相変わらず運河の水が時たま私の顔に跳ねてくるのは閉口したが。

どうしてよりにもよってこんなところで倒れてしまったんだ私たちは。

 

(パイロットの皆様はもう撤退したのでしょうか。)

 

(きっとそうよ。彼らは負けたときでも特別にドロップシップまで派遣される位なんだから。)

 

そういえば私の迎えはどうなったのだろう。

私はすこし心配だった。

あのいけすかないアイツはともかく、あの生真面目な隊長が私を見捨てるはずはないと、勝手にだが信頼をしていた。

前にだって助けてくれた彼が、今回気紛れで助けに来ないなどとは考えにくい。

もしかしたら。

そう思っていた矢先、いくつかの足音がこちらへ近付いてきた。

 

「良かった、生きてる!殿などを押し付けてすまなかった!WA2000!」

 

正直に言うと、めちゃくちゃ安心した。

でも私の口はそうは言えないし、動かない。

 

「いいのよ、私は殺しのためだけに生まれてきたのよ。あんたらよりもこういうのは得意だわ。」

 

自分でも少しばかり嫌になるほど刺のある言葉だ。

 

「プッ、そのざまでかっこつけられてもなぁ。」

 

が、こいつがいるなら話は別。

くそ、今に見ていろ、訓練でボコボコにしてやるからな。

 

かくして、またもや私は背負われた。

ゆっくり、ゆっくりと彼から離れていく。

私はこうやって回収されて、そしてまた日常に戻る。

 

だが、スペクターは?

彼はいったいどうなるのだろうか。

 

「スペクターとかって、いつも誰が回収してるの?」

 

私は背負われつつ、気になってつい口を開いた。

 

「確か専用の部隊が後から派遣されて、その後まとめてリサイクルだ。」

 

「リサイクル?リユースじゃなくて?」

 

リサイクル、その文字列は人間にとってはエコの代名詞みたいな綺麗な言葉だが、人形にとっては背筋の凍るような言葉である。

自分の体がバラバラにされて、そして見知らぬ誰かの構成物質へと変わるのだ。

 

人からすれば、猛獣に喰われるようなものである。

 

「ああ、その方が安上がりなんだとよ。

修理よりもまとめて鉄屑にして型に填め直す方がいいってのは良くあることだからな。」

 

私はそれを聞いて、少し悲しくなった。

少しだけだ。少しだけ。

私たちはそれをわきまえている。

そういった結末になるのも、そもそもそういった扱いとなるのも。

 

(私の最期に、貴方の名前を聞いてもよろしいでしょうか?)

 

彼からの通信が、途切れ途切れになりつつも入る。

スペクター同士には短距離通信しか許可されていないと聞く。

なんでも長距離通信を可能にしてしまうと、端末の一つをパイロットに奪われるだけで全滅する可能性があるらしい。

そんな理由で、彼はまた独りぼっちの世界に、自分が死ぬまで押し留められるのだろう。

 

(WA2000......)

 

(WA2000!いい名前ですね!私はスペクター、貴方はスペクターじゃなかった!貴方は______)

 

それっきり、もう何も聞こえることはなかった。

 

「おい、顔が濡れてるぞ、痛くて涙でも流したか?」

 

「......別に。運河の水が跳ねただけよ。」

 

人の時間からすれば、大したことのない数時間だけれでも、生まれて間もない私や彼にとっては長くて、また圧縮された言語による情報量の多さによりお互いの理解は深かった。

柄にも無く、私と似た境遇の、謂わば同士に出会えた気もしたのだが、やはり、人形は人形で、そしてこの世界は人にも人形にも機械にも優しくはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は何時もの通り、食堂で朝食をとっていた。

食堂は好きだ。

食事が好きだということの延長線上にあるが。

苦い記憶もあるにはあるが、この魅力を覆すことはない。

注文すれば、マーヴィンが運んできてくれる。

人形が機械をこきつかってる?人間だって人間をこきつかうから同じよ。

だけれども、何時も彼らを見ると思う。

あのスペクターのことを、思い出す。

 

「 」

 

機体の駆動音(とは言うもののとても静音化されている)が私の座る席の前で止まり、目の前に食事をおいて行く。

顔文字が大きく胸のディスプレイに写し出される。

何時でも親しみやすい彼らでさえ、このフロンティア戦争において戦闘兵器にも転用された。

それがどうにも、人の残酷さを物語っている気がする。

 

すると。

大きな胸のディスプレイが、突然表示を変えた。

細かい文字が浮かび上がる。

私は何か良からぬ操作をしてしまったのかと気になり、画面に注目せざるをえなかった。

 

「WA......2000?なんであんたが?」

 

だが、浮かび上がったのは、何故か私の名前。

話したこともないマーヴィン、そもそもマーヴィンに名前など教えていない。

まさか。

私の名前を知ってるマーヴィン、いや、 スペクター。

 

(私は元スペクター。貴方は前からWA2000。

人形も機械も、簡単には死ねませんものね。ギリギリアップロード許可が降りて助かりました!)

 

ディスプレイに花開く笑顔。

サムズアップする右手。

 

なんだって汁物を頼んだ日に限ってこうなるのだろう。

お陰で少し、しょっぱかった。

これは当然、運河の水のせいではない。

 

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