銃撃戦は苛烈で、まるで嵐のようだった。
人形たちの練度は相当に高く、ダミーリンクを複数体使いこなした変幻自在の戦法が、IMCの警察部隊を撹乱していた。押し寄せる波のような銃撃が、IMCを襲う。
元々ここらは俺たちPMCに馴染み深い都市だったので、通報を受けて派遣された程度の、土地勘のないIMCを手玉にとるのは容易であった。
指揮官である我々も、様々な工作で人形をサポートしていた。
遮蔽物に隠れながら、リアルタイムで人形に指示を出していく。
ドローンを飛ばし、様々な支援を彼女らに与える。
人形のシステム上、指揮官とセットになることが、彼女たちにおける最高のバフなのだ。
そのおかげか、それとも人形たちの技術の成果か、もしくはその両方なのか、物量では圧倒的だったIMCが押されていた。
「おい!人形どもの管理はどうした!さっさとここの管轄のPMCへ連絡しろ!」
IMCに派遣された警察部隊は、勝つことが決まっていたような事前の目論見から大きく外れ、むしろ戦術人形によるデモ参加者への加勢によって劣勢になっているこの状況で、平静を失っていた。
こちらの攻撃は、虚空を貫くか、もしくはSGクラス人形に弾かれて終わるか、そのどちらかで、そして相手側の攻撃はASST特有の正確さで、着実にこちらの前衛を削り取っている。
「はやくPMCに人形の停止コードを発令させろ!ユーザー権限を使え!やつらはPMCの備品のはずだ!」
怒号に近い、焦燥を含んだ指令が飛び交う。
弾の嵐の中、これだけの判断を下せたのは流石というべきだろう。
しかし、通信部から部隊長に返されたのは、期待を大きく裏切るような、例えるならば死刑宣告のようなものであった。
「できません!やつら、所有権がPMCから個人へ変わっています!」
部隊長にも、それに当たる知識はある。
誓約。基本、戦術人形というものは企業の備品であり、到底個人の所有できるものではない。
が、その誓約というシステムは、有り体にいえば戦術人形を買い取り、自らのものとし、様々な制限を取り払うものだ。
そして、所有権が指揮官、つまりデモの参加者に移っているということは、戦術人形を強制停止する権限は、IMCの手の内にはないということを意味していた。
途端、部隊長は、あの銀の指輪の輝きが、まるで死神の持つ大鎌のそれに見えてくるようだった。
「とにかく撃て!撃ち続けろ!スペクターを起動させろ!スペクターに制圧をさせるんだ!」
IMCの良いところは、とにかく物資が多い、という点だろう。このような末端の警察でさえも、大量の機械歩兵を所有している。
だが、誓約によりリミッターを解除された人形たちと、そしてそれを甲斐甲斐しくサポートして回る、指揮官たちにとっては、実戦に出たこともないような警察部隊、そしてそいつらごときに動かされているスペクターなぞ敵ではなかった。
指揮官たちは、お飾りとはいえ、厳しい試験を突破した素晴らしい人材だったのだ。もう、俳優のような扱いではないのだ。
このような大舞台の直前は、様々なことを思い出してしまうものだ。少なくとも、ワタシはそうだ。
ワタシはエリートのつもりだったが、今の今までそれに見合ったことはさせてもらえなかった。
配属されたPMCで、ワタシと同じ新任の指揮官に初めて任された仕事は、硝煙漂う戦場の、死力を尽くした戦いではなく、まるで演劇のような、出す必要もない被害を生む無茶苦茶な作戦だった。
残党、いや、もはや残りカスとも言えるような敵の勢力に、ここまでおかしな、苦戦することが目的のようにすら思える弾薬や配給の配分。まともに戦闘を行えるようなものでもなかったし、不満しかなかった。
ここをこう動けばいい、こうすれば被害はでない、むしろワタシに全て任せろ、などと指揮官を説得したが、果たして聞き届けられることはなかった。
とんでもない無能の所に来てしまったか、とそのときのワタシは本気であの指揮官を恨んだ。
しかし、彼が無能ではなく、そしてワタシと同じIMCの被害者だとわかるのは、意外と配属から離れてはいなかった。
初めての、PMCでの訓練。最近はシムポッドという、高性能な仮想空間をつくりだすデバイスを使い、限りなく実戦に近い状況での訓練を行う。
そのときのワタシは、また馬鹿みたいな作戦に従って、エリートとは程遠いような結果しか出せぬのだろうと、あの指揮官を憎く思っていた。切り札の使い方すらわからぬ男だと侮っていた。
だが、彼はそのとき初めて、自らの力をワタシに見せつけた。
あまりにも、華麗だった。
冷静で、冷血で、残酷。
ありえないほどの成果をだしたワタシは、その日の内に彼を尋問した。
なぜ、どうして。今日のようなことができるのであれば、なぜ初陣の日にあそこまで被害を出したのか。
どう考えてもおかしいと。
彼は、ただ初陣は緊張してたんだよ、と笑っていただけであった。
なんども出撃する内に、なんとなくその理由は分かってきた。
ワタシに不愉快な質問を投げ掛けた間抜け面の記者。ワタシの苛立ちを存分に込めて投げ返した答えを恣意的にこれでもかと歪め、我々がさぞ苦戦しているかのような、それでいてワタシたちが頑張っていて、優秀であるか、どれだけ物資を使わないとのこりカスどもに勝てないかを、これまた冗長で三文芝居じみた番組で放送していたのだ。
つまりやつらは、金蔓の確保に奔走しているのだ。
ワタシたちのPMCは、もはや戦うことが存在意義と化し、なんのために戦うのか、理由を作るくらいに落ちぶれていたのだ。
IMCの独占的な契約により、ワタシたちに支給される物資、資金なぞ、欠片などと言うレベルではなかった。
やつらはまるで防衛のために大量の資金やらがいると吹聴しているが、その実金のほとんどはワタシたちのいる前線には回ってこない。
ワタシは少し、指揮官に同情した。彼も、負けることを強要されてきたのだ。
くるひもくるひも、ワタシは勝てたはずの相手と痛み分けの結果で終わらされた作戦から帰還し、する必要もなかったはずの修理を済ませ、さらに慢性的な資源不足からくる人形の不足、そして追い討ちのように連鎖する人手不足により書類仕事に追われていた。
正直生きているのがつらいほどの時期だった。
ワタシには何もない。エリートであるはずの力を示す場はとうに失われ、世間からの印象は軟弱なただの兵士に成り果てている。
いや、もしかしたら、こんな状況ですら勝ててしまうのがほんとのエリートで、ワタシなんてエリートですらなかったのかもしれないと。
ワタシはなにができるのか。大口を叩くだけの穀潰しではないのかとそのときは本気で思い詰めていた。
病んでいたのだろう。企業戦略として、社員の自尊心をへし折ることもあったくらいだ。意図的かそうでないかはしらないが、とにかくワタシはもうとっくに折れていた。
でも、そんな生活のなか、ワタシが壊れきらずに存在することができたのは、指揮官のおかげだった。
あるときストレスに耐えられず奇行に走ったときも、自傷したときも、彼は近くにいてくれた。ワタシを、理解してくれた。
そうして、今のワタシはある。
彼のお陰で自分の弱さと向き合えた。きっと一人では目をそらし続け、解決することはなかっただろう。気高さと孤独は違う。
これは恩返しの機会だ。この戦いにおいて、ワタシも活躍できて純粋に嬉しいが、それ以上に今は、指揮官の役にたちたい。
「見ていてくれ、指揮官。ワタシは、あなただけの、最高の切り札になってみせる。この気持ちは、あなたがいれば、きっと強さになる。」
回顧に祈るように、ワタシはそっと呟いた。
掠れたような、怯えたような、とにかく恐ろしさが伝わる声で、部隊長は報告を行った。
「本部に連絡!戦線が維持できない!援軍を要請する!人形が、I.O.P.の人形が敵対している!練度は少なくとも、ダミーを含め5体同時稼働可!警戒求む!繰り返す、至急救援を__________」
これが、派遣されたIMCの警察部隊の最後の信号であった。
この日、IMCの支配下であったとある街が、革命家たちの手に落ちた。