日本国召喚wikiである程度書籍版の情報も得られるので、兵器の名称などは基本書籍版に沿いますが、大筋はweb版準拠となります。
1 接触
―中央暦1639年1月24日午前8時
―クワ・トイネ公国軍 第六飛竜隊
その日は青空の美しい、よく晴れた日だった。クワ・トイネ公国の竜騎士であるマールパティマは、公国北東方面の哨戒任務についていた。
北東方面には、海以外に何もない。
最近は隣国ロウリア王国との緊張状態が続いており、軍船による迂回奇襲を警戒して飛竜が哨戒にあたっていて、彼と相棒もその哨戒騎のひとつだった。
「ん?……なんだ?」
自分以外に飛ぶもののいないはずの空で、彼は何かを見つけた。
高く遠い空に、黒い点のようなものを見た。
彼のはその鍛えられた視力で、それのシルエットが飛竜に近いことを確認する。
この時間帯にこの近くを飛行する予定の騎はないし、ロウリア王国のものにしてもロウリアからここまで、ワイバーンでは航続距離が絶対的に不足している。
そもそも、あのような高高度を飛行できる飛竜など常識的に存在しない。
見間違えかとも思ったが、明らかにそれはそこに存在している。
もしも脅威であったとき、それを見逃せば一大事だ。
彼は通信用の魔法装置、通称魔信で司令部に通報する。
「我、未確認騎らしきものを確認。超高高度を飛行しており、接近は不可能。しかも、かなり速い、少なくともワイバーンより速いだろう。
現在地は―――。
未確認騎は本土マイハーク方面へ進行、繰り返す。マイハーク方面へ 行した。」
通報を受けた司令部では、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
ワイバーンでも追いつけない未確認騎がよりによって、クワトイネ公国の経済の中枢都市たるマイハークに向かって飛んで来ると言う。
それだけの速度ならば、おそらくすでに本土に侵入されているはずだ。
「第六飛龍隊は全騎発進せよ、未確認騎がマイハークへ接近中、領空へ進入したと思われる。発見次第撃墜せよ、これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない、発見次第撃墜せよ。」
滑走路を駆け、次々にワイバーンが離陸する。その数12騎、全力出撃であった。
彼らは透き通るような青い空に羽ばたき、舞い上がっていった。
第六飛竜隊が未確認騎を確認した時、それは十分に目視できる高度にいた。
見間違えではない、現実に存在している。しかし、ワイバーンの追いつける高度や速度ではなかった。
なんとか攻撃態勢に入ろうとするも、射程に入る前に失速する。
「第六飛竜隊より司令部へ、我、未確認騎を発見するも超高高度、高速であり攻撃は不可能。
未確認騎はマイハーク方向へ進行した。繰り返す―――」
マイハーク防衛騎士団、団長イーネは、第六飛龍隊からの報告を受けて上空を見上げた。
一般的に、飛龍から地上への攻撃方法は口から吐く導力火炎弾である。矢をばらまいたり、岩を落とすといった方法も過去には検討されたが、空を飛ぶ生き物は重たい物を運ぶ事が出来ない。
単騎で来るなら、攻撃されても大した被害は出ない。おそらく敵の目的は偵察だろう。
飛龍でも追いつけない、飛龍の上昇限度を超えて飛行していく恐るべきもの、正体不明のそれがまもなく経済都市マイハーク上空に現れる。
一体敵の正体はなんなのだろうか?
団長イーネは、空を睨んでいた。
しばらくして、それはマイハーク上空に現れた。それは高度を落とし、上空を旋回した。
奇妙な物体、高い空にあるそれは、影になっているのか真っ黒で姿がわかりにくい。しかし、飛竜というよりは鏃のような姿に見えた。尋常の存在ではない。
明らかな領空侵犯であった。しかし、飛龍は遙か高い空にいて、現時点で対抗する手段はない。
それはマイハーク上空を何度か旋回し、北東方向へ飛び去った。
―クワトイネ公国 政治部会
国の代表が集まるこの会議で、首相のカナタは悩んでいた。昨日の事、クワトイネ公国の防衛、軍務を司る軍務卿から、正体不明の物体が超高速、超高高度でマイハークに空から進入し、町上空を旋回して去っていったとの報告が上がった。
所属は全く不明、何の手がかりも存在しない。
カナタは発言する。
「皆のもの、この報告について、どう思う、どう解釈する」
情報分析部の代表が手を挙げ、発言する
「情報分析部によれば、同物体は、世界最強の大国、中央世界の神聖ミリシアル帝国が使用するという天の浮船に特徴が似ているとのこと。
しかし、伝わっている外見とはかなり異なります。ただ……。」
「ただ、なんだ?」
「はい、ムーの遙か西、文明圏から外れた西の果てに新興国家が出現し、付近の国家を配下に置き、暴れ回っているとの報告があります。かれらは、自らを第八帝国と名乗り、第2文明圏の大陸国家群連合に対して、宣戦を布告したと、昨日諜報部に情報が入っています。彼らの武器については、全く不明です。」
会場にわずかな笑いが巻き起こる。文明圏から外れた新興国家が、3大文明圏5列強国のうち2列強国が存在する第2文明圏のすべてを敵に回して宣戦布告したという話だ。
無謀にしても程がある。
「しかし、第八帝国は、ムーから遙か西にあるとの事です。ムーまでの距離でさえ、我が国から2万km以上離れています。今回の物体が、それであるとは考えにくいのです」
会議は振り出しに戻る、結局解らないのだ。
ただでさえ、ロウリア王国との緊張状態が続き、準有事体制のこの状態で、頭の痛いこの情報は、首脳部を悩ませた。
味方なら、接触してくれば良いだけの話、わざわざ領空侵犯といった敵対行為を行うという事は敵である可能性が高い
その時、政治部会に、外交部の若手幹部が、息を切らして入り込んでくる。
平時では考えられない。明らかに緊急事態であった。
「何事か!!!」
外務卿が声を張り上げる。
「報告します!!」
若手幹部が報告を始める。要約したところ、本日の朝、クワ・トイネ公国の北側海上に、長さ200m級の超巨大船が現れ、海軍が臨検を行ったところ、日本エリアという国の特使がおり、敵対の意思は無い、日本エリアという国は、突如としてこの世界に転移してきて、元の世界との全てが断絶されたために、航空機により付近の偵察を行っていた。その際、陸地があることを発見、偵察活動の一環として、貴国に進入しており、その際領空を侵犯したことについて深く謝罪し、クワ・トイネ公国と会談を行いたいという旨を伝えてきた。
日本エリアの言う航空機の外見および特徴は、昨日の未確認騎のものと一致するという。
突拍子もない話に、政治部会の誰もが信じられない思いでいた。
しかし、昨日都市上空にあっさり進入されたのは事実である。200m級という常識では考えられないほどの大きさの船も、報告に上がってきている。
国ごと転移、などということは、神話に登場することはあれど、現実にはとてもありえない。
しかし、日本エリアという国は礼節を弁えており、突拍子の無さを除けば発言も筋が通っていて、特別断る理由もない。
そのため、特使による会談の申し入れを受け入れることに決定した。
天の浮船:
文明圏外国にどれだけ伝わっているかははっきりしないが、なんとなく程度には知っているということに。
国際連邦:
少々妙な名前になっているが、大体創作物によくある地球連邦のようなもの。
正式名称がはっきりせず通称で通っているのでこうなった。
日本エリアという国:
「ニホンエリア」を丸ごと国名として受け取っている。
政治体制の詳細はこの後に少しずつ出てくるかと。
日本エリアという国というのはもちろん異なるが、日本という国であるかはなんとも言えないようなややこしい状態にある。
200m級の船:
客船。軍艦ではない。
私は書籍版は未読です。
wikiに載っている名称変更などは大体書籍版沿いで行きますが、それ以外の展開などは基本web版沿いとなります。