「貴国は、もう戦争状態にあるのではないですか?状況が変わりましたので、我々の権限だけでは、戦争状態にある貴国と、現時点で国交開設の交渉が出来ません。事態の重みを考えるに、一度帰国し、内容を詰めてから再度ご連絡いたしたいと思います。」
国籍不明のワイバーン部隊を撃退した後、日本国外務省は、フェン王国騎士団長マグレブとの交渉を行っていた。
そこで、国籍不明部隊は列強パーパルディア皇国の部隊と見て間違いないであろうこと、フェン王国への懲罰的攻撃であったであろうことがわかった。
外務省は西から来る艦隊が到着する前に、一刻も早く、この場から引き上げたかった。
「解りました。良い返事を期待しています。ただ1つ、これだけは、心に留めおいて下さい。あなた方があっさりと片付けた部隊は、第3文明圏の国、しかも列強パーパルディア皇国です。我が国は、パーパルディアから土地の献上という一方的な要求をされ、それを拒否しました。それだけで襲って来たような国です。
過去に、我々のようにパーパルディアに懲罰的攻撃を加えられた国がありました。その国は、敵のワイバーンロードに対し、不意打ちで竜騎士を狙い、殺しました。
かの国は、パーパルディア皇国に攻め滅ぼされ、国民は、反抗的な者はすべて処刑し、その他の全ての国民は奴隷として、各国に売られていきました。王族は、親戚縁者すべて皆殺しとなり、王城前に串刺しでさらされました。
パーパルディア皇国、列強というのは、強いプライドを持った国だというのを、お忘れなさらぬようお願いいたします。」
ぞっとするような話を聞いた後、外務省の一団は、王城から港に向かった。
パーパルディア皇国、皇国監査軍東洋艦隊提督ポクトアールは、東の海を睨んでいた。空は快晴、海上ではあるが、比較的乾いた風が気持ち良い。
現在地、フェン王国から西に約100km。
「む!」
水平線に何かが見える。
「艦影と思われるもの発見!こちらに接近してきます」
「む!? 大きいな……フェン王国のものとは思えない……」
小山ほどの物体が海上を動いている。船?と思われるが、常識から考えると規格外の大きさだ。
「総員、戦闘配備!!!」
城のように大きい黒色の船は、急速に接近してきた。とてつもなく速い。
「な、あれは……ま、まさか、我が方の船速を凌駕している!?
いや……それどころではない、あれは、ワイバーン並ではないのか!?」
正体不明の巨大船は我が艦隊に並走しながら近づいてくる。その数は1隻のみ。
「提督、どういたしますか?」
第3外務局局長カイオスの命は、フェン王国への各国武官の前での懲罰的攻撃により、文明圏外の蛮族に恐怖を植え付けることである。
妨害の可能性となる軍は全て排除するよう命ぜられている。
黒色の巨大船は、パーパルディア皇国の同盟国の船では無い事は確実であり、民間船でないことも、確実であった。
敵と思われる者は、1隻のみであり、いかに巨大であっても、22隻の列強国艦隊の前では、こちらが優勢と思われる。
と、その時、その巨大船が消えた。気のせいだったのか?幻?
否、違う。彼の勘が告げていた。見張り員に確認すると、水に潜ったように見えた、と言う。信じ難いことだが、おそらくは事実だ。少なくとも、事実とみて警戒しておいて損はない。
しばらく経った時、敵と思われる巨大船が浮上してきた。やはり水に潜っていた。それだけではない。3隻、後続が浮上してくる。計4隻だ。
形状が見えてくる。真っ黒で分かりづらいが、鯨のような形だ.....
あれは、船ではなく海魔かもしれない。どの道、敵だ。
距離はすでに1km。外しはしない。
「射程圏内にしっかりと入ってきたな……アホウめ……。魔導砲撃てぇぇぇぇぇ!!」
煙が艦隊を包み込み、連続する発砲音が鳴り響く。
フェン王国王宮直轄水軍を、赤子の手を捻るが如くあっさりと葬り去った。列強パーパルディア皇国、皇国監査軍東洋艦隊22隻は、国連軍日本エリア駐留軍の戦闘艦隊に対してその力を行使した。
砲弾が飛んでいく。着弾の水しぶきが上がり、敵艦隊は消えていた。
「撃沈したのか……? いや。あれほどの大きさのものが、いくら我が艦隊の一斉射撃とはいえ、跡形もなく消滅するはずがない。潜ったか…… 各員警戒を厳とせよ!」
静寂の中で時間が過ぎる。まさか本当に消滅したのか?それとも、幻だったのだろうか?
そう考えたその時、見張り員から報告が上がる。
「敵、本艦隊の後ろです!!」
「何ィ!?」
ポクトアールは即座に後ろを振り返る。
黒い子山が、4つ。確かに背後につけられていた。
「速すぎる! しかし、飛び込んできたのは好都合だ!撃て!」
再びの一斉発砲。また潜って回避するかと思いきや、全く動こうとしない。むしろ当たりに来ているようですらある。全弾が先頭の一隻に命中し、炸裂。煙が晴れる……
「なんだと!?」
真っ黒なのでわかりにくいのだが、恐らくは全く損傷していない。
パーパルディア皇国の魔導戦列艦22隻の一斉砲撃をまともに受けて、である。
それらは加速、それぞれ皇国艦隊の艦に体当たりを仕掛け、容易く転覆させた。
「くそっ、何だと言うのだ! 怯むな、逃げ場はない!撃て!」
砲撃を回避し、耐え、次々と艦をひっくり返す。5隻ほどをひっくり返したところで、艦隊に並走して何もしてこなくなる。こちらを観察しているらしい。
「積極的に戦うつもりはないということか……? しかし……」
ポクトアールは逡巡する。そしてもう一度砲撃を仕掛けたとき、それは起きた。
一度離脱し、再び艦隊に艦首を向ける海魔。そして次の瞬間、戦列艦の内の一隻が文字通りの粉微塵と化した。
「なァっ……!?」
遅れて聞こえてくる、かすれたような発砲音。
「あれは……大砲だというのか!? なんという威力だ!!!」
発砲音が連続する。とてつもない連射速度。
水しぶきがポクトアールの座上する艦の前方で上がる。命中精度は良くないのかと思ったが、座上艦から見て正確に同じ相対位置に撃ち込まれているのに気づく。精度もとてつもないのだ。わざと外している。
「くうっ……!」
勝ち目はなかった。
「……撤収だ!曳航できる味方の艦は曳航し、できるだけ生存者は救助して引き上げる。今作戦は……失敗だ!」
敵の様子から、我が方を殺傷するのが目的ではないと思われ、ポクトアールは決断した。このまま無理に戦闘を続行しても、揃って粉末状にされるだけだ。
畜生……竜母があればな……。
ワイバーンロードの上空支援があれば、また違った形になっていたかもしれない。
ポクトアールはそう思いながら、撤収の命を下した。
今回の戦闘報告……報告書を提出しても、誰も信じないだろうな。
地球側、日本とパーパルディア皇国の初の艦隊戦は、日本の圧勝で終わった。
パーパルディアの艦隊では、粉末状にされた艦の乗員を除いて死者は一切いなかった。破壊された艦の乗員の末路を偶然目にしてしまった者を始めとして、艦隊の人員の間には、深い恐怖が伝染していた。
曰く、フェン王国の沖には、大魔導を扱う恐ろしく強力な海魔がいる、と。
パ皇戦の後にやりたいことがいろいろとあるのでとっとと済ませたいのだが、首都攻撃!終わり!とかにしちゃうと早すぎるというジレンマが。
ところで原作とほとんど変化のないような転移後世界の勢力のみの戦いやら報告後の反応の分量多めのものやらは単なる原作のコピーのみになりそうなので思い切ってカットしているのですが、これで大丈夫ですよね……