ついにパーパルディア皇国の艦隊がフェン王国、ニシノミヤコに襲来した。
日本からコンピュータシステムの普及していない友好国向けに売り出されていた物理媒体の書籍の中から軍事関連のものについて読み漁っていた兵士たちの作戦によって少しは奮戦したのだが、結局は数と技術力の差に圧され、この日、フェン王国軍の死者1000名、パーパルディア皇国軍の死者20名という結果で、フェン王国ニシノミヤコにある西城は陥落した。
―パーパルディア皇国 皇都エストシラント 第1外務局
実質的に日本国担当かつ全権大使となり、外務局監察室から第1外務局所属となった皇族のレミールは、この日、日本国の外務省の担当者に対し、
『すぐに来るように』
との内容で命令書を出した。
命令書は第3外務局を通さずに、直接日本国外務担当者のいるホテルへ届けられる。
少しイケメンの朝田と、丸型の体系をした補佐の篠原はその書面を見て困惑しつつもすぐに出向いた。
出向いたその先には、豪勢な椅子に腰掛けた20代後半くらいの美しい銀髪の女性が座っていた。
細い体系をしており、頭には金の環をかぶっている。
彼女の鋭い眼光によって睨みつけられた朝田、篠原は一瞬硬直する。
日本国外務省の一行は皇国の使者から促され、椅子に着席する。
美しい女性は話し始める。
「パーパルディア皇国、第1外務局のレミールだ。おまえたち日本に対しての外交担当だと思って良い」
「日本国外務省の朝田です。こちらは篠原といいます。
急な用件との事ですが、どのようなご用件でしょうか?」
沈黙。
「いや、今日はお前たちに面白いものを見せようと思ってな……皇帝のご意思でもある」
高圧的な声でレミールは語りかける。
「それはそれは、いったい何を見せていただけるのでしょうか?」
レミールは使いの者に目を走らせる。
ドアが開き、1m四方の立方体の水晶のようなものが現れる。
「これは、魔導通信を進化させたものだ。この映像付き魔導通信を実用化しているのは神聖ミリシアル帝国と我が国くらいのものだ」
「はぁ……」
朝田は間の抜けた声を出す。
デカイテレビ電話のようなものだろう。
いったい何が始まるのか。国力を見せ付けたいだけなのだろうか。
「これを起動する前に、お前たちにチャンスをやろう」
地球人からするともはや見なくなって久しい紙媒体の資料が配布される。質も少し悪かった。
フィルアデス大陸共通言語で書かれたその紙には、パーパルディア皇国から日本国への、あまりにも高圧的な要求が記載されていた。
「なっ、何ですか!?これは!!!」
拳を強く握り締め、朝田は抗議を行う。
この内容では属国以下であり、植民地状態、その中でも最悪のものである。飲めるはずも無い。
「皇国の国力を知らぬ者が行う愚かな抗議だな。おまえたちの国は比較的皇国の近くにあるにも関わらず、皇国の事を知らなさ過ぎる。
当初いきがっていた蛮族も、普通なら皇都に来れば意見が変わる。態度も条件も軟化する。
しかし、おまえたち日本はこともあろうか、当初から治外法権を認めないだの、通常の文明圏国家ですら行わないような……そう、まるで列強のような要求だ。
お前たちは皇国の国力を認識できていない。もしくは外交の意見が実質的に本国に通っていない。
通っていても、それを認識する能力が無い。」
話は続く。
「皇国監査軍は運悪く海魔の襲撃に遭って撤退してきたが、それがなければお前たちのやフェン王国は、とっくのとうに滅ぼされるか属国にされている。」
一時の沈黙が流れる。
「では問おう。日本の外交担当者よ。その命令書に従うのか、それとも国もろとも滅びるのか」
命令書の内容に従える訳も無いが、いきなり列強と戦争をしても良いといった指示も受けていない。
「我々は、国交を開くために来た外交担当者です。この内容は、とても日本国政府が飲むとは思えませんが、本国に報告し、対応を検討いたします」
銀髪の女、レミールは悪魔のような笑みを浮かべる。
「ほっほっほ、そう言うと思ったぞ……やはり蛮族には教育が必要なようだな。皇帝陛下のおっしゃるとおりだ。」
レミールは続ける。
「哀れな蛮族、日本国民よ。お前たちは皇帝陛下に目を付けられた。しかし、陛下は寛大なお方だ。お前たちが更生の余地があるか……教育の余地を与えてくださった」
目の前の女は何が言いたいのか。真意を計りかねる。
「ホッホッホ……これを見るがいい!!!!!」
レミールが指を鳴らすと、眼前の水晶体に質の悪い映像が映し出される。
朝田はその映像を見て絶句する。
「っ……!」
「フェン王国のニシノミヤコを攻め落としたが、こやつらは、我が国に対する破壊活動をする可能性があるのでな……スパイ容疑で拘束している」
首に縄をつけられ、各人が縄で繋がり、1列に並べられている人々、その数は100名近くにのぼる。
老若男女区別無く彼らは捉えられており、その服は朝田の良く知る服だった。
皆脅えきった顔をしている。
「ひ、人が……! 彼らはフェン王国に観光に来ていただけで、何の罪も無い人々だ。首に縄を……即刻釈放を要求する!!!」
しばしの沈黙。
「要求する?蛮族が皇国に要求するだと!?立場をわきまえぬ愚か者め」
レミールは通信用魔法具を取り出す。
「処刑しろ」
「なっ!!!!」
『何だ、一体どうしてこんなことをするのですか!?』
ズシャッ!!
剣が一列に並べられた一番左の男の首にめり込み、鮮血がほとばしる。その剣は首の途中で止まる。
『な……何するんだ! 高かったんだぞ、この体!お前ら……!』
『何だ!? こいつ、化け物か!?』
『構わん、撃ち殺せ!』
傍らに控えていた兵士によって、マスケット銃が発砲される。
一番左の男は胴体に銃弾を受けて崩れ落ちる。
画面の向こうでは阿鼻叫喚の地獄が広がっていた。
老人、若者、子供、男、女、性別のわからない外見をした者……区別なく、刃で、あるいはマスケットで、殺されていく。
「や……やめろぉぉぉぉぉ!!!! お前たちは、自分が何をしているのか、わかっているのか!!!!」
(こちらNDC、緊急。軍部戦略コンピュータより、攻撃許可の申請、及び攻撃に向かっている旨の通達。)
(だ、そうです!)
(やれ!!!! 構わん、あの人たちを助けるんだ!)
水晶体からは地獄が放映され続けている。
「お前たちだと……蛮族風情が皇国に向かってお前たちだと!!?」
「蛮族蛮族と偉そうにしているがな、お前のようなどうしようもない未開人が、何を! いや、お前などはもはや人ですらない、サルというのすら生命に失礼だ、ゴミですらリサイクルはできる。何なんだ、お前は!?」
「何だと……貴様ァ!!!
おい、そこのお前、こいつを……いや……
…………皇帝陛下は何故このような愚か者たちに教育の猶予といった御慈悲を与えるのか……。まあいい。そんな大口を叩けるのも、いつまでかな?ニシノミヤコには200名程度の日本人たちがいた。
フェン王国の首都アマノキにはいったい何人の日本人がスパイ容疑にかかるかな?
止めることが出来ない自分たちの国力の無さを痛感するが良い。
そして、本国が消滅の危機にさらされているということを学ぶがよい。我が国に首都までも征服された時の、お前たちの顔が見ものだよ。だから、まだ生かしておいてやる。」
「必ず、後悔することになる…… 今すぐにでもだ!もう少しその古臭い中継映像を繋いでいるんだな!俺達は帰らせてもらう。
追って捕まえようなどと考えるなよ、命が惜しければ。
地球人は、誰かのしたことの責任を、そいつの所属する集団にまで被せるようなことはしない。パーパルディア皇国の全国民が報復を受けることはないだろう。感謝するといい。」
「どこまでも無礼な……! その顔、どうなるか見ものだな!」
会談は終了した。
日本側の交渉団が帰路に就くなか、中継を切らせようとしたレミールらの目に、中継の向こうで真っ黒な飛行物体に一方的に排除されるパーパルディア皇国の兵士たちの姿が映った。その瞬間、中継は切るまでもなく途切れた。