「あなた方は、何か重大な勘違いをしている。
我々ムーは、日本に兵器を輸出などしていない。
彼らは我々よりも機械文明が進んでいるのです。」
パーパルディア皇国外交陣によって呼び出されたムー国大使ムーゲとレミールを始めとする皇国外交陣との会話の最中である。
「文明圏外の蛮国が、第2文明圏の列強よりも、機械文明が進んでいる?そんな話が信じられるか!!」
「彼らは……転移国家という情報は、掴んでおられないのですか?」
レミールは過去に読んだ報告書の片隅に記載されていた文を思い出す。
しかし、彼女は現実主義者であり、そんな物語を本気になど出来なかった。
「転移国家などと……貴国はそれを信じているのか?」
「信じます。我が国以外の国では、神話としか思われていないが、我が国もまた転移国家なのです。
1万2千年前、当時王政だったが、歴史書にはっきりと記録されています。
日本について調査した結果、我が国の元いた世界から転移した国家であり、1万2千年前の異世界での友好国です。
当時の友好国ヤムートは、ヤマトやヤマタイコク等、様々に名を変え、日本となりて現在に至ります。」
ムーゲはカバンの中から写真を数枚取り出す。
「これは、日本の戦闘機の写真です。
そしてこれが我が国の戦闘機の写真……。
見て下さい、我が国の戦闘機にはプロペラ、風を送り出す機械ですが、それが付いていますが、日本の戦闘機にはプロペラが無い。
速度も日本の戦闘機は音の速さを超える事が出来るようです。
次に、我が国の戦闘機には、ここ、人が乗る部分があり、外を見れるようになっている。しかし、日本の戦闘機にはそれも無い。
これは、単に視界が悪いだとか、カメラを使って見ているというようなものではなく、そもそも人が乗っていないのです。コンピュータという、発展した計算機の塊のようなもので制御されているようですが……
全く、どうなっているのか見当もつかない。
我が国にこれを作る技術はありません。
輸入もしたいのですがまだ検討中のようです。
我が国が日本に輸出出来る兵器は無いはずで、逆に我が国がほしい立場なのです。」
次に、超高層建築物が立ち並ぶ、見た事が無いほどの栄えた街の写真を取り出す。
「これは、日本の首都、東京の写真です。
日本は転移前、地震の多い国だった。
これほどの高層建築物の全てが、強い地震が来てもビクともしません。」
パーパルディア皇国側の面々の顔色が一気に悪くなっていくのが解る。
ムーゲはさらに話を続ける。
「軍にしても、技術にしても、日本国は我々よりも遥かに強いし、先を進んでいるのです。
神聖ミリシアル帝国よりも上と言っても過言ではありません。
そんな国にあなた方は宣戦を布告し、かつ殲滅戦を宣言してしまいました。
殲滅戦を宣言しているということは、相手から殲滅される可能性も当然あります。
ムー政府は国民を守る義務があり、このままでは皇都エストシラントが灰燼に帰する可能性もあると判断し、ムー国政府はムーの民に、パーパルディア皇国からの国外退去命令を出したのです。
我々も間もなく引き上げます。
戦いの後、皇国がまだ残っていたら私はまた帰ってくるでしょう。
あなた方とまた会える事をお祈りいたします。」
パーパルディア皇国側が沈黙する中、会議は終了した。
ムーゲが退出した後、そこに伝令の者が現れる。
「ん?……なんだって!? それは、急がなくては……」
会議の後、小会議室に残された第1外務局の者たち。
ムー国大使の言が正しかったとすれば、自分たちは超列強国相手に侮り、挑発し、そしてその国の民を殺してしまった。
さらに、最悪な事に国の意思として殲滅戦を宣言してしまっている。
列強国の大使の言は重く、あまりの衝撃に全員が放心状態となり、具体的な対策は一切思いつかない。
「さて、これからどうするかな。」
レミールが発言する。
「ムー大使が言っていた事が本当とは限りませぬ。
ムーが代理戦争を行うために日本を利用していた場合は、勝機はあります。」
「フハハハハハ!!!」
レミールが突然笑いはじめる。
「最悪の想定が、唯一の望みになるとは!!これほどの喜劇があろうか!!フハハハハ!!」
「レ……レミール様!?」
エルトは、レミールの精神が壊れたのではないかと心配する。
思い返せば、何度も何度も日本の力に気付く機会はあった。
しかし、その全てを無駄にしてしまった。
日本が自ら力を示さなかった事がもどかしい。
行った行為は消せず、失った時間はもう戻らない。
「今まで、日本と戦って裁きを受けさせようとばかり思っていたが、そもそも日本の軍には人がいないというではないか!
全く……なんという、っ!?」
その瞬間、警報が鳴り響くのとほとんど同時に、彼らの居る場所が激しく揺さぶられ、爆発音が鳴り響く。
「何だ!どうなっている!?」
「敵襲です!」
「何だと!?まだこんなところまで来られるはずがないのではなかったのか!?」
「しかし……っ!」
再びの爆発音。天井からは細かい粉が落ちてくる。
皇都エストシラントを襲っていたのは、地球のCP-237戦闘機の編隊だった。
攻撃対象は軍の兵力と明らかな軍事施設のみで、民間への攻撃は避けていたが、皇城に対しては、機関砲での射撃が加えられていた。
港の艦隊からは火の手が上がっていて、空では虎の子のワイバーンオーバーロードが次々に叩き落されている。敵はどこにいるのかも分からず、微かな地響きを甲高くしたような音だけがその存在を知らせている。
すぐ近くを見ると、ムー国大使の自動車が走り去って行くのが見えた。攻撃に巻き込まれるどころか、護衛を受けているようにすら見える。
一際巨大な衝撃が皇城を襲う。城の最上部に、かすめるような爆撃が加えられたのだ。
たまらず城内の人間たちが避難すると、城の直前、庭園が連続で小規模な噴火を始めた、ように見えた。それは、海からの地球型戦闘艦による艦砲射撃であった。
城に対しても航空機からの射撃が加えられる。ただし、その表面に対してのみだった。
攻撃が終了して国連軍が離脱した時、列強パーパルディア皇国の皇都エストシラントにあったものは、完膚なきまでに破壊されたその軍、表面を削られてやせ細った皇城、その滅茶苦茶になった庭園、そして完全に無傷な民間施設と皇城の内部だった。
皇城内部や皇国重鎮、民間施設が無事だったことは決して偶然や皇軍の奮闘によるものではないことを、重鎮たちと同じようにすっかりやつれてしまった、奇妙な彫刻のようになった皇城が物語っていた。
その後、皇国に追い打ちをかけるかのように、全属領が一斉に蜂起。皇国にこれに対処するだけの余裕はなく、皇国はその国力を大きく落とす。
そして……
「くそ!日本はもうここまで攻めてきたのか!?」
「あれが、日本の飛竜か!? 例の魔獣じゃないのか!?」
パーパルディア皇国の工業力の大きな部分を占める工業都市、デュロ。
そこもまた、国連軍による空襲を受けていた。
その一角からカラフルな火箭が上がる。列強第一位、神聖ミリシアル帝国から研究用に密輸入した対空魔光砲の攻撃だった。
しかし命中することはなく、急旋回したCP-237に攻撃されかかるが……
<こちらUNJSC並びにJNSC、その目標への攻撃は禁止する>
<ATC-17、了解。>
<e-2、了解。>
CP-237は急に機首を翻して離脱、対空魔光砲を無視して攻撃し始める。
対空魔光砲の必死の攻撃は一度も実を結ぶことなく、結局は対空魔光砲と民間人の家屋や商店などだけを残して工業都市デュロは壊滅した。
これによって皇国は軍を再建することも不可能となり、事実上敗戦が確定した。
しかし、開かれる会議では結局何も決まらないまま、空論が続いた。
このままでは皇国の将来は絶望的であり、パーパルディア皇国第3外務局長カイオスはある事を決意した。
このままでは、皇国は滅せられてしまう。
この行動が失敗すれば、カイオスのみではなく、おそらくは一族の命すら無くなるかも知れない。
しかし、成功すれば、少なくとも国は残る。
彼は屋敷の一角に設置された、日本に渡された通信機に手を伸ばす。
「……やるしかない。」