国際連邦日本エリア召喚   作:こたねᶴ᳝ᵀᴹᴷᵀᶴ᳝͏≪.O

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竜の伝説 2

 TT-1が音のする方向へと向かうと、そこには角が12本に脚が6本、筋肉が剝き出しの奇妙な生物と、それから逃走する女性が居た。

女性の外見に現れている服飾などの特徴は、転移後世界における中近世文明レベルにおける比較的裕福な市民のものと一致していた。

市民を救助する判断が下され、TT-1は戦闘行動を開始する。

 

 隠れていた藪から飛び出すと同時に履いていたスラックスのポケットから拳銃を取り出す。個人用装備などというものは開発・運用が停止されて久しかったため、民間向けの娯楽用武器の構造も参考に加えつつ効率化を目指して新規設計されたそれは、のっぺりとした外見や質感からはどこか簡素な拳銃を示す3DCGモデル、あるいはおもちゃのような印象を受けるが、その性能は対人には十分な威力と高い射撃精度を備える立派なレールガンであった。

 TT-1は淀みない動作で照準、完璧な軍隊式射撃姿勢。

軍隊の兵卒向け教本などは"発掘"されてはいないし、セントラル・コンピュータにより直接制御される筐体は照準器が無くとも正確な狙いを可能とするが、反動を受け止めるには最も効率の良い姿勢だったので、結果的にこの姿勢に落ち着いたのであった。事前のプログラムではなく、都度の計算でその状況に最適な姿勢が取られる。それを一瞬でこなすだけの演算性能があった。

 

 狙いは目標生物のつり上がった目。これまで得られた新世界の戦闘的生物の情報からして、その躰に銃弾が通らない可能性を考慮しての判断だった。銃弾を通さない眼球を備えた生物というのは想定し難いし、新世界の生物、竜などであってもその例外ではないことは確認されていた。眼球が現状最もダメージを与えられる可能性の高い部位だった。

 

 狙いをつけてからほんの少しの間、射撃をせずに待機する。射撃前に十分ひきつけているかのような挙動であったが、実体としてはそうではない。目標生物の走行によって生じる眼球の位置のブレ、言うなれば走る動作のクセとでもいうべきものを解析していたのだ。

その情報、目標生物との相対速度、拳銃の諸元から最適な照準位置が割り出される。

 発砲。続けざまにもう一発。12角獣はその眼を撃ち抜かれ、のけぞる。

しばし戸惑ったように周囲を見回した後、12角獣は怒ったような叫び声をあげる。視界を失い、痛みを受け、闇雲に暴れ出そうとする12角獣。 しかし、それはできなかった。

眼を撃たれた12角獣が暴れ出すことは想定されていた。その行動を制御できなくなり、TT-1と女性の側に突進でもされれば危険であった。TT-1には、人外の膂力は無い。

そのためTT-1は眼球を撃ち抜いて時間を稼ぐとともに、乗ってきたビークルを呼び出していた。

飛行に伴って大気へのホログラム投影による光学迷彩機能は十全に機能できず、かすれて消える。無骨な姿をさらしたビークルが飛行して、TT-1の上空、12角獣の眼前に現れる。

 機体を傾けて照準。機首下部に固定式に装備された40mmレールガン――CP-237が運用しているガンポッドと同様の機関砲を機体に内蔵したもの――を発砲。

40mm砲の連射を受け、12角獣は血液や臓物の残骸をまき散らし、絶命する。

 

 スプラッターな光景を背後に、振り向いたTT-1は相手を安心させるべく笑みを浮かべて――民間向けのアンドロイド用プログラムから流用されたそれはアルカイックスマイルであるといったこともなく自然な良い笑顔であったが、命の危険を乗り越え、敵対する生物を残骸へと変えた後にしては少々不自然な柔らかい笑みであった――女性に話しかける。

 

「大丈夫ですか、お嬢さん。私の名前はタロウ・タナカ。もしよろしければ、あなたの所属・氏名を教えてください。」

 

――一部不自然にも思える合理的な文面でもって。




今更になってここでアンドロイドを使うと忘れられた世界とネタ被りを起こしてしまうことに気が付いた。
……ま、いいか。

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