TT-1は救助した女性――王国3大諸侯、ウィスーク公爵家の娘、エネシーと名乗った――と共に目標国家の都市へと向かった。
公爵という爵位や3大という表現の感覚が地球における一般的なものと変わらなければ、エネシーは目標国家、名称はカルアミーク王国と判明したその国において、相当な地位を持った家の娘だということになる。
外交の糸口としては非常に良好だ。
「騎士様、もうすぐで街ですわ!」
「ああ、視認できている。それと、私は騎士ではなく、外交官だ」
「まあ、もう見えているだなんて、すごい!外交官を任されるだなんて、やっぱりその名も高い騎士様なのね!」
「いや、私は騎士ではない」
「そうだ騎士様、助けていただいた時に居た、あの黒い竜は何だったのですか?」
「そんなものが居たかな」
ビークルはすでに元の地点で光学迷彩を展開して待機していた。知られないで済むのなら、知られない方が良かった。
「そうですか?気のせい、いえ、12角獣があんなになるなんて……」
「標準的な視力であれば、そろそろ君にも街がはっきり見えてくるころだ。あの街で間違いないのか?」
「え、あ、本当……あれがカルアミーク王国の王都、アルクールですわ!やっぱり騎士様はすごいです!」
「私は騎士ではない」
言いつつTT-1はカルアミーク王国の首都、王都アルクールの外観についての分析を開始している。この距離であっても、TT-1の可視光カメラの性能であれば、城壁の程度や警備状況、人の出入り、城壁を超える高さの建造物などについて十分な分析が可能だ。
TT-1の体験や得た情報はリアルタイムでリンクしている日本エリアの両戦略コンピュータや政府外交コンピュータなどとも共有され、そこから軍部コンピュータシステムへも共有される。
軍部コンピュータシステムでは、転移後世界での経験を反映した戦略コンピュータの指示を受けて、得られる王都の情報や周辺の情報から、様々なパターンの軍事行動について立案・シミュレートを行っていた。
防衛、そして、攻撃。
王都に到着後、ウィスーク公爵家で歓待を受けたTT-1は、ウィスーク公爵との交渉を行った。とは言っても公爵の方から礼についての話を切り出してきたので、交渉は円滑なものだった。
自分の身分についての説明を行い、王国の外交担当者への仲介を依頼し、受諾された。
外交担当には丁重な扱いをされ、外交は順調のようだったが、処理などのために即決とは行かない。後日またより上位の者との交渉があるとのことで帰った。
ウィスーク公爵が同家での宿泊を強く希望し、断る理由もなかったために受諾した。