国際連邦日本エリア召喚   作:こたねᶴ᳝ᵀᴹᴷᵀᶴ᳝͏≪.O

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竜の伝説 4

「ムーラ様、このお花をご覧ください。とっても綺麗ですね。」

 

「ああ」

 

「このお茶と菓子、お味はいかがですか?」

 

「ああ、美味であると言える」

 

「うれしいっ!!私、昨日から寝ずに、ムーラ様を想い、作りましたの」

 

「ありがとう」

 

「そのしぐさ、キュンと来ますわ。」

 

 ウィスーク公爵家の娘、エネシーに対応しつつも、TT-1は現状について整理する。

 王国ではどうやら諸侯のひとつによる謀反が起こったらしく、TT-1は王都で足止めを喰らっていた。実質的には空陸を問わず一切の出入りができないらしい。

公爵が良い待遇で屋敷に置いてくれているので稼働状況は良好であるし、

外交の締結は急ぐものでもないので特に問題は無いのだが、周囲の状況や兵士たちの表情からして、戦況は芳しくないらしい。

現状得られる情報から判断できるのはここまでだが……

 

 何かが遠くで爆発したかのような重低音が王都にこだまする。

王都の兵が慌ただしく動き始める。

遠くの方から、悲鳴のような声。

街からは、火の手があがり、その数は徐々に増えていく。

 状況が動いたらしい。TT-1は軽く身支度を整えるとウィスーク公爵の元へと向かう。

 ウィスーク公爵の部屋に着いた時は、彼の配下の者がちょうど公爵に報告に来ていたところだった。

 

「いったい何があったのですか?」

 

TT-1は尋ねる。

 ウィスーク公爵の表情には焦りがはっきりと表れている。何か尋常ではない事態が発生したようだ。

 

「ああ、タナカ殿。マウリが王都に攻め入って来ています。

 すでに第1の城門が突破され、魔物が市街地に流れ込んできています。

 今、王国軍は急遽兵を立て直しているところです。

 ここは、第2の城門の内側にあるため、今のところ被害は出ないと思われますが……」

 

 ウィスーク公爵は軽く情報を伝えると、配下の者に振り返る。

 

「何故こうも簡単に第一の門が落ちたのだ!!」

 

「はい、本日早朝、火喰い鳥に乗った騎士団が空から城門の内側を攻撃してきました。

 上空に気を取られているスキに、敵の魔導兵器、強力な戦車が現れ、城門を焼き払い、そこから大量の魔物が市内に流入しています。

 この戦車は、弓も通さず、バリスタでさえも弾き、魔法も受け付けず、なす術がありませんでした。

 敵は第1城門内の市街地を蹂躙しつつ、第2の城門に向かっております。

 第2の城門は、2重防壁となっていますので、簡単には抜かれないと思います。」

 

 話をしている間にも、街からの炎は増え続ける。

王都全体が騒然とした雰囲気となる中、TT-1、および本土のコンピュータ・システムが状況判断を行う。

 敵の戦力。ヒクイドリ、というのはもちろん地球に居たヒクイドリのことではなく、転移後世界生物、火喰い鳥のことだろう。飛行し火を吐く鳥に似た生物だ。航空機としての性能はワイバーンと比べても低く、戦力としては見られていないようだったが、この大陸にはワイバーンなどは生息していないようで、火喰い鳥が空の覇者であり、さらにそれを飼いならす手段も確立していないようだった。敵がそれを運用しているとなれば、中世レベルの王国の戦力は一方的な空からの攻撃にさらされることになる。

 魔導兵器の戦車、というのも気になる。この文明レベルで戦車となれば戦車(チャリオット)のことだろうが、城門を焼き払う、強力な装甲など、戦車(タンク)のような特徴が見られる。

魔法によって強化された戦車(チャリオット)であるのか、戦車(タンク)のような兵器が現れたのかは不明だが、どちらにせよそのような性能の兵器を相手にしては、王国の軍ではなすすべもないだろう。

 このままでは王都もろとも内戦に巻き込まれることになる。

TT-1は乗ってきたビークルなどを使って十分強行離脱が可能だし、最悪損失したとしてもTT-1の損失自体はさほど問題ではない。そこまでコストも高くないし、技術レベルからしてまず不可能であろうが情報漏洩への対策もなされている。

 

 しかし、この国が反乱勢力に乗っ取られるのはあまり好ましくない。

どうやら民間への攻撃も厭わないような攻撃的な勢力であるようだし、そもそも特に問題のない統治を行っていたように見えるこの国で反逆を起こし一途王都へと進撃してくる相手だ、おそらくは野心家だろう。

国交締結の交渉は難しくなる。武力で殲滅することは戦術戦闘能力的には容易であるし、国交を締結できないとしても直ちに影響があるものではないが、地球の他地域と切り離されて日本列島とその周辺島嶼のみで転移後世界に放り出された状況の現在では余計な負担は極力避けたい。

 それに、この国が持つであろう魔法などに関する情報や独自の生態系から産出されるものなどは失うには惜しい。

特に、反乱勢力が運用しているらしい、"戦車"や、突然魔獣を従えられた理由などは。

しかし全土に渡って敵対勢力を殲滅するとなれば、いくら高精度精密攻撃が可能といえど土地や情報媒体への被害は馬鹿にならないだろう。

 転移後世界の魔法や独自の生物などに強い関心を抱いていた本土戦略・軍事コンピュータ群はそう判断する。

 

 比較的交渉が容易であろうこの国を失うのは望ましくない。実利的にもそうだし、何より地球人の方針的にいきなり過激な手段に出ることは避けられる。

反乱勢力が一反乱勢力の規模を保っているうちであれば、土地や日本エリアなどへの負担も少なく、混乱に紛れて情報を入手することもできるだろう。

こういった方針のもとに、コンピュータたちは王国に対しては穏便な姿勢を保ちつつ内戦に介入する方策を考え始める……


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