「ははは、やった、飛んだぞ!」
日本、近海の人工島、何も無いまっさらな平野にて、はしゃぎまわる1人の男が居た。
カルアミーク王国にて大魔導師と呼ばれた存在、オルドである。
彼の見上げる先には、一機の小さな飛行機が飛んでいる。
鳥の羽に近いような形状の翼、古めかしいそれとはアンバランスな、ダクテッドファンプロペラの方式の推進器、胴体。響かせる音は磁励音。
速度も遅かったが、それは確かに制御され、空を飛んでいた。
「飛んだはいいが、あれじゃあ使いものにはならんぞ、ワイバーンどころか、火喰い鳥の方が強いぐらいだ」
「それはそうだ。あれは試作機だからな。それよりもまずは、あの『科学』の理論による飛行機が飛んだことを喜ばなければ。これは重大な、始めの一歩だ」
「そうですよ、シャークンさん。技術開発というものは、一歩一歩小さな成果を積み重ねていくものです、全く触れたことのない新しい技術ともなればなおさら。あなたもわかっているはずです」
「……そうだな、少し焦りすぎているのかもしれん」
オルドだけでなく、他にも二人、そこには人間が居た。シャークン、そしてブルーアイ。
「それよりも、これを見たまえ、日本で買った、『3Dプリンター』だ。最高グレード品だぞ」
「ほう?」
「これは素晴らしいものだ、設計図さえあれば、熟練の職人をも凌駕する精度で、多種多様な素材を組み合わせつつ、ものを作ることができる。
そしてこれ、タブレット端末。これも最高級品だから高い性能を持っていて、この設計補助ソフトを使えば、どんな設計でも思いのままだ。
少し手をつければ、まるで私の心を読んでいるかのように補ってくれる」
「そいつは、すごいですね。しかし、そんな金をどこで?」
「芸をやったんだ。芸とは言っても、道化師のようなものではないぞ、ただ魔法を使って見せただけだ。地球人たちはそれだけで大量に投げ銭をしてくれる、これを繰り返せばあっという間に金は貯まった。
彼らには魔法がとてつもないものに見えるらしい。我々からすれば地球の科学技術のほうがよほど凄まじいし、魔法と同じこともできるだろうに、本物の魔法だとか言って騒ぐ。不可思議ではあるが、金が手に入るんだ、ありがたいことだ」
「なるほど、魔法。そういえば、我が国の使節がはじめて日本を訪れた時、怪我をした人に回復魔法を使って驚かれたと言っていたな。
魔法がない国ならそういうこともあるかと思ったが、だれでも使える上に傷口に吹きかけるだけでたちどころに治してしまうとんでもないスプレーがあると知った時には不思議だった」
「地球にも昔から魔法の概念自体はあったらしい、もっとも、おとぎ話の中の話だがな。我々がおとぎ話に出てくる神の奇跡に出くわすようなものなのかもしれん。同じかそれ以上のことができるのに驚嘆するのはそれでも不思議だが、価値観の違いというやつだろうな」
話している間にも飛んでいたオルドの飛行機は、タブレット端末からのオルドの遠隔操縦を受けて大きく旋回し、機首を下げ、野原にアプローチ、機首上げで減速したのち、着陸した。
「うまいな、ワイバーン乗りでもないのに」
「ふん、我が国にワイバーン乗りなど居なかったわ。
しかし、そうだな。操縦補助機能が働いているとはいえ、そう高度なものでもない。魔導師でしかない私にもこれだけ動かしやすいというのは、我ながらなかなか良い出来なのかもしれん」
オルドの飛行機は馬程度の大きさで、人が乗れるものではなかった。
しかしキャノピーはあり、その内部にはカメラが収まっていた。
「すごいものだ、あのすさまじい精霊たちを見た時には、その秘密を解き明かすことにとてつもない熱意を燃やしたものだが、日本に来てみれば知識はあっさりといくらでも手に入り、実現することすらこの通りだ」
「精霊――国連軍の兵器たちに使われているような技術は、簡単に手に入るわけじゃないんだろう?」
「それはそうだが。しかし、この科学という技術の恩恵を、誰もが簡単に受けられる。我が祖国があるあの小さい世界の外、すさまじい魔導に満ちた世界、その中で列強第2位と呼ばれるムーとかいう国が叡智を結集して作っている飛行機械の、それよりずっと出来の良いものだろう、これは。
私はこれを作ることができた。科学など触れたこともなかった私が、簡単に。
凄まじいことだとは思わんか?」
「フムン」
「科学を簡単に得られるということはだ。魔導との融合までに、科学を身に着ける過程が大きく短縮されるということだ。
さあ帰るぞ、この機が飛べることは確認した、魔炎駆動の実験をしよう」
「……突っ走るやつだ、振り回されるこちらの身にもなってほしいな、全く」
「まあまあ、技術者はあれぐらいの方が頼りがいがありますよ。実際能力は確かだ。彼は簡単に飛行機を作れるのが地球の凄まじさのように言っていますが、いくら誰にでも開かれた技術だからといって、誰もがすぐに理解し、使えるわけじゃあない。科学技術や電子機器の扱いにネイティブな地球人ならできるでしょうが、科学どころか魔具の技術も我々にすら劣るような場所の出身でありながらあの速度は、はっきり言って異常ですらあります。一種の天才ですよ、彼は」
「まあ、そうだな。誘ったのは俺たちだ、振り回されるのも自己責任だ」
シャークンとブルーアイは、飛行機を回収して帰ろうとするオルドの後をついて行く。
彼らがなぜここに、オルドと共に居るのか。彼らがオルドを誘ったからだが、そもそもカルアミーク王国兵に捕らえられたあとのオルドがどうなったのか。
最終的なことを言えば、放免である。王国に捕らえられた彼は、国連及び日本、すなわちコンピュータたちからの要請によって身柄を日本に移された。目的はもちろん、彼の持つ情報である。
彼の持っていた情報、ノウハウ……それらを出来る限り搾り取ったのちには、彼は自由の身とされた。利用したのちの扱いの軽さは、何か害をなそうとしてもほとんど歯牙にかけないだけの力のある地球特有のものである。それでも、流石に市街では監視カメラなどを利用した追跡がされてはいるのだが。
自由の身となった彼は、衝撃を受けた精霊――自律型コンピュータについて調べはじめる。そして科学という技術体系について知り、学んだ。
その途上、シャークンとブルーアイに出会い、優れた技術者として勧誘を受けた。彼が協力することを決めたのは、無軌道に進むよりもなにか作る目標のものがあり、要望を出す人間もいる環境を好んだからだった。オルドからの協力のように見えもするが、実際には利害の一致だった。
「……しかし、だ。俺達の機体。できたとして、誰が乗るんだ?俺は海将だ。指揮以外に操船もできはするが、航空機など扱えんし、魔力もそれほどないぞ」
「私も、航空機の扱いに通じてはいませんね。彼も……耐えられるものではなさそうです。最適な乗り手については、地道に探していくしかないでしょう」
オルドさんは一応、全く新しいものを生み出せる天才ではなく、既存のものを身につけ、応用し、組み合わせるのがとんでもない超秀才って感じです。
こんな人か?っていうのはまぁ納得できなければ衝撃のあまり人が変わったとかで(ry