国際連邦日本エリア召喚   作:TOMOKOTA

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3 ロデニウス沖大海戦

ついにロウリア王国が総勢4000隻以上の大艦隊を出港させたとの情報を得て、クワ・トイネ公国はここ、マイハーク港に艦隊を集結させていた。

 

「壮観だな……」

 

提督パンカーレは、海を見つめながら、つぶやく。

50隻の戦船が来たる戦いへ向け戦闘準備を整える様は、確かに壮観であった。

しかし、敵は4000隻以上の大艦隊、圧倒的な物量差に彼は憂鬱になっていた。

 

「提督、海軍本部から魔伝が届いています」

 

 側近であり、若き幹部であるブルーアイが報告する。

 

「読め」

 

 

「はっ!本日夕刻、日本軍の軍船4隻が援軍として、マイハーク沖合いに到着する。彼らは、我が軍より先にロウリア艦隊に攻撃を行う、観戦武官1名を派遣するように、とのことです。」

 

「何!? たったの4隻だと!? 40隻か400隻の間違いではないのか?」

 

「間違いではありません」

 

「やる気はあるのか、彼らは……。しかも観戦武官だと?4隻しか来ないなら、観戦武官に死ねと言っているようなものではないか!!明らかに死地と解っていて、部下を送るようなまねは出来ないぞ!」

 

 沈黙。

 

「……私が行きます」

 

 ブルーアイが発言する。

 

「しかし……。」

 

「私は剣術ではNo.1です。一番生存率が高い。それに、あの鉄龍を飛ばして来た日本の事です。もしかしたら勝算があるのかもしれません」

 

「すまない……。頼んだ。」

 

「はっ!!」

 

 

 

その日の夕刻、ブルーアイは早くも少し不安になっていた。

たった4隻、どんな船が来るのかと思えば、まだ到着していない。

今到着するところだと言うのだが、水平線の彼方にも影も形も見えない。

担当者は何やら新造されていた小屋へと自分を案内するし、その小屋の椅子は無駄に座り心地が良い。これでは急造の休憩所とも思えない。

どんな船が来るのかと聞いてみても、詳しいことまでは覚えてはいないなどとのたまう。

何を呑気にしているのだ、まさか彼らは本当にやる気がないのか?

 

「お、来ましたよ。」

 

担当者がそう言ったのはブルーアイが到着してすぐのことであった。

小屋の中にあった、モニターというものに映った図を見ての発言だったが、先程まで影も形もなかったのだ。今更航行してくるのでは遅すぎる。

 そう思いつつ窓の外を見やると、海のただ中に、何か青黒いものが浮かび上がってきた。

 

「鯨……?」

 

その姿を見て、知っているなかで最も近いものの名をあげる。

 

「あれが我が軍の戦闘艦です。」

 

そう言われてブルーアイはそれに注目する。

曲面が浮いているだけ、とても船には見えない。

……いや。ほとんど水しぶきが立っていないためにわかりにくいが、大きさにしては尋常でない速度でこちらへ向かって来ている。

その速さはワイバーン並に見えた。海にあるものとしても、鯨並の大きさのものとしても、ありえない速さだった。

 

「な……」

 

ブルーアイが驚きに言葉を失っている間にも、それはぐんぐんと近づいてくる。

その後ろ、後続の3隻も海中から浮かび上がって来た。

アレは海に潜ることもできるのか……

 

凄まじい速度で、しかし水面を乱さずに向かってきたそれは、ぬるりとでも形容すべき滑らかな動きで港に接岸。

大きい。100m級のそれは、大きさだけならまだ常識の範疇ではある。

文明国ならばそれぐらいの船は持っているだろう。

しかし、それ以外のすべてが非常識であった。

まず外見。生物的な曲線で構成された、鯨か、卵、あるいは川原の石のような形状。船首らしき方には二段階の盛り上がっている箇所がある。

船首と船尾の側面に水平の、船首下部と船尾に垂直のひれのようなものがあり、その既存の生物に当てはまらない配置は異質であった。

その内実も、先程見た通りの異様な動き。

 

――化け物。

 

そうとしか思えなかった。日本は、海魔を使役しているのではないか?

 

「アレに……乗るのですか?」

 

「いえ。あれには、人が乗りこめるような場所はありません。

戦闘はここからでも見ることができます。観戦武官というのは何も、現地へ行く必要はないのでしょう?」

 

ここから観戦することができる。驚きよりも先に、ほっとした。

あんなものに乗り込むのはぞっとする。

 

 

いよいよ、日本軍が作戦を開始する。

 

『こちらNTC-16、報告、UFNFJTF-8は作戦を開始する。』

 

「NTC、カメラドローン起動、艦隊に追従、ドローンからの映像をここのモニターに投影。」

 

『了解』

 

流麗だが、どこか魔信越しのような響きを感じる声との呪文のようなやり取り、それから虫の羽音のような音がして、何かが日本船団の方へと飛んでいく。

正面のモニターに映像が映る。艦隊を後ろ、上空から写したもののようだった。

船団は相変わらずの滑らかで、波を立てない、超高速で港を離れていく。

その並びは一見ばらばらで適当のように見えたが、そこから一切位置関係が変化していない。一糸乱れぬ船団行動だった。

もうこのくらいでは驚くこともできないな、とブルーアイは思った。

 

 

 

「先程、あの船には人が乗れるような場所はない、とおっしゃいましたね」

 

「ええ。いや、あるにはあるのですが、ちょっとした予備のようなもので、動いている時に乗っていたら環境が悪すぎて死んでしまいかねないようなもの……というのは大げさですか。とにかく、人が乗って戦闘することは考えられていません」

 

「アレらは……日本は、海魔を海軍の戦力にしているのですか?

彼らの指揮は、一体誰が?」

 

「海魔……? いえ、あれらはれっきとしたフネですよ」

 

「フネ、ですって……? しかし、人が乗ってはいないと。あれらは、どうやって動いているのですか?」

 

「ああ。えっと、コンピュータ……コンピュータという自動で計算などを行う道具がありまして、それが動かしているのです。

指揮を取っているのも、司令部の戦術コンピュータです。先ほど話していましたね。NTC、海上戦術コンピュータの略です。

兵器の開発もコンピュータたちがやっています。現代の軍部は、丸ごとコンピュータの塊ですよ。

私のような軍部の人間というのは、どちらかというと軍部と人間の橋渡しをするのが仕事で、直接軍務に関わってはいません。

コンピュータ自身にも連絡は取れますから、あなたのような客人がない限りは閑職というわけですな。ははは」

 

計算を行う道具。それは……魔物であるよりも恐ろしい。道具。生きてすらいないのだ。魂がない。

日本の、彼らの元いた世界の戦いは、道具だけが勝手に戦っていたのだろうか……

ブルーアイは寒気を堪えることができなかった。

 

 

 

UFNFJTF-8、国連軍海上戦力日本エリア第八戦術艦隊の4隻は、その位置関係を保ったまま、90km/hの巡行速度で西へと航行していた。

巡行速度90km/h、戦闘速度150km/h。ブルーアイの感じたワイバーン並というのは大げさではあったが、常識外の高速には違いなかった。

彼らは自ら判断し戦術行動を行う。戦術コンピュータはそれを指揮、支援する。戦争戦略は軍部戦略コンピュータが、兵器の開発は開発コンピュータ群が。軍部そのものがコンピュータの塊だった。

最も、これは軍部に限った話ではない。単純労働や交通機関など、社会の多くの機能が機械に完全に置き換わっており、そうでなくともコンピュータの支援を受けている。

それは政府すらもそうだ。クワ・トイネへの武力を用いた積極的支援がすぐに決定されたのも、日本エリアの運営に関わる2つのコンピュータ、国連日本エリア地域戦略コンピュータと日本政府戦略コンピュータが、口を揃えてそのように提言して来たからだ。

あくまで人間が主の座についてはいるが、彼らはコンピュータの提言を受け入れることがほとんどだった。拒絶する理由がない。

地球はもはやコンピュータの星だった。そのコンピュータたちが、人間を主人として立て、尽くしているだけで。

 

 

「いい景色だ。美しい。」

 

ロウリア王国東方討伐海軍、海将のシャークンは呟いた。

美しい帆船たちが、大海原を風をいっぱいに受けて進んでゆく。

その数は4400隻、見える景色は、海よりも船の方が多いぐらいだった。

6年もの準備期間をかけ、パーパルディア皇国からの軍事援助を得て、ようやく完成した大艦隊。

これだけの大艦隊を防ぐ手立ては、ロデニウス大陸には無い。

いや、もしかしたら、パーパルディア皇国でさえ制圧できそうな気さえもしてくる。

 野心が燃える

いや、パーパルディア皇国には、砲艦という船ごと破壊可能な兵器があるらしい……

彼は、一瞬出てきた野心の炎を理性で打ち消す。第3文明圏の列強国に挑むのは、やはり危険が大きい。

彼は東の海を見据えた……

 

 

UFNFJTF-8の索敵システムが、巨大な艦隊を捉えた。敵艦隊の予定地点ちょうど、IFF、応答なし。これは味方であってもそうだとの情報がある。

可視光カメラが目標を捉える。掲げられている旗が、敵軍、ロウリア王国軍のものと一致することを認める。

指定された敵味方識別手段をクリア、敵戦力と断定。全艦攻撃態勢。

巡行速度の90km/hから、戦闘速度の150km/hへと急速に加速する。一瞬巨大な水しぶきが立ち、すぐに収まってほとんど水しぶきを立てない状態に戻る。

敵の予想スペックは全く脅威ではないが、未知の性能を備えている可能性がある。4隻は散開しつつ潜行。

 

 

……ん?

シャークンは大海原の彼方に、船の姿を見た。白い船、あるいは水しぶき。

しかし、目を凝らして見ても影も形もない。気のせいか。

念のために気を引き締めた。どのみち敵地は近い。艦隊にも警戒を命じる。

 

 

散開した4隻は、それぞれの方向から敵艦隊に突撃をかけようとしていた。浮上。水中でも武装は使用可能だが、大気中の方が効率がよい。

艦首にある2段階の隆起の前方のものの前面にあるスリットが開く。砲口だった。

同時攻撃をかけようとしたところに、戦術コンピュータからの指令。

 

<敵艦の防御性能、及び各種性能を調べよ。優先度50>

 

<了解>

 

同時の返答。1隻のみが単発で攻撃をかけ、他の艦はそれを観察する。

優先度50は、作戦目標の達成や自艦の被害回避よりは低いものだ。

主砲発射。まず気体塊を高圧で射出し、射線上の大気を追いやって空気抵抗を下げる。

その次、同時と言ってよいほどのタイミングで弾体を射出。火薬と電磁加速を併用し、加速。砲口付近から噴出する制御された燃焼ガスが砲弾に作用し、砲身長以上の精度を得る。

TYPE1通常弾だった。対艦特殊装甲貫徹弾ではない。それは威力過剰が確実とされていた。

 

砲弾は超高速で飛翔し、ロウリア船団の先頭にいた軍船に命中。貫通し、次の船へ。

これを繰り返し、一隻の大型船の半ばまで侵入したところで、砲弾が液状化して衝撃を浸透させる。

これがこの砲弾の想定された挙動であった。表層を抜き、内部で崩れて衝撃を伝え、内部をぐちゃぐちゃにする。

複数の船を縦に貫いてようやくというのは、明らかに威力過剰であった。最後の大型船以外の被害は軽微である。

過貫通。地球の現代戦闘艦の砲口径は小さい。

 

 

ロウリア船団は混乱の極みにあった。突然木材の弾ける爆音がしたかと思えば、先頭から一直線に帆船たちの中心線上に穴が空き、その操舵手は弾け飛び、果ては後列の大型船が砂のようになって海へと消えたのだ。

大型船の粉に混じって落ちるどろりとした赤黒い液体。

あれはきっと、人だったものだろう。確信めいた予感にシャークンは隣の大型船で蒼白となる。あれに乗っていたとしたら。

中央後部の船に乗るのは有り得たことだった。

攻撃。それしかない。どこから?このようなとんでもない攻撃は一体?

ロデニウス大陸どころか、どこにもこんなものはないだろう。神でも現れて攻撃してきたのか。

今すぐに逃げ帰りたくなる、いや、逃げ帰るべきだと理性すらも叫ぶのを抑えて、まずは船団の混乱を収めにかかる。

パニックになってやたらめったらと適当な方向に火矢を放ち、パーパルディアから何とか手に入れた虎の子の魔導砲を無駄撃ちする兵士たち。

これをなんとかしなければ、戦うどころか逃げることすら出来ないだろう。

 

 

兵士たちがパニックを起こして武器を乱射したのを観測して、その威力について分析したUFNFJTF-8の艦たちは、事前情報と差異のない、

脅威とならない威力だということを確認して、接近して機動性能を調べてもリスクは低いと判断した。

戦術コンピュータもこれに異を唱えなかったので、艦隊は今度こそ突撃を開始した。武装は発射しない。

側面に回りこんでから突撃をかけ、わざと水しぶきを立てて存在を誇示する。

艦隊の存在に気づいた船団は、そちらへと回頭しようとする。その回頭にも特別なことはない。

船団行動を見るにすでに兵員を掌握したようだ。混乱から立て直す能力は高い。高度な通信網が存在する可能性がある。電波や赤外線は感知されない。事前情報にある魔信だと推定される。

すぐに距離が詰まる。魔導砲の射程に入って魔導砲が飛んでくる。回避。

特に炸裂するようなこともなかった。時限信管や近接信管の可能性は残されているが、わざと被弾してみることまではしない。

 

船団の内部に潜り込む。敵船の背後に回り込んだり、横付けしたりする。

誘うように目の前で潜行。追っては来ない。少なくとも戦闘時の潜行能力はないようだ。そのまま真下につける。

一隻が船団をかき回し、密着した3隻が敵船を観察。火力や運動性には特筆すべき点はないが、風向きに縛られず自由に航行している、

帆の様子は変わっていない。なんらかの方法で風を起こすなどして、自由な帆走が可能なようだ。

しばらく観察を続け、戦術コンピュータはこれ以上の隠し玉はないと判断した。

砲を使うのは弾の無駄である。ラムアタックでの攻撃を指示。

UFNFJTF-8は船団を次々に無力化していく。軽く脆い木造帆船は、ラムアタックでも撃破できた。

船底を持ち上げてひっくり返し、あるいはジャンプして圧し潰す。兵士たちが次々に海へと投げ出されて行く。

ロウリア船団は撤退するそぶりを見せていたが、速度の違いから逃げられない。

旗艦が横っ腹に体当たりを受けて転覆したのをもって、ロウリア船団は全て無力化された。

ミッションコンプリート、RTB。

 

 

 

『こちらNTC-16、報告、UFNFJTF-8は作戦を完遂した。撃破数4400、敵を全滅させた。

なお、漂流している生存者が多数いる。確保するべきである。クワ・トイネ艦隊への支援要請を要求』

 

「確認した。 ……いかがですか?これが我々の軍です」

 

いかがですか、だって?

死人のような顔になっているブルーアイは、いっそ怒りすら覚えるのではないかと思った。実際にはその心情は全くの無であった。

今までの自分の常識は、何もかも破壊されてしまった。体当たり攻撃は自分たちの戦い方と同じだったが、それにしたって潜ったり跳んだり非常識だ。

 

「……最初の攻撃、あれは一体?」

 

「主砲攻撃です。大砲ですよ。魔導砲は知っていましたよね、それと似たようなものです」

 

魔導砲。しかし、伝え聞く魔導砲とはあまりに違い過ぎる。一度しか撃っていなかった。

あれほどの攻撃、多くは撃てないのだろうか。

 

「そういえば、一発しか撃っていなかったな。NTC、聞いていたな? これはやっぱり弾の節約の為か?」

 

『聞いていた。肯定である。加えていえば、敵船の性能調査を目的に全力での主砲攻撃を控えていた。

接近してもリスクは小さいと判断されたので、接近しての調査を行い、主砲攻撃は費用対効果の観点から非効率的であると判断されたので、ラムアタックでの攻撃を指示した』

 

「待ってください、一発しか? 節約? あれは、どれぐらい連続で放てるものなのですか?」

 

「そうですねぇ、0.5秒に一発ぐらいかな。いや、もっとか。NTC、UFNFJTF-8の艦の主砲の最大連射速度を答えろ」

 

『機密である』

 

「構わない、許可する。許可は出ている」

 

『rpm143』

 

「ふぅむ、大体そんなものか」

 

なんということだ。あの攻撃を、そんな速度で連続で放てるというのか。

では、体当たり攻撃をしていたのは本当に節約の為で、近づいたのは観察のため。

しかし、あれでは、これでは、まるで弄ぶような……

 

「さて、ブルーアイさん、ロウリア船団の生存者の確保要請について、クワ・トイネ艦隊に伝えて頂けますか? これは日本軍からの正式な要請となります。 ……ブルーアイさん?」

 

「NTC、だったか。おまえたちは……あなたは、一体何だ? 何を考えているのですか?」

 

『拒否。あなたにはわたしにアクセスする権限がない。」

 

「ええ? NTCが何か、なんて…… まぁいいか。NTC、彼の質問に答えろ。」

 

『我々は国連軍日本エリア軍、わたしは、わたし、国連軍日本エリア駐留軍海上戦術コンピュータ16号機である。わたしは日本エリアの要請に基づき、戦争を遂行する。』


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