一部は艦隊の様子を確認しに向かって撃墜されました。
中央歴1639年4月30日 クワトイネ公国 政治部会
「以上が、ロデニウス大陸沖大海戦の、戦果報告になります」
参考人招致された観戦武官ブルーアイが、政治部会において報告している。
会議には沈黙が流れていた。
「では、なにかね?日本はたったの4隻で、ロウリア艦隊4400隻に挑み、4400隻を海の藻屑とし、撃退。その上、4隻には全く被害が無かったというのかね?
しかもその4隻は人が乗らずにひとりでに動くフネで、わが国の艦隊は出る幕が無く、生存者の確保だけを行なったと。……。
こんなのは御伽噺でも出来すぎた話だ。政治部会で、観戦武官の君がわざわざ嘘をつくとも思えないが、あまりにも現実離れしすぎて、信じられないのだよ」
誰もが同じ思いだった。
野次が飛ぶ。
本来は、ロウリアの侵攻を防ぎ、国の危機が少し去ったので、喜ぶべきところが多いのだが、あまりにも1会戦の戦果としてはすさまじすぎるので、政治部会にはある種の恐怖が宿っていた。
首相カナタが発言する。
「いずれにせよ、今回の海からの侵攻は防げたのだろう。日本に直接確認を取る。防げたものとして、次のことを考えよう。陸のほうはどうなっている?軍務卿?」
「現在ロウリア王国は、ギムの周辺陣地の構築を行っております。海からの進撃が失敗に終わったため、ギムの守りを固めてから再度進出してくるものと思われます。我がほうでは、電撃作戦は無くなったと解しております」
軍務卿は続ける
「日本からはロウリアの侵攻を迎撃するために戦力を送ると通達が来ています。航空戦力だとか。
ただ、誤射の危険があるので、日本側が先に攻撃を仕掛けてこちらは後から攻撃をするか、全ての兵に分かりやすいような布などを持たせるかするようにと要求が来ています。
特に陸の兵は、日本側の攻撃の後に攻撃をするように、と。」
「ふむ、一番槍を譲って待っていろということか。まあ、仕方ないだろう。
日本軍は強力な攻撃ができるようだからな。巻き込まれてはたまらん。よし、我が軍に通達しておけ。」
ロウリア王国 王都 ジン・ハーク ハーク城
34代ロウリア王国、大王、ハーク・ロウリア34世は、ベッドの中で震えていた。
ロウリアを発った4400隻の大船団が、1隻たりとも帰って来ていなかったのだが、先日、パーパルディア皇国の観戦武官だけがボロボロになりながら帰って来た。
曰く、突然現れた海魔によって、船団は全滅した。自分や他の生き残りはクワ・トイネによって捕らえられ、自分は命からがらなんとか脱出してきた。その海魔は大きく、速く、とてつもない威力のある魔導を放つ。あの恐ろしく強い海魔は日本軍のものだ、日本軍は海魔を味方につけている、と。
そうして本国へ帰ると言い捨てて行った。
荒唐無稽な話ではあるが、船団が全く帰って来ていないのは事実だ。
海魔。まさか、神話に伝えられる魔王軍、いや古の魔法帝国か? 何を相手に戦っているのかが解らない。
ロウリア王国は、昔から人口とにかく多いが、人的な質が悪かった。
しかし、この6年間で、ロデニウス征服のため、そこそこの質で、圧倒的な数をそろえることが出来た。
しかし、自分たちの兵器が全く通用しない可能性がある。
海と空では質がものを言う。しかし、陸戦では数がものを言う。陸戦では、なんとかなるかもしれないが……。しかし、おそらくは。無意識のうちには、王は敵の強さを確信していた。
王は、その日、眠れない夜を過ごした。
第三文明圏 列強国 パーパルディア皇国
薄暗い部屋、光の精霊の力により、ガラスの玉がオレンジ色にほのかに輝き、影を映し出す。その数は2つ、
男達は、国の行く末に関わる話をしていた。
「……日本?聞いたことの無い名前だが……。」
「ロデニウス大陸の北東方向にある島国だそうです。」
「いや、それは報告書を見れば解るが、今までこのような国はあったか?大体、ロデニウスから1000km程離れた場所にある国なら、我々が今までの歴史で一度も気がつかなかった事が考えられない。」
「あの付近は、海流も風も乱れておりますので、船の難所となっております。なるべく近寄らなかったので、解らなかっただけではないでしょうか?」
「しかし、文明圏から離れた蛮地であり、海戦の方法も、きわめて野蛮なロウリア王国とはいえ、たった4隻に4400隻も撃沈されるとは、いささか現実離れしていないか?」
「しかも、海魔だの、とてつもない威力の魔導だの。艦船武官も、長い蛮地生活で精神異常をきたしたのかもしれません。本人も帰りたいと言っていますし、交代をさせてやりましょう。」
「しかし閣下、我々の100門級戦列艦フィシャヌスが仮にロウリアと戦ったら、相手から沈められる事はありえません。距離2kmで、大砲の弾の続く限りロウリア船を撃沈できます。
いずれにせよ、日本が何百隻使ってロウリアを撃退したのかは解りませんが、彼らも大砲を作れる技術水準に達していると判断するべきなのでしょうね。それから、かなり屈強な水兵がいるのかも。」
「蛮族の分際で、大砲か……。今までロデニウスや周辺国家に侵攻してこなかった事実を考えるに、ようやく大砲を作れる技術に達したと判断するのが適当かもしれんな。」
「ところで、ロウリアがまさか負けることはあるまいな?我々の、資源獲得の国家戦略に支障をきたす」
「陸戦では、海戦とは違い、数が物を言います。ロウリアは人口だけはとにかく多いので、大砲を持ち始めたレベルの国を前にして、大敗することはありますまい。」
「今回の海戦の報告は荒唐無稽だ。真偽を確かめるまでは、陛下に報告はしない。解ったな。」
「了解いたしました。」