国際連邦日本エリア召喚   作:TOMOKOTA

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5 ギム近郊戦

ギムの近郊、遥かな上空を、一機の飛行機が飛んでいた。

地球の最新鋭無人戦闘機、CP-237。あるいはQF-237とも呼ばれることのあるその機体。

B-2爆撃機にも似た機体後部には、上下に突き出した垂直尾翼が左右に1対。正面に突き出した機首には一切の盛り上がりのない滑らかな形状で、ほとんど先端からストレーキが伸びている。

機首に限らず全体的に滑らかなその機体は、戦闘機というよりはミサイルのような印象を与える外見だった。

立体感のないカラーリング、昼間塗装のグレーに塗られた機体は、旧世代の戦闘機に匹敵する超音速で巡航していた。機体に動翼は無く、機体の翼や、それに近い部分全てが通電により変形する素材で作られ、たわみ翼として機能する。

強力な機体であったが、転移後の世界においては懸念が存在し、それが解決されないままに出撃していた。

その懸念とはすなわち、適切な兵装を装備していないことである。

転移前の地球では、国家間の戦争というものはほとんどなくなっていた。

 しかし、実戦の中での兵器の洗練、それによる戦力の維持、エリア間での戦争を模した企業間協定による経済効果や娯楽のための見世物としての価値などから、限りなく実戦に近い演習、ほとんど戦争とも呼べるようなそれが行われてはいた。完全な無人化がそれを可能とした。

行われてはいたのだが、この演習に際して用意された土地の条件はお世辞にも実戦的と言えるものではなかった。完全な海と平野だったのである。そのために陸戦兵器は航空機と艦艇に一方的に撃滅されるというような、戦車不要論で主張されるような条件が実現した環境となり、早々に陸戦兵器は消滅。

 航空機と艦艇だけの戦場となったのだが、航空機同士の戦闘はもはやミサイルを撃つよりも先に電子攻撃で勝敗が決まる状況となり、艦艇についても近年重装甲や高機動、潜水によって空対艦攻撃の難易度が高くなった結果、最新鋭の戦闘機は物理的な攻撃手段を保有していなかった。戦闘機とはいうものの、ほとんど純粋な電子戦機だったのである。

当然、電子機器により制御されているわけではない転移後世界の敵戦力にはこれは通用しない。

外部に兵装を装備することは可能だったので外部兵装の再生産が急ピッチで進められていたのだが、近年の装備はいずれも電子機器に攻撃を加えるものばかりで、物理的な攻撃を行う航空機用武装を生産するには設備から用意する必要があり、さしもの無人化工業といえども急には用意できなかったのである。

ではどうして出撃しているのかといえば、その電子戦兵器が、敵軍に対して有効な攻撃手段となり得るとされたからである。

地球の電子戦は複雑化してはそれをパワーで打ち破る、ということが繰り返されており、CP-237はパワーで打ち破る世代の機体だった。

生身の兵士が相手であれば、非効率的ではあるがこの電磁波で人体を加熱、殺傷が可能であると予想されていた。

 

 その一機のCP-237、この作戦でのコールサインC-1の索敵システムが、下方の平野に慌ただしく動く多数の人間の存在を捉える。

光学カメラの観測から、それらが逃げる集団と追う集団の2集団であること、追う集団がロウリア王国の旗を掲げていることがわかる。

敵性と断定。エンゲージ。

 C-1はその敵集団に対して攻撃をかけようとするが、対人戦用に設計されたわけではないレーダーシステムでは、逃げる集団をも巻き込んでしまう。恐らくは友好国の民間人であろう彼らを殺傷することは交戦規定に反していた。

そこでC-1の頭脳は対応策を演算。まずは2集団を分離する必要があると判断した。

急降下。2集団の中央で引き起こし。機首を上方へ向けてホバリング。

可視光索敵システムが周囲の人間たちの表情を捉える。リンクしている戦術コンピュータから表情の解析結果が送信される。一様に、驚愕。

敵集団は驚きによって足を止めた。分離作戦は成功しそうだ。

そのままスライドするように移動し、敵集団の方へじわじわと近づく。

敵集団は後ずさり。民間人集団が逃走を中断しているのは計算外だが、問題ない。

敵集団のうち、特に装飾の多い装甲を装備している個体――戦術コンピュータから、人間集団においてこのような個体はリーダーであろうとの解析結果――が周囲に何か叫び、敵集団が後ずさりするのをやめる。民間人集団との距離は十分に離れてはいない。

危険だが仕方がない。C-1はさらに敵集団へと接近し、その前縁部の上方まで移動してエンジンを全開に。

エンジン排気で敵前衛は焼き尽くされ、吹き飛ばされる。懸念していたように矢が飛んで来るが、十分に引き絞っていなかったのか風圧に煽られて命中しない。

敵集団は再び離れ始め、生きた敵集団と民間人の間に十分間が空いたことを確認した後C-1は急上昇。反転して降下し、敵集団へとレーダー照射。敵集団は無力化された。

 減速して低空を低速飛行、可視光索敵システムで民間人の集団を撮影し、送信。後に友好国に確認を求めるためだ。

 

 

 ロウリア軍から逃げていた民間人たちの一人、エルフの少年、パルンは、絶句してその光景を見ていた。

自分たちを助けてくれたらしいその黒い竜らしきものに、しかし彼は親愛の情を抱くことはできなかった。

こちらを向いたその頭。滑らかで、何も突起の無い、のっぺりとした、頭部とは思えないそこに、彼は偶然、瞳の存在を見た。

 

――ああ、なんて、冷たい……

 

 そう思った次の瞬間には、C-1は彼の頭上を通り過ぎ、急速上昇に入っていた。振り向いた時には、地響きのような残響と、上昇していく黒い点しか見えなかった。

彼には、こちらを向いたそれに、ロウリア軍のように不可視の力で焼かれなかったことが、なんだかただの偶然のようにしか思えてならず、彼の神、太陽神に対して深く感謝した。

 

 

 

―城塞都市エジェイ

 

 

 城塞都市エジェイに屯するクワトイネ公国軍西部方面師団約3万人の将軍、ノウは焦っていた。敵兵2万が、エジェイから西側5kmの位置に布陣している。

 ロウリアの兵力からすれば明らかに先遣隊であり、こちらから打って出れば、ロウリア軍本隊が到着する前に戦力をすり減らしてしまう。

 それだけならば城に篭れば済むのだが、敵騎兵が300名ほど城の外で怒声をあげ、去っていく事をくり返しているのが問題だった。

 本格的進攻かどうかの判断がつかず、兵が神経をすり減らす。

 ワイバーンを使用しての強襲も考えられたが、ワイバーンは夜飛べない上に、着陸時を敵ワイバーンに狙われたら終わりであるため、動かせなかった。

 このままでは、敵本隊が着くころには、兵はヘトヘトになってしまう恐れがあった。

 伝令兵が駆け寄ってくる。

 

「ノウ将軍、地球軍からの伝令です。」

 

「何?今更何だというのだ。」

 

 地球。日本と呼ぶべきかなんと呼ぶべきか、何故かはっきりしなかった日本が最終的に決めた呼称である。彼らが元居たという世界の名らしいが、日本という国名があるにも関わらず、世界の名を使おうとするのは、彼にはよくわからなかった。

そんな彼らは、このエジェイでの防衛戦にも参加する予定になっていたのだが、いつまでたっても現れる気配がなかった。

 

「現在、ここエジェイから西側5km地点に布陣しているロウリア軍に対して攻撃を行うので、ついてはその近辺にクワ・トイネ兵がいないことを確認したい、また、クワ・トイネ兵をしばらく近寄らせないことを要請したい、とのことです。」

 

「何だと? 軍などどこにもいない。ワイバーンによる先制攻撃か。

しかし、何と一方的な…… 人の1人も寄越さないとは。

……まぁ良い。本国も連中を受け入れるよう通達を出してきている。

勝手に敵を漸減してくれる分には構わん。近辺には我らの兵はいない。

その旨伝えろ。総員に、しばらくは敵軍に近づかないよう通達せよ。」

 

「はっ!」

 

 

 その間にも、布陣するロウリア軍へ向けて、日本エリアの航空隊が進んでいた。

CP-237、4機である。

クワ・トイネ側との連絡が済んだことを確認した戦術コンピュータから、攻撃開始の指令が下される。

 4機は加速。音速を超え、マッハ2での巡行に入る。

ロウリア軍へ向けて緩降下、レーダーシステム作動、全力照射。

4機から放たれる不可視の範囲攻撃を受けたロウリア軍は無効化される。

ミッションコンプリート、RTB。

 

 

 ロウリア軍の将軍ジューンフィルアは、小高い丘から2万の大軍が隊列を整えているのを眺めて満足していた。

 壮大な眺めであり、兵の士気、錬度も高い。

日本なる国がいかに強くても、簡単にはやられはしない。

快晴であるから、数で劣る敵のワイバーンに対して負けることもないだろう。

 と、突然、興奮していた頭が冴える。不思議な感覚、敵はまだいないにもかかわらず、何故だろうか、確かな死の予感がする。いったい何なのだろうか?

 

全く突然に、前衛の兵たちが苦しむ声を上げて倒れる。

 

「何だ!?」

 

 次々と兵士たちが倒れていく。熱い、と叫ぶ兵士も居た。しかし、何かが燃えているわけでもない。

彼自身も、ジリジリと焼けるような熱を感じた。

 

「熱い!何だというのだ!」

 

 周囲を見ても、仲間たちは皆同様に苦しみ倒れていく。

今まで共に戦ってきた戦友、歴戦の猛者、優秀な将軍、家族ぐるみの付き合いのあった上級騎士、共に強くなるため汗を流した仲間たち。

 熱さに耐え切れず、また、彼の身体機能に問題が生じたがために、彼が気を失う寸前。

ジューンフィルア将軍は、4体の黒い影が、恐ろしい高速で快晴の空を翔けているのを見た。

 

 

 クワトイネの将軍、ノウは、その光景が信じられなかった。

全く突然に、次々と敵兵が倒れていく。何の攻撃も加えられていないはずであるのにも関わらず。

 敵は錬度も高く、隊列も極めて整っていた。整然と整列していた敵兵が倒れていく。苦しむような素振りをしているように見える。

 それは狭い範囲で起こったことではない。

 広く、広大な範囲で展開していた敵が!強敵が……己の人生をかけ、長い時間をかけ、鍛えあげてきたであろう武技を発揮する事無く、一方的に虫のように殺される。

 彼は敵軍へ向けて恐ろしい速度で飛翔する黒い影の存在に気づいた。距離もある上、あまりの高速にブレた粒にしか見えない。黒い影のようで高速な航空戦力と言えば、日本の、地球の航空戦力だったはずだ。

あれらが敵軍を攻撃しているのか。

 そこに、華やかな戦いや騎士道は無い。ただただ効率的に、わけもわからないままに殺処分されていく哀れな敵。

 城塞都市エジェイの城内から、クワ・トイネの住民たちは、ただ唖然としてその光景を眺めていた。

 

 4体の黒い影が反転して帰って行く。そこに居たロウリア軍は皆倒れ伏していた。その鎧にも周囲の土地にも、何の攻撃の痕跡も残さないままに。

 ノウは眼前の攻撃を目にし、何と形容していいのか解らなかったが、自分たちの戦闘概念からかけ離れ過ぎていることだけは確かだった。

 

「これが……日本軍の、強さだというのか……」

 

 自分の兵はまだ1人もロウリア軍と戦っておらず、部下に死者は出ていない。

 本来喜ぶべきこの状況の中で、彼は1人敗北感を味わっていた。

 

 

 

―クワ・トイネ公国政治部会

「……以上が日本軍と、ロウリア軍のエジェイ西方の戦いの報告になります」

 

あまりにも信じ難い報告に、会場に居る中の誰も、言葉を発することはできなかった。

 その静寂の中で手を挙げて、首相カナタが発言をする。

 

「手元の資料を見てほしい」

 

 日本から安く輸入した上質の紙が議員に配布される。

ロウリア首都攻撃作戦、そう書かれていた。

 

「日本は鉄竜をロウリアの首都に送り、この戦争を終わらせたいらしい。

ただ、信じ難いことだが、日本は陸で戦う兵力を持っていないというのが。それで、我々に軍を送って欲しいとの要請が来た。

敵の脅威は排除するので心配はいらない、とのことだ。

 併せてエジェイとギムの間に展開する敵、ロウリア王国クワトイネ征伐隊東部諸侯団と、ギムの西側を国境から我が国内を東へ進軍する本隊に対しても鉄龍を投入して攻撃したいとの事だ。

敵主力がギムから出ているから、攻撃がもしも成功すれば、我が国も軍を送ってギムを奪還したいと思う」

 

にわかに場がざわつき始める。

 

「別にいいんじゃないか?得しかないし」

 

「敵の首都……うまくいくとは思えないが。

連中は心配いらないと言っているが、我が軍から大勢犠牲が出るのではないか?」

 

「しかし、どの道このままでは我が国は滅ぶ。やるしかないのではないか」

 

「仮に地球の言う通りにうまくいけば、もっとも被害の少ない方法で今回の戦争が終わる。それに、我々の軍が決め手になったと国民にアピールすることもできる」

 

 政治部会では、全会一致でこの作戦を認可した。




CP-237のCP:CombatPlane

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