国際連邦日本エリア召喚   作:こたねᶴ᳝ᵀᴹᴷᵀᶴ᳝͏≪.O

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外伝1 日本との接触(クワトイネ編)

―日本エリア、福岡市

 

 

 「皆様、福岡市が見えてまいりました。福岡市は、九州地方、中国四国地方の中で、最大の都市になります。あそこに見えるのが博多港です。博多港からは、リムジンバスで、ホテル新日航まで移動していただき、日本についての基礎知識を学んでいただきます。」

 

 日本のガイド、田上が説明する。

この時、クワ・トイネからの使節団は客船に乗って日本を訪れていた。

博多港が見えてきた。高層建築物が立ち並び、都市高速が走っている。

 やがて、リムジンバスに乗り、ホテル新日航へ移動する。

 船の上で、田上から、車と呼ばれるものが、内燃機関によって動いているということを聞かされていたが、まさかこんなに量が多いとは思わなかった。

 話を聞くと、この国において車は、道路のある所であればどこに居ても、呼べば来るものであるらしい。ほとんど全ての車が自動で運転されていて、空いている車が呼び出した人の所へと向かい、望む目的地へと連れて行く。無料ではないが、ほとんど無料に近いほどの価格だった。

 呆れるほどの豊かさ。公共交通機関がここまで便利になっているとは。

 

 ホテルにおいて、日本の基礎知識を学ぶ。自動運行される道路に下手に立ち入るのは危険であること、交通機関や商店においては、個人認証システムと電子通貨の組み合わせによって、乗ったり、商品を持って行ったりするだけで自動的に精算される無人改札、無人商店が普及していること、拾ったものをそのまま自分の物にすると占有離脱物横領という罪に問われること。

 彼らの説明によると、色々不思議なように思えるだろうが、これは科学であり、仕組みが理解できれば誰しもが作れると言っている。

 

 あの量の車たちが好き勝手動いているのでは、交通事情はめちゃくちゃになってしまうのではないか、と質問した者もいたが、交通管制コンピュータによって完璧に統制されており、事故などが起こることはよほど特殊な状況でない限りないとのことだった。

 

「田上殿、田上殿」

 

 クワ・トイネからの使節団員の1人、将軍のハンキが話しかける。

 

「何でしょうか?ハンキ様」

 

「ここは、ずいぶん発展しているようだが、首都はさらに発展しているのかね?」

 

「はい、まず人口が比較になりませんので、高層建築物はここよりも高いものになります。地下交通網も、網の目のように広がっています。

広い範囲で都心部が広がった状態ですね。ただ、町並みは、福岡市の方が綺麗だという人もいます。東京には多くの建物が密集していますから、雑多な感じがするのでしょうね。」

 

「うーむ…… 田上殿、日本軍を見学したいのじゃが、無理じゃろうか?」

 

「我が国は、正式には軍を置いておりません。我が国に屯して戦力となっているのは、制度上は国連の所属です。そうですね、少々お待ち下さい。」

 

 田上が何か独り言を言い始める。彼の瞳に、何か光が浮き上がっているようにも見えた。まさか、魔導通信具のようなものだと言うのだろうか。

 

「ハンキ様、航空機のみなら手配できるそうです。」

 

「おお、すまんのう、たのむ、たのむ」

 

 ハンキは、日本軍見学の機会を得て、上機嫌であった。

 

「他に見学されたい方はおられますか?」

 

「私も行きます」

 

 使節団の1人、外務局員のヤゴウが手を上げ、結局翌日は、ハンキとヤゴウで見学に行くこととなる。

 

 

―翌日

 

 ハンキとヤゴウは、築城基地の来賓席にいた。

 

ヤゴウは高速道路で目を回しそうになったことを思い返す。

やっと鉄龍基地で、龍たちのデモンストレーションが見られる。

 

 やがて、航空ショーが開催される。

 

「ただいまより、CP-237の機動飛行が行われます。右側の空をご覧下さい。CP-237がマッハ3.3で進入してまいりました」

 

「何!? 田上殿!今マッハ3.3と言ったか?聞き間違えではないか?」

 

 ハンキが興奮して話しかける。

 

「はい、マッハ3.3とアナウンスしていました」

 

 右を見れば、無音で飛行物体が近づいてきていた。

とてつもない高速。真っ黒で遠近感が分かりにくいが、突然その速度が落ちた。

 

「ただいま、CP-237が時速850kmに減速いたしました。」

 

「何!?それほどの減速を、あの一瞬で!?」

 

 客席上空に達したCP-237は、垂直に上昇を始める。主翼上部には一部剥離した空気が白い雲を作り、翼端では、主翼下部から上部へ回り込む空気により、白い航跡を引く。

雷鳴のような轟きがあたりを包む。エンジンの後ろには、蒼い燐光が微かに見える。

次の瞬間には、その機体は青空に消えていた。

 

絶句。

 

「左の空をご覧下さい。先ほどのCP-237が戻ってまいりました」

 

 

「え!?もう?」

 

「これより曲技飛行を開始します。CP-237の優れた機動性をご覧ください。」

 

 

<HQよりa-1,曲技飛行用プログラム,No.15>

<a-1よりHQ,了解。>

 

 

 通常の人間にはわからない電波のやり取りがa-1の中枢コンピュータと今回のショーの管制を行っていた戦術コンピュータの間で交わされる。

CP-237、a-1とのコールサインを付されたそれは、その機動性を存分に発揮して曲芸飛行を開始する。

機首を上に向けてホバリング、クルビット、そのまま3回転した後水平に回転しながら上を向いて垂直上昇、垂直上昇とその姿勢を保ったままに機体から見て真上に垂直に移動、突然ブーメランのような横回転を始め、その状態のままに速度を保って上昇、移動、降下、そこから一瞬で姿勢を水平飛行に戻し、急速に加速、極めて短い旋回半径でターンし、再びクルビット、少しの間後ろ向きに飛行して急加速して飛び去った。

 

 そのめちゃくちゃな飛び方を見たハンキとヤゴウは、口をあんぐりと開けたまま何も言えなかった。

 

 

 

―その日のハンキの日記より

 

 町にあふれる建築物、そして巨大な上空道路、鉄道と呼ばれる大規模流通システム。

これらの凄まじいまでの建造物群を作る日本という国、いや、地球という世界が私は恐ろしい。

 しかも、ここは、日本の首都ではなく、一地方都市に過ぎないという事実。驚愕よりも上の驚きを表す言葉がほしいくらいである。

豊か過ぎる国日本、彼らはその強力な国力にふさわしい、凄まじいまでの軍事技術を有している。

 戦闘用の鉄龍は、最高では音の速さの3.5倍で飛行し、上昇力もとてつもない。しかも滅茶苦茶な動きが可能な機動性を持っていて、それを遺憾なく発揮できる。それらは人を乗せずとも自律して動くことができるのだ。

おまけに、戦闘行動半径は1000kmを超えるという化け物だ。

彼らから見れば、我が国のワイバーンは、止まっている的に見えることだろう。

案内役の田上氏に聴取したところ、鉄龍は海上攻撃や、陸上攻撃の支援にも使用可能だそうだ。

 マイハークに進入した鉄龍、あれもこの戦闘用鉄竜だったらしい。彼らがその気になっていたならば、我が国は即座に滅ぼされていただろう。

逆に言えば、攻撃を仕掛けてこなかったことから本当に偵察活動だったのだと推測できるのだが、楽観して良い事態ではない。

彼らとは友好関係を構築しなければならない。

彼らを敵にまわすということは、文明圏の列強国を敵にまわすよりも恐ろしい事である。

彼らと敵対してはならない。

 

 

―ホテルにて

 

「なあ、ヤゴウ殿」

 

「なんでしょうか」

 

「日本をどう思う」

 

 「そうですね、一言で表すなら、豊かですね。あきれるほどに……

ホテルの中は、温度や湿度が一定に保たれている。これほどの建物を暖めるのに、どれほどのエネルギーがいるのか……。しかも、外国の使節団が来るからここだけ特別に暖かくしている訳ではなく、ここに存在するほぼ全ての建物が空気を調節されている。

  捻るだけで、お湯が出る機械もある。いちいち火を起こさなくても暖かいお湯に浸かれる。トイレも非常に清潔に保たれている。

  外に出ると、無人の販売機械があり、冷えたジュースや、場所によっては酒まで手に入る。

  夜間開いている店舗でいつでも上質な物が手に入る。

  食品売り場では、常に新鮮な食料が手に入る。

  夜も明るいので、街中なら明かりが無くても歩けるし、治安がとてつもなく良い。

  全ての生活レベルが、我が国と比べ、次元が違う。悔しいが、国力の違いを感じます。

 そして、あの鉄竜には正直驚きました。

圧倒的な力の差を見せ付けられた思いです。

日本は敵にまわしてはいけないと思いました。」

 

 「やはり同じ思いか・・・。あの戦闘型の鉄龍の前には、ワイバーンの空中戦術は役にたたないだろうと私も思う。明日は首都に出発じゃな。日本は心臓に悪いよ」

 

 「私はワクワクしていますよ。このような国が、近くに突然現れ、しかも自分たち以外を見下しきっている文明圏よりも高度な文明をもっている。その最初の接触国が我が国とは…… 彼らに覇を唱える性質がなければ、これは幸運です」

 

 ヤゴウとハンキは、深夜まで語らい続けた。

 

 

 

 翌日、東京都に着いた彼らは、何とも言えない違和感を覚えていた。

彼らは自由行動ということで現地の人々に話を聞いていた。

無人生産システムによってほとんど仕事をせずとも中流程度の暮らしは可能となった現代においては、日中であっても多くの人々に話を聞くことができたのだが、彼らは皆一様に、自らが日本という国の国民であるということや、そもそも、国の隔たりというものを全く意識していない。日本人ではない者たちも多く居たが、彼らも同様だった。

それに、多くの人間がそこに集まってはいるのだが、よく観察してみると、それらは小さな集団が多く居るだけであって、全体としての連帯感といったものは見られない。

 これがホテルで説明を受けた、高度な通信技術によって一つに繋がれた世界の様子というものなのか。

それに、虚空に向かって何かしている者も居る。ARという技術によって、他人には見えないが、彼らにはそこに物が見えている、つまり、彼らの世界の中で何かをしている、ということらしい。ここまで来るともう彼らにはわけがわからない。人それぞれに違った現実がある、というのか。そういった話は哲学分野で聞いたことがある程度で、とても実際に目の当たりにするものだとは思っていなかったのだが。

 中世レベルの社会で生きてきた彼らにとっては、ここはひどく異質な世界のように思えた。

 

「田上殿、田上殿」

 

「はい、なんでしょうか。」

 

「あそこにいるのは、獣人種ではないか?

日本には人間種しかいないと聞いていたのじゃが…… 耳や尻尾が動いているから、そういう服装というわけでもなかろう。向こうにはエルフも居る。」

 

「ああ、あれですか……義体だったりホログラムだったり、手法にはいろいろあるんですが、うーん……」

 

田上はしばらく説明に悩んでいるようだったが、やがて口を開いた。

 

「ここでは、地球では、肉体というのは、精神の器に過ぎない……ものにすることもできる。作り変えたり、乗り換えたりできる。

そう言ったら、伝わるでしょうか?」

 

 

 

―ヤゴウの日記より(一部抜粋)

 

 

 いくつもの大都市を抜け、我々は新幹線により日本の首都、東京に着いた。

 東京へ至る途中の地方都市でさえ、文明圏列強の首都をはるかに凌ぐ規模のものであったが、東京はまさに次元が違う。何もかもが正確に動き、人の量も多く、ビルの高さも天を貫かんとするものばかりである。

それに、ホログラムなる、蜃気楼のように実体を持たない映像を投射するものの量が多い。街中にその設備があるようで、どこが実物でどこがホログラムなのかもわからない。しかしそれらによって飾られた街は、全体として煌びやかだ。

 それに、街の道を一つ曲がれば原野のような光景があったり、歴史的な街並みがあったり、我々の街のような街並みがあったり、かと思えば煌びやかな都市へと戻る、というような、いくつもの異世界が少しずつ寄り集まっているような場所もあった。奇妙な街だ。

 我が国の有名なエージェイ山(海抜高度539m)を凌ぐ高さの建造物も現実に、それも大量に存在している。

 

 私は、このような巨大な建造物郡を作り出す国力を持った国に、使節団として派遣され、明日実務者協議に挑む。

 我が国の国益にかなうよう、最大限の努力をするつもりだ。

このような歴史的瞬間に立ち会えることは、私にとって幸いである。

 

 ただ……この国の、いや、地球の技術、生活というのは、国家だとか、そういった広い括りを破壊し、個々の独立個人でもって世界にさらけ出されるような性質を持っているらしい。国際連邦だとか、日本エリアだとか、独立国家であって独立国家でなくもあるだとか、曖昧でわけのわからない日本についての説明が、これで理解できたように思える。

 日本、地球ではそれで問題がない。皆がそれで生きていけるように、機械たちが支えているし、戦争も無い。だが、我々は違う。急激にそのような価値観が流入すれば、どのような影響が出るか未知数だ。

輸入するものについては、少々慎重な検討を要するものと思われる。

 

 

 

 その翌日、クワ・トイネから日本エリアへの食料の輸出や、日本エリアからクワ・トイネへの技術支援など、多数の要項が、日本・クワトイネ実務者会議において結ばれた。

 使節団にとっては、とてつもなく良い条件で、日本と良好な関係を構築することが出来た。

 日本とクワトイネは、極めて良好な友好関係を築いた。


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