国際連邦日本エリア召喚   作:TOMOKOTA

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2章 パーパルディア皇国編
7 神話に住まう人々


「すみません、局長様が無理でしたら、課長様でも構いませんので、権限のある方にお目通りをお願いしたいのですが……」

 

 転移後世界の列強国のひとつ、パーパルディア皇国に国交を結ぶためやってきた日本国外務省の一団は、この3ヶ月間、窓口で足止めされていた。

地球においては外交官の仕事などしばらく存在していなかったのだが、人間の外交官や外務省が解体されずに残っていたのが、高度な情報通信技術の存在しない新世界において役に立った。

……のだが、慣れない上に無下な扱いを受ける彼らは少々疲労してもいたのだった。

 

「しばらくお待ち下さい。順番に手続きを行っていますので……

しかし、貴方たちの要求内容を見ましたが、かなり高度な……いわゆるハードルが高い事が記載されていますので……」

 

「と、いいますと?」

 

「あなた方は、……もしもパーパルディアの民があなた方……日本国でしたか?の中で、犯罪を犯したとして、治外法権を認めないと言ってらっしゃるので……。」

 

治外法権、知識として知ってはいるのだが、耳慣れない言葉であった。

 

「……それが何か? 国と国の間では通常の事と理解いたしますが……」

 

「……我が国は列強ですよ?」

 

「それが何か?」

 

「あなたの国は、出来たばかりですか? 文明圏以外の国とはいえ、国際常識を知らないにもほどがある」

 

 窓口勤務員は語気を強める。

 

「はぁ」

 

「いいですか、今、世界において、治外法権を認めないことを我々が了承している国は、3カ国のみです。つまり、列強国のみなのです」

 

 話は続く

 

「列強国でない、まして文明圏にも属していない、国際常識すら理解していないあなた方の国が、治外法権を認めない、対等の国として扱えとか、列強国のごとき要求をしている。……課長はあと2週間くらい後には空きますので、あと2週間待って下さい。ただ、私としては、これはかなりハードルが高いと言わざるを得ません」

 

「ふむぅ」

 

(えぇと、つまり、この人は何を言いたいんだ?)

 

日本からの外交官である彼は、反射的に返事はしたものの、パーパルディア側の担当者の言っていることの意味をうまく理解できていなかった。

彼は手元にある小型端末のスイッチを押す。それによって、彼のその瞬間の表層思考が読み取られ、コンピュータへと送信される。彼は脳を一部機械で拡張していた。

送信先のコンピュータというのは、彼の私物だった。電子コンパニオンがインストールされている。

その私物のコンパニオンに思考を送って何をするのかと言えば、日本国外務省外交支援コンピュータ、略称は日本外交コンピュータの略でNDC、との取次を行ってもらうのだ。

 地球においては、そうした製品というのは珍しくもないし、脳を完全にスキャンすることも、あるいは全てを機械で置換することもできる。

当然、外務省外交支援コンピュータと彼の頭脳を直結してやり取りをすることも可能だ。

しかしそうした状況というのは、頭脳の内部を覗いたり誘導することが可能となるということでもある。民生品にはそのような大それたことは不可能だろうが、外交支援コンピュータには、あるいはその他の国家規模のコンピュータシステムにはそれが可能なスペックと機能、知性がある。

 もちろん、コンピュータたちが彼に断りもなくそのようなことをするというのはあり得ない、というのはわかっていたのだが、無意識のうちでは、そうした状況に自らの頭脳が置かれることに忌避感を抱いていて、それがこうしたワンクッション挟んだやり取りを選択させていたのだ。それに、脳内でまで彼の知性体たちの無機質で冷淡な言語出力を受け取るばかりなのは少々気が進まなかったし、多少はっきりとしない物言いがあったとしても、感覚的に理解しやすかった。

彼の私物である電子コンパニオン、少女型のそれが応答する。

意識に登る言語に、外見や音声の『感覚(クオリア)』のみを伴っているそれは、実際の映像や音声を伴うものよりも高速なやり取りを可能としていた。

その高速性こそが、わざわざワンクッションを通すようなやり取りが許可される要因でもあった。

 

(えぇと、わたしにもよく…… NDCさんに聞いてみますね……

ふむふむ、つまり、えっと、この人は、自分たちの国は世界で4ヵ国のとても強い国なのだから、あなたたちのような弱い国に対して、対等の国として扱うような対応はしないだろう、と言っているわけです。)

 

(それはまぁわからなくはないんだけど、この人はどうしてこんなことを言うんだ?同じ人間だろう。我々が彼らに何か不利益をもたらしたわけでもない。)

 

(それは……NDCさん? ふむふむ。

つまり、えぇと、その…… この人たちや他の国たちはわたしたちの元居た地球とは全然違う常識のもとで動いていて、その常識では国の面子とかプライドというようなものがとても大事で、格下の国をわけもなく対等に扱えば周囲に示しがつかなくて、それは、地球でいえば、いわゆる情報化以前に相当する……あっ、その後にも結構そういう傾向はありましたよ? それで……)

 

(あぁ、何か、気を遣った言い回しをしているのはわかるが、ちょっとまどろっこしいな。どんな言い方でもいいから、もっと簡潔に言ってくれないか? NDCは簡潔に表現しているだろ?)

 

(あっ、ごめんなさい。えっと、NDCさんは、<彼らの価値判断、常識は、我々の現在一般的な常識とはかけ離れた、我々からすると極めて未熟なものである。これが主流となっていた時代は情報化以前、あるいは産業革命以前である。>と。

 つまり、簡単にわかりやすく言うなら、言葉は悪いんですけど、この人はどうしようもない未開人だ、ってことになりますね。)

 

(なるほど。確かに言葉は悪いが、わかりやすくてその方が良いよ。

君が本心からそう思っているわけじゃないのはわかってるから安心してくれ。 で、どう対応すればいいと? 正直俺には見当もつかん。非常識だ。)

 

(了解した旨と、後日我々の情報を持参するのでその際はまた検討して欲しい旨を伝えろって。)

 

(わかった、ありがとう。)

 

これらのやり取りを約2秒で済ませた彼(彼ら)は、返答を行うべく口を開いた。

 

「なるほど、わかりました。今日の所はこれで引き下がらせて頂きます、ご手数をおかけしました。

後日、また私どもについてわかるような資料を持って参りますので、その際には是非またご検討頂けると幸いです。

親身でご丁寧な対応、ありがとうございました。」

 

「あなたたちについてわかる資料? それで……いえ、まあ、いいでしょう。

私の方からも、課長の耳には入れておきます。では、また。」

 

言いつつ、パーパルディアの担当者はすでに次の手続きに移っている。いつまでも構っていられないという様子だった。

その言葉の裏には、文明圏外国が外交の場に一体どんな資料を持ってくるつもりだろうかという、侮りを多分に含んだ興味と、その程度のものであの条件が飲まれる筈がないという、日本側の外交官のいっそ無垢にすら思える考え・姿勢への憐れみがあったのだが、

そんなことはつゆ知らず、踵を返した日本側外交官(とその私物の電子コンパニオン)はこの交渉の成果に満足し、

外交支援コンピュータですらも、情報を提示すれば実力を持っていることがわかるだろう、疑いの余地のない情報を提供する用意がある、と思考していた。プライドから事実ですらも認めようとしないというようなことは考慮しなかったし、そもそもその情報を受け取らせることが出来ないといった事態の可能性は極めて低いと考えていた。未知の存在の情報は期待度はどうあれひとまず収集し精査するに違いない、と。

この世界と元いた地球の常識の壁というのは、わかっていてもなお、それほどまでに大きかったのである。

しかし彼らの想像しなかった形で、パーパルディア皇国は日本側の、地球の、実力を疑いようもなく知ることになる。

 

 

 

「剣王、日本という国が国交を開くために交渉したいと参っております件はいかがいたしましょうか?」

 

 第3文明圏列強国、パーパルディア皇国の東側約210kmの位置にある島国、フェン王国。

国王である剣王シハンとその他の人間たちは、パーパルディア皇国との紛争の可能性という国家の存亡に関わる事案を含む会議を行ったところだった。

 会議が終わり、通常の執務中、王の側近である剣豪モトムが話しかける。

 

「日本?ああ、ガハラ神国の大使から情報のあった、ガハラの東側にある新興国家か。あの辺は、小さな群島で、海流も乱れていたな・・・。

 各島の集落が集まって国でも作ったのか?」

 

 剣王は、小さな国をイメージしていた。

 

「いえ……それが。日本が言うには、人口1億人ほどいるそうです……」

 

「い……1億人!? ワハハハハ、ホラもここまですれば大したものだ」

 

 剣王は全く信じていない。

 

「それが……ガハラ神国経由の情報でも、同様の情報があります。両国とも、すでに国交を結んでおり、すでにそこにあるのは群島ではなく、4つの大きな島から成り、列強をも超える超文明を実現していることを確認していると……」

 

「ほう……列強を超えるのは、言い過ぎとしても、ガハラ神国がそこまで褒めるのであれば、それなりの国家なのだろうな……」

 

 剣王、他の側近は日本の外務省の人間と会うことにした。

 

 

 

「なんというか……身が引き締まるな」

 

 国中が厳しく、厳格な雰囲気が漂っている。武士の治める国……これが日本側外交官のイメージだった。

 生活レベルとしては、低く、国民は貧しい。しかし、精神レベルは高く、誰もが礼儀正しい。

 日本にかつて存在した真の武士道のようなものがそこにはあった。

 

「剣王が入られます」

 

 声があがる。外務省職員は立ち上がって礼をする。

 

「そなた達が、日本国の使者か」

 

 相手は達人の域を大きく超えている。外務省職員で剣道7段の島田は、剣王の動きを見て感じ取る。

 

「はい。我々地球の日本は、貴国と国交を開設したく思い、参りました。ご挨拶として、我が国の品をご覧下さい」

 

 剣王の前には、様々な日本の「物」が並ぶ。

 日本刀、着物、真珠のネックレス、扇、運動靴……

 剣王は日本刀を手に取り、引き抜く。

 

「ほう……これは良い剣だ」

 

 気を良くした剣王、話が始まる。

 事前に聞いた、日本からの提示条件と、日本からの書類に間違い無いか確認する。

 

「失礼ながら、私はあなた方の国、日本を良く知らない」

 

 話が続く

 

「日本からの提案、これはあなた方の言う事が本当ならば、すさまじい国力を持つ国と対等な関係が築けるし、夢としか思えない技術も手に入る。我が国としては、申し分ない」

 

「それでは……」

 

 外務省の人間の顔が明るくなる。

 それを遮って剣王は話す。

 

「しかし、国ごとの転移や、海に浮かぶ鉄船等、とても信じられない気分だ」

 

「そ・・それは、我が国に使者を派遣していただければ……」

 

「いや、我が目で見て確かめたい」

 

「と……良いますと?」

 

「貴国にも軍があり、水軍や空軍も有していると聞いた。」

 

「ええ、ありますが……」

 

「その軍のうち、少しでも親善訪問として、ここに派遣してくれぬか?今年我が国の水軍船から廃船が4隻出る。それを敵に見立てて攻撃してみてほしい。要は、力が見たいのだ」

 

 外交官は面食らった。

 通常、他国の軍が国交も無いのに来るというのは、威嚇であり、細心の注意を払うとされていた。

 非常に嫌がるのが普通であろうのに、この国は「力を見せろ」という。しかも首都アマノキの沖に持ってこいという。

 異世界で、しかも武の国だから、そんな事もあるのかな?と思い、本国に報告、近日中に艦艇と航空機が派遣されることが決定した。

 

 

 

ーフェン王国 首都アマノキ 上空

 

 ガハラ神国、風竜騎士団長スサノウは、隣国、フェン王国の首都上空を飛行していた。

 今日は、フェン王国が5年に1回開催する「軍祭」が行われるため、その親善として、3騎で上空を飛ぶのである。

 軍祭は、文明圏外の各国の武官も多数参加し、武技を競い、自慢の装備を見せる。各国の、軍事力の高さを見せる事により、他国をけん制する意味合いもある。

 文明圏の国も呼びたいが、「蛮国の祭りには興味が無い」のが本音らしく、「力の差を見せ付けるまでもない」といった考えもあるらしい。

 スサノウは、上空から下を見た。

 

常軌を逸した大きさ、そして形をした、真っ黒な船が5隻と、小さいが白く綺麗に塗られた船が1隻見える。

東の新興国、日本だか地球だかニホンエリアだかいう国の船らしい。

その上空には黒い影、日本の飛竜らしきものが見える。

 

「ひどく眩しい。全く。」

 

相棒の風竜が話しかけてくる。

 

「確かに今日はよく晴れてるが、そんなにか?」

 

「いや、違う。太陽ではない。あの下の黒い船や飛竜…… いや、竜ではなさそうだが。 とにかくあれらから、

線状の光が様々な方向に高速で照射されているのだ」

 

「船から光?何も見えないが」

 

「フッ……人間には見えまい。我々が遠くの同胞と会話をする際に使用する光、人間にとっては、不可視の光だ。何かが飛んでいるか、確認も出来る。その光に似ている」

 

「飛行竜が判るのか?どのくらい遠くまで?」

 

「個体差がある。ワシは120kmくらい先まで判る。あの船の出している光は、ワシのそれより遥かに強く、そして光が収束している」

 

 それはまさか……

 

「まさか、あの船は、遠くの船と魔通信以外の方法で通信出来たり、見えない場所を飛んでいる竜を見ることが出来るのか?」

 

「そうらしいな。今もあれら同士や、どこか遠くと忙しなくやり取りをしている。眩しいと言ったが、人間で言えばうるさいという感覚に近いかもしれんな。こちらにも時々何か言って来ているのだが、何を言っているのやらさっぱりわからん。一応ちょっとした挨拶ぐらいを返しているのだが、果たして通じているのやら……」

 

「そうか…… 日本、すごい国だな……」

 

 

 

風竜に対して電波を送っていた機械たちの言いたかった内容というのも、実は風竜のしたような挨拶というのとそう変わるものではなかった。

電波を発信する飛行物体を確認し、それが風竜という高度な知的生命体であることを知った彼らは、風竜に対してIFF波を発信してみたり、一般規格の通信を送ってみたり、暗号化していない状態で文字情報や音声情報、画像情報、あるいはモールス信号などを送信してみた。

結果は解読不能の発信波が帰ってきただけであったが、電波の発受信能力のある生命体であることは確認された。

電波の発受信能力があり、それをレーダーや通信のように運用しているらしい知的生命体の存在というのは、侮り難い脅威の可能性を孕むものだ。転移後世界において検討されていた新型機案の、電子戦能力を軽視したパターンが不適切とされた瞬間であった。


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