「どぉ〜こいったのかなぁ?」
そう遠くない距離で鬼の声が聞こえる。
熱い、煙たい、咳き込みたい。でも鬼に気付かれる。音は絶対に出すな…‼︎身を低くして物音を立てず逃げろ‼︎
ゆっくりと這い蹲りながら別の部屋へ移動し襖を閉める。
目が痛くてあまり開かないが爺様の刀がある部屋へ来たようだ。
「ここかなぁ?」
「っ」
先ほどよりも鮮明に鬼の声が聞こえた。
恐らくさっきいた廊下にいる…‼︎
ガタガタと体が震え始め冷や汗が額を流れる。
「チッ、随分火の手が回ってきたな。面倒くせぇ」
襖1枚隔てた先で鬼が悪態を吐く。しかし徐々に遠ざかる気配がして胸をなでおろした。
安堵から少し心の余裕が持てたのか家族の事が頭がよぎる。
婆様と鳴、練は無事だろうか…。うまく火事に気付いて鬼に知られず逃げていてほしい。
いろんなものを沢山失った。もう何も失いたくない。
「みぃーつっけた」
「い゛ぅっ‼︎」
背中に激痛が走り背後にあった襖もろとも部屋の端まで吹き飛ばされた。
何が起こった、身体中が痛い‼︎
蹴られた、のか?何に、
鬼に‼︎
バッと後ろを振り返る。炎の揺らめきで鬼の顔に影ができ目と口だけがギラギラと光っていた。
「あーあ、せっかくさっきは見逃してあげたのにぷるぷる震えてどこにも逃げねぇんだもん。視界や鼻はきかなくても気配がダダ漏れ。飽きちゃった」
ザシュッ
「っぅ゛‼︎」
鋭い爪が足を乱暴に切り裂く。
それだけでは止まらず腕、肩、と次々に爪は襲いかかり身体中が傷だらけになったが致命傷となる傷がまだない。
こいつ…‼︎私を殺さずに苦しむ姿を見て楽しんでいる‼︎
「あはははっ‼︎」
私達だって生き物を食べている。生きるためには命を狩らなければならないのは仕方ない事だ。鬼が全てこうなのかわからないがこいつだけは許せない‼︎命を弄び母様と姉様を食い、殺されただけの父様‼︎
でも私はこいつを殺す術がない
悔しい
何もできない自分が
「人間はただの食い物だけどその表情は好きだなぁ。絶望のどん底って顔‼︎ここら一帯の人間もみーんなそうだった」
⁉︎
「特に俺が助けてやるから藤の香を処分しろって脅したやつはなぁ。食う瞬間見せた表情は最高だった‼︎」
ケタケタケタケタ
「…」
「恨むよなぁ。そいつが香を処分しなけりゃお前らは俺に喰われずにすんだのになぁ。」
それは…
「違う」
「あ?」
「現況はお前だ。お前が人を襲わなければその人もそんなことはしなかった。全てお前のせいだ」
煙と出血で意識が朦朧とし始め、フラフラする。
姉様ごめんなさい。私は生き残れそうにないよ。
でもこの鬼も道連れにしてやる。これ以上誰も殺させない‼︎
無我夢中で側にあった爺様の刀を取り鬼に斬りかかった
「い゛っでえぇ‼︎」
ブワッ
「うぁっ‼︎」
初めて見せた反撃に不意をつけたのか型も何もない突きは鬼の腹に刺さった。
しかし鬼が痛みで手足をばたつかせそれが私に直撃。今度は隣の部屋まで転がった。
「ゲホッ‼︎」
咳とともに血を吐く。
い、たい…。なんだ、この部屋…火の…勢いが他よりもすごい。天井裏まで真っ赤だ。
刺したはいいが体はもう動かないし声も出ない。
唯一目だけが自由に動いたがゆらゆらする視界の中それを見た時一瞬何かわからなかった。
ああ
ああ
ここにいたんだ
私はもう全て失っていたんだ
炎の隙間から見えたそれは火達磨になっている婆様と鳴、練だった。
婆様が2人に覆いかぶさるように倒れひと塊りになって燃えている。
側には明かりを灯す道具があることから火元はそれだったようだ。
婆様は2人と逃げようとしていた。でも鬼に殺された。
「クソガキがぁ‼︎殺す‼︎殺す‼︎食ってやる‼︎」
荒々しい足運びで鬼が近付いてくる。
ごめんなさい
皆、私もそっちへいくよ
ゆっくりと閉じた目からは涙が一筋溢れる。
暗闇の中で燃え盛る炎の音とバキッ、と何か折れる音がした。
嘘言いました鬼との話もう1話続きます。
この鬼美味いものは先に食べる派です。女の肉が好きで女の胴体を中心にめっちゃ食べます。一方男は必要な時にしか食べません。なので父様は首を切断されただけで、婆様は肉がほとんどないから放置されました。
鬼の外見は特に決めていませんが40代くらいのおじさんです。
夜鈴家周辺はポツリポツリと家々が立ち並ぶくらいで都心と田舎の中間くらいのところにあります。