IS学園。
『国立インフィニット・ストラトス専門高等学校』
ISの登場から約半年、アラスカ条約に則り日本近海に新たに建造されたメガフロートに建設されたIS操縦者を育成する特殊専門学校である。
操縦者だけでなく整備士や研究員等ISに関わる多くの人間がこの学校を卒業している。
IS学園はあらゆる国家や企業から干渉を受けないと定められており、各企業や国家等が装備実験等で他国の生徒や国家代表候補等に性能試験をする場所にもってこいである
当然生徒も職員も警備員も一部を除いて全員女性であり、校舎や寮なども基本的に女性向けに造られている。
そんな女の園に、今年から男子が入学してくる。イレギュラーである男子生徒、それが2人もである。
「皆さん席についてくださーい、HRを始めますよー」
教室前方のドアが開き、一人の女性が入ってくる。
童顔に眼鏡、低身長に服に着られていると言った感じのサイズの服を着ていた。
その女性が教壇に立つと、(約1名を除く)全員が席に着いている事を確認して口を開いた。
「私はこのクラスの副担任を担当する山田真耶です。皆さん、1年間よろしくお願いしますね」
若干緊張していたのかその震える声にぎこちない笑みが浮かぶ。
そんな真耶の言葉に「お願いしまーす」や「よろしくー」等の思い思いに返事が返ってくる。
返事が返ってきたのを聞いてようやくぎごちなさが取れた笑みを浮かべ、先程よりも数段落ち着いて話し始めた。
「じゃあ自己紹介をお願いしますね。えっと、出席番号順で」
全員視線をチラチラ向けながらも、自己紹介は進んでいく。
現在教室に居るたった1人の男子生徒、そして周りは全て女子生徒。
完全な針の筵状態な訳で、彼にはきつい状況だろう。
「…くん。織斑一夏くん!」
「は、はいっ!?」
上の空だった一夏の名前が呼ばれ、思わずと言った感じで声が裏返ってしまう。
案の定クスクスと笑い声が聞こえ始め、一夏の顔がほんのりと赤くなる。
「あ、ごめんね大声出しちゃって。自己紹介お願いできるかな?『あ』で始まって今『お』の織斑君なので」
「あ、はい。分かりました、前に立てば?」
「いえ、その場で大丈夫ですよ」
そのまま立ち上がり後ろを向く一夏。
最前列の席に座っていた為、振り向けば全員が一夏の視界に入る。
「あ、えっと…織斑一夏です。その、よろしくお願いします」
礼儀正しく頭を下げた一夏に、視線が集中する。年頃の少女達にとって、満足するはずがない。
自己紹介を終わろうとした一夏は、クラス中の視線を受け終わるに終われなくなっている。
意を決した一夏は深呼吸をして、思い切って口を開いた。
「以上です!!」
がたたっ。
ほぼ全員が椅子からずっこけた。
スパンっと、一夏の背後から近付いてきた人影が手に持っていた物で頭を引っ叩いた。
「いっ?!」
条件反射で頭を守ろうとしながら振り向いた一夏が、その人影を見て固まる。
黒のスーツにタイトスカートを着用した、かなり釣り目の女性。
「げぇっ!ギルガメッシュ!?」
バァンッ!
今度は先程よりもかなり大きな音が響き、一夏は机に沈み込んだ。
「誰が世界最古の英雄王だ、馬鹿者」
一夏を叩いたのは織斑千冬。
第一回モンド・グロッソで特異な技量を見せ、ブレオン機で総合優勝を飾った初代ブリュンヒルデ。
「織斑先生、会議を任せてしまってすいません」
「ああいや、適材適所だ。私では恐らくクラスへの挨拶等失敗するだろうからな」
そう言った千冬は真耶へとはにかみ、視線を前へと戻した。
「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君達新人を教え導く為1年間このクラスを担当することになった。私がブリュンヒルデだからといって遠慮せず、分からないことがあったらどんどん聞いてくれ。私達教師の仕事は分からない者に教える事も含まれるからな」
千冬の挨拶を聞いていた一夏の目が見開かれるが、周りの女子生徒達は違うようだった。
「キャーーー千冬様よ!本物の千冬様よ!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」
等などと黄色い声援がクラスを飛び交う。
だがその声援を、千冬は少し鬱陶しそうにしながらも笑みを浮かべていた。
「元気の良いことだな。初日から授業があるが、そのテンションなら乗り切れるな」
その言葉に湧いていたクラス全員が押し黙った。
入学早々授業があるこの学園は、HR後すぐに始まる。
「ふむ、静かになったな。丁度いい、そこの空いている席に座る者を紹介する。おい、入って来い」
その言葉の後、千冬が入って来た扉と同じ扉が開かれた。
それは黒だった。
いくら改造制服が容認されているとはいえ、真っ黒の制服を着ているのはほぼ居ない。
クラス中の視線を集めながら教卓前に立った。
「鷲崎八雲だ、年は君達の2個上だが気軽に接して欲しい。趣味は和菓子作りとピアノ、ISについてはそこまで知識は無いので過度な期待はしないでもらいたい。1年間よろしく頼むよ」
無表情。
声のトーンは変わっているのに表情が全く変わらない、そのせいか多少引かれていた。
それでも年上の男子だ、彼女達にとっても魅力的であった。
「自己紹介については文句なしだ、何処かの誰かとは大違いだな。なあ織斑」
「いや千冬姉、俺はーー」
スパンッ
本日3度目の打撃音が響き渡った。
「織斑先生と呼べ」
「…はい、織斑先生」
と言った会話により、クラスが色めき立つ。
「えっ…もしかして織斑くんって千冬様の弟?」
「いいなぁ、変わって欲しい」
一夏と千冬の関係性が明らかになった影響で、再度ざわざわと騒がしくなっていく。
IS操縦者にとって憧れであるブリュンヒルデの織斑千冬の弟であれば、羨ましいと思うのは仕方ない事である。
「さて、時間が無いのでこの辺でHRを終了する。他に聞きたいことがあれば各自聞くように、では授業を始める」
1時間目の授業が終わった休み時間、八雲は視線の嵐に晒されていた。
織斑千冬の弟と言うことで一夏もかなり注目されているが、突然見つかった第2の男性操縦者と言うことで一夏並みかそれ以上に注目されていた。
現に他クラスからかやって来た女子生徒が教室の入口から中を覗いていた。
そんななか意を決したように近付いてきた一夏が八雲に話しかけた。
「えっと、鷲崎さん?織斑一夏です、同じ男同士仲良くしたいなぁなんて思ったんですけど…」
「ああ、そんなに固くならなくても良い。年上と言ったがどうせ少し早く生まれただけだ、敬語も要らん。八雲とでも呼んでくれ、せっかく同じクラスになったんだよろしく頼むよ」
「こちらこそ宜しく八雲!」
握手をする2人にチラホラと出遅れたと言うような声が聞こえてくる。
「…少し良いだろうか」
そんな折、後ろから話し掛けられて2人して振り向いた。
そこに居たのは清楚美人と言った感じの少女。
腰まで伸びる長髪をポニーテールで纏めている。
「すみません鷲崎さん、一夏を借りても良いでしょうか」
「ああ、ご自由に。知り合いだろう?積もる話もあるだろうしな。ああ、あと敬語は要らんぞ。」
「感謝する、では行くぞ一夏!」
「ちょ、ちょっと待てって箒!」
箒と呼ばれた少女に連れられて教室を後にする一夏。
覗いていた女子生徒の半数は一夏の後をアヒルの子宜しく着いていき、残りは名残惜しそうにしながらも未だにクラスを覗いていた。
一夏よりも八雲を取った模様である。
「ねぇねぇやくも〜ん」
一夏が去って数秒、隣の席の少女が八雲に話し掛けてきた。
早速妙な渾名が着いていたが八雲をもじったものだとすぐ分かる故にそのことには触れなかった。
「あ、本音ズルい!」
「良いなぁ、あの性格羨ましいかも」
牽制していた女子生徒達は、1人八雲に話し掛けた少女を羨ましそうに見ていた。
「どうした、確か布仏本音と言ったか」
「わぁ〜、知っててくれたんだ〜」
「俺を除いたクラス30人、全員覚えている。これから1年間過ごすのに名前を知らない等失礼だからな」
「律儀だねぇ〜やくもんは〜」
入学するにあたって見せられたクラス名簿、千冬が自己紹介の時間が無くなると踏んで先立って八雲に見せていたのだった。
「これから1年よろしくねぇ〜」
「ああ、よろしく」
それを見ていた周囲が八雲に詰め寄ろうとして一斉に席に座った。
その直後破裂音が響き渡った。
「とっとと席に着け織斑」
「…ご指導ありがとうございます、織斑先生」
「ーーであるからしてISの基本的な運用は、現時点各国家の認証が必要です。これを逸脱した運用をした場合、IS運行法第2条によって罰せられーー」
すらすらと教科書を読んで進んでいく真耶。
そんな真耶と教科書を交互に見ながら焦ったようにページをめくる一夏の姿。
ふと一夏が周囲を見回すと、何の焦りもなく普通に授業を受けるクラスメイトしか映らない。
「織斑くん、何か分からないところがありますか?」
「あ、えっと…」
「分からない所があったら遠慮なく言ってくださいね、何せ私は先生ですから」
様子を見た真耶が一夏を指す。
一夏は再度教科書へと視線を落とし、意を決して口を開いた。
「先生!殆ど全部分かりません!!」
「…えっと、全部…ですか」
途端に困り果てたような顔になる真耶。
それはそうだろう、この段階でほぼ全て分からない人間等真耶の教師人生の中で初めてなのだから。
他の生徒もこんな初歩が分からないのかと、驚愕を顔に浮かべていた。
「えっと、今の段階で分からない人は居ますか?あ、鷲崎くんは大丈夫ですか?!」
「事前予習のお陰で問題無いです、それに先生の教え方も上手ですのでとてもわかり易いです」
「本当ですか!ありがとうございます!」
八雲の答えに笑顔を浮かべる真耶。
そんななか気になったのか千冬が口を開いた。
「そう言えば織斑、参考書はどうした。今も持っていないようだが」
「古い電話帳と間違えて捨てました!」
ズガンっ!
再度、千冬の持つ出席簿が炸裂した。
「必読と大きく書いてあっただろうが馬鹿者、再発行してやるから後で取りに来い。良いか、今週中に覚えろ。」
「いや、1週間であの厚さはちょっと…」
「私はやれと言った。ただでさえ遅れている差をまた広げる気か?」
「はい、やります…」
千冬に睨まれ、一夏はしょぼくれながら頷いた。自業自得とはいえ千冬の眼光に睨まれた一夏には同情を隠せない。
「貴様、『望んでこの場所に来たわけではない』と思っているな?」
その言葉に反応するように一夏はビクっと震えた。
「望む望まざるに関わらず、人は選択を迫られる。それが自分の意志かどうか等関係ない、たとえ理不尽でも受け入れそして選ばなければならない。どういう選択を選ぶにしろ、その時にやるべきことをやらねば切り捨てられる。今のお前は選択肢を突き付けられていることを忘れないように」
一夏は少し考える素振りを見せ、1人頷いた。
「分からないことがあったらどんどん教えてあげますからね、何せ私は先生ですから!」
「ちょっとよろしくて?」
「へ?」
2時間目の休み時間。
何かを決意したのか速攻八雲に勉強を教わりに来た一夏。
断る理由も無く、教えようとした時に突如声がか掛かる。
2人して振り向くと、そこには金髪碧眼の少女が居た。
「訊いてます?お返事は?」
「あ、ああ。訊いているけど…どういう用件なんだ?俺はこれから八雲に勉強を教わりたいんだ、出来れば手短に頼みたいんだが…」
「まあ、なんですのその態度は。私に話しかけられたと言うだけでも光栄な事なのですから、態度もそれ相応にするべきではなくって?」
「……」
この手の人間が苦手な一夏は若干口を引く付かせる。
ふと気になって八雲の顔を見た一夏は、途端に冷静になれた。
形容し難い程冷めた目で少女を見ていたからだ。
「悪いな。俺、君のこと知らないから」
「私を知らない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして入試首席のこの私を?」
一夏が知らないと言った事で捲し立てるような剣幕で名乗りをあげるセシリア。
それに対し一夏は軽く手を上げて口を開いた。
「あ、質問良いか?」
「ふん。下々に要求に応えるのも貴族の努めですわ、よろしくてよ」
「代表候補生ってなんだ?」
がたたっ
聞き耳を立てて聞いていたクラスの女子、そしてそれを近くで聞いていた八雲ですらずっこけた。
「おい、嘘だろお前。知識が無いのは知っていたが、まさかここまでとは。良いか、代表候補生とは国が抱える国家代表IS操縦者の候補生。わかりやすく例えるならばオリンピックの強化選手だ、強化選手から出場選手が選出されるだろう?一言で言えばエリートだ。」
「そう、エリートなのですわ!本来なら私のような選ばれた人間とクラスが同じ等奇跡、幸運ですわよ?その現実をもう少し理解していただけます?」
「ほう、そうか。それはラッキーだ」
「…馬鹿にしていますの?」
冷たい目で一夏を見るセシリアだったが、一夏はその目を見ても何も思うところがなかった。
むしろ隣にセシリア以上の冷めた目でセシリアを見ている八雲が居たから、感情も冷静だった。
「大体、あなた方ISについて何も知らない癖によくもまあこの学園に入れましたわね。唯一男でIS操縦出来る2人と聞いていましたが、とんだ期待はずれですわね」
「いや、俺達に期待されても困るんだが」
「ふん、まあでも?私は優秀ですから、あなた方のような人間にも優しくしてあげますわよ」
物凄く上から目線の言い方に、一夏も気分が悪くなる。
「ISの事で分からない事があったら、まあ泣いて頼むのなら教えて差し上げても良くってよ?何せ私は入試で唯一教官を倒したエリートなのですから!」
「入試…あれ?俺も倒したぞ、教官」
「…は?」
一夏の何気ない一言で固まるセシリア。
八雲も信じられないと言ったかんじで一夏を見ている。
「わ、私だけと聞きましたが…」
「女子だけってオチじゃないか?まああれを倒したって言って良いのか微妙だが」
その言葉に八雲はその場面を想像出来た為幾分か落ち着きを取り戻した。
「あなたはどうなのですか!」
「俺か。あれに勝てる等造作も無いと言いたいが、4割削るのがやっとだったな。まあ世界最強の壁は高かったとだけ言っておこう」
そう語る八雲の顔には冷や汗が流れていた。
IS学園の入試には座学と実技があり、実技試験は学園の教員が教官となり試験者と相対する。
試験内容は
そんな試験だが八雲の相手は千冬だった、それも割とガチな実力を出していた。
セシリアも一夏もそれに勝ったと思ったのだ。
だがセシリアの教官も一夏の教官も察するに同じ人らしく、ドジをしているらしいと。
その時点で千冬ではないと確信した。
その時チャイムが鳴った。
「っ!!また後で来ますわ、逃げないことね。良くって??!!」
そう言ってセシリアは自分の席に着いた。
ふと抱いた疑問を飲み込んで。
結局一夏は勉強を教われなかったのだが、いいのだろうか…
「ではこの時間は実際使用する各種装備の特性について……ああ、そうだ。その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
3時間目。
千冬が教鞭を取る授業と言うことでクラスも、そしてとなりに居る真耶ですら気合が入りノートを取っていた。よほど大事な授業らしい。
そんななか千冬がふと思い出したように言う。
「クラス代表者とは簡単に言えば学級委員長みたいなものだ、だがIS学園独特なのはクラス代表者がクラス対抗戦に出る事だな。対抗戦は現時点での各クラスの実力推移を測るものだ、今の段階では大した差は無いぞ。どうだ、我こそはという者は。自薦他薦は問わんぞ」
ざわざわと色めき立つ。
そして団結したかのように1つの結論に到達する。
「はいっ!織斑くんを推薦します!」
「私もそれが良いと思います!」
「じゃあ私はやくもんなのだ〜」
「私も私も!」
たった2人の男性操縦者。
その2人が同じクラスに居るのだ、そのネームバリューを利用しない手は無いのだ。
「って俺?!」
自分の名前が出されている事に気付いた一夏が立ち上がった。
だがその背に突き刺さる視線は『彼なら何とかしてくれる』と言った期待が籠もっていた。
「ちょ、ちょっと待った!俺はそんなのやらーー」
「自薦他薦は問わんと言ったぞ。他薦された者に拒否権等あるものか。大体そこの男を見てみろ」
そう言われて八雲を見る一夏だが、真っ直ぐこちらを見ていた。そして目が語っていた。
『座れ』と。
「八雲は良いのかよ!?」
「やれと言うならやるさ、拒否する理由がない。第一せっかく推薦してくれたんだ、ここでやらなきゃ失礼だろう?」
「話は着いたか?なら座っていろ織斑。他に居ないか?居なければ2人で決選投票をーー」
「待ってください!納得がいきませんわ!!!」
千冬の言葉を遮り、机を勢い良く叩きながら立ち上がったのは先程絡んできたセシリア・オルコット。
「そのような選出は認められません!大体男がクラス代表等いい恥晒しですわ!この私、セシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえと言うのですか!?実力を考えれば私がクラス代表になるのは必然、それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困りますわ!私はこのようなこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気等毛頭ありませんわ!!」
唐突に始まった演説。
面倒臭さを感じた八雲は早々に聞くことを放棄していたが、一夏は違ったようで。
当初は期待、そして今は困惑した表情で聞いている。
「良いですか!クラス代表者は実力トップがなるべきであり、現在このクラスのトップは私ですわ!大体、文化としても後進的な島国で暮らさなくてはならない事自体耐え難い苦痛でーー」
「イギリスだって大した国じゃないだろ。世界一不味い料理で有名じゃねぇか」
「なっ!?」
一夏がキレたのか、言い返してしまった。
それを聞いた八雲も、流石に頭を抱えた。
いくら相手が、自国を侮辱する発言をしたとしても自分が同じような発言をして良い理由にはならないのだから。
「あ、あなた!私の祖国を侮辱しますの!?」
「そっちが先に侮辱したんだろ?」
売り言葉に買い言葉、八雲からしても幼稚な子供の喧嘩にしか見えない。
それを子供がやっているならまだ見ていられる、だが2人は高校生だ。
十分大人の仲間入りを果たしている男女が売り言葉に買い言葉でカーッとなって喧嘩等、幼稚以外の何物でもない為八雲は無視していた。
故にこれ以上ヒートアップしないようにと抑えた千冬の提案をバッサリ拒否したのだ。
「織斑先生、話し合いで解決しないなら俺は降ります」
「まあお前なら言うと思ったが一応聞いておこう、何故だ?」
「誰が見てもわかるでしょうに。売り言葉に買い言葉でカーッとなって喧嘩ですよ?子供じゃ無いんですから。それに巻き込まれるなら俺は全面的に降りますよ、推薦してくれた人に申し訳ないですけど」
それを聞いた千冬が腕を組んで考え出す。
だがこれで参加していれば、彼女にとってむしろ良かったのかも知れない。
それをよく思わないセシリアが口を開いた。
「ふん、逃げますのね。やはり男性等弱くて醜い下等生物に過ぎないようですわね」
「流石に言い過ぎだと思うが、そこのところに何か思う事は無いのか?」
「あるわけないですわ。この私と戦うのが怖い男に何を思えと?あなたでこれなら、あなたの親もさぞ醜い下等生物なのでしょうね」
「…!」
セシリアがそう言った途端、何かが切れる音が響いた気がした。顳顬を引く付かせる八雲の顔は、相当に酷いことになっていただろう。
現に何人か、青い顔になって座り込んだ。
「家族を侮辱するとは、よほど死にたいらしいな小娘。穏便に済ませてやろうかと思ったが……やめだ」
途端、八雲の姿がブレた。
否、ブレたように見えた。
「は、え?」
瞬きをしたその数瞬、八雲はセシリアの目前に居た。
首筋に手を突き出して。
たったそれだけの行為だが、誰も目で追う事ができなかった。
ただ一人、千冬を除いて。
「何のマネだ、世界最強」
「傷害になりそうだったので止めただけだが?むしろその言葉は私が言うべきだろう、一体何のマネだ?鷲崎八雲」
セシリアの首筋、その数センチ手前で八雲の腕は止まっていた。
否、止められていた。
千冬の手によって。
「そこの小娘は、よりにもよって俺の家族を侮辱した。その手を退けろ世界最強」
「織斑先生と呼べと…まあいい。退ける訳にはいかんな、私の前で犯罪でも起こすつもりか?」
「犯罪ではない粛清だ、こういったタイプは言っても無意味。ならば体で聞かせるしかない、だから退け世界最強」
「ふむ。なら先程の提案で決着を付ければ良いだろう、ISを纏ったうえでの模擬戦という形式なら私は何も言わん」
そう言われ、少し考えた後八雲は拳を収めた。
そして改めてセシリアへと向き直り口を開いた。
「お前の望み通り戦ってやろう、今から楽しみだなあおい」
そう言って席へと戻っていく八雲。
その姿を、セシリアはただただ見つめるしかなかった。