転生者は何を為すか   作:猫パン

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今年も明日で終わりですね。
今年最後の投稿です。

皆様良いお年を


第10話

第10話

 

 

 

 

「よーし、到着!」

 

プシューと、気圧差の影響で圧縮空気が抜ける音が響き、ドアがスライドして開く。

八雲の先導によりそこまで時間を取られずにすみ、着替える時間程度は確保できている。

だが急がない理由にはならない為、一夏は更衣室に入るなり制服もTシャツも一気に脱ぎ捨てた。

 

「わぁっ!?」

 

「…?」

 

それを見たシャルルが悲鳴を上げ、ロッカーの扉を目隠しにしていた。

初心だと言えばそれまでだろうが、男同士で着替えを見たからと言って悲鳴を上げる人は居ないだろう。

 

「……隠す気あるのか?」

 

ボソッと小さな声で呟いた八雲の声は、それと同時にシャルルに話しかけた一夏の声に掻き消された。

 

「荷物でも忘れたか?って、なんで着替えないんだ?早く着替えないと遅れるぞ?シャルルは知らないかもしれないが、うちの担任はそれは時間にうるさい人でなーー」

 

「う、うん。着替えるよ?でも、あっち向いてて欲しいなぁって……」

 

顔を赤くしたシャルルが弁明し、何とか一夏の注意を外そうとする。

 

「一夏、人には人のペースがある。急かすものでは無い」

 

「おう、まあそうだよな。って八雲、スーツ着るの早くないか」

 

話し掛けた八雲に視線を向けると、既に着替え終わって立って居た。

 

「専用機持ちは基本下に着ているぞ、態々毎回脱ぎ着していたら有事の際に間に合わんだろう」

 

一夏が自分の方へと向いたタイミングでシャルルへと目配せをした八雲は、一夏の注意を反らすために話題を投下する。

暗に気付いているぞといった意思表示なのだが、シャルルには伝わらなかった模様。

 

「有事って、そんな大袈裟な」

 

「代表候補生にもなれば大袈裟ではないがな。所属する国や企業からの呼び出し、この学園でも突然の招集」

 

チラッとシャルルの方を見れば着替え終わっており、八雲の思惑通りに事が進んだようだ。

 

「終わったよ、ありがとう鷲崎さん」

 

意図を読んだシャルルがお礼を言い、八雲が片手を上げる事で答える。

だが気付いていると思わせる事は出来なかったようだ。

 

 

「さあ、怖い先生に怒られる前にさっさと行きますかね」

 

 

 

 

 

 

第2グラウンドにて2組との合同訓練。

 

到着早々一夏が絡まれていた。

箒の近くに座った一夏に鈴が近付き、言い争いになる何時もの出来事。

 

それを咎めない千冬ではなく、今日もまた出席簿が振り下ろされた。

 

 

 

「では本日より格闘及び射撃訓練、同時に模擬戦闘を行う」

 

「はい!」

 

合同故に何時もの倍の人数が返事をするため、響く声も大きくなる。

 

「まずは模擬戦闘だ、丁度いい専用機持ちが居ることだし実演してもらおう。凰!オルコット!前へ」

 

「何故私まで……」

 

流れ的に先程怒られた鈴が出るのは分かったのだが、何故自分も出なければいけないのか。

 

「専用機持ちはすぐにでも始められるからだ、良いから出ろ」

 

「だからってなんで私まで…」

 

「一夏のせいなのになんでアタシが…」

 

ぶつくさと文句を言う2人に千冬は溜息を付き、彼女らにしか聞こえない声でボソっと呟いた。

 

「お前ら少しはやる気を出せ。ーーアイツらに良いところを見せたいだろう?」

 

「乗せられている気もしますが…まあ良いでしょう。イギリス代表候補生として負けられないですわ」

 

「まあ、専用機持ちの実力を見せるいい機会よね!」

 

やる気が出た2人だが、セシリアは妙な感じだった。

隣の鈴を見て分かるように、千冬に乗せられているのだ。

それを感じているからかいまいち気が乗らないが、それでも代表候補生であるからと奮い立たせていた。

 

「それで織斑先生、相手はどちらに?まあ私としては鈴さんとの勝負でも構いませんが」

 

「同じ代表候補生として戦うって?良いわよ、返り討ちにしてあげる」

 

「慌てるなバカ共。対戦相手はーー」

 

千冬が言いかけた直後、上空からキイィィンと空気を裂くような甲高い音が響き渡る。

何かが高速で接近する音に全員が上を向いたが、その前に声が響いた。

 

ああああぁあぁあー!!!どいてくださ〜い!!!

 

その速度そのままに突っ込んでくるそれは一夏目掛けて飛んできており、避けられる訳も無くそのまま激突して数メートル吹き飛ばされた。

それでも既の所で白式の展開が間に合っていたのが幸いし、ダメージを負わずに済んだ。

 

むにゅ

 

「ん、なんだこの感触」

 

むにゅむにゅと更にその感触を確かめる一夏だが、次第にそれの正体も分かり顔を赤らめていく。

落ちてきたのは真耶であり、一夏と絡み合いながら何故か一夏が馬乗りになるような形で倒れ込んでいた。

そして一夏が手を付いていたのが真耶の胸である。

 

「あ、あの織斑くん?ひゃう…?!そこは、えっと…その」

 

流石は思春期の男の子、吸い付いて離さないが如く揉み続けている。

ラッキースケベだとしても、これは如何なものか。

 

「そのですね、あの…こんな場所では困ります。あ、場所を変えれば良いという訳では無くてですね…その、私と織斑君は教師となので…ああ、でもこのまま行くと織斑先生が義姉ってことはとても魅力的でーー」

 

胸を揉まれたままトリップした真耶は、押し倒されたまま抵抗することなく顔を赤らめながらもじもじしている。

 

「はぁ……」

 

その様をまじまじと見ていたセシリアは溜息を吐いた。

一夏のラッキースケベぶりに呆れればいいのか、はたまた真耶のドジに呆れればいいのか。

それにしても何時までくっついているのかと声を上げようとしたが、ふと隣を見て絶句する。

 

そこには獣のような形相を浮かべた鈴が居た。

 

「ーーんなに………そんなに巨乳が好きかぁぁああ!!!

 

甲龍が瞬時に展開され、その武装である双天牙月を即座に連結して一夏に向けて投擲した。

鈴の胸部装甲はお世辞にも豊満とは言えず、コンプレックスでもある。

そんななか想い人が巨乳に手を埋めていたのである、キレるのも女の差がというものである。

 

「うぉぉお!!」

 

咄嗟に真耶から離れると、首へと迫っていたそれを間一髪で避けた一夏。

だが一息付く間もなく、それは戻ってくる。

連結した双天牙月はブーメランと同様装者のもとまで戻ってくるのだ、その間には未だ一夏が居る。

 

ドンッドンッ

 

一夏が避けようと身構えた直後に響く2発の銃声、そしてそれは的確に双天牙月の両端を叩いて無理矢理軌道を変えた。

 

落ちていくそれを横目に一同は銃声のした方向へと視線を向ける。

そこには倒れたまま上体を起こし、その状態で銃を構えていた真耶が居た。

 

普段あんなにもおっとりした先生が魅せた凄まじい命中精度、それにはその場に居た生徒全員があ然としていた。

 

「山田先生は元代表候補生だ、故にこれ位は造作も無い」

 

「む、昔の話ですよ。それに候補生止まりでしたから」

 

「何を言う、引退さえしなければ射撃部門優勝者(ヴァルキリア)を担っていた筈だが?」

 

「それは…そんな話もありましたけど……先輩も知ってるじゃないですか、緊張に弱いって」

 

真耶は極度のあがり症であり、緊張というものに特に弱い。

故にか、彼女は大会出場の話が来た時点で引退したのだ。

 

「さて小娘共、何時まで惚けている。さっさと始めるぞ」

 

「流石に無謀過ぎでは…」

 

「あの、2対1でですか?」

 

セシリアと鈴に声をかける千冬だが、セシリアと鈴は浮かない顔をしていた。

鈴は2対1で戦ったら勝ってしまうんじゃないかと、セシリアは引退さえしなければヴァルキリアになっていたと言った言葉が耳に残っておりそもそも自分達では勝てないと悟っているが故に。

 

「安心しろ、今のお前達ならばすぐに負ける」

 

だが勝てないと面と向かって言われると、自分でも分かっている筈なのに何かが湧いてくる。

代表候補生としてかはたまた彼女自身のプライドか、その瞳に闘志を滾らせていた。

入試で戦って勝っている相手ではあるが、その時とは状況が違う。

後からセシリアが聞いた話であるが、試験官には制約がかかっていたと。

決して本気を出してはいけない、勝とうが負けようが一定の実力以上を出さないというものだ。

だが今回その縛りは適用されない。

何より千冬自身が真耶を鼓舞したのだ、手加減などしてこない。

 

「では、はじめ!」

 

千冬の合図と同時に2人は飛翔、そしてそれを見届けてから一歩遅れて真耶も空中へと躍り出た。

教師である自分が生徒より先に行動を開始しては大人気ないという思いもあり、彼女は全て受けに回るつもりだった。

 

「さあ、何時でも良いですよ2人共」

 

「さっきのは本気じゃ無かったから、手加減はしないわよ!!」

 

勝てるとは思いませんが……全力で行きますわよ!!!」

 

千冬が見ているこの状況は真耶の緊張を吹き飛ばしており、いつも以上に冷静な態度であった。

 

それに対し攻撃で応えた2人だが、それは簡単に回避される。

 

「さて、そうだな。今の間に……デュノア、山田先生が使っている機体の解説をしてみせろ」

 

「あ、はい」

 

真耶の実力に惚けていたシャルルが指名され、それに一瞬遅れながらも空中戦闘を見ながら口を開いた。

 

「山田先生が使用している機体はデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代最後期の機体でありながらその性能は第三世代初期の機体にも劣らないものであり、その安定した性能と高い汎用性を持ち豊富な後付武装が特徴の機体です。特に特筆すべきは操縦の簡易性であり、それによって操縦者を選ばない事と多様性役割切替(マルチロール・チェンジ)を両立しています。その操縦の簡易性によって世界第三位のシェアを誇り、七カ国でライセンス生産、十二カ国で正式採用されています。装備によって格闘・射撃・防御といったタイプへの切り替えも容易であり、参加サードパーティが多い事でも知られています」

 

「ああ、そこまででいい。……墜ちるぞ」

 

千冬がそう言った所で上空で爆発音が響き、影が1つ地面へと落下した。

砂煙が晴れるとそこに居たのは鈴であり、セシリアはというと未だに真耶と相対していた。

 

『凄いですねオルコットさん、有効打を全て避けるなんて。ですが凰さんを身代わりに使ったのは頂けませんね、咄嗟に凰さんの後ろに隠れてグレネードをやり過ごし防ぎきれない爆風は武装を盾にしましたか。咄嗟の判断能力は評価しますけど、攻撃手段を捨てたのは悪手ですね』

 

自分でも分かっている事ながら全武装を盾にしてしまったのは悪手であり、残る武装は正しく最後のナイフのみ。

相手はノーダメージの射撃型であるが故にセシリアは降参する他なかった。

 

「ちょっとセシリア!!あんたアタシを盾にしたわね!!」

 

地面へと激突し目を回していた鈴だが、飛び起きてセシリアへと叫んでいた。

まあそれに関して自分が悪い事であるので、セシリアは即座に謝ったのだった。

 

 

「さて、これで教員の実力は理解出来ただろう。以後敬意を持って接するように」

 

あんなにもおっとりした真耶が現役の代表候補生を下せるのだ、それは敬意を持って接する生徒も出てくるであろうがドジっ子属性な真耶はいつまでもいじられるであろう。

 

「各専用機持ちがグループリーダーになり、8人グループを作って実習を行う。項目は事前に配布してある資料に書いてある、よしでは分かれろ」

 

千冬が言い終わると同時に一夏とシャルル、そして八雲の元へと一気に2クラス分の女子が殺到する。

 

「織斑君、一緒にがんばろう!」

 

「デュノア君の操縦技術見たいな〜」

 

「鷲崎さんお願いします!」

 

ワイワイと騒ぎ始めるその状況に嫌気がさしたのか、千冬は額を手で押さえていた。

 

「この馬鹿者共が……出席番号順に1人ずつ各グループへと入れ、順番は先程言った通りだ。次に同じようにもたつくのならば機体を背負ってグラウンド100周させるからな」

 

途端、3人に群がっていた女子は蜘蛛の子を散らすように移動しそれぞれの専用機持ちグループが2分とかからず出来上がった。

 

「全く、最初からそうしろ馬鹿共が」

 

そう溜息を零す千冬にバレないように小声で話す各班の女子。

 

「…やったぁ織斑君と同じ班っ名字のおかげだわ」

 

「…セシリアさん、さっきは格好良かったよ」

 

「…凰さんさっきは……ごめん、聞かない方がいいよね」

 

「…デュノア君!分からない事があったら何でも聞いてね!あ、因みに私はフリーだよ」

 

各々班長に対して気さくに話しかけていた。

 

「…鷲崎さん、色々教えてください」

 

「…………………」

 

1番異質な程会話が無いのが件の転校生ラウラ・ボーデヴィッヒの班だった。張り詰めたコミュニケーションを拒むかのような雰囲気に、生徒を軽視するかのような冷めた視線。

先程からこの調子であり、流石の10代女子でさえ会話をしようとせずに俯いていた。

 

「えーっと、良いですか皆さん。これから訓練機を1班毎に取りに来てください。数は打鉄とリヴァイヴそして荒波が各2機ずつです。好きな方を班で決めてください。早い者勝ちですからね」

 

真耶はいつも以上に5割増し程しっかりして見える程だ。

恐らく先程の模擬戦で勝てた事で自信を取り戻したのだろう。

時折ズレた眼鏡を直す仕草により、その豊満胸に肘が当たりその重たげな果実を惜しげも無く晒していた。

それを見ていた一夏は箒にどつかれていた。

自分が触った胸だと改めて自覚したのか、顔がほんのり赤くなっていたのがまた更に箒の機嫌を損ねたのだった。

 

 

「さて始めるぞ、時間が惜しいので少し巻きで行く。まずはーー」

 

『各班長は訓練機の装着を手伝ってあげてください。班員全員にやってもらう為最適化処理(フェッティング)とパーソナライズは切ってあります。取り敢えず午前中は動かす所までは全員やるようにお願いしますね』

 

「ふむ。では出席番号順に装着と起動、簡単に歩行して取り敢えずは終わるか。では1番目」

 

「あ、私です」

 

出席番号23番の橋本早苗。

基本的にはクラスで目立たない普通の少女だ。

 

「では早速乗ってもらおうか、搭乗経験はあるかね?」

 

「えっと、中学の時に何度か」

 

「なら問題ではないな。ああ、降りる時は必ずしゃがんでから降りるように」

 

そう言って八雲の言う通りに装着を開始する。

 

そうしてつつがなく1人目が終了して降りたのは良かったのだがーー

 

「あの、鷲崎さん。これ届かないんだけど……」

 

ふと目を向けるとそこには立ったまま装着解除された訓練機の姿が。

専用機では問題にならないが訓練機の場合は必ずしゃがんだ状態で装着解除する必要がある。

装着解除した状態で機体は固定されるため起立状態では搭乗口も必然的に高くなり、十代女子には届かない距離にある。

 

八雲が呆れながら周囲を見渡すと一夏の班でも同じ状況になっており、何故か横抱きで運んでいた。

何人の目がキラキラと期待の眼差しを向けていることから、恐らくだがその圧に耐えられなかったものと思われる。

 

「橋本、装着解除する時はしゃがんでからと言わなかったかね?」

 

「え、あ!ご、ごめんなさい…」

 

純粋に忘れていただけならば、良かったのかも知れないのだがなってしまったものは仕方がないのだ。

 

八雲は徐ろに機体へと近づくとコンソールを呼び出し、数秒後には機体が独りでにしゃがんだ状態に移行した。

 

「まあいい、次だ。言っておくが時間が押しているのだ、これ以上の遅延は許されない。良いな?」

 

「「は、はい!!!!」」

 

無表情で言う八雲の凄みにより全員が敬礼よろしく整列して、最早軍隊のようだった。

 

 

 

そうして午前の授業もつつがなく終了した。

 

「では午前実習はここまでとする。午後には今使った訓練機の整備作業を行うので各班の班長は班別に集合させるように。専用機持ちは訓練機整備と並行して自分の機体も見るように、では解散!」

 

 

片付けの際昼食を一夏に誘われた八雲であったが、用事があったのか断っていた事は割愛する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし、親父。少し調べてもらいたい事がある」

 

『どうした。お前から電話なんて、それも頼み事など。なかなかどうして珍しいじゃないか』

 

昼休み、八雲は昼食を食べず制服を着て直ぐに部屋へと戻ってきて居た。

ここならば現在お昼時である為人を気にする必要もなく、また同居人になるシャルル・デュノアも一夏に誘われて昼食タイムであるため誰にも邪魔されないのだ。

 

「シャルル・デュノアなる人物について調べて欲しい。どう見ても男には見えん、仕草も所々で女っぽさがある」

 

『……我が息子ながら、その結論に至るのが早くて感心する。今まさに社内で調べている事だ、まあ8割方終わっているがな。今からメールで送らせる』

 

その言葉に八雲は驚いた。

まさにトーラスが調べている事を自分が頼んでいるということもそうだが、何より8割終わっていると言うのだから。

 

「ああ、ありがとう親父」

 

『例には及ばんさ。ではな、体調を崩すなよ』

 

 

電話が切れた直後、八雲の携帯にメールが入ってくる。

そこに書かれている事は正しく八雲が知りたかった情報である。

 

 

「シャルロット・デュノア……ね」

 

 

 

 

 

 

 

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