因みに1巻全部1話にしようかと思ったんですが、修正や付け足しが面倒になったので分割しました。
故に7話前後までは完成しています
「うぅ…」
放課後。
今の一夏にとって難し過ぎた授業は、一夏をぐったりさせていた。
八雲に教えを請おうとしたが、アレ以来かなり不機嫌だった為声をかけるのを躊躇った。
昼も誘おうと思った一夏だったが、声をかける前に教室を出て行った為出来なかったのだ。
「あ、良かった。織斑くん鷲崎くん、まだ教室に居てくれたんですね」
「はい?」
教室に残っていた八雲による気まずい雰囲気の中にいた数名のクラスメイトと一夏、そんななか来たのが真耶。
手に書類が入ったバインダーを複数持っていた。
「えっとですね、2人の寮の部屋が決まりました」
そう言って部屋番号の書かれたキーを手渡す真耶。
この学園は全寮制であり、外部から通うという事は禁止されている。
これは学園の生徒が登下校中に勧誘や拉致、暗殺等に合わないために保護する目的もある。
「あれ、俺の部屋って決まっていないんじゃ無いんでしたっけ。前に聞いた話だと1週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど」
「そうだったんですけど、事情が事情なので一時的措置として無理矢理部屋割りを変更したんですよ。本当申し訳ないんですけど、本日から寮に入ってもらいたいんですけど…本当に無理矢理部屋割りを変更したので個室では無いので、相部屋ですけど」
「はあ、分かりました。あ、でも荷物が無いので一旦帰っても良いですかね」
「あ、荷物ならーー」
「私が手配しておいた。まあ生活必需品だけだがな、ありがたく思え」
後ろから、入って来た千冬がそう声をかけた。
恐らく一夏の脳内で何かしらの曲が掛かっているだろう。
「ああ、鷲崎。お前の荷物は既に部屋に搬送されている、後で確認するように」
「了解です。あとご迷惑をおかけしたようで、すいません織斑先生」
「いや、ああ言われてはキレるのも仕方が無い。実際、お前がキレていなければ早々に話を終わらせるつもりだった。恐らく私もキレていただろうからな」
そう言った千冬の持つ出席簿がミシミシと悲鳴を上げる。
国を侮辱されて良い顔をする人間は居ないだろう、肉親を侮辱されて良い顔をする人間はもっと居ないだろう。
その例が八雲だっただけだ。
「じゃあ時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は6時から7時、寮の1年生用食堂でとってくださいね。各部屋にシャワーがありますので、今はそっちを使ってくださいね。一応大浴場もあるにはあるんですが、諸々理由がありまして織斑くん達は今の所使えません。」
「え、何でですか?」
「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」
「織斑くん!女子とお風呂なんて駄目ですよ?!」
そう言われて初めて気が付く一夏。
この学園の男子は八雲と一夏のたった2人なのだ、2人の為に大浴場の時間を調節するのがどれほど大変か等想像を絶するかも知れない。
「なら少し距離を取るべきか、俺は性犯罪者と馴れ合うつもりは無いのでな」
「い、いや入りたくないです!だから距離取らないで!」
「ええっ女の子に興味がない?えっと、それはそれで問題のような気が…」
「どうやら距離を取る選択肢は間違っていないようだな、俺の後ろに立たないで貰おうか。」
スッと八雲が逃げるように千冬の背後に回る。
それを見た千冬も後ろに回った八雲を庇うかのように片手を広げた。
「ふむ、育て方を間違えたか?何時からホモになった、織斑」
「あんたもか千冬姉!!!!」
一夏の悲痛な叫びが響き渡った。
「織斑くん男にしか興味ないのかしら?」
「それはそれで…ジュルリ」
「中学時代の交友関係を洗って!直ぐよ直ぐ、明後日までには裏付けとってね!」
「一夏×八雲?八雲×一夏?どっちも良いわね」
不穏な掛け算が聞こえた気がした。
「えっと、それじゃあ私達は会議があるのでこれで。織斑くん、鷲崎くん寄り道はしても時間までに部屋に帰るようにしてくださいね」
そう言って真耶は去っていった。
遅れて千冬も後を続いて歩きだし
「ああ、そうだ鷲崎。つい先程鷲宮から伝言を預かっている。『2番アリーナで待っている』と。確かに伝えたぞ」
「ありがとうございます、織斑先生。確かに聞きました」
軽く手を上げ、今度こそ去っていった。
「さて、一夏。俺は予定が入ったので先に戻っていろ、恐らく夕食までには戻れると思うがな」
「そうか、分かった。じゃあまた後でな!」
「ああ、後でな」
いい笑顔で手を振りながら、一夏は寮へと小走りで歩いていった。
「あいつからの呼び出し…やはり嫌な予感しかしないな」
「遅い!呼び出してから来るまでが遅すぎる!」
「いや、伝言聞いたのついさっき何だが?いやむしろ連絡入れてくれればすぐ分かったんだがな」
第2アリーナに入った八雲を待っていたのは、憤慨する少女だった。
もう一人、傍らに少女を連れて仁王立ちしている。
「我が姉。八雲。間違ってない。伝言。違う。携帯。なんの為?」
「うっさいわね真由美!分かってるわよ!」
妹に指摘された事が正論だと分かっていても、指摘された事実に照れ隠しのように怒鳴る。
「で、何の用件で呼び出したんだ
鷲宮叶、そして鷲宮真由美。
現日本国家代表と代表候補生だ。
特に叶は世界の国家代表の序列3位を拝命している、そして妹の真由美も日本国内の候補生序列4位の実力者だ。
「聞いたわよ、イギリスの候補生と戦うんでしょ?」
「手が早い」
「耳が早いな、まあその通りだ」
昼前の出来事だと言うのに、放課後の今既に知っていた。
「まあ貴方なら負けはないと思ってるわ、何せ私が色々叩き込んだんだからね!」
「我が姉。八雲。あの時死にかけた。やりすぎ」
「いやまあアレのおかげで割と上達したから文句は無いんだが…」
八雲の額にはツーッと冷や汗が流れていく。
思い起こすのは1年前。
八雲が試作NEXTのテストパイロットに選ばれたという話を聞き付けた叶が突然襲来してISの基礎から実技から叩き込み始めたのだ。
その当時はコアを乗せるつもりの無い新規のAC のテスターとして搭乗していたのだ。
当然の要らない知識になるはずだったが、2人目になったことでお察しである。
尚、八雲はNEXTプロジェクト進行後直ぐにISコアと呼応したため厳密に言えば最初の男性操縦者と言える。
「一応。血が繋がった従兄妹。我が姉。慈悲は?」
「うっさいわね、あるからやったに決まってるでしょ」
鷲宮家。
その母親の旧姓が鷲崎なのだ、それがなんの接点もなさそうな八雲と国家代表を繋ぐ繋がりである。
血の繋がりがある家族だからこそ厳しく教え込む。それは無様を晒さない為、そして自衛の為の実力向上の為でもある。
「八雲、構えなさい。今日は生身で行くわよ」
「今日はそういう気分か」
「ええ、行くわよ!!!」
八雲の両腕が下がった瞬間、叶が瞬時に近付き蹴り込む。
蹴りを横に流した八雲が、流した力を利用して得た遠心力と体重を乗せた拳を叩き込む。
「ハァ!!」
「クッ、きっつ…」
男女差も体格差もある為強烈な一撃となり、それをガードした叶が口を零す。
女子の体重と男子の体重が乗った攻撃なら、必然的に後者の方が威力が増す。
「代表ナメんな!」
「ッチ!」
ガードした体制から一点、瞬時に腕を掴み投げに掛かる。
そしてそのまま膝を出そうとして、それを捌いた八雲が咄嗟に後ろに飛んだ。
「あんたのそれ、本当厄介。どうやって読んでる訳?」
「まあ、目だな。後呼吸か」
「本当頭おかしいわ!」
会話中の八雲の不意を打って真由美が後ろからボールを投げる、だが八雲は叶の方を見たまま避けたのだった。
「それはどう説明するのかしらね?後ろを向いたまま避けてるし」
「勘と言えば満足か?」
「はぁ、もう良いわ時間だし」
「八雲。異常」
溜息を着いた叶が解散を促す。
それを聞いて一言呟いた真由美が一目散にアリーナを出て行った。
「じゃあまたね八雲」
「ああ、またな」
「1040室、ここか」
叶とのど付き合い(意味深)を終えた八雲は荷物確認も含めて自室の扉に向き合っていた。
貰った鍵と部屋番号を2度確認した後、間違えていない事を確認してからドアをノックした。
「ん、人の気配はあるが動いていないな…ドアから5歩か」
ノックをしても無反応だった為同居人は留守だと思ったが、よくよく感じてみれば部屋の中から人の気配がするのだ。
ドアの前に居るという事は歓迎するために居ると判断し、八雲は意を決してドアを開けた。
「おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し?」
「…………」
人は許容量オーバーの情報が脳に入るとフリーズするらしい。
目の前の裸エプロンを着用した女子生徒を前に、八雲は固まっていた。
「おかえりなさい。わたしにする?わたしにする?。そ・れ・と・も?わたしにする?」
「ふむ。現状が見えてこないが、ひとまずお前が痴女だと言うことは分かった。」
「反応しないどころかその言い草は酷くないかしら!?」
唐突な痴女呼ばわりに女子生徒は声を荒げる。
だが裸エプロンなんて格好をしている時点で、言い逃れなどできるはずもない。
そしてまたマニアックな事に制服についているリボンを、裸エプロンの状態で首に付けていた。
もはやそういうプレイなのかもしれない。
「そのリボンの色からして2年だろう?なら裸エプロン先輩とでも呼んだほうが良いか、いやむしろ省略して痴女ロン先輩か」
「その呼び方は私の尊厳とか色々と無くしそうだからやめて頂戴、本当切実に」
八雲の呼び方に対して必死に懇願する少女、その姿は滑稽だったが。
「で、上級生が1年の寮室になんのようだ。誘惑なんて冗談は言わんよな?」
「んーそうねぇ、簡単に言えば護衛かしらね」
「護衛か、たかが生徒にと思ったがそうでもないのか」
「ええそうよ。貴方達2人は世界初の男性操縦者、それをよく思わない人も大勢居るわ。この学園にも少しね」
裸エプロンでベットに正座する少女は、胸を張りながらそう言った。裸エプロンだからだいぶ強調されていたが。
「さて。改めて私の名前は更識楯無、この学園の生徒会長をやっているわ。護衛の為同室になるわ、これからよろしくね」
「鷲崎八雲だ、これからよろしく頼むよ。裸エプロン先輩」
「だからその呼び方はやめて頂戴!」
「で、本当の要件はなんだ?」
不意を突いた八雲の言葉に、思わず楯無の頬が引き攣る。
それを見た八雲は本当に確信した。
「ふむ、護衛は嘘ではないが本当でもない。となれば、監視か」
「…っ!」
「まあ、推察は出来るだろう?織斑一夏が世界初の男性操縦者として見つかって、その後発見されたのが俺だしな。あいつには姉の威光を注視してか国がバックについたが俺は一般人のままで、研究機関が寄ってたかって俺を拉致しに来るかもしれない故の保護。で、監視は俺の入試の結果だろ?」
「ええそうよ、貴方は入試で織斑先生のSEを4割削ってみせた。ISに乗っての戦闘行為はあの時が初めてであるはずの貴方が、圧倒的な戦闘能力を誇る初代ブリュンヒルデを相手によ。到底、見つかったばかりなんて思えない。それこそ前から動かせたのを隠していたかのように怪しいのよ。故の監視よ」
楯無が言った通り八雲は怪しいのである。
全国一斉調査で見つかって入試まで2ヶ月あったとはいえ、その2ヶ月間でブリュンヒルデの操る打鉄のSEを4割削る事ができる一般人などありえないのだ。
故に一般人では無いのではないかと、楯無は思っているのだった。
「バレたなら仕方ないわ、ハッキリ聞くわね。貴方は何者?貴方はこの学園の敵?」
いつの間にか手に持っていた扇子を八雲に突きつける楯無。
その目は、値踏みするかのように鋭かった。
「この学園が俺の大切なものに手を掛けない限り、敵にはならんよ。」
「セシリアちゃんの前例があるのだけど、朝の事は忘れたとは言わせないわよ?」
「あれはあの女が悪いだろう。人の家族を侮辱して、無感心でいられる程俺は出来た人間じゃない」
「ふーん、まあ今は信じてあげるわ」
そう言った楯無は扇子を引っ込め、代わりに右腕を出した。
「じゃあ改めて、これからよろしくね八雲くん」
「ああ、裸エプロン先輩」
「ちょっと!もういい加減忘れてよ!」
「その格好でいる限り無理な話だ」
そうこうしているうちに時間は過ぎ、八雲は見事夕食を逃すのだった。
その事に気づいたのはふと時計を見たとき。
現在時刻は18時58分、食堂が閉まるのが19時だ。
そして八雲の寮室は寮の端の方で、そこから食堂まで例え全力疾走したとしても2分では着かない。
「はぁ、初日から食いそびれるとは…」
「あら本当ねぇ、お姉さんお腹空いたわ」
「白々しい事、一体誰のせいでこうなったんだか」
そう言いながら、八雲は部屋に届いていた荷物を漁り出す。
楯無も興味深そうに脇から覗くと、それを押し退けるように八雲が手で制する。
そしてお目当ての物を取り出すと、1つを楯無へと投げた。
「おっと、んーなになに。『夕飯一膳分のエネルギー補給食』これトーラスの新作エネルギー食ね、準備が良いと言うかなんて言うか。」
「腹は膨れないが、1食分のエネルギーは補給出来る。どうせ食べ物も用意してないんだろう?」
「まあそうなんだけどー」
もしゃもしゃと補給食を食べながら楯無は顔を赤らめる。
自分の分がないだけなら我慢すれば良いが、楯無は八雲の夕飯の時間も潰してしまっているのだ。
故に恥ずかしさと申し訳ないなさとが入り混じって、楯無は不貞腐れながら食べていた。
一方の八雲は足りなかったのかもう一本を取り出して食べ始めた。
そして食べながらタオルと水筒を取り出すと、立ち上がってドアへと向かい始めた。
「あら、どこに行くのかしら?」
「日課だ。夕飯を食べた後は大体体を動かしているからな、環境が変わったからと言って変えるわけにもいくまい」
「いい心掛けね、私も着いて行っていいかしら?」
その言葉に少し考える八雲。
まだ初日で、尚且新入生である。
そんな八雲が上級生を連れて歩いて有らぬ噂が立つと自分の立場が悪くなるかもしれないし良くなるかもしれない。
だが彼女は生徒会長だ。
今の所学園内での後ろ盾の存在しない八雲にとって、生徒会長と親しい人間だと思われる事は別に悪いことではない。
そして彼の知らない事だが、生徒会長の選定基準は会長が卒業時に後任を選ぶ、もしくは現生徒会長と正面切って戦い打ち倒す事。
"生徒会長は最強であれ、何時如何なる時でも挑戦を受け付ける"
これがIS学園の生徒会長の実態である。
つまり、生徒会長であること=学園内最強の存在だということなのだ。
「まあ別に構わないが、特別な事は何もしないぞ?ただグラウンドを走るだけだしな」
「それでもいいわ、気になるだけだもの」
そう言って着いてくる楯無を横目に見ながらも、八雲は立ち上がる。
「それはいいんだが…その格好で行くのか?」
「ん?…あっ?!待ってて、直ぐに着替えるわ!!!」
指摘するまで裸エプロンで居た事を忘れていたのか、慌てるようにバスルームへと走っていった。
因みにだが、本当に裸エプロンだった訳では無く下に水着を着ていた事がバスルームに向かう際の後ろ姿を見た八雲が後に語っている。
楯無も意外と純情な乙女らしい。
そして2時間後。
そろそろ門限だということで八雲は切り上げ、後ろを着いてきている筈の楯無の方を向いた。
が、楯無はだいぶ遠く、20m程度離れた辺りでくたばっていた。
「はぁっ…はぁっ…」
「大丈夫か?」
「大丈夫な訳…はぁっ…無いでしょ…はぁっ…」
八雲のペースは速く、楯無がいつもトレーニングで走る速さの倍はあった。
男女の歩幅の差というのは大きいもので、楯無の2歩が八雲にとっての1歩であった。
八雲に置いて行かれないようその歩幅の差を足を出すペースを上げる事で解決し、楯無は八雲と並走していた。
普段より速いペースであるにもかかわらず八雲と並走していた楯無だが、それが30分を超えたあたりから置いてかれ始めた。
置いて行かれそうになる度に少しペースを上げ、ペースを上げたことで疲労がいつも以上に蓄積し自然とペースが落ちる。
そしてそれに気づいてペースを上げるの悪循環になっていた。
そしてそこから1時間経つ頃には諦めたのかいつも通りのペースに戻ったのだが、最初に飛ばしていたのが仇になり残り30分を死にそうになりながらも完走したのだった。
そして現在、屍と化している。
そんなになるまでしないで途中でリタイアすれば良かったのに、楯無は走りきった。
完全に意地である、途中で諦める事は楯無のプライドが許さなかったのだ。
「もう、絶対着いてこないわ。どういう体力してるのよ…」
そう呟いた楯無の視線の先に居る八雲。
彼は最初から最後まで同じペースをずっと保ちながら2時間走っている、それなのに薄っすら汗をかいている程度であまり息が上がってないのだ。
「日々の積み重ね、最初は30分すらキツかったがな。毎日必ず限界まで自分を追い込めば、これくらいは普通に出来るようになるだろ」
「いや、普通じゃないわそれは。自分を毎日追い込むなんて早々できる話じゃないわよ」
「やる前から諦めているから出来ないと言うのだろう?実際やってみて、続けてみなければ結果は分からない筈なんだがな」
八雲の言う事は最もなのだが、果たしてそれを実行出来る人間がどれ程居ることか。
楯無の態度に首を傾げながらも、2人で部屋に戻っていくのだった。