あ、タグ追加しておかねば
「遅かったな、織斑にでも絡まれたか?」
救護室にやってきた八雲を待っていたのは千冬だった。
入口付近の椅子に、まるで養護教諭のように座っていた。
「お前の戦い方は認められないって、正面切って言われましたよ」
「まあ正々堂々と戦いたがる織斑にとっては、お前の蹂躙するような戦い方は嫌だろうな」
そう言いながらも八雲は抱えていたセシリアをベットへと寝かせる。
千冬がここに居ると言う事は養護教諭が出払っているということでもあるので処置をどうしようか迷っていると
「ああ、数分で戻ってくるので任せても構わんよ。それより鷲崎、聞きたいことがある」
「何でしょう、織斑先生」
寝苦しく無いよう枕の位置を調整していた八雲が、千冬の方を向く。
「お前は先天性無痛無汗症だな?」
八雲の手が止まり、目が見開かれる。
「どうしてそう思ったので?」
「どんな機体でもデータを取るようにしていてな、お前の機体には高速機動戦に必要不可欠な操縦者保護機能が働いていなかった。保護機能無しであの機動戦をすれば痛みでのたうち回るのが普通だが、お前は全く動じていない。恐らくと思ってな」
「……」
言い当てられたかのように押し黙る八雲に、自分の推理が当たった事を確信する千冬。
「1つ訂正。俺は無汗症ではなくただ痛みを感じないだけです」
「ほう、やはりか」
千冬の眼光が強くなる。
無痛症とは最悪命に関わる場合もある。
特に戦闘や訓練等が多数あるこの学園で無痛症では、多少の怪我でも気が付かない為重症化する可能性があるのだ。
教師としては見過ごせないのだ。
「一応この機体を扱う上で会社から定期検診と治療用ナノマシンの摂取を義務付けられているんですが…」
「そこが解せないんだがな。何故保護機能が存在しない、本来存在している筈の機能であろう」
「そこはこの機体のコンセプトが原因ですかね」
その返答に千冬は首を傾げたため、八雲は噛み砕きながら説明する事にした。
NEXT『Stalker』のコンセプトは単体勢力、そして防衛の為の速度特化型である。
単体であらゆる状況であろうと活動する事をコンセプトに作られた機体。
リミッターや保護機能等で速度を落とすと、それこそあらゆる状況で活動するコンセプトが果たせなくなる為に削られている。
故にか常人ではStalkerに乗る事など、ましてや乗りこなす事など出来やしない機体になったのだ。
「何だそれは…乗る人間の事を考えられていない等、普通じゃないぞ…」
「ええ、それは俺も思っています。うちの
「だが乗らないという選択肢もあっただろう、その機体以外にもISはある。その機体じゃなければいけないとは思えないんだが」
「まあ、それはそうなんですけどね。会社の一員として、会社の目標を手伝う為にはこの機体じゃなければいけなかったんですよ」
トーラスの目標は宇宙進出だ。
その為に必要なのがStalkerなのだ。
「で、その無痛症は問題無いのか?教師としては模擬戦等で異常が出たりしたら正直お前の模擬戦や訓練への参加を考えなければならないが…」
「問題は無いですね。怪我しても感知は出来ませんが、とりあえずはナノマシンで何とかなるので最悪はないと思いますけど」
「そうか、何かあったら必ず言うことだ」
弟以外にもそんな態度をするのかと、八雲は目を見開いた。
「何だその顔は。生徒の心配をしない教師だとでも思っていたのか?」
「いえ、そういうわけでは無いのですが…」
「どうせあれだろう?貴様もブラコンだのなんだのと言うつもりなのだろう?」
最早捲し立てるように言う千冬に、何も返せない八雲。
「ああそうさ、弟が大事だ。だが弟の事を、ましてや家族の事を大事に思わない姉等居ないだろう?お前と同じ事だ」
「そうですね、その通りです」
機体の損傷が規定値を超え、更に操縦者であるセシリアが未だ目覚めていない事を加味し繰り上げ勝利ということになった一夏。
釈然としない表情だったが八雲の言葉が余程効いたのか、先程からずっと無言であった。
そんな一夏は現在次の対戦カードである一夏対八雲の戦いの為ピットインしていた。
「織斑、準備は……大丈夫か?」
「……大丈夫、大丈夫だよ千冬姉」
「そうか、それと織斑先生と呼べと」
上の空だった一夏を流石に心配した千冬だが、その返答でさえ数瞬の間があり本当に大丈夫なのかと思っていた。
「大丈夫だ、俺の中で答えは固まった。後はアイツにそれをぶつけるだけだ」
「なら行って来い、全力をアイツにぶつけてこい!」
「織斑一夏、白式出るぞ!」
ピットから純白の機体が飛び立った。
アリーナにて相対する八雲と一夏。
既に試合開始のブザーは鳴っているにもかかわらず、2人共動こうとしない。
「お前の言った事少し考えてみたんだ、確かに俺の考えは今の時代に相応しくないって。でも皆を守りたいって思いは間違っていない筈だ!」
「ほう、確かに間違ってはいない。だがそれを望まれていなくても行うのか?助けて欲しいと言われなくても助けに向かうのか?自分の身を顧みずに」
「ああ、それが俺だ!例え無様に負けても、勝利出来なくても、守る事は出来る!」
その言葉を皮切りに、八雲は一夏ヘとブーストを吹かして突っ込んだ。
MOONLIGHTを振り、その機体を斬ろうとするが、寸前で雪片弐型が滑り込みその軌道を妨害する。
「今のお前では身を挺しても精々1人を守れるかどうかだぞ!」
「それでも俺は諦めない!今諦めたら、俺は俺で無くなる!守りたい人も守れなくなる!それだけは、絶対に嫌なんだよ!!!!」
そこで
所詮エネルギーブレードだ、エネルギー無効化攻撃の零落白夜の前では紙同然だった。
「言うだけあるな、まさかこいつが斬られるとは」
斬られたMOONLIGHTが光を失い、刀身が消失したのを見て八雲は驚いていた。
エネルギー刃とはいえエネルギーがある限り刀身を精製し続ける武装だ、それが斬られただけで稼働しなくなったのだ。
その事に八雲の顔が引き攣る。
基本的に八雲の戦い方は情報戦だ。
相手の情報を調べ上げて対策を講じる、その際如何に相手に自分の情報のブラフを掴ませるかも考えている。
相手の情報から戦術を分析して使用する武器を選び、相手が行った行動によって最適な戦術をぶつけるやり方だ。
だが今回、一夏の情報は殆ど無い。
唯一八雲が知り得ているのは先程受領した
機体だということと、今体感したエネルギー無効化攻撃位だ。
それ以外の情報が何一つ無いのだ。
もう既に原作乖離が起きている為原作知識等は当てにならず、原作の一夏の情報では無く目の前の織斑一夏の情報が不足していた。
「だが、それだけだ。斬られたなら別のを出せば良い」
新たに展開した実体剣『叢雲』
トーラスが八雲の為に造った完全オリジナルの刀であり、MOONLIGHTのようなエネルギー刃を出せるわけでもないただの刀だ。
「さあ来い!」
「うぉぉぉおおぉぉ!!!!」
雪片が八雲の体スレスレを通り過ぎる。
傍から見れば雪片が勝手に八雲を避けているように見えるが、実際はそんなことはない。
一夏は全力で八雲に当てようとしているのだ。
誰も知らない事だが、八雲は転生者であり転生するにあたっての特典も貰っている。
異常な程の観察眼と直感を合わせた千里眼(偽)である。
これにより例え相手の情報が皆無でも、八雲は相手の行動を読むことが出来るのだ。
だがそれは一夏の攻撃を避けられる事の理由では無かった。
「くっ!何で当たらない?!」
「お前の攻撃は大振りな上に直線的過ぎる。避けてくださいって言っているようなものだ」
一夏の攻撃は何らかの武道に精通している者から見れば凄く読みやすい攻撃であった。
気合を入れる為にか声を荒らげ、酷く直線的で大振りな一太刀。
フェイントや足技等の小手先の技術も無いのだ。
そんなもの、太刀筋を見ていれば避けるのは容易い。
一夏の剣は所詮剣道の延長であり、それをISで再現しているに過ぎないのだから。
「だったら!」
ほぼ無意識に発動させた
だが瞬時加速というものは直線的な加速しか出来ない。
無理矢理曲がろうものなら内臓がシェイクされたような強烈な嫌悪感に襲われるうえに、掛かるGによっては内臓を傷付けてしまうためである。
故にか、一夏はただ真っ直ぐに八雲に突っ込んでくる。
それに何かデジャブを覚えた八雲は半笑いを浮かべ、速度をそのままに突っ込んでくる一夏を投げた。
ぶつかる前に雪片を持つ右腕を掴まれ、流されるように投げ飛ばされる。
そしてそのままアリーナのシールドに叩き付けられて止まった。
残存SE29
衝撃に嗚咽を漏らしている一夏の側に八雲が降り立ち、一夏は八雲を睨み付ける。
だが体は言う事を聞かない。
瞬時加速の勢いを一切殺されず、そのまま投げ飛ばされて壁に突っ込んでいる。
直ぐに立ち上がれる程軽く無かった。
「愚直に真っ直ぐにしか進めんのかお前は。そのザマでは誰も守れんぞ、自分の身さえもな」
「うる…せぇ、俺は守れる。守ってみせるんだ!!!!」
ほぼ気合だけで立ち上がった一夏。
それを見て口元が多少綻んだ八雲は叢雲を構えた。
「なら証明してみせろ、お前になら出来るはずだ」
「ああぁぁぁぁあぁあああっ!!!!」
再度気合を入れるかのように咆哮した一夏が八雲に向かってまた瞬時加速を発動させる。
が、その軌道が目前で変わり、一瞬とは言え見失った事で八雲を驚かせた。
白式の2基のブースターでは本来出来る筈がない技能。
八雲のクイックブーストの真似事だ。
全ISの中でも最高に近いブースター性能を誇る白式だが搭載されているブースターは2基と少ない。
それ故にたった1回だとしてもクイックブーストを成功させた一夏に、驚きを隠せない。
理論上は瞬時加速でトップスピードになった瞬間にブースターを止め、間髪入れずに別方向に吹かせば可能ではある。
だがそれを実行するなど狂気の沙汰ではない。
瞬時加速中に方向を変えると、体に物凄く負担がかかる。
それにエネルギーもだいぶ使うのだ、八雲の前に辿り着く前にエネルギーが切れる。
だがそれでも一夏は諦めずに雪片を八雲に向かって突き立てた。
『試合終了。勝者鷲崎八雲!』
それでも寸前でエネルギーが切れてしまった。
だがコツンと、八雲の装甲に触れることは出来た。
代表候補生であるセシリアが欠片も減らせなかった八雲のシールドエネルギー、それがたった1とはいえ確かに減った瞬間だった。
「良くやった織斑、負けはしたもののその気迫と覚悟は伝わった。」
開口一番、一夏を出迎えた千冬の1言。
千冬が無理を言ったのか、真耶や箒の姿はそこに無かった。
彼女なりの配慮なのか、姉弟2人で。
「千冬姉…俺、負けちゃったよ…」
「ああ、見ていたよ」
弱々しくなっていた弟を見て、精一杯の姉心は抱きしめるという選択肢を選んだ。
「だがお前の決意は私に伝わった、だから今は泣いて良いんだ一夏。」
「でも…俺はッ!俺はッ!!」
声にならない押し殺したような、一夏の泣く声が響いた。
「えぇっ!?辞退するんですか!?」
その日の夜、八雲は真耶にクラス代表を辞退する旨を伝えに職員室へと来ていた。
「ええ、一夏の決意を聞いてあいつに任せた方が為になると思いましてね」
守るということは攻撃するよりも余程難しい。
それ故にクラス代表を一夏にすれば他クラスとも戦う事になり経験を積める。
それに自分がクラス代表になるより一夏を鍛える事もできるだろうとの考えもあった。
「そう言う理由なら分かりました。あー、でもオルコットさんがなんて言うか…」
「私に異論はありませんわ、山田先生」
居ない筈のセシリアの声が響いた。
真耶と八雲が振り返ると、壁を伝いながら歩いてきた、全身に痛々しいまでに湿布や包帯が付けられたセシリアの姿がそこにあった。
「って、オルコットさん!なんでここに居るんですか!?貴女はまだ寝ていなきゃダメなんですよ!?」
「これしきの怪我位、大した事ありませんわ」
真耶の言葉とセシリアの強がりにより、彼女は救護室を脱走してきたのが分かる。
全身の筋肉疲労に加え各所の打撲、その怪我を悪化させる原因ともなった瞬時加速。
打撲以外全て意識の無い間に負った怪我である故に、セシリアには酷い怪我だという自覚が無い。
それでも全身に走る痛みは相当なものだろうに、こうして彼女はここに居た。
「無理をしない方が良いと思うがな。最初のミサイルで打撲と若干の脳震盪、無理な体勢での瞬時加速での筋肉疲労。痛みは相当だと思うんだが」
「ええ、ですが心配ご無用。この怪我は全て私の自業自得で負ったもの、無理の範疇には入れさせませんわ」
胸を叩いて強がりを見せるセシリアだったが、その行為も体に響いたようで顔を顰めていた。
それを見ていた真耶は教員としての立場上咎めざるを得ない。
「ほら、まだ怪我が治ってないんですから救護室に戻ってください」
「ですが!」
「ですがもカカシもありません、はい戻りましょうね」
「ああ、待ってくださいまし!クッ、痛みで思うように力が…って山田先生、どこにそんな力が!あぁ」
真耶に手を引かれ、抵抗するも強制的に連行されるセシリア。
痛みで力が入り辛いセシリアに何故か力が強い真耶に抵抗出来ずに引きずられて行く。
「やれやれ」
それを横目に自室へと足を向けた八雲だった。
「それで、どうしてクラス代表を譲ったの?」
「何で知っているんだお前…」
部屋に帰って来て早々に楯無から質問が来る。
それは本当につい先程真耶に言った事であり、周りには当事者以外誰も居なかったのだ。
故に楯無が知っているのはおかしいのだ。
「え…いや、その…ね?八雲君ならそう言うかなぁって思っただけよ」
「ほう…」
「うぅ…ごめんなさい、気付かれないようにつけていたの…」
八雲の眼光に怯んだ楯無はあっさりと白状した。
無表情で見つめられると、流石にキツイものがあるのだ。
「…ストーカー先輩、別に怒っていませんよ。そんなにしょぼくれないでください」
「めっちゃ敬語!ってかストーカー先輩って何よ!?」
「尾行してた人間が何を言うか、痴女ストーカー先輩」
「また増えた!?ごめんなさい!謝るからもう忘れてよ!!」
楯無の1個上の為本来なら八雲の方が先輩なのだが、学年としてみれば八雲の方が後輩であるため先輩呼びは間違ってはいない。
だが楯無に対して普段使わない敬語を使った事から、何かしら思うことはあった模様。
「クラス代表ならアイツの方が纏め役として適任だと思ってな。それに経験を積む場としても適切だとな、アイツには決定的に経験が足りないからな」
「へぇ、色々と考えているのね」
関心するように頷く楯無を、若干白い目で見る八雲。
楯無ならそれくらい理解している筈だからである。
「…ごめんなさい、その目はやめて欲しいなぁ……」
普段から表情が変わらない八雲だが、それでも無表情で見つめられると言いようのない何かが襲ってくるのだ。
「あの、ね?八雲くん?可愛いお姉さんのお願いだからね?その目で見るのだけは」
「ん?」
「いえ、何でもありません…」
上級生としての威厳は何処へやら、それでいいのか生徒会長。
この2人の上下関係が確かなものになった証でもあるが、それは別のお話。
「鷲崎…八雲」
名前を呼んだ、ただそれだけで心の底から湧き上がるのは恐怖心。
彼の家族を侮辱してしまった自分が悪い事であるが、この感情だけは別物だ。
「いえ、違いますわね。彼は本来優しい人、家族の為に激情したのですから」
そう。
悪いのは自分。
あんな事を言ってしまった自分が悪いのだから。
それでも彼は許してくれた。
あそこまで言った自分を、それでも許してくれるのだから。
普通家族を侮辱した相手を許そう等とは思わないだろう、例え謝ったとしてもだ。
「本当に優しい方」