「あ、おかえりなさい」
八雲が部屋に戻ってくると、同居人である楯無が八雲のベットで寛いでいた。
その姿はTシャツ1枚だけの見る人が見れば何とも魅力的な姿だった。
「あら、どうしたの?お姉さんに見惚れちゃった?」
「……」
「ほらほら、黙ってないで何とか言ってくれないとお姉さん分からないぞ♪」
自分の格好を利用して八雲の気を引こうとベットの上でポーズを取る楯無。
「人のベットの上で何を……まあいい。所で新聞部副部長が面白い事を言っていたんだが」
「面白い事?」
「ああ、どこかの誰かがの俺の事を脳筋体力馬鹿と言っていたらしくてな。なんでも青い髪で赤目の女子生徒らしいんだが、生徒会長のお前なら知っていると思ってな」
「へ、へぇ。そ、そんな人が居るのねぇ、お姉さんびっくりだなぁ」
物凄く白々しい態度に八雲の目が細くなる。
もはや確信しているとしか思えない。
「で、この学園に居る青い髪で赤目の生徒は更識姉妹の2人だけだそうでな、妹の方はそもそも会ったことがないから必然的に姉の方になる訳だが、何か知ってるか?更識楯無?」
最早そこまで言われてしまえば言い逃れは出来ない、楯無は観念したかのように両手を挙げた。
「ごめんなさい、ちょっとした出来心だったのよ」
「ここまで簡単に自白されるとつまらんな」
「へ?」
八雲の言葉に、呆ける楯無。
「俺の事をなんて言おうが別にどうでもいいしな。だが普段から悪戯が絶えないそうだからな、ちょっとお灸を据えようかと」
「な、なんだそうなの……」
本気で何かされると思っていた楯無から力が抜ける、八雲の冗談は冗談だと思えないからタチが悪いのだ。
「ごめんなさい、ちょっと腰が抜けちゃったから手を貸してくれないかしら?」
「たく、仕方ないやつだ」
次の日の日曜。
土曜の夜丸々使った一夏の代表就任パーティーも終わり、大半の生徒は未だ夢の中。
「もう定期検診か」
トーラスのロゴが入った紙を見ながら1人呟いた
月に1回、八雲は検診を義務付けられている。
八雲の専用機であるStalkerは保護機能の類が存在しない、操縦者をパーツとして考えられた欠陥機であり、それに乗り続ける為にはトーラスが開発した特殊な医療用ナノマシンの定期接種が必要不可欠だ。
その実施日が今日の午後と、会社から送られてきた書類に書かれていた。
迎えに来る人員や場所の指定までされていて、毎度の事ながら過保護だと思う八雲。
そんななか部屋の扉がノックされた。
日曜の朝に訪ねてくる物好きは誰だって思いながら扉を開ける、そこには一夏が居た。
「お前か。どうした日曜に」
「八雲!俺を、俺を鍛えてくれ!強くなりたいんだ!」
唐突に頭を下げた一夏に目を丸くする。
だが先の一夏の言葉を思い出し、その結論に至った事を知った。
一夏を下しセシリアすら下した八雲が強いという結論に至るのは至極当然であり、師事しようと思うのも当然の帰結だろう。
「廊下で話す事ではないな、入れ」
日曜の朝早くであるためまだ寝ている生徒も多数居る、廊下で大声を出せば結構響くのだ。
故に一夏を部屋へと招き入れた。
部屋に入った一夏はキョロキョロと周囲を見回す。
学園に来てから人の部屋に入ったのは初めてであり、興味が勝ったのだ。
そこで見かけたのは女性物であろう小物が置かれているベットと、八雲のであろう携帯や書類の山が広がっていたベットの2つ。
ルームメイトの楯無は現在生徒会の仕事で不在であった為、八雲1人であった。
「さて。鍛えて欲しい、か。そこに至った理由も知っているから鍛えてやるのは吝かではないが、まずはお前の意思を知らねば話にならん。お前はどういうビジョンを描いている」
「ビジョン…」
「強さにも理由が必要だ、お前はどうなりたい」
八雲が語るのは方向性の話。
一概に強さと言っても千差万別であり千冬のような圧倒的技量による強さから強靭な意思によるタフネスすらも強さの分類に入る。
だからこその確認だった。
「俺は守りたい。俺に関わる全ての人を、この手で守りたいんだ」
「やはり決意は変わらないか、分かった。だが守るということは圧倒的技量や力で他者を圧倒するよりも格段に難しい、攻撃は最大の防御とも言うように攻撃の方が簡単だ。お前が求めているものは相当な技量と知識を要する、かなりの難易度だがそれでもやるか?」
「ああ、頼む」
決して折れない一夏の思いに、八雲も乗る事にした。
「ああ、分かったやってやろう。だが午後から俺は居なくてな、昼までの少しの時間位しか空いていない。少しの時間でも出来る簡単な座学を教えてやろう」
そう言って八雲は紙とペンを取り出した。
「まず第1にだが、お前は攻撃タイプの人間だ。それ故に守るとなれば今の戦闘スタイルでは到底出来ない、だからスタイルを変える必要がある。その為にまず自分から攻撃せず待ちに徹する事と、相手のペースに流されない確かな自分のペースを維持することが大切だ。ここまでは良いな?」
「ああ」
「これから先どんなタイプの人間と戦うかは知らんが、恐らく殆どの人間が攻撃タイプだ。さっきも言ったが相手に攻撃をさせないほど苛烈に攻撃すれば、相手は守らざるを得なくなり必然的にこっちのペースに持っていきやすい。相手にペースを握られると人はそれを崩そうと焦るから攻撃タイプの方が簡単なんだよ、だがお前は防御タイプを目指すと言った。つまるところ相手の攻撃を無傷で受け切る、又は完全に回避する為の技量とどんな攻撃かを見極める知識が重要だ」
八雲が淡々と語るそれを、一言一句逃すまいと真剣に聞く一夏。
茨の道であるが故に燃える、一夏はそのタイプであった。
「最初に教えたいのは相手の攻撃を予測する洞察力と、その攻撃を凌いだ後のカウンターだな。まず聞くが、相手の攻撃をどう予測する?」
「えっと、相手の動作を見ること?」
一夏は最も身近だった剣道を思い浮かべた。
相手がどんな動作をするか、その予備動作を瞬時に見極める事でそこを打たせないように守る。
そこに近いと思ったのだ。
「惜しいな、それも正解だが1番は目だ。」
「目?」
「今から攻撃しよう、ここなら攻撃する隙がある。何処に撃とう。目を見れば視線から攻撃先を読める、相手が自分の体の何処を見ているのかは常に考える事だ。そして予備動作と合わせればどこに攻撃してくるか分かる、まあ稀に視線と行動をズラすヤツも居るがな」
「なるほど、とすると八雲はズラす相手と戦った事があるのか?」
八雲はふと考える。
だがこれを言っていいものかと悩みだすが、一夏の真剣な表情から大丈夫だろうと決断した。
「1番強烈なのはお前の姉だな。あの人程やりにくい人も居ない、反応速度がおかしいにも程がある。先読みの先を行くとか反則だろ、2度と戦いたくないな」
そう言われた一夏はただただ頷くしかなかった。自分の行動を苦もなく読んで勝利した八雲が自分の姉を苦手としていた。
八雲がそうまで言う千冬に、勝てるビジョンどころか一撃当てる事すらも想像出来なかった。
(電話だ、出ないと殺す)
その時唐突にそれが響き、一夏は音の発信源を探ろうと辺りを見回した。
そしてそれが八雲の携帯だと認識し、その意外性に驚いた。
「もしもし?ああ班長か、分かった助かる。後1時間だな、了解。…あー、その話は後だ。ああ、了解だ今から向かう」
通話を切った八雲が一夏に向き直った。
「すまんな、午後からの予定だったが早まったらしい。今日はここまでだ」
「いや、元々無理を言って頼んだのは俺の方だしな。今日はありがとう」
そう言って立ち上がった一夏がドアへと歩いていく。
その時思い立ったのか、八雲は自分の荷物を漁りそれを一夏に投げた。
「おい一夏」
「な、おっと。これは?」
一夏が受け取ったそれを見ると、USBメモリだった。
そこにはガムテープで簡単に試合映像と書かれていた。
「それは俺の知り合いの代表候補生の戦闘スタイルを記録したものだ、お前が求める防御タイプのな。一応見ておけ、参考になる」
「ああ、ありがとな!」
満面の笑みを浮かべた一夏は、今度こそドア開け去っていった。
その姿を見送り、八雲は自分の支度に取り掛かったのだった。
「良し、外出届けを受理する」
「すいません、本来1年生はこの時期に外出出来ない所を無理言って」
「いや、今回は例外だ。お前の命に関わると知ってしまえば、ダメとは言えんさ」
八雲は千冬に外出届けを出しに来ていた。
本来なら男性操縦者であり新入生の八雲が外に出ると今はまだ混乱するからと、同じ理由で一夏も未だ禁止されていたのだ。
だが今回の外出は八雲の所属先であるトーラスへと行くだけであり、尚且目的が定期検診である。
受けなければ命に関わる大事な検診である故に、特例で許可されていた。
『織斑先生、トーラスから鷲崎君にお客様です』
「ああ、待合室に通せ。今2人でそこに居る」
『分かりました、向かわせます』
どうやら着いたようで、受付から千冬に連絡が来た。
そこから数分、雑談をしているとドアがノックされた。
「どうぞ」
「失礼する、待たせたな八雲。おや、そちらは世界最強ではないか」
入って来たのは白衣を纏った、目が死んでいる長身の女性。
胸に着けられたIDパスからトーラスの社員だと分かるが、それが無ければ不審者として通報されてもおかしくない程不気味な風貌だった。
「はじめまして世界最強、私はトーラス医療班班長『伊作美咲』まあ班長としか呼ばれてないから班長と呼んでくれ」
八雲と同じように顔に表情が無く、千冬は苦笑いを浮かべる。
「はじめまして、私は織斑千冬だ。世界最強と言う呼び方はあまり好きではないので、できれば勘弁して欲しいが」
「ふむ、そうか。よくデリカシーが無いと言われるが、この事なのか?すまない」
頭に疑問符を浮かべながらも謝る美咲。
その事にふと千冬は、今は殆ど会っていない親友の顔が思い浮かんだ。
「おっと、時間が差し迫っているのを忘れていた。すまない八雲、もう少し話しておきたい事もあるのだがな」
「いや、いいさ。班長が俺の担当医である以上、これが最後と言うわけでもあるまいし」
そう美咲に言う八雲。
Stalkerに乗る以上定期検診は必須であり、それの担当医である美咲が学園に来るのも必須である。
なれば千冬とも会うことはこれから先もあるのだから。
「では織斑先生。俺達はここらで行きます」
「ああ。道中気を付けるようにな」
先に出て行った美咲を追い掛けるように小走りで部屋を出ていく八雲。
その後ろ姿を見送りながら、千冬も仕事に戻る為歩き出した。
『スキャン完了。ナノマシン残量60%、規定範囲ギリギリの結果です。ナノマシン再充填プロトコルを開始中………』
トーラス本社へと戻って来た八雲は受付からそのまま医療棟研究室のベットに寝かされた。
ナノマシンの補充設備が揃っており、ベット脇の両側から動脈注射の為の注射設備がアームに着いていてAIの判断で充填される。
「八雲君どうだい、ナノマシンと言えど体に何かを入れる感覚は」
「班長…俺の体の事を知っていてその言葉は、流石にどうかと思うんだが」
八雲の体には痛覚が存在せず、その影響なのか感覚も結構鈍いのだ。
「ふむ、それもそうか」
ナノマシンの再充填が終わった八雲の手を取り、ベットから起こす美咲。
「ああ、そうだ。開発部門から八雲君を連れてくるように言われてな……連れてきた」
「ども〜、連れられてきました〜」
「班長…」
開発部門主任である伊作美咲の弟、伊作健が首根っこを掴まれてそこに居た。
姉の美咲とは違い感情豊かで温厚なイメージを抱かせる好青年であるが、それを全否定するかのようなマッドサイエンティストぶり。
八雲の機体Stalkerの設計、開発を手掛けたのが健だ。
「初期型PAの問題点を総ざらいして設計し直した改良型が出来たんで、丁度良く検診に来てた八雲を呼んでもらおうと思ったんだがなぁ」
「開発以来改良の為設計段階からやり直したPA装置が、ようやくか?」
「いやぁ、試作機を何度も作れる程の材料は無いしなぁ。核となる粒子ジェネレーターは作れたのが1つだけだしな」
PAを展開する装置に必要不可欠な物が粒子ジェネレーターである。
粒子ジェネレーターのパーツで健が2度と手に入らないと言わしめた物が使われており、PA装置を2つと作れない理由である。
それ故にNEXTも1機しか作れていないのだ。
「機体のメンテナスと同時に後で組み込んでおくから、開発部に顔を出してくれ。じゃ、またな〜」
そう言って去っていく健。
姉に連れて来られ2〜3話しただけで戻っていくという、何とも時間の無駄感があるのだがこの会社では割とよく見られる光景であった。
「さて、補充は終わったので行くと良い。次の定期検診の日程は過度な消耗が無ければ予定通り1ヶ月後だ」
「ああ、ありがとう班長。ではな、PAを組み込みに行ってくる」
そう言って八雲は退出し、開発部へと向かった。
「よう、来たな八雲。早速だが機体を展開してハンガーにかけてくれ」
開発部Stalkerハンガーにて、健は待っていた。
「さて、メインシステム接続。粒子ジェネレーター稼働、整波装置同調を確認。よし、稼働してみろ」
「了解、プライマルアーマー展開」
その瞬間、Stalkerの周囲を緑色のフィールドが展開される。開発以来Stalkerから降ろされていたPA装置がようやく戻って来た瞬間だった。
「PA出力安定、良いねぇ最高だ。八雲、どうだい?」
「稼働も安定している、試作型と出力も段違いだ。最初からこの結果が良かったがな」
「そう言うなって。粒子ジェネレーターの稼働テスト時点で安定性が皆無だったんだからよ、ここまで漕ぎ着けるのに相当苦労したんだぜ?」
健が言うとおり、試作型のPA装置は性能的にも出力的にも不安定であり初稼働時の被弾実験ではたった1発PAに当たっただけで粒子ジェネレーターの回路が
銃弾1発の質量ですら、試作型には大きな負荷がかかったのだ。
故に改良の為今までStalkerから降ろされていたのだ。
「さあ、早速だが被弾テストだ。前回同様同じ弾丸を使う」
「了解、準備は出来てる」
「では発射」
ズドン
固定化された試験用の銃座から1発の銃弾が発射され、Stalkerへと着弾。
その手前で、緑色のフィールドに阻まれて弾丸は融解消滅した。
「弾丸の消滅を確認。どうだ八雲、異常は無いか?」
「過負荷異常も検知されない、異常と言う異常は無いな。全システム良好だ」
「そりゃあ良い、これでNEXT計画は成功だ」
これでようやくスタートラインに立った、トーラスはようやく歩く事から走る事に移行したのだった。
取り敢えず10話目までのストックはあるので、投稿は出来ます。
出来ますがシャルロットのスパイやらなんやらの件が難しいのでもう少しお待ち