転生者は何を為すか   作:猫パン

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なんか随分間が空いた気がする


あ、感想欲しいです


第8話

第8話

 

 

 

 

「織斑君おはよー。ねぇ、転校生の噂聞いた?」

 

翌朝。

席に着いた一夏にクラスメイトが話し掛ける。

入学して既に数週間経っているのだ、流石に女子ともそれなりに会話出来ている。

 

因みにだが八雲はまだ教室に来ていない。

普段なら非常に早く来て本を読んでいるのだが、今日は珍しく遅かった。

 

「転校生?今の時期にか?」

 

まだ4月であり何故入学式に合わせなかったのだろうと考える一夏。

IS学園は転入条件がかなり厳しい。

国の推薦が無ければ入る事はできない位なのだ。

 

「そう!何でも中国の代表候補生なんだってさ」

 

「ふーん」

 

代表候補生と聞いて一夏は後ろの席のセシリアを見た。

彼女も代表候補生だからだ。

 

「あら、織斑さん。私を見ても何も情報はありませんわよ?同じ代表候補生だからこそ、他の候補生の情報を人に喋るのはご法度ですから」

 

「そうなのか」

 

「ええ、なので私からは何も言えません。まあ、公開されている情報なら別ですけどね」

 

そうセシリアが言った事で、頼みの綱が1つ切れる。

 

「どんなやつなんだろうな」

 

「む、気になるのか?」

 

「あ、ああ。少しは」

 

「ふん…」

 

一夏がそう答えると、箒の機嫌が悪くなった。

気が付かない一夏も一夏であるが、素直になれない箒も箒である。

それを見ていたセシリアだが、流石に溜息を隠せなかった。

 

 

「織斑君頑張ってね!織斑君が勝つと皆が幸せだから!」

 

「フリーパスの為に頑張ってね!」

 

そう。

クラス対抗戦の優勝賞品は食堂で使えるスイーツ無料パス1ヶ月分である。

スイーツに目がない女子にしてみれば、ぜひ欲しい物であるのだ。

 

「今の所専用機を持ってるクラス代表は1組と4組だけだから余裕だよ」

 

「ーーーーーその情報、古いよ!」

 

教室の入口からふと声が聞こえ、一斉にそちらを向いた。

ツインテールを揺らし、腕を組んで片膝でドアにもたれて居る少女が居た。

 

「2組も専用機持ちがクラス代表になったから、そう簡単に勝てると思わないでよね!」

 

「……鈴?お前、鈴か!」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音(ファン・リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

ふっと小さく笑みを漏らし、トレードマークのツインテールが更に揺れる。

 

「何格好付けてるんだ?すげぇ似合わねぇぞ」

 

「んなっ?!なんてこと言うのよ、あんたは!」

 

顔を真っ赤に染めて憤慨する鈴、それを見てもしかしてと察するセシリア。

好きな人に恥ずかしい姿を見られて言いようのない感情を好きな人に当たってしまう、そんな感じに見えたのだ。

 

「罪作りな人ですわね…」

 

ボソッとセシリアは呟いた。だがその呟きは、ワイワイと賑やかな喧騒にかき消され聞こえた者は居なかった。

 

「そこな少女、入口を塞がれると通れないのだが」

 

ふと鈴の後ろから聞こえた男の声。

真っ黒い制服を着ているのはただ1人、そこに居たのは八雲だった。

そしてその後ろに佇む千冬。

この構図からしてどこからか一緒に歩いて来ていた事が分かる。

 

「うっさいわね、ドアなら後ろにもあるんだからそっちを使いなさいよ。私は一夏と話してるんだから」

 

そんな八雲の言葉を切って捨てる鈴。

いや、そもそも八雲を見なかった時点で眼中にないと言っているようなものだった。

それに困った八雲は、後ろに居た人影に声をかけた。

 

「織斑先生、俺面倒事は苦手なのであとは任せても良いですかね?」

 

「お前なら対処出来そうなものだがな」

 

「面倒事は勘弁ですよ、お願いします」

 

八雲と入れ替わるように千冬が鈴の背後に立った。

 

「おい」

 

「何よ!?うっさいわ…ね…」

 

バシンッ!

聞き返しながら振り向いた鈴だが、振り向いた瞬間に察したがもう遅い。

千冬の強烈な出席簿攻撃が炸裂し、鈴は目を回した。

 

「もうSHRの時間だ、お前は2組だろう。さっさと戻れ、そして入口を塞ぐな。邪魔だ」

 

「ち、千冬さん…」

 

「織斑先生と呼べ。あと目上の人には敬語を使え馬鹿者」

 

先程八雲の言葉を切って捨てた事に千冬はご立腹であった。

年上は敬うものだと思っている千冬だからこそでもあった。

 

「すみません……一夏!また後で来るから逃げないでよね!」

 

「さっさと戻れ、もう一発行くか?」

 

「は、はい!戻ります!!」

 

そう言って2組へと戻っていく鈴。

 

「お前も座れ、鷲崎」

 

「了解」

 

立ち去っていく鈴を見ながら八雲も教室に入って行く。

 

「一夏、今のは誰だ?知り合いか?えらく親しそうだったが?」

 

「あ、いや。えっと箒?」

 

八雲が教室に入ってすぐ、箒が一夏に詰め寄っていた。

その他気になったクラスメイトも一夏に詰め寄って質問攻めしていた。

 

「座れ馬鹿共」

 

バシン。

一発分の音だけ響き、立っていた全員の頭に対人宝具(出席簿)が炸裂した。

 

「…フフ」

 

この日常、この場面を見て笑ってしまうのは仕方のない事。

だからこそ、セシリアは笑いを堪えるのに必死だった。

 

バシンッ

 

「イッ?!何故ですの!?織斑先生!」

 

「人の不幸を笑っていた気がしたからな」

 

「理不尽ですわ!!!??」

 

 

 

 

 

午前の授業も全て終わりお昼休み。

箒が一夏に突っかかり、何やら言い合いしている。

そんな中八雲は、お昼の為に教科書類を片付けていた。

居ないとは思っているが、もし何かが無くなるなんてことが起きてからでは遅いのである。

 

「あの八雲さん、お昼ご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

そんななか、セシリアが八雲をお昼に誘った。

あの1件以来セシリアは八雲との仲を少しでも深めようと積極的に話し掛けていた。

一度出来た印象を払拭する為に、セシリアは奮闘していた。

 

「あ、私達も良いですか?」

 

そこには佳奈、清香、ほのかの3人が居た。

 

「ああ、良いぞ」

 

「やった!」

 

八雲に比較的近いこの3人が声を掛けてきたのは、セシリアにとっても渡りに船だった。

八雲と1対1で話すのに未だ恐怖心が勝る為、そばに誰かがいる状況がありがたいのだ。

 

「ありがとうございます、3人共」

 

「気にしないでオルコットさん、皆仲良くだよ」

 

「そうそう、オルコットさんとも仲良くしたいし」

 

3人の優しさに瞳が潤むセシリア。

当初クラス内でギクシャクしていたセシリアも今や受け入れられ、セシリア自身もそれに感謝しつつクラスメイトと交流をしようと奔走しているのだ。

隣で言い合いをしている箒と一夏を横目に、4人で食堂へと向かう八雲。

 

未だ緊張するセシリアを3人がフォーローし、八雲との会話が成り立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

4人で食堂へと着くと、何やら騒がしかった。

よくよく見れば先程クラスの入口で格好付けていた件の中国代表候補生《凰鈴音》と一夏、そして箒が何やら言い合っていた。

 

 

「ねえ、やっぱりあの2人って織斑君の事…」

 

傍から見ても簡単に察する事が出来た清香は、小声で話し掛ける。

 

「ええ、恐らく確定ではないでしょうか。織斑さんを見るあの2人の目、恋する乙女としか言いようがないですわよ」

 

「そうだよねぇ。でも織斑君もなんで気が付かないんだろう、結構あの2人分かりやすいと思うんだけど」

 

人の恋路は、傍から見ると何とも面白いものだ。

応援するも、微笑ましく見守るも。

邪魔さえしなければ、馬に蹴られて死ぬ事もないのだから。

 

「あ、あれが俗に言う鈍感ってやつかな」

 

「あそこまで好意を向けられて気が付かないのも稀だろうな、見ていて面白いから退屈はしないが」

 

「もう、鷲崎さんってば。人が悪いですよ」

 

話しながらも着々とご飯は減っていく、八雲等既に食べ終えている位だ。

 

「ねぇ、あんたが2人目?」

 

そんな中、いつの間にやら来ていた鈴が八雲に話しかけた。

 

「ああ、どうやらそうらしいな」

 

「ふーん」

 

品定めするかのように八雲を見る鈴。

一見して優男のように見えるが、基本的に覇気がない八雲。

鈴から見た第一印象は弱そうだった。

 

だが事前情報で八雲が一夏と、同じ代表候補であるセシリアを圧倒的な技量で下しているのを知っている為、最終評価的にはよく分からないやつとなる。

 

「中国代表候補生、凰鈴音よ。よろしく」

 

「トーラス企業代表、鷲崎八雲だ。よろしく凰鈴音」

 

一応の笑顔を浮かべて握手をした鈴だったが、一方の八雲の笑みは引きつっている為セシリア達は苦笑いを隠せなかった。

 

「へぇ、あんたがあの変態企業(トーラス)の企業代表なんだ」

 

「へ、変態?」

 

鈴の放った一言に八雲以外の一同は首を傾げる、その様に八雲はなんとも言えなかった。

 

「そ、変態。造る武器造る機体、全てが浪漫と実用性を合わせたもので何より使い手を選ぶ。好みもあるだろうけど、それで付けられた名前が変態企業」

 

「あ~、だから変態企業なんだ」

 

トーラスの商品カタログを見たことがある3人は思わずと言った感じで頷く。

だがセシリアは日用品系列でしかトーラスを知らなかった為、八雲が勧誘用に持っていたカタログを見せてそれを実感した。

 

「まあ反論出来んな、うちの技術者は可笑しい奴らだし。こんな機体を造る奴も居るしな」

 

そう言いながら右腕の腕時計を撫でる八雲。

 

「Stalkerだっけ?何なのよその機体。試合映像見たけど、本当に頭可笑しいんじゃないかと思ったわよ。あんな機動、廃人になってもおかしくないわよ」

 

「否定出来んな」

 

セシリア対八雲の模擬戦の映像がブルー・ティアーズとStalkerの目線映像として一部代表候補生へと公開されており、最早何をやっているかほぼ分からなかった程だ。

 

「じゃあ私は行くわ、じゃあね」

 

挨拶するやいなや、鈴は走って食堂を後にした。

まさに嵐のような少女だった。

 

 

 

 

 

その日の夕方、涙を流しながら走り去る鈴を寮の廊下で見かけた八雲だった。

 

 

 

 

 

 

 

あれ以来不機嫌な箒や鈴をよく見るようになった八雲、全て一夏が居るときに起こっている事から色恋沙汰だと言うことは分かっていた為放置していた。

他人の色恋沙汰等に下手に干渉するとろくな事にならないと思っている為であるが、面倒事になるかもしれないと言うのが主な理由であった。

既に数週間立ち5月に入っているにも関わらず3人が言い合っているのを見ている為、もう既に見守る事をすら面倒になっているのだ。

3人で一夏を取り合い、訓練も何やらゴタゴタしている為、八雲が教える前に鈴や箒に一夏は引っ張られる。

教える時間等ほぼ無かった。

 

 

そんな折クラス対抗戦のカードが2日前に発表になり、対戦カードが初戦1組対2組であった。

 

 

そして現在、八雲を含めたいつものメンツで観戦席に座っていた。

噂の新入生同士の戦いとあってアリーナは満員御礼、それどころか通路やアリーナ外のリアルタイムモニター等で観戦する生徒で溢れていた。

 

そんな中2人が入場して客席が沸き立つ。

空中にて向かい合う2人の間には緊張感が迸り、それがなお客席からの期待感を溢れさせる。

 

 

「鷲崎さんはどっちが勝つと思います?」

 

予想をし始める清香が八雲に振り、他のメンツも考える。

全員一夏の努力も機体性能も知っている為一夏と答えたいのが、鈴の事を知らないということが悩みどころだった。

 

「さあどっちか、それにしても凰鈴音ねぇ…来歴凄いな、1年ちょっとで代表候補生になっているのか」

 

「えぇ!?本当ですの!?」

 

同じ代表候補生であるセシリアが驚愕を露わにする。

代表候補生と言うのはそう簡単になれるものでは無いのだ。

セシリアや他の候補生ですら、代表候補生になるまでに3年あまり掛かっているのだ。

他の候補生が時間かかり過ぎと見るか、それとも鈴がずば抜けていると見るか。

 

「とんだ才覚の持ち主だと思うが、果たして一夏が勝てるかどうか。一夏にとって強敵だろうさ」

 

そう言った八雲が視線を移すと、2人が何やら話す声が聞こえた。

 

『一夏、今謝るなら許してあげる。少し痛めつける程度にレベルを下げてあげるわよ』

 

『雀の涙程度の手加減だろ?そんなのいらねぇよ、全力で来い』

 

鈴の挑発に乗らず、冷静に返す一夏。

て言うか一夏よ、まだ喧嘩していたのか。

 

『ねえ一夏、一応言っておくけどISの絶対防御も完璧じゃないの。SE(シールドエネルギー)を突破する攻撃力があれば本体にもダメージを貫通させられるのよ』

 

鈴のその言葉に、一夏は息を呑む。

 

実際世界では操縦者に直接ダメージを与える為だけの装備も開発されている。

トーラスでもそれは造られており、その威力はまさに絶大。

一撃でSEを全て消し飛ばせる威力だった。

 

アラスカ条約違反だとも言えるのだが、そもそも守っている国の方が少ないだろう。

 

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

ビーッと鳴り響くブザーとほぼ同時に、一夏と鈴は動いた。

 

ガキンっ

 

重量級のそれが一夏の雪片弐型を純粋に重量差で押し返す。

 

それを不利と悟った一夏は瞬時に後退し、鈴を正面に捉えた。

 

『ふぅん。初撃を防ぐなんてやるじゃない。まあでも…』

 

ガシャンと、もう片方の青竜刀の柄同士が連結され1つのバトンとなる。

両端に刃の付いたそれを、縦横無尽に振り回し高速回転するそれを一夏へと叩きつける。

 

細身の雪片では、受け続ければ刀身を壊してしまう可能性が頭に過ぎったが抜け出そうにも攻撃が苛烈過ぎて段々と焦りが出てくる。

 

そこで一夏は八雲の言葉を思い出した。

 

《(焦るな、鈴のペースに呑まれるだけだ。集中しろ、目を見れば攻撃を予測できる筈だ)》

 

剣戟を辛うじて避けながら呼吸を整え、一夏は剣先だけを追うのを止め鈴の目を見始めた。

 

『っ!?』

 

想い人に見つめられる。

鈴にとって恥ずかしいという感情が沸き立ち、同時にその決定的な隙きを逃さず、一夏は距離を取った。

スーッと一夏の目が更に細くなり、自然態へと近づいていく。

 

自分のペースを乱した鈴は、一夏のペースに呑まれまいと焦り早速切札を切った。

肩アーマーがスライドし、中央に鎮座するその球体が光る。

その瞬間、一夏を見えない何かが襲う。

 

《龍砲》

空間に圧力をかけ砲身を精製し、同じく圧力をかけた砲弾を発射する砲身も砲弾も見えない第三世代兵器だ。

 

 

既の所で避けた一夏を再度強襲する何か、だが目を見続ける一夏はほとんどギリギリで避ける事が出来たのだ。

そしてそれが、鈴を更に焦らせる。

自分の切札が一切当たらない、鈴にとってペースを乱したとき以上に焦った。

 

『あーもう何なのよ!?砲身も砲弾も見えない筈なのに、何で避けられるのよ!?』

 

『……』

 

憤慨する鈴が一夏に向けて更に龍砲をぶちかます。

だが見えない砲弾をまるで見えているかのように無言で避ける一夏に、鈴は焦りを募らせる。

 

『何か言いなさいよ、この馬鹿!?』

 

『……』

 

憤りを隠せず感情のままに龍砲に一夏に乱射するが、それでもなお当たらない。

 

「ほう、驚いた。たったあれだけであそこまで変わるか」

 

一夏の変わりように目を見開いた八雲。

軽く助言しただけでここまで動けているのだ。

 

「八雲さん、もしかして織斑さんに何かお教えに?」

 

「時間が無かったから助言だけだがな、相手の目を見て行動を予測しろとしか言っていない。だがあそこまで変わるとは元々何かしら持っていたのだろうな、もう既に超集中(ゾーン)に入っている」

 

模擬戦中でも少しは喋る一夏が今は一言も喋らず、常に相手の動向を見ている。

訓練時の一夏を知っている人からすれば、その変わりように驚愕だった。

 

 

『八雲君!!未確認の熱源がアリーナ上空にーー!!』

 

 

ズドォォオオォン!!!

 

楯無からの通信が終わる前にアリーナを轟音と衝撃が襲った。

 

その光景を見て、忘れていた原作知識が蘇った。

そして八雲が状況把握した瞬間にアリーナ出口にある隔壁が下り扉が全てロックされていた。

 

そしてアリーナ中央の砂埃が完全に消えると、そこには全身装甲の不明機が鎮座していた。

 

上空にはアリーナのシールドに大きな罅が入り、大穴が空いている。

そのことから侵入してきた不明機だと理解するのにそう時間はかからず、観戦席が大パニックになるのは当然だった。

 

「皆落ち着いて!!!」

 

この場に居る唯一の代表候補生であるセシリアが声を張るが、全員に広がったパニックは終息することなく伝染していく。

そんななか八雲は拡張領域にしまってあるノーパソを取り出し、千冬へと個人秘匿通信(プライベートチャンネル)を繋げた。

 

「織斑先生」

 

『何だ鷲崎、生憎とこちらは忙しい。用がないならーー』

 

突如千冬の居る管制塔の権限が全て乗っ取られた。

それも外部からやってきた不明機よりも上位の権限による外部からのハッキングだ。

それと同時に照明も落ち、一層の事パニックが広がって行く。

 

Stalkerとケーブルで繋いだPCにより、八雲は冷静に観戦席にあった通信ポートを開き端末を接続。そこから無類の演算速度でハッキング返しをしていく。

 

「俺が今からやる事を全て黙認して貰えれば、あと1分程で全権限を取り戻せますがどうします?」

 

『……分かった、責任は私が取る。早急に取り戻せ』

 

『お、織斑先生?!』

 

通信で真耶が慌てる声をバックに、八雲は腕時計を触った。

 

「侵入開始」

 

Stalkerが光を放ち、端末やパソコンには目まぐるしく表示される0と1の羅列。

八雲は視線を感じながらもキーボードを叩いていく。

 

傍からみて何をやっているのか、清香達には全く分からない。

 

 

「さあゲーム開始だ、糞兎」

 

カタンと、エンターを叩いた音が響き。

数秒後に下りていた隔壁やドアロック、更には遮断シールドレベル4すらも解除されピットも入口が開き、管制塔の権限も元に戻った。

 

『良くやった鷲崎。オルコット、近くに居るか?』

 

「はい、八雲さんの隣に」

 

『そうか。そこからならピットが近いな、織斑の援護に向かえ』

 

「了解ですわ。ーーでは八雲さん、行ってきますわ」

 

セシリアの言葉に片手を上げて返事をし、なおもキーボードを叩き続ける音は止まらない。

学園を介し侵入してきた経路を強引にこじ開け、侵入を開始した大本のパソコンまで辿り着く気である。

 

「ッチ、アイツめ。一時的に開いただけの経路で良くもまあここまで荒らしたものだ」

 

八雲が辿り着いた瞬間に開かれていた経路は閉じ、回線を締め出された。

 

「一足遅かったか。だがまあ、届いただけで良しとしよう」

 

八雲が顔を上げると、ちょうど不明機がセシリアの銃撃により機能を停止するところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遮断シールドを突き破ってアリーナに侵入した不明機。

それを冷めた目で見る一夏。

未だに超集中状態が続いている為、現状把握が凄く冷静に行えた。

 

《所属不明機を確認、ロックされています》

 

白式がハイパーセンサーへと緊急通告を飛ばしてくる。

 

『一夏!試合は中止よ!すぐにピットにーー』

 

鈴が一夏へと叫ぶのを最後まで聞かずに一夏は鈴に向けて走り出し、鈴へ向けて放たれた砲撃を抱えて回避する。

 

『織斑!無事か!?おい!?』

 

「……」

 

『返事をしろ一夏!』

 

「あ、千冬姉…」

 

千冬が管制塔から一夏に呼びかけるが、一夏の反応はかなり鈍かった。

そして千冬の2度の呼びかけにようやく反応し、超集中状態が解ける。

それと同時に、言い得ぬ疲労感が一夏を襲い倒れかけた。

 

「ちょっと!倒れるなら抱えるんじゃないわよ!?ぶっ飛ばすわよ!」

 

「あ、ああ。悪い…」

 

そう言って鈴を降ろす一夏。

降ろされた鈴は顔を紅くしながらも、乱入者へと視線を向けた。

 

『織斑、凰。無事か?』

 

「あ、はい。怪我は無いです」

 

『そうか。なら良い、現状を説明する。現在アリーナ入口やピット、管制塔や隔壁等のドアロック遮断シールドもレベル4に設定され教員部隊も突入できない状況だ。3年の精鋭が今ハッキングで取り返そうとしているがもう少しかかる、酷な事を言うようだが暫く耐えて欲しい』

 

千冬の言葉に2人して顔をしかめる。

 

相対した一夏だが不明機は砲撃以来動かない。

それがまた不気味さを醸し出し、恐怖感を煽る。

 

「おい、お前何者だよ」

 

「…………」

 

当然不明機は反応しない。

それどころかその場から動こうとしない。

 

「もしかして…」

 

それを見て一夏はとあることを思いつく。

突如として横に走り出た。

 

「ちょ、一夏!?」

 

「動くな鈴!ちょっと試したい事がある!!」

 

そう言った一夏を、不明機は砲口を合わせて追っていく。

ズサーと一夏が突如立ち止まると不明機の砲口も止まる。だが砲撃は来ない。

 

「やっぱり……」

 

一夏が何かを確信したように頷く。

そんな中一夏の開放回線(オープンチャンネル)が音声を拾う。

 

『織斑先生、鷲崎君から通信です。繋ぎます』

 

『ーー何だ鷲崎。生憎とこちらは忙しい、用がないなら』

 

『織斑先生!?またハッキングが、今度は外部から!?』

 

そんな中、煌々と点いていたアリーナの明かりが全て消えた。

 

それと同時に止まっていた不明機も動き出し、一夏もそれに合わせて鈴と合流を開始した。

 

 

「鈴。これは勘なんだが、アイツには人が乗っていない気がするんだ」

 

「はぁ?!何言ってんのよ、今だって普通に動いて攻撃しているじゃ危なッ!」

 

先程まで止まっていた不明機も普通に攻撃しているため、鈴は一夏の勘を否定する。

 

「うおっ。さっきまでは俺や鈴が動いた時だけアイツも動いてたんだ、だが今さっき外部からハッキングを受けたって山田先生が言ってたんだ」

 

「で、無人機が遠隔操作されてるって思ったわけ?」

 

鈴は一夏に怪訝な顔を向ける。

だが一概に否定出来ない為、鈴もそうじゃないかと思い始める。

 

「無人機なら出来るとでも?」

 

「ああ、無人ならこいつで…全力でたたっ斬れる」

 

シャキと、雪片を構える一夏。

零落白夜

 

一夏の専用機である白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)の効果であるバリア無効化攻撃であれば無人機だろうとSEごと両断出来るだろう。

その代わり欠点として自分のSEを消費するという、諸刃の剣である。

 

「それは良いけど一夏、エネルギーは残ってる訳?」

 

「ああ、350程」

 

「…なんであんたの方が多いのよ」

 

鈴の残存エネルギーは180。

一夏と約倍近い差があった。

 

「いやまあ、当たってないし……ごめん」

 

「申し訳なさそうにすんじゃないわよ!!余計腹立つのよ!!?」

 

小声で叫ぶ高等技術で鈴が憤慨し、謝る一夏を見て更に腹を立てる悪循環。

 

そんな折消えていたアリーナの電気や、隔壁等が開いていき不明機も動きを止めた。

 

「今だ!鈴、アイツに向かって衝撃砲を最大出力!!」

 

「うっさいわね、分かってるわよ!!!」

 

残った全エネルギーを焚べる勢いで消費していき、龍砲がガタガタと揺れる。

充填限界へと達したエネルギーが臨界寸前で発射口に溜まっているのだ、長時間は溜められない。

 

「撃つわよ!!!」

 

ズガンッ

 

見えない砲弾が轟音を立てて発射され、射線上に一夏が躍り出る。

 

「なっ?!一夏!?」

 

「うぉおぉお!!」

 

今にも爆発寸前のエネルギーが背中に着弾寸前、一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動させる。

 

 

瞬時加速とは放出したエネルギーを再度取り込み圧縮、それを放出することで爆発的なエネルギーで加速するものだ。

自分で外部に出したエネルギーを取り込めるなら、外部からやってきたエネルギーでもいいということである。

そして瞬時加速の速度は取り込んだエネルギー量に比例する為、臨界寸前のエネルギーを取り込んだ場合の速度は最早桁違いである。

 

 

外部から取り込んだおかげで自前のエネルギーはほぼ残っており、そのお陰で零落白夜を最大出力で展開出来た。

 

当たれぇぇええぇえ!!!!

 

だがその斬撃は砲口のある右腕を肩から両断しただけに留まり、不明機によって一夏は殴り飛ばされる。

そして全エネルギーを込めた上で攻撃を喰らった影響で、白式は強制解除される。

 

「一夏っ!?」

 

「くっ!」

 

肩口から火花を上げながらも一夏へと近付いてくる不明機を、一夏は睨みつける。

 

『全く。無茶し過ぎではありませんか?織斑さん』

 

その時不明機の胸辺りをレーザーが貫いた。

結構な出力で撃ったらしく、その大きく開いた穴からオイルらしき黒い液体が流れ出て肩口の火花に引火して盛大に爆発を起こしていた。

 

「セシリア!?」

 

ピット入口。

そこにはスターライトMarkⅡを構えているセシリアが立って居た。

 

『何にせよ、これで終わりですわね』

 

 

クラス対抗戦はこうして幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜

 

八雲の部屋に千冬がやって来て、あることを告げた。

 

来月転校生が来るため、部屋替えだと。

 

そのため千冬は楯無を急かして荷物を纏めさせると、荷物事連れて行った。

 

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