ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
「……というわけなんですけど」
アウラムの森を抜け、シルド街のオルドの家に戻った俺はさっそく診察を受けていた。実のところ、俺は早々に引きあげようと思ったのだがアーメスがいつの間にかすっかりリッカに懐いてしまい、リッカの膝の上で寝てしまったのだ。なのでアーメスが起きるまでの間、オルドに話しを聞いてもらうことになった。
「ううむ……世界中に散らばった記憶……ううむ」
オルドはあごひげをさすりながらひたすら唸っている。やはり今の医療では俺の記憶についてはお手上げなんだろうな。
「……おもしろい」
「へ?」
「面白い、実に面白い!今まで何千人もの患者を見てきたがここまでワシの好奇心をくすぐる症状を持っているのは君が初めてじゃ!」
オルドは俺の手を両手で握りぶんぶんとふる。
「は、はあ?でも、何か分かるんですか?」
俺の言葉にリッカがむっとしている。何故にこいつはそんなにオルドを信用しているんだ?
「はっきりとした答えは分からん!だが仮説はいくつか立ったぞ!」
「仮説?」
「うむ。まずは君の記憶がどのようにして戻るのかじゃが、話しを聞く限り何かを破壊した時、誰かに致命傷を与えた時のどちらかじゃろうとワシは思う」
なにかを破壊した時、それはレイモンドのアジトを全壊させたときにそこにあった特定の何かに俺の記憶の断片が封印されていたということだろう。次に、誰かに致命傷を与えた時と言うのはレイモンドを瀕死にした時の事、つまりはレイモンド本人に記憶の断片が眠っていたということか。
「じゃが、どちらにしとも疑問になるのはなぜその物体か人に君の記憶が眠っていたかと言うとこじゃな」
「……そうなりますね」
「君はワシの出した本を読んだかの?」
そう言えばラスティがオルドが本を出したと言っていたな。
「その反応は読んどらんようじゃの。それじゃあワシの本に書いてある『新たな魔法』について少し講義しよう」
あらたな魔法?
「まず始めに、この世界に存在する5属性の魔法はどれももともとは戦うための力だった。はるか昔の種族間戦争の際、魔法石が発見され、エルフ族が初めて風の魔法を使ったのが始まりじゃ。だからこそ、魔法は万能では無かった。もっともそのおかげで医療が発展しワシはそれで飯をくっとるわけじゃがの」
それは俺も本で読んだ。マテリアルマジックを戦いではなく鍛冶や料理なんかに使い始めたのはほんの60年前だと。医療が発展したのは人の傷や疾患を回復するための魔法が発見されなかったからだと。
「じゃが、魔法の属性が5つしかないというのは固定観念でしかない。現にあのオリバーシルキタスは光属性魔法を発見しとるしの」
「そうですね」
「じゃが、ワシが発見したのはその属性魔法とは別の、『ワンスマジック』つまりは固有魔法じゃ」
「ワンスマジック?」
「そう、人のなかには魔力が宿っており、それを使って放つスピリチュアルマジックがある。ワンスマジックはそのなかでも属性のない属性、まあ無属性として、その無属性の魔力をつかって発動する魔法じゃ」
無属性ときたか。それは考えもしなかったな。
「ワンスマジックには様々な種類があるが、その一番の特徴は同じ能力の魔法を持つ者はいないという事じゃな。」
「なるほど……ちなみにオルドさんはどのようにその理論を?」
「良い質問じゃ。じつはワシの知り合いに死体の解剖を行っている医師がいるのじゃが、そいつが脳の解剖をした時に脳に異常な魔力の跡があるのを発見しての」
「それが無属性の魔力だったってことですか?」
「うむ。そしてその後ワシが様々な脳を調べた結果、その魔力を使った固有魔法の存在を発見したんじゃ」
「なるほど……」
「話しを戻すと、君の記憶は『記憶を操る』ワンスマジックによって散らばったという仮説が立つのじゃ」
記憶を操る魔法。たしかにオルドの理論通りなら十分あり得る仮説だ。
「ちなみに、他のワンスマジックはどんなものがあるんですか?」
「そうじゃのう、ワシが調べた中だと『非金属を金属に変える』、『近くのものを引きよせる』、『モンスターの魔力を感知する』といったところじゃな。なにぶん珍しい魔法故あまりサンプルが無いんじゃが」
そんなに多様だともはやなんでもありな気がするが魔法以外でひとの記憶を散らばすことができるとは思えない。
「まあ、あくまで仮説じゃ。ここからそれを証明しなくてはの」
そういってオルドはまるでいたずらをする子どもの様な顔で俺ににじりよってきた。
「え?え?」
「君の脳を徹底的に調べさせてもらうぞい!」
「ちょ、ま、まってくれ!おいリッカ、なんとかしてくれ!」
「しー。アーメスが起きちゃうでしょ」
そもそも俺は起きるまでの間診察を受けつもりだったんだが……。
「さあ、ライア君!研究じゃ!ほーほっほっほ!」
おのれリッカのやつめ、いつか仕返ししてやる……。
その後俺は奥の部屋でめちゃくちゃ診察された。
***
その日の夜、やっと解放された俺は宿で寝ていた。とはいっても一つしかないベッドはリッカが使っているので俺は床に受付からかりたタオルケットをかけ部屋にあった座布団に頭を預けている状況だ。
夜も更け、俺の意識が夢に旅立とうとしていたころ、なにか物音がして目が覚めた。何だろうと思い起き上がり周囲を見渡す。するとベッドの上にはリッカの姿は無かった。そして良く見ると扉が半開きになっていた。
――あいつ、こんな時間にどこに行ったんだ?
こんな時間だと飲食店や本屋も閉店しているはず。すこし気になったので俺も部屋から出る。
階段を下りて行くと、3階と2階の間の踊り場にリッカはいた。換気のために開けられた窓から空をみる彼女の顔は月明かりに照らされ、そして――。
――その目には涙が浮かんでいた。
「お母さん……わたしは……」
リッカの声は聞き取れなかったが、なにかいつもとは違う雰囲気だ。今はそっとしておいた方がいい。そう思いそっと階段を上がる。
――みしっ
が、この階段はなにをとち狂ったか最悪のタイミングできしんだ。当然その音はリッカの耳にも聞こえており、彼女はびくりとしつつこちらへ振り向く。
「よ、よう」
「……!」
リッカは慌てて袖でなみだを拭う。
「な、泣いてないから!」
「どうどうと自白してるぞそれ」
「っ!わ、忘れなさいよ!絶対よ!?」
「分かった、夢だったことにする」
そう言って階段を上がろうとするとリッカが俺の腕を掴みそれを止めた。
「なんだよ、めんどくさい夢だな」
「すこし、ここにいて」
「……わかった」
それから10分くらいは俺もリッカもただ星を見ているだけで会話は一つも生まれなかった。流石にこのまま無言はつらいと思い俺は口火をきる。
「「あのさ」」
しかしその声はリッカの一言一句ちがわない言葉と重なってしまった。
「なんだ?」
「あんたこそなによ?」
「これ、無限に譲り合うパターンだな」
「じゃあ、アンタの話を聞くわ」
「それじゃあ聞くけど、お前がオルドさんを推したのはワンスマジックについて知っていたからか?」
「まあ……ね。ワンスマジックって名前は初めて見たけど、魔法自体は見たことはあるから」
「いつだよ?」
「……昔」
なんだかリッカ表情が曇ったので別の話題を探す。
「そういえば、いつの間にかアーメスと仲良くなってたな。てっきり子どもきらいだと思ってた」
「べつに嫌いじゃないわよ、ただ……」
そこでリッカは言い淀む。何の話しをしても表情が変わることは無さそうだな……。
「俺の話しは終わりだ。お前の話しは?」
「別に、アンタにしても仕方ない話しよ」
そう言ってリッカは窓辺からはなれ、階段を上り始める。
「お、おい。その終わり方は卑怯だろ」
だが、俺の言葉は彼女には届いていないようだった。後に残された俺は仕方なく窓から再び星を眺める。
「まあ、いつか話してくれるときがあるかもな……」