ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
絶句する騎士たち、そんな事はお構いなしに雄たけびを上げる紫色の怪物。あのモンスターはなんだ?ウインドコングと似たような姿をしているが、それらとは全く違う迫力がある。なにより、アイツもさっきの俺の一撃を喰らったはず。なのに生きているという事はアイツはウインドコングとはまったく違う別の生命体ということか?
「あれは……エンペラーコング……」
いつの間にか俺の隣にやってきた団長が呟く。
「エンペラー……コング?」
俺の声になっているかもわからない声に団長はこちらを向く。
「おお!少年か!さっきは民間人だと勘違いしてすまなかったな!まさかあんな魔法を使える戦士だったとは!待っていろ、すぐに救護を……」
「その前に……あいつは……?」
「あれは……エンペラーコングよ……」
その声の主は俺の後ろで倒れていたはずのリッカだった。
「お前……!大丈夫なのか?」
「あんたこそ……魔法石一個半も食べてよく生きてるわね」
「はは……」
「で、話しを戻すけど……あれはエンペラーコング……ウインドコングの上位種よ……」
まあ、そんなことだろうとは思っていたが、エンペラーと言うからにはウインドコングとはかなりの差があるのは間違いない。魔法の属性は知らないが、既に半壊している騎士団はおろか、俺にもリッカにももう戦えるだけの力は残っていない。
「くっ……ここまでなのか!……もはやこれも無意味か……」
団長は腰にひっかけていた袋から何かを取り出す。
「それは……?」
「あ、ああ。これは王都の研究者たちが先日完成させた“人工魔法石”だ」
人工魔法石?そんなものが作れるのか?
「だがこれは試作品でな、一応預かってきたのだが……これではな……」
「その魔法石……どんな効果が?」
リッカの問いに団長は苦笑いする。
「一応、使ったものの体力を多少回復できるらしいが、今誰かに使ったところでな……」
「……!それ、貸しなさい!」
「は?いや、だからこの状況では……」
首をかしげる団長の手から人工魔法石を奪い取ったリッカはそれを俺に向ける。
「おい……何を……?」
「アンタの体力を回復する」
「そんなこと……しても……」
無意味だ。俺の体力は回復するかもしれないが、その魔力までは回復しない。絞りカス同然の魔力でどうしろって言うんだ。
「でも、これに賭けるしかない!アンタの体に残った魔力に!じゃないと……全員……」
リッカの瞳からは涙が流れている。全く、世界中探してもお前ほど泣いてるつらが似合わない奴もいないよな……。
「……分かった」
「行くわよ……!はあっ!」
掛け声とともに魔法石から光が俺の体へと流れるように放出される。それと同時に、自分の体に生気が戻るのが分かった。俺は、その体力に頼りなんとか立ち上がる。
「ライア……!」
「で、どうすんだよ……?」
「アンタはさっきと同じようにアイツに魔法を打てばいい。後ろからわたしが魔法をうって、その炎を増大させる」
確かに、炎属性の魔法に風属性の魔法をぶつければ炎は増幅する。要するに連携攻撃ってことだが、この瀕死の俺たちが試したことのない連携攻撃をやってアイツを倒せるのか?
「どうしたの?……ビビった?」
「うるせえよ……どっちみち他に道は無いんだ。その賭けに乗った」
「じゃあ、行くわよ?」
「おう……」
弓を構えるリッカの前方で俺は再びエンペラーコングの方を向き、さっきと同じように魔力を口に貯める。だが、やはりその量はたかが知れている。このまま打ったところで……。
――ドクンッ!
その時、俺の体の中でなにかが唸った。それと同時に俺の口の中に、今までとは全く違った魔力がたまって行く。
――何だこれ? いつもとは違う感覚だ。理由は分からないが魔力が沸いてくる。これなら……行ける!
「うおおおおおおおおおお!」
俺の口から再び莫大な量の炎が放たれる。だが、それは今までの『赤い炎』ではなく、『青い炎』だった。
「はあっ!」
そしてその後方からリッカが打った風の矢が飛んでいく。その風の大きさは俺の炎とほとんど同じだった。リッカが相当無理してその魔力を開放したのは明らかだった。
――だからこそ、この一撃を無駄にするわけにはいかない
リッカの風と俺の青い炎はまるで始めから一つだったかのように混ざり合い、倍の大きさの炎となってエンペラーコングへと向かっていく。
「「行けええええええええ!」」
俺とリッカの声が重なる。エンペラーコングはなにか抵抗しようとしたが、それを待たずに俺たちの炎が奴に襲いかかる。
だんだんと炎が消えて行く。だがそれは、奴に消されたわけではなく、奴を……跡形もなく吹き飛ばしていた。
「やった……のか?」
隣で聞こえる団長の間抜けな声は、だんだんと歓喜に満ちて行った。
「やったぞオオオオオ!」
「オオオオオオオオ!」
倒れた騎士も、膝をついた騎士も全員が歓喜の声を上げた。そんな声をよそに俺は仰向けに倒れる。
「また1週間も寝る気なの?」
俺を上から見下ろすリッカは相変わらず生意気な言葉をかけてくる。
「あのなあ……」
「ま、あんたのおかげでみんな助かったし、はい」
そう言ってリッカは俺の方に手を差し伸べる。
「おう」
俺はリッカの手を取り起き上がる。……なんかこの感じ久々だな。前にもこんなことがあったか。
「やったわねライア」
労いの言葉を受け取りつつリッカの方を見ると、俺の方に片方の拳を向けてきている。
その意図が一瞬、理解できず固まってしまう。
「あ」
何故かそれをやってきたリッカの方まで恥ずかしそうに下を向いてしまった。
「ち、違うの!これはその……」
「ほい」
その言葉の続きを待たずに俺はリッカの前に右手の拳を向ける。
「……ふ、ふん!」
それを見たリッカは不機嫌そうに顔をそむけたが、そっと俺の拳に自分の拳を合わせてきた。
――全く、素直じゃないな。
その後もリッカは繰り返し、『アレは何でもないから!』と俺に言い続け、俺が『はいはい、これね』と拳を合わせるジェスチャーをしてみせると、顔を赤らめて、さらに激怒してくるのだった。