ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
「それじゃあみんなグラスは持ったか?」
団長が酒場の騎士たちに尋ねると全員が右手にもったグラスを掲げる。
「それじゃあ、俺たちの勝利に……乾杯!」
「かんぱーい!」
それぞれが互いのグラスをぶつけ合う。ウインドコングの群れおよびエンペラーコングを倒した騎士団たちはその夜、シルド街の酒場を貸し切り祝杯をあげていた。さいわいにも今回の戦いで死人は出ず、むしろ骨折した何人かの兵士もけろっとした顔で酒を飲んでいる。
「ほらほらライア君!乾杯しようじゃないか!」
俺の隣に座る団長が強引に肩を組みグラスを向けてくる。
「は、はあ。乾杯……」
俺は力なくグラスをぶつける。いや、比喩表現とかじゃなくて本当に力が出ない。なんでこの人たちはあんな厳しい戦いの後で陽気に酒が飲めるんだ……。
「なんだなんだ、今日の主役が元気ねーなあ!」
騎士団の一人、グリーンが顔をほてらせながら俺の背中をたたく。なんと開始早々酔っぱらっているらしい。
「主役って……人工魔法石が無かったら全滅してましたよ……」
「いやいやライア君!結果オーライというではないか!我々は君に感謝しているんだ!今日はじゃんじゃん飲んでくれ!代金は経費で落とすから!」
「それはまずいんじゃ……」
「にしてもリッカ君はこれなくて残念だなあ!ぜひ弓について語りたかったんだがなあ!」
リッカは外壁に叩きつけられた時の怪我が思ったよりひどかったため病院で治療をしているのでこの席には来ていない。そもそもそれがなくてもアイツはこういうところには来ない気もするが。
「それにしてもライア君。君には驚いたよ!青い炎が出せる人間がこんなところにいたなんてな!」
「来る途中も言ってましたけど、そんなに凄いんですか?」
確かにあの時俺が放った青い炎はマテリアルバーストの時の赤い炎とは根本的に違った。威力もそうだが、出ている魔力の質そのものが大きく異なっていたのだ。俺が思うに、あれは恐らくレイモンドを倒した時に蘇った俺の記憶と一緒に取り戻していた俺のスピリチュアルマジックだ。ただ、俺自身使えるようになっていたことに気付いていなかったため今まで発動の機会がなかったのだ。それがあの時、限界に来た魔力が反応しそれを呼び起こしたということだろう。
「凄いのなんのって、炎のスピリチュアルマジックの中でも青い炎は相当修業しないと使えないんだぜ!ねえ、団長?」
「うむ。グリーンの言うとおりだ。騎士団でも青い炎を使えるものはほとんどいない。使えるものはすべて名のある家柄出身のものだ」
団長のテンションがいつもの陽気なものから真剣なものに変わった。
「ライア君、君は記憶喪失だと言っていたが、もしかしたら凄い戦士の家系にうまれたのかも知れんな」
その可能性は俺も考えたが、仮に俺が名家の血を引いたすごい戦士だったとしたらそんな奴の記憶を散らばせられる奴なんて限られてくるだろうし、理由も限られる。せいぜい家同士の名誉をかけた戦いとかだろうか。だが、記憶を散らばすなんてのはある意味殺してるのと同じだ。その人間のこれまでの人生を破壊しているわけだからな。そんなことをして罪に問われないはずもない。そんなリスクを冒してまで記憶を散らばす意味があるのか?そもそもそれなら殺して遺体を遺棄した方がはるかにましだ。
「すまん、そんな事を言っても君が混乱するだけだな。君がなにものであろうとも我々の命の恩人であることに変わりはない!よければ今度王都に遊びに来てくれ!ぜひ一度他の部隊にも紹介したい!」
「あ、はい。機会があれば」
団長の心遣いに甘えて今は考えるのはよそう。俺はグラスに入った酒をグイッと飲み、テーブルいっぱいの料理に手をつける。
「それにしても、ウインドコングがこんなところにいるなんて、どういうことだったんだろうな?」
別のテーブルの会話に箸が止まる。そういえば肝心な目的を果たしていなかった。
「団長さん、差し支えなければで良いんですけど聞いてもいいですか?」
「ん?何だね?君とわたしたちの仲だ!なんでも聞いてくれたまえ!」
「今回のモンスター襲撃の情報はどこから入ったんですか?」
「……他言しないと約束できるかい?」
団長が険しい顔をする。俺は無言でそれに頷く。
「詳しいことはわたしも分からないのだが、どうやら騎士団の幹部のもとに匿名の通報が入ったらしい。幹部たちがなぜそれを信じたのかは分からないが、その通報により、今回我々第3部隊が出動したということだ」
匿名の通報、生息地の違う大型モンスターおよびそれの上位種の出現。なにか引っかかるな……。
「まあ、それについては王都に戻り次第報告するから心配無用だ!ほら、グラスが空だぞ!もっと飲みたまえ!」
「す、すみません。少し夜風に当たってきます」
「ん?そうか、まあ飲みすぎて吐いても大変だしな!ゆっくり行ってきたまえ!」
「はい。それじゃあ」
そう告げて俺は酒場を出た。
今夜も星空がきれいだ。そんなロマンチストみたいな事を思いながら夜の街を歩く。
リッカの怪我は大丈夫だろうか。ひどいようならしばらくこの街の留まった方がいいかもな。
「……っ!?」
唐突に頭に強烈な痛みが走り、俺は道の真ん中でうずくまる。何かが俺の中で叫んでいる、何かを伝えようとしている。俺は痛む頭で必死にそれを感じとる。
――――――――――――――――――――――――――――――
それは、どこかの家のキッチンだった。そしてその真ん中で俺は皿を持って立っている。そんな俺の手から何者かが皿を受け取る。見上げて確認したがその人物の顔にはもやがかかっていて、女性だということしかわからない。女性は皿に料理を盛ると再び俺にそれを持たせ、テーブルの方を指差す。俺はそれに従い、テーブルへと料理を運ぶ。テーブルには、新聞を呼んでいる背の高い男性と俺と同じくらいの金髪の少年が食事を待っていたが、その二人にももやがかかっている。テーブルの上には豪華な料理とワンホールのケーキが置いてある。ケーキにはろうそくが6本刺さっており、全てに火が付いている。
俺は皿をテーブルに置くと席に着く。そんな俺の頭を金髪の少年が撫でる。少年が何か喋っていたが、その声は俺には聞こえず、代わりにノイズの様な音がした。
「――――っ!はあ、はあ……」
気がつくと俺はまだ道の真ん中でうずくまっていた。頭の痛みはだんだんと引いて行った。
――今のは、何だろうか。
今のがどこの家で、そこにいた人たちが誰なのかは全く分からない。だが、なぜかその光景を思い出すと俺の心に温かい何かが広がって行った。
***
翌日、俺はリッカの様子を見に病院に行く前にオルドのところを訪れた。その理由はもちろん昨晩みた光景について意見が聞きたかったからだ。
「ふむ、それは君の記憶で間違いないじゃろうな」
「やっぱりそう思いますか?」
オルドも俺と同じで、俺の幼少期の記憶だろうという意見だった。
「しかし、今回の原因は何でしょうか?レイモンドの時のように誰かに致命傷を与えた覚えは無いんですが……」
「いや、恐らくは昨日のモンスターに記憶が封印されておったんじゃ」
「モンスターに?」
そんな事があり得るんだろうか。そもそも人間に記憶を封印するという事自体がとんでもない話なのにこの世界に無数にいるモンスターにまでそれが封印されているなんて。
「なんでそう思ったんですか?」
「昨日現れたモンスターにはエンペラーコングがいたと新聞で読んだからじゃ」
「え?それはどういう――」
「本来エンペラーコングと言うのはウインドコングの群れの長として奴らを取りまとめており、その性格は温厚で、人里を襲うようなものでは無いんじゃよ」
「普段とは違う行動をしたエンペラーコングが怪しいってことですか?」
「うむ。聞いた限りだとほかに不自然な点が無いんじゃ。今回君は建造物や機械を壊した訳ではないみたいだしの」
「なるほど……」
「そして、ここからは仮説の領域なんじゃが、君の記憶が封印されたものはどうにも性格が変わっているような気がするじゃ」
確かにエンペラーコングは温厚な性格からかなりあら荒らしい性格になってはいたが……。
「実は、君が言っていたレイモンドと言う悪党の事をすこし調べてみたんじゃが、あいつが悪党として有名になったのはほんの10年前だそうじゃ」
「俺の記憶が封印されてアイツの悪意が増幅したという事ですか?」
「かもしれんが、単に偶然かも知れん。現状では判断できんの」
「そうですか……」
俺の記憶を砕いた何者かがそれを利用して悪人を増やそうとした、ということだろうか。……『記憶を操る』ワンスマジックの詳しい効力が謎なためこれ以上は分からないな。
「まあ、ワシから言えるのはこれくらいじゃの」
「そうですか、どうもありがとうございます。かなり参考になりました」
俺は深く頭を下げる。
「ところで、君たちはあとどれくらいこの街にいるのかの?」
「え?ああ、リッカの怪我の状況次第ですね。あんまりひどいようなら回復するまで滞在しようかと」
「ならば、ワシにいい考えがあるぞい」
「いい考え?」
オルドは机の上をごそごそと漁り、一枚のチラシを俺に渡してきたのだった。
***
3日後、退院したリッカと共に俺はシルド街を出ることにした。騎士団と共に街を救った俺たちへの感謝の気持ちなのか、見送りには街中の人が来ていた。
「あなたたちのおかげでシルドは平和を失わずにいられました。ありがとうございます」
役所のお偉いさんが俺たちに深く礼をする。
「いえいえ、俺たちも騎士団の方々がいなかったら多分死んでましたし……」
「へたくそな謙遜ね」
リッカが悪態をついてくる。だが、その言葉はいつもより大分元気がない。それもそうか、片腕ギプスはめてるもんんな。よく折れた腕で俺に連携攻撃なんて提案したもんだ。
「旅のお兄さん!ぜえ、ぜえ」
ラスティが息を切らしながら走ってきた。
「ラスティさん。どうしたんですか?」
「いや、これをね……渡そうと思いましてね……」
そう言ってラスティは何かを俺に手渡す。見てみるとそれは青い色をした魔法石だった。
「これは……水属性の魔法石?」
「ちょっと、この光沢、シルフ産じゃないの?」
リッカが驚きの声をあげる。シルフはミスレシア王国の近くにある島国に住む種族で、そこで発掘される水の魔法石はかなりの価値がある。
「ラスティさん、こんな貴重なものをいただくわけには……」
「いいんですよお兄さん!戦いまでに魔法剣を整備できなかったお詫びとでも思ってくださいな!」
街の人たちも笑顔で頷くのでこれ以上断るのも心が痛い。それに、水の魔法石は今後役に立つかもしれない。
「……それじゃあ、ありがたくもらいます」
俺は魔法石をポケットに入れる。
「オルドは今日研究の材料をとりに出かけてしまいましたが、あなた方へよろしく言っておいてと言われましたぞ」
「いえ、こちらこそお世話になったとお伝えください」
三度の飯より研究が好きな爺さんなんだな。ぜひ長生きしてほしいもんだ。
「それじゃあ、俺たち、行きますね」
街のみんなに大きく手を振り、門を出ようとしたとき、リッカの腕をひっぱったものがいた。
「アーメス……」
「お姉ちゃん……」
リッカが少し困ったような顔をする。俺はどういう経緯でかは知らなかったがこいつとアーメスが仲良くしているところは見ていたので、少し黙っていることにした。
「お姉ちゃん、もう行くの?」
「えっと……」
リッカは俺の方に視線を向けてくるが、俺はそれに対しては頷くだけにした。
「ごめんね、アーメス。わたしたちはいつまでもここにいることは出来ないの」
「……そっか」
しょぼくれるアーメスに、リッカは優しく頭をなでる。
「でも、旅が終わったら、しばらくここでゆっくりするのもいいかなって思うわ」
それはリッカの嘘偽りのない本心なんだと思う。でも、その表情にはどことなく影があったように感じた。
「……わかった。ぼく、待ってるね!お姉ちゃんも旅がんばってね!」
リッカの言葉にアーメスは顔を輝かせ、元気よく答える。本当にリッカに懐いてるんだな。全く、あの初対面から一体どうやって仲良くなったんだか。
「それじゃあ、元気でねアーメス」
大きく手をふるアーメスにこちらも手を振りながら俺たちはシルド街を後にする。
「……」
隣を歩くリッカは俯いたまま元気がないので、俺は何か気のきいたことを言ってやろうと思った。
……が、ちょっと今までの仕返しをしてやろうといういたずら心が芽生えてしまった。
「大丈夫だ。またすぐに会えるさ。だろ、ショタコンお姉ちゃん?」
「そうね……って、だれがショタコンよ!あんたなんてシスコンのくせに!」
リッカは空いている左手で俺の背中をたたく。
「それでこそリッカだ」
「どれでこそよ!」
俺はそのツッコミに思わず笑ってしまう。
その後も悪態をつくリッカをよそに、俺はあの時取り戻した記憶について考えていた。
あの記憶は、たぶん俺の家族のものだろう。とても暖かくて、穏やかな気持ちになるものだったのは確かだ。
でも、どこか悲しい気持にもなる記憶だった。