ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
16. 安らかなひと時
「きゃああああああ!」
攻撃を受けたリッカが俺の後方まで吹き飛ばされる。
「リッカ!」
心配してリッカのほうを向いたのが間違いだった。そのわずかな時間で奴が放った炎のブレスが俺を包み込む。それと同時に俺の全身が焼きつくされるかのような痛みが走る。
「ぐああああああああ!」
炎から解放された俺は地面に膝をつく。既に俺もリッカも満身創痍だ。このままでは確実に殺されるだろう。
――だが、俺にはまだ勝つ算段が残っていた。
***
「んっ……はあ~」
リッカが余りの気持ちよさにそんな声を漏らす。それを聞きながら俺は額の汗をぬぐう。
「ちょっと、ライア?絶対にそこから動かないでよ?いま入ったばっかりだから」
「動きませんとも」
「いまいち信用できないのよね、あんた変態だし」
「こんな誰がくるか分からないところで裸になれるお前の方がよっぽど変態だろ」
まあ、この状況なら俺も服を脱いで温まりたいところだが。それにしたって、ねえ?
「ちょ、だれが変態よ!だいたいアンタが勧めたんでしょ!絶対気持ちいっていったじゃない!」
「気持ちいいだろ?」
「まあ、確かに、想像以上かも」
リッカはそう呟くと、さっきより深く腰を下ろしたらしい。それと同時にピチャ、と音がする。
「それにしても……いいお湯ね~」
「俺は入ってないからわからん」
岩陰から湯船につかるリッカと会話しながら本のページをめくる。
シルド街を後にした俺たちはそこから2週間歩いて、オルドから紹介された秘湯を訪れていた。本来ならもっと早く着いたのだが、モンスターの生息する場所を避けながら来たために結構時間がかかってしまった。何故温泉かというと、ここのお湯には傷や怪我の具合を良くする効能があるらしく、怪我をしたリッカの回復が目的だ。とはいっても、流石に温泉につかってすぐ回復、と言うわけにもいかないが。
「本当に覗かないでしょうね?」
「しつこいなお前も。その質問これで通算13回目なんだが、ひょっとしてフリか?見せつけたいのか?」
「なっ!そんなわけないでしょ、この変態!」
この秘湯、人里から離れてはいるが周りには岩しかなく、いつどこから見られるか分からないというリスキーな場所なのだ。リッカに見張りを頼まれた俺は立ちこめる湯気に汗をかきながらシルドで買った本を読んでいる。ページがふやけてしまいそうだが、流石に暇なのでそこは割り切ることにした。
「ねえ、ライア」
「なんだよ、しつこいな」
「そうじゃなくて、シルドでなにか記憶戻った?」
そういえばリッカには何も話していなかったか。あの時こいつは病院で治療してたもんな。
「一応、な」
「……どんな記憶?」
「家族……かな」
「なんで疑問形なのよ」
「なんて言うか、もやみたいなものがかかってて、はっきりとはしなかったんだ」
「それがなんで家族だと思ったわけ?」
「……雰囲気」
確かに、あれが俺の家族だったという確証はない。単に知人の家だったかもしれないし、当時も放浪していて5年前のようにどこかの家に拾われていただけかも知れない。だが、俺は直感的にあれが家族だと思った。それはあの時感じた心のぬくもりゆえだろうか。
「……?」
「ちょっと?なに黙ってんのよ?」
「足音が聞こえないか?」
「え?……ホントだ」
モンスターか?それともただの小動物?沈黙した空間の中で俺は足音の主の様子を探る。
ざっ……ざっ……。
足音はだんだんこちらへ近づいてくる。地面を踏む音からしてかなり大きな体を持つ生物ではないだろうか。
ざっ
足音がとまる。湯けむりの中俺は辺りを見渡すが人影は見当たらない。
……と、いうことは。
「リッカ!そっちにいるぞ!」
「えっ?きゃ、きゃあああああああああ!」
「うおおおおおおお!」
リッカの悲鳴ともに別の叫びが聞こえる。やっぱりモンスターか!?とにかく、手負いのリッカじゃいくらなんでも太刀打ちできない。
俺は魔法剣を抜き、岩陰を飛び出す。
「おいリッカ!だいじょう……」
「へっ?」
「ぶ?」
俺はいったん瞬きをして状況を整理する。俺の視界に映るのは、立ちあがり、こちらを振り向くリッカ。つやのある肌にくびれたウエスト、そしてそこから尻にかけて描かれる綺麗なライン。顔は温泉につかっていたせいかほんのり赤くなっている。おしい、これで胸部がもっと発達していればなあ。
「ちょ、ちょ、ちょっと!なにまじまじと見てんのよ!この覗き!やっぱり変態じゃない!」
リッカがあわてて湯船に腰を下ろす。その顔は羞恥によりさっきよりさらに赤くなっている。
「いや、そんなことよりリッカ」
「そんな事って何よ!わたしの裸はそんなことなの!?」
「そっちのガタイのいいお兄さんはだれだ?」
俺はリッカより奥の方で風呂に浸かっている男を指差す。
「そ、そうよ!こいつが急に入ってきて……ってアンタいつまでそこに居んのよ!」
リッカの言葉は無視して俺は湯船の淵を歩き、男に近づく。見た感じ年齢は俺とあまり変わらない。かなり鍛えられたであろう筋肉に、肌は若干黒く、そして髪の毛は燃え盛る炎のように赤い。
「サラマンダー……か」
ミスレシア王国の南部に住んでいるというサラマンダーとこの男の特徴は一致しているし間違いないだろう。だが、サラマンダーはあまり自分たちの領土から出ることはなく、王都にも殆どいないと以前読んだ本には書いてあった。つまり、こんなところにいるサラマンダーはかなり珍しい部類ということだ。
「……う」
サラマンダーがうめきごえを上げる。
「おい、大丈夫か?」
「ち……」
「ち?」
「ちっぱい……うぐ……」
サラマンダーはそう呟くと意識を失ってしまった。よく見ると鼻血を出しており、お湯が若干赤くなっている。
「だ、だれが……ちっぱいだあああああああ!」
リッカの叫びは多分俺しか聞いていない