ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件   作:たけぽん

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17. 神を祭る村

 

 

それから俺たちはサラマンダーを風呂から引きずり出し、起きるのを待つことにした。別に放置して出発してもいいかなと俺は思ったが、リッカが『一発殴る』と言ってきかないので今に至る。

 

「起きないな」

 

サラマンダーはピクリとも動かない。鼻血は止まったみたいだが、体はほてったままなのでそろそろ風邪をひいてもおかしくない。

 

「なあ、もうこの人はほっといていかないか?」

 

温泉から上がり、しっかりと服を着たリッカに提案するもリッカは俺の言葉に聞く耳すらもってくれない。

 

「おい、リッカ」

「……」

「リッカ様」

「……」

「ちっぱい」

「だ、だれがちっぱいよ!」

 

ようやく反応してくれたので俺は即座に話を続ける。

 

「もう行かないか?正直湯気だけで軽くのぼせそうだ」

「いーえ、絶対にこの覗きを一発殴るわ」

「じゃあもう今すぐ殴っとけよ。ぜんぜん起きる気配ないし」

「寝てる相手を殴るなんて卑怯じゃない」

 

おかしいな、以前殴って起こされた俺がいた気がするんだけどな。

 

「だいたい、あんただって……」

「俺だってなんだよ?」

「あんただってわたしの裸見たじゃない!なのになになんでもなかったみたいな顔でわたしと会話してんのよ!」

 

リッカは顔を真っ赤にして怒鳴る。

 

「あー、悪い。本当に申し訳なかった」

「誠意が感じられないのよね……とにかく今後もうこのことは忘れなさい!いいわね?」

「え?ああ、わかった」

「……あんた、ひょとして見慣れてるの?」

 

それは異性の裸を、という意味で間違いないだろう。その訝しげな視線が正解だと言っている。

 

「見慣れているっていうか、まあ昔シャルの背中ながしてやってたくらいかな」

 

とはいっても4年くらいまえの話だ。さすがにシャルも年齢とともに恥ずかしいと思うようになったみたいだったし。

 

 

「……シャルちゃんってたしか13歳よね?」

「そうだけど?」

「背中流してたのっていつ?」

「4年前」

「4年前って、9歳じゃない!わたしは9歳と同じ扱いな訳!?」

 

どうしよう、素直に答えたのに余計に怒られてしまった。実際シャルと変わらないなと思っていたのだが、そんなこと言ったら確実に殺されてただろうな。危ない危ない。

 

「う……うぐ……」

 

そんな会話をしていたら、いつの間にかサラマンダーが目を開けた。思ったより早かったが、これもサラマンダーゆえだろうか。

 

 

「気づいたか?」

「……?お前、誰だ?」

「俺はライア。旅人だ。ちょっと理由があってこの温泉を訪れたんだが」

「旅人?そっか。俺はライオネル。この近くの村に住んでる。よろしくな」

 

なんとも気さくな奴だ。ライオネルは握手を求めてくる。俺もそれに答え手を差し出す。

 

「ところで、俺はなんで寝てたんだ?湯につかってたはずなんだけどな」

「覚えてないのか?」

「えーっと。服を脱いで、タオル巻いて、お湯に浸かろうとしたら……はっ!」

 

自分が見た光景を思い出したのか、ライオネルはさっきより顔を真っ赤にし、またもや鼻血を出した。こいつ、体の中の血の量どうなってるんだ?

 

「思い出したみたいね……」

 

まるで魔王のような声を出すリッカは右手をプルプルと震わせ、いつでも殴る準備はできてますと言わんばかりだ。

 

「お、お前!さっきのちっぱ……」

「死ね!エロマンダー!」

 

リッカの右ストレートがライオネルの顔面にヒットする。そのまま後方へふきとばされたライオネルは温泉へしぶきをあげながら突っ込んでいった。

 

「さ、行きましょライア」

「お、おう……あいつ、死んでないよな?」

「加減したし、わたしのパンチでは死なないわよ。お湯の中で溺死するかもしれないけど」

「そうか、じゃあ大丈夫だな」

 

俺は本をかばんにしまい岩場から腰を上げる。

 

「ま、まて!」

 

湯船からライオネルが息を切らしながら出てくる。

 

「ちっ……ほら行くわよライア!」

「ちょっとまてそこの女!今俺が生きてるの見て舌打ちしやがったな?言っとくけどな、俺は毎日この温泉に来てるんだ!イレギュラーなのはお前の方なんだよ!」

「はあ!?この温泉のどこにあんたの私有地だって書いてあるのよ!毎日来てようが、ここはあんたのものじゃないわ!」

 

リッカとライオネルの言い合いが長くなりそうだったので、俺は再び本を取り出し、ページをめくる。

 

「だから、あんたが悪いのよ!」

「なんだと、このぺったんこ!」

「誰がぺったんこよ!あんた訴えるわよ!」

 

なるほど、この項目は興味深いな……。

 

「「どう思う、ライア!?」」

「へ?」

 

急に俺に火の粉が降りかかってきた。やばい、何も聞いてなかった。だが、聞いていなかったなんて言ったらこのしょうもない喧嘩はまだ続くだろう。さすがにこれ以上ここにいると意識が遠くなりそうだ。

 

「……とりあえず、近くの村で話さないか?」

 

***

 

適当にその辺の村に行こうと思ったのだが、ライオネルが自分が近いと言うので、それに甘えることにした。しかし、この辺にサラマンダーの住む村なんてあるのか?地図にはそんな情報は全く無いのだが。

 

「ほら、ついたぞ」

 

ライオネルが足を止める。だが、そこにはなにもない。ただ草原が広がっているだけだ。

 

「えっと……なにも無いように見えるんだが?」

「ああ、ちょっと訳あって村には結界が貼ってあるんだ。でも、俺と一緒なら普通に入れるから心配すんな!」

 

結界?小説なんかじゃ良く出てくるワードだが、そんなものが現実に再現可能なのか?

リッカに視線を向けるが彼女もさっぱりわからないといった表情をしている。不思議に思いつつもゆっくりと進むライオネルの後に続く。

すると、周りの空間がぐにゃりと曲がる。何が起こっている分からないまま歩を進めると次の瞬間、突然景色が変わった。

 

「……おお」

「ようこそ、俺の村へ!」

 

真っ先に目に入ったのは大きな教会だった。この距離から大きく見えるという事は実際にかなり大きいのだろう。だが、それ以外は俺の住んでいた村と大差ない。

 

「すごい……本当に結界なわけ……?」

 

リッカが感嘆の声を漏らす。

……教会に、謎の結界?もしかして……。

 

「なあ、ライオネル――」

「おうおうおかえりなさいませライオネル様よぉ」

 

俺の声は後ろから結界をくぐってきたであろう男たちによって遮られた。見た感じどこかへ狩りにでも行っていたのだろう、大きな狼の死体が担がれている。だが、その中にライオネルと同じサラマンダーは一人もいない

 

「レオーネ、お前その狼……また勝手に狩りをしやがったな?村の掟を忘れたのかよ!」

 

レオーネ、と呼ばれた銀髪の男はやれやれといった風に首を振る。

 

「人聞きが悪いぜライオネル様。俺は近くで村を襲おうとしていた外敵を排除しただけだ。証人もたくさんいるぜ?」

 

レオーネの後ろの男たちがニヤニヤと笑う。こいつらが口裏を合わせているのは部外者の俺でも分かるくらいだが、それが嘘だと証明できる証拠は何もない。なんともしたたかなやり方だ。

 

「だからって、殺さなくてもいいだろ!」

「おいおい、ろくに攻撃も出来ない落ちこぼれサラマンダーが何を言ってんだよ?お前の代わりに村を守ってやってんだからむしろ感謝してほしいくらいだぜ?」

「この……!」

 

ライオネルが拳を振り上げる。

 

「おいおい、教会の後継ぎさんが暴力か?村の掟を忘れたか?無益な争いをしてはいけない、だろ?」

「くっ……」

 

ライオネルが悔しそうに腕を下ろす。

 

「ちょっと、アンタ達さっきからしつこいわよ。話しが終わったならさっさとどっか行きなさいよ。わたしこのサラマンダーに用があるんだから」

 

いつも通りのリッカの悪態だが、よくもまあ初対面の相手にそこまで言えるよな。

 

「ああ?何だお前?……ふっ、ひょっとして奴隷ですかライオネル様?やっぱりサラマンダーの血は争えねえなあ!その腕もへし折ったのか?女相手になんてやつだ!」

 

レオーネは高らかに笑う。何と言うか、小物感ありありだな。そのうえで疑問なのはライオネルがこいつらの言葉を黙って聞いていること。さっき教会の後継ぎとか言ってたが関係があるのだろうか?

 

「あのねえ、アンタバカなの?わたしは別に……」

「うるせえよ女!」

 

唐突にレオーネがリッカを殴る。しかもその腕には炎属性の魔法が付与されている。道具も使っていないところからしてこの赤い炎はスピリチュアルマジックのようだ。

 

 

「ぐふっ……!」

 

小さくうめきながらリッカがうずくまる。どうやらレオーネが加減したらしい。でなけりゃ流石にうずくまるだけじゃ済まないだろうしな。

 

「今、俺がライオネルと喋ってんだろうが!次は本当に焼きつくすぜ?俺の炎でよぉ!」

「おい、レオーネ!お前自分で掟をひっぱりだしといてなにしてんだ!」

「落ちつけよライオネル様。こいつは部外者だ。部外者が俺に敵意を向けたから反撃しただけだぜ?ほら、証人もたくさんいる」

 

レオーネが後ろの奴らを指差す。

さて、そろそろ本格的に話しが進みそうにないな。

 

「なあ」

「ああ?なんだ奴隷その2じゃねえか?いっちょまえに魔法剣なんかぶら下げてカッコイイとでも思ってんのか?それにセンスのねえコートだなあ」

 

俺はレオーネの言葉は無視してライオネルの方を見る。

 

「なあ、ライオネル。こいつらはお前の友達か?」

「え?いや、別に友達じゃないけど?」

「じゃあ、一発くらいなら攻撃してもお前は困らないよな?」

「え?」

 

ライオネルはきょとんとしているが俺は構わずレオーネに近づく。

 

「なんだ?やる気か奴隷君?いっとくが俺の炎は激熱だぜ?」

「そうかい」

「この……なめてんのか!いっとくがそんな市販の魔法剣ごとき粉砕すること訳ないぞ!」

「流石に壊されるのは困るな。意外と高いんだ、これ」

 

俺は魔法剣を鞘ごと抜き、後ろに投げる。

 

「は、はあ?なにしてんだお前?丸腰で俺に挑むとかイかれてんのか?」

 

俺は特にそれに答えることはせず、構えをとる。

 

「この……なめんなあ!」

 

レオーネが手に魔力をためると、さきほどとは比べ物にならないくらいの炎がその手を覆う。流石にまともにくらったらただじゃすまなさそうだ。

 

「へっ、どうだ、俺の炎にビビったか?おら、なんか抵抗して見ろよ!」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

俺もレオーネ同様右手に魔力を込める。すぐに俺の手も炎で覆い尽くされる。『青い炎』に。

 

 

「は、はあ!?なんだその炎の色は!」

「……青い炎だ。結構珍しいらしいぞ?知らなかったのか?」

 

まあ、俺もこの前初めて知ったんだけどな。

 

 

「そ、そんなこけおどしにビビるか!喰らえ!」

 

レオーネが炎の右手で俺に殴りかかる。俺はそれをよけるでもなく、そのままその炎に自分の炎をぶつける。辺りに甲高い音が響く。びっくりした村人が窓を開けてこちらを見るくらいには大きい音だったらしい。そんな音のなか、レオーネは後方に吹き飛ばされる。

 

「ぐあああああああ!あ、熱いいいい!」

 

後ろにいた奴らが助けてやるのかと思えばそいつらは間抜けな顔をしてつっ立っているだけだった。何とも希薄な人間関係だな。

俺はそいつらの間を通り、倒れているレオーネの方へ近づく。

 

 

「ま、まて!村の掟では……」

「部外者は例外なんだろ?つまりはここでお前をたこ殴りにしても問題ないわけだ」

 

俺はわざと頬が釣りそうなくらいの笑みを浮かべる。

 

「く、くそ!覚えてろよ赤コート!」

 

レオーネは取り巻きをつれて村の外へと逃げて行った。

 

「大丈夫か、リッカ?」

 

俺はうずくまるリッカに手を差し伸べる。

するとリッカはけろっとした顔で立ちあがる。やっぱり演技だったか……。

 

「アンタ、やりすぎよ……せっかく一発貰って正当防衛感出したのにこれじゃあただの侵略者じゃない」

 

リッカはそう言いつつも笑う。俺もそれにつれて笑ってしまう。

 

「す、すげえ!」

 

ライオネルは俺の腕をまるで子どものようにじっと眺める。

 

「お前、炎の魔法が使えるんだな!それにあんな色の炎、初めて見たぜ!」

「あ、ああ。そりゃどうも」

 

ふと疑問に思ったことだが、何故ライオネルは青い炎を初めて見たんだろうか。サラマンダーは炎属性魔法に長けた一族だ、その一族の若者が見ることが無いほど青い炎が珍しいかといえばそうでもない。騎士団の人たちは王都にも一部だが青い炎の使い手はいると言っていた。

 

「ちょっとなんだい、今の騒ぎは!」

「げっ!ウィズ婆さん!」

 

ライオネルがとっさに俺の背後隠れる。いや、体格差的に全く隠れてないんだけど。頭隠さず尻隠さず状態だな。しばらくするとシスターの格好をし、杖をついた白髪の婆さんが息を切らしてやってきた。

 

「ライオネル!またあんたかい!」

「ち、ちがうんだ婆さん!レオーネのやつが……」

「すぐ人のせいにすんじゃないよ!まったく、あんたら兄弟なんだから仲良くしたらどうだい!」

 

婆さんは杖でライオネルの頭を思い切り叩いた。ボカッといい音が鳴り響く。常人なら頭蓋がわれてもおかしくないが、流石サラマンダー。ライオネルは頭を押さえながらも婆さんに反論を試みている。

 

「だから、話しを聞いてくれよ!レオーネが村の掟を……」

「だいたいあんた、今までどこ行ってたんだい?今日は修業の日でしょうが!」

 

そこで婆さんは俺とリッカにようやく気付いたらしい。俺たちのほうをジッと見た後、すぐに笑顔になった。

 

「あらら、旅のカップルさんかい?よく来たねえ。わたしゃウィズっていうんだ。よろしくね」

「だ、だれがカップルよ!」

 

即座にリッカが異を唱える。それはもう早かった。声帯に魔法石でもつけてんのかこいつは。

 

「なんだい、ちがうのかい?わたしゃお似合いだと思うけどねえ」

「だれがこんな奴と!ないない絶対ない!」

「あ、そうかい」

 

俺がリッカに文句を言う前にウィズはその話を切り上げ、まだかがんでいるライオネルの腕をひっぱり立ちあがらせる。はたしてライオネルが自発的に立ちあがったのかそれともウィズが怪力なのか。どっちもあり得そうで怖い。

 

 

「ま、とにかくライオネルが連れてきた客人だ。歓迎するよ。取りあえずついて来ておくれ」

 

ライオネルをひっぱりながら歩くウィズについて歩いて行くと、なんだかだれかに見られている気がした。辺りを見渡すと、立ち話をしているもの、せっせと仕事をする者、そして家の中にいるものさえもがちらちらとこちら見ていた。だが、俺達というよりはライオネルの方にしか視線が向いていない様にも感じた。

 

「やな感じ……」

 

隣を歩くリッカがそんな感想を口にする。確かに、ライオネルへ向けられる視線からは何かつめたいものを感じる。ライオネルが異種族であるサラマンダーだからだろうか?だが、ライオネルが『俺の村』と言っていた事からして彼がこの村に否定的な感情を持っているわけでも無さそうだし、なによりウィズに頭があがらないところからしてたいした権限を持っているわけでも無さそうだ。そうなると全く分からない。

 

「そういえばお二人さんはなんでこの村へ来たんだい?最近は胡散臭い研究者ばっかり尋ねてくるがそれとはどうにも違うように見えるよ?」

 

俺たちの困惑に気付いてか気付かずか、ウィズは話しを振ってきた。

 

「えーっと……」

 

ウィズの問いかけに俺は苦笑いする。ライオネルがリッカの裸を見たからその制裁……なんて言ったらライオネルはウィズに半殺しにされそうだし。リッカに『取りあえず、余計なことは言わないでおこう』とアイコンタクトする。リッカは笑顔で頷く。よかった。……って笑顔?こいつが?

 

――あ、これやばい笑顔じゃん

 

俺はとっさに別の話題をしようと思ったが時すでに遅しだった。

 

「そいつに温泉で裸見られたんで、それなりの償いをしてもらおうかと」

「は?」

「ぶっ!」

 

間の抜けた声を出すウィズと素っ頓狂な声を出すライオネル。両者に共通することは一瞬沈黙したという点。すぐにウィズがライオネルに殺気のこもった殺意を向ける。

 

「ち、ちがうんだ婆さん!不可効力ってやつなんだ!」

「なにが不可効力だい!それでも教会の後継ぎかい!このスケベが!」

 

再びウィズの杖がライオネルに振り下ろされる。鈍い音とともにライオネルが半泣きでうずくまる。リッカはというとそれを見て邪悪な笑みを浮かべている。こいつが怖いのはもとからだが、その上があるとは。気をつけよう。

 

「だいたいアンタはねえ……」

 

流石に何度も怒られるライオネルに同情の念が生まれた俺は話題を変えることにした。

 

「ウィズさん、そう言えばさっき研究者がと言っていましたが、この村はひょっとしてリント村ですか?」

 

俺の質問にウィズはライオネルの胸倉から手を離し、きょとんとした顔をする。

 

「え?ああそうだよ?ここは聖なる光神スローネを祭る村、リント村さ」

 

やっぱりそうか。ここはオリバー・シルキタスの著書に書いてあった光属性魔法が発見されたというリント村だったのだ。あの教会は神であるスローネに祈りをささげる場所でえ、さっきの結界は光属性魔法によるものだったと考えられる。

 

「なんだいライオネル、この人たちに説明しなかったのかい?」

「あ、忘れてた!いや、それどころじゃなかったし……」

 

言いながらライオネルはリッカの方に視線を向けるが、その鼻からはまた血が出ていた。どうやらリッカの裸が頭から離れないらしい。

 

「ちょ、なに想像してんのよエロマンダー!」

「ち、違う!俺はあんな貧相な体なんて……」

「想像してんじゃないの!」

 

リッカが再びライオネルを殴りそうになったので俺はそれを後ろから制止する。

 

「ちょ、離しなさいライア!やっぱりもう一回殴るから!」

「落ち着け、さっきからその話題のせいで話が一向に進んでないぞ」

 

リッカは俺の言葉を聞きいれてくれたようで、体から力を抜く。それを確認し俺は手を離す。

 

「本当にごめんねお嬢さん。うちのエロガキが。お詫びにおいしいお茶を入れてあげようね。さて、ついた」

 

ウィズは一軒の民家の前で足を止める。ここが彼女の家なのだろか。ウィズがポケットから鍵を取り出し、ドアを開けてもらっている間に俺はなにか違和感を感じて周りを見回す。

 

「どうかした?」

 

リッカの問いに俺は首を横に振る。

 

「いや、なんかへんな感じがしたんだけど気のせいみたいだ」

「そう」

 

その間に扉が開き、ウィズとライオネルに続いて俺たちも家に上がった。神に祈りをささげるシスターの家なのだから余計なものは無いものだと思っていたが、一階のリビングは可愛らしい装飾が施された食器棚や座り心地のよさそうなソファ、それにテーブルの上には裁縫道具など、わりとおしゃれなコーディネートになっていた。

 

「ここにはウィズさん一人で住んでいるんですか?」

「いいや、この家はわたしとライオネル、そしてレオーネの家さ」

「レオーネってさっきの嫌な奴じゃない!エロマンダーとは不仲に見えたけど……」

 

リッカが驚いたように問う。そう言えばさっきウィズが兄弟と言っていた。だが、サラマンダーのライオネルと人間のレオーネは種族が違う。義兄弟、ということだろうか。

 

「とはいってもレオーネはあんまり帰ってこないんだけどねえ」

 

さびしげな表情をするウィズだったが、すぐににっこりと笑いお茶を入れるために台所へと向かっていった。俺は特に何も考えずにダイニングの椅子に腰かけ、リッカもその隣に座る。ライオネルも座るのかと思ったが、彼は再びドアを開け外へ出ようとする。

 

「どっかいくのか?」

「ああ、ちょっと修業にな」

「修業?」

 

俺の疑問には答えずライオネルは出て行ってしまった。

 

「修業って何だ?」

「わたしに聞かないでよ」

 

ちょうどその時、ウィズがお茶を運んできてくれた。俺のまえに置かれたコップからは湯気とともに茶葉のいい香りが漂ってくる。

 

「ライオネルはやっと修業に行ったかい」

 

ウィズは俺たちの向かいに座り、お茶をすする。

 

「修業って、なんの修業なんですか?」

 

俺の質問にウィズは一瞬ためらったような表情をしたが、意を決したのか話し始めた。

 

「みて分かる通り、ライオネルは本来南側に住むサラマンダーなんだ。あの子がまだ6歳の時に村の近くで倒れていたのを保護されたのさ。とはいっても、本人もなんで倒れていたかおぼえていなかったらしいし、それまでの事を聞くと取り乱す始末でね、結局サラマンダーっていう事以外何もわからなかったんだよ」

 

なんだか、俺に似ている気がする。ただ違うのは、ライオネルは過去を憶えていてそれが大きなトラウマになっているという事。もしかしたら俺の過去だってそれくらい恐ろしいものかもしれない。それでも、今日出会ってからのアイツは気さくで明るくて、そんな事を微塵も感じさせなかった。そこは素直に凄いことだと思う。

 

「でも、ライオネルは見てのとおり気さくで村の住人たちとも仲良くやっていた。昔はレオーネもライオネルと仲が良かったんだ」

 

レオーネとライオネルの仲が良かったなんてさっきの光景を見ている以上にわかには信じがたい事実だ。

 

「それじゃあ……アイツに向けられている冷たい視線は何なんですか?」

 

そう尋ねるリッカの表情は少し暗かった。ライオネルの過去に何か思うところがあったんだろうか。

それを見てか、ウィズは長い息をはき、俺たちにテーブルの上のお菓子を進める。つまりは、長い話になるということだろう。

 

「あの子はサラマンダーだったけど、魔法を使うことはできなかった。それどころか魔法石を使った道具すら上手く使えなくてね、でも『強くなりたい』っていつも言っていた。そんなある日、あの子を教会に連れて行ったら、いつもは岩の色をした光神スローネの像が光を発したんだ」

「スローネの加護……ですか」

 

思わず呟いてしまう。

 

「あんた知ってるのかい……ってそれはもう王都の学者が本にしてたんだったね。そう、ライオネルはリントの生まれでないのに光属性魔法を使える資質をもった、100年に一度の逸材だったんだ」

 

100年に一度という口ぶりからしてスローネの加護をうけた人物と言うのは本当に稀なのだろう。それが言い方は悪いが部外者がとなれば……。

 

「でもね、最初はそれを妬む奴もいたけどライオネルに期待する奴もたくさんいたんだ。純粋に光属性魔法が見たかったってのもあるんだろうけどね。だからこそあの子は3年前に亡くなった大司祭様の養子として迎えられた。しかも一人息子のレオーネの兄として」

 

だからレオーネは歪んでしまったのだろうか。本来なら自分が教会の跡取りになるはずだったのにその未来をライオネルに奪われたから。

 

「あの子はそれ以来光属性の魔法を使うためにそれは厳しい訓練をした。でも……」

「でも?」

「あの子がどんなに修業しても魔法は発現しなかった」

「え?それってどういうことですか?」

 

リッカが首をかしげる。

 

「剣を降らせても、さっきみたいな結界をはらせようとしても、とにかくいろんな状況を用意したけど、あの子は魔法を使えなかったんだ」

「そんなことって……あるの?」

 

リッカは俺の方を伺う。だが、俺にだってわからない。既存の5属性ならともかく使用者が限られ、魔法石すらない光属性魔法のことなんて知っているはずがない。だが、一つ分かったことがある。

 

「だから、みんなはライオネルを冷たい目で見るんですね」

 

ウィズは首を小さく縦に振る。

 

「そう、サラマンダーとしての魔法も使えず、せっかく受けた加護も意味を成さず。いつからかあの子は出来そこないとしてみんなから失望されてしまったんだ」

「じゃあ、修業って言うのは……」

「あの子は諦めてないんだよ。サラマンダーとしても、リント村の一人としても。いつかきっと魔法が使えるってね」

 

ウィズはそう言ってお茶を飲む。

 

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