ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
「うおおおおおおお!」
ライオネルが叫ぶ。
「たあああああああ!」
ライオネルが飛ぶ。
「てええええええい!」
ライオネルが回る。
これ、傍から見るとやばい奴だよな。まあ事情が事情だけあってバカにする気も笑う気も全くしないが。
ウィズからライオネルの修行場所を聞いて見に来てみたところ、アイツはこの何もない草原でひたすら体を動かしていた。かなり真剣な表情だったのでひと段落するまでそれを眺めているのだが、もう一時間くらい立っている。途中まで一緒に見ていたリッカも、流石に疲れたらしくウィズのところへ戻ってしまった。だから、俺はこの一時間ずっとライオネルの修業を見物していた。それと同時に考え事もしていた。なぜ、ライオネルの魔法は今も発動しないのか。いろいろ仮説を立ててみるもどれも釈然としない。光属性の魔法石があればそれを食わせて無理やりマテリアルバーストさせられるが……光属性の魔法石は現状存在しないしマテリアルバーストは危険すぎてとても勧められたもんじゃない。
「ぬらああああああ!ぐへっ!」
目を離していた間にライオネルが何かに躓いたのかすっ転んでうめいていた。
そろそろ、いいかな。
俺は寄りかかっていた木から離れ、ライオネルの方へと近づいてく。向こうも足音が聞こえたらしく、俺の方に顔を向ける。
「ライアか……いつからいたんだ?」
「1時間は前だな。取りあえずこれ、ウィズさんから預かってきた」
俺はお茶の入った水筒をライオネルに渡す。ライオネルはすぐにふたを開け、勢いよくお茶を流し込む。そうとう疲れていたんだろう。体中汗にまみれている。俺はそんな彼の隣に腰掛ける。
「この草原、いいな。広くて、心が落ち着く」
昔自分が寝そべっていた草原を思い浮かべながらそんな感想を述べてみる。
「そうか?いままでここをそんな観点で見たこと無かったな~」
「毎日来てるとそんなもんかもな」
俺も、あの草原をそこまでべた褒めするような言葉は浮かんでこない。
「婆さんから聞いたんだろ、俺の事」
「……ああ。悪いとは思ってる」
「いいって、どうせ婆さんが勝手に喋ったんだろ?」
ライオネルはにかっと笑う。でも、それが無理に作った笑顔だということは俺でも分かった。
「俺さ、スローネの加護を受けた日、嬉しかったんだ。よそ者の俺がやっとこの村の一員になれたんだって」
「……」
俺は黙って続きを聞くことにした。
「でも、違った。あの日を境に俺の周りにいた人たちはどんどん俺から離れて行った。レオーネも、俺を憎しみのこもった目で見るようになってさ。婆さんだって優しくしてくれるけど心のなかではがっかりしてるんじゃないかなって」
「……」
「俺にはもう、居場所がないんだなって思うと怖くなってさ、だからそれを振り切るためにここで修業してる」
そこでライオネルは言葉を切る。だから俺はそれに答えるべく言葉を紡ぐことにした。
「俺、記憶喪失なんだ」
「え?」
「言葉の通り、自分の生まれも、家族も、とにかく自分について何も憶えていないんだ。そんな俺は5年前、とある村の家族に拾われた」
「……」
「俺も怖かった。自分の事もそうだけど、俺を家族にしてくれた母さんやシャル……妹たちといつまで一緒にいられるんだろうって。俺の居場所はどこにあるんだろうって。今でもたまにそう思う。……だから、いまこうして旅をしているんだ」
「お前も俺と同じってことか……」
「違う」
俺はしっかりとそれを言葉にする。
「俺とお前は違うよ。俺は自分を知らないから居場所を探してる。でもお前は自分の事を良く知ってる。そのうえで、たどりつきたい居場所が明確にあって、そこを目指してる。お前は俺よりも過酷な環境で、それでも頑張ってる。それは、凄いことだと思う」
なにせ俺の旅は目的を完遂するめどが一切立ってないわけだしな。
「ライア……」
「なんだよ?」
「うぐっ……お前、いい奴だなああ!」
そう言ってライオネルは唇をかみしめている。それどころか涙があふれ、ひどい顔になっている。鋭い目つきと大きな体つきでそんな泣き方をされると少しビビるな……。
「本当にいい奴だお前はああ!」
「わかった!わかったからくっつくな!」
ぐいぐい近づいてくるライオネルを引きはがし、俺は荒くなった息を整える。もうビビるというよりマジな怖さだった。こいつがこんなに涙もろい奴だったとはとても予想できなかった。
「そ、そういえばさっき言ってた掟ってのはなんだ?」
露骨すぎる話題転換だが、これ以上泣かれても困る。
「あ?掟?……ああ、村の掟か。そうだな、お前たちがいつまでここにいるかわかんないけど一応伝えておくか」
ライオネルはごしごしと目をこすり涙をぬぐう。
「掟っていってもそんなにたくさんあるわけじゃないんだ。全部で3つ。一つは無益な争いをしないこと。次に、生き物の命を奪わないこと。最後に教会のものを壊さないことだ」
ライオネルは指を折りながら淡々と告げてくる。
「疑問があるんだけど、聞いていいか?」
「ん?まあ俺に応えられる範囲なら」
「じゃあまず、最初の2つの掟、レオーネはバリバリ破ってたけど例外があるってことか?」
「そう……だな。無益な争いにしても生命の命にしても、それを厳守するのはあくまで平常時。非常時、つまり自分の命や村自体の存在が脅かされたときは例外が認められるんだ」
「つまり狼を狩ったのは村の存在が、リッカを殴ったのは自分の命が外敵によって脅かされたからと認識することで掟には触れないってことか。……屁理屈もいいところだな。その解釈だと掟なんてあってないようなもんだろ」
「まあ、そうなんだけど。レオーネの場合はアイツの取り巻きが目撃したって証言するからさ、それ以上は触れないのが暗黙の了解なんだ」
そう言って頭をぼりぼりかくライオネルは悲しそうな顔をする。レオーネがグレたのはライオネルが教会の後継ぎになったことで自分の立場がなくなったからみたいだし、自責の念ってやつかな。
「悪い。もし今度レオーネになんかされたら遠慮なく言ってくれ。なんとかするから。それで、質問はまだあるんだろ?」
「あ、ああ。後気になったのは3つ目の掟だけ凄く具体的なことと、掟を破るとどうなるかってこと」
「えーっとだな、俺も婆さんからきいただけなんだけど、教会にあるスローネの像には不思議な力が宿ってて掟を破るとそれによって処罰されるらしい。つまるところ、教会のもの云々に関しては触らぬ神に祟り無しってだけだ」
不思議な力ってところが抽象的で分からないが、それはつまりここ最近は掟を破って罰せられた者はいないから不明ってことなんだろう。つまりレオーネの行いも処罰の対象にはなっていないわけだ。
「あ」
「なんだ?」
「……俺さっきレオーネのこと思いっきり殴ったけど、あれってセーフ?」
なんか部外者だからいいとか屁理屈いって殴った訳だが、不安になってきた。
「……えーっと」
ライオネルは腕を組んで首をひねる。
あれ、アウトかな?俺スローネに罰せられちゃうの?
「あれは無益な争いじゃない。俺に降りかかる火の粉を振り払ってくれたわけだしな。そもそもアウトなら今頃処罰されてるよ」
「そう……なのか?」
「……たぶんね」
話しながらライオネルは立ちあがり、ズボンのよごれをはらう。俺もそれに続き立ちあがり、コートについた草をはらう。気付くと空は紅くなっている。大分話しこんでしまったようだ。ライオネルが立ち上がらなければこのままずっと話していたかもしれないな。
「よし、帰ろうぜ」
「もう修業はいいのか?」
「今日の分は終わりだ。もっとも、今日も成果ゼロだけどな」
にっこり笑うライオネルの笑顔を見て思う。こいつはまだ諦めていないんだなと。いつか魔法を使えるようになって自分の存在をもう一度村のみんなに認めてもらいたい。レオーネとも分かり合いたい。そんな想いがこいつの原動力なんだろう。俺だったら、なんて考えるだけ無駄だが、仮に俺だったら、そう思えるだろうか。自分のあり方を否定されて、こんな風に笑えるだろうか。
***
その日の夜はライオネルと共にウィズの家へと帰り、晩御飯までごちそうしてもらい、あまつさえ泊めてもらうことになった。本当にウィズにおんぶにだっこで申し訳ないが、これが無ければ今日も野宿だったろうしライオネルと出会ったのは幸運だったな。リッカはまだ怒ってるみたいだったけど。
「ぐがー」
明日はどうしようか。俺としては光属性魔法についてもう少し知りたいところだが、ウィズが研究者たちを胡散臭いと言っていた事からしてそういった好奇心はあまりいい顔されないだろう。となれば普通にこの村を旅立つしかないか。
「ぐぎぎぎぎ」
夕食の時にウィズに聞いたが、あの結界によって本来村には村人以外入れなかったらしい。だから、研究者たちが村に入れた理由は不明らしい。それが胡散臭いという言葉の真意だろう。ただ、ウィズ含め村人たちがいい顔をしなかったため最近は研究者たちの姿を見ないという。
ふと、思う。光属性魔法を発見したオリバー・シルキタスも恐らくその研究者チームに居たはずだ。俺はこれまで彼の事を本以外の事で知らなかったから勝手に善良な研究者だと思っていたが、事実は違うのかもしれない。なにか良からぬ方法でリントに侵入したんだとしたら……。
「ふごおおお」
というか、研究者たちはよく滞在中掟に触れなかったよな。生命を奪うのは論外にしても村人と争いになったり教会の視察の際に物を壊してしまったりとか。こうなると掟を破った場合の処罰ってのも怪しいもんだな。
「ふぬううううう」
「……うるせえ」
さっきから隣のベッドのライオネルのいびきがうるさくて寝れたもんじゃない。なんとか寝ようとずっと頭を働かせ眠気を待っているのだが一向に来ない。
これなら床でもいいからリッカと同じ部屋で寝ればよかった。なんであいつだけ別の部屋なんだ。男だとか女だとか関係なしにアイツもこの苦痛を味わえばよかったのに。いや、次の日寝不足なリッカと一緒に村を出たらどんな八つ当たりをされるか分かったもんじゃない。結果オーライだな。多分。
「ぎゃおおおおお」
とは言っても流石にこの拷問には耐えられなかったので俺はゆっくりとベッドから起き上がり部屋を出る。ゆっくりと階段を下りて行くと、踊り場に月の光が差し込んでいてそこには……デジャヴだな完全に。
「よう」
リッカはびくっと肩を動かしたがすぐにこちらへ視線を向ける。
「……なに?夜這いしにいったらわたしがいなくて探してたの?」
「珍しいな、お前がそんな冗談言うなんて」
「……そうかもね」
リッカはそう言うと再び窓の外を見る。
「今日は泣いてないんだな」
「っ!あれは忘れる約束でしょ!」
そういえばそんな約束をしたかもしれない。こちらを睨みつけるリッカから目をそらし、俺も窓から夜空を見上げる。
「アンタさ、どう思った?アイツの事……」
「ライオネルの事か?気さくだし明るいしいい奴じゃないか?それに今も必死に努力して自分の居場所を探してる。強い奴だと思うぞ」
「そうじゃなくて……その、アイツがなんで一人でこの村にたどり着いたかってこと」
「それに関してはライオネル本人があまり人に言いたくない事なんだろ?詮索するだけ野暮だ」
今はともかく、当時のライオネルは過去の事を考えるだけで取り乱す始末だったとウィズも言っていたし。
「ウィズさんに聞いたけど、アイツ今年で16歳なんだって」
「へえ、見た目より若いんだな」
てっきり20歳くらいかと思っていた。
「あいつが6歳のころにこの村にたどり着いたってことは、10年前よね?」
「ん?そうなるな?」
それがどうしたと俺が尋ねるより前にリッカは窓から離れ、階段をのぼりはじめた。
「お、おい。またその終わり方かよ」
リッカはそれには答えず2階へと消えて行った。