ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
「またあんたたちかい!いい加減にしとくれよ!」
そんな甲高い声で目が覚めた。まあそもそもライオネルのいびきのせいで最初から半分起きてるような意識の状態だったわけだが。
床に敷かれた布団から起き上がり、目をこすり、頬を軽くたたいて意識を完全に覚醒させる。ふと、ベッドで寝ていたはずのライオネルの姿がないことに気付いた。
「おーい、ライオネル?」
少し大きな声で読んでみるも、部屋はもちろん廊下からも返事は無い。
「ウィズさーん」
これまた返事は無い。
仕方ないので俺は部屋を出て、リッカの使っている部屋へ向かう。あいつもいなかったら今日の朝ご飯はどうなるんだろうか。
「おーいリッカ」
部屋の扉を開き中へと入る。幸いにもリッカは部屋にいてくれた。
「へ?」
何故か下着姿で。
「あ~悪い。着替え中……ってわけでもないよな?」
リッカの立っている周辺には昨日寝るときに来ていた服も、いつも着ている服もない。
ここから読みとれることはなんだろうか。
「……ひょっとして、お前寝るときっていつも下――」
「わあああああああ!うるさい!死ね!出てけ!」
俺が真実へたどり着いたことがそれほど恥ずかしかったのかリッカは顔を真っ赤にしてこちらに殴りかかってくる。だが、片腕にギプスをはめているような奴の一撃なんざまともにくらうわけ……あれ?こいつギプスしてなくね?
いつの間にか無くなっていたギプスに気を取られたが最後、俺の腹に見事なパンチが炸裂する。そのまま俺は後方に吹き飛び、部屋の柱にぶつかることで動きを止める。
「い、いてえ」
「いてえ、じゃないわよ!あんた何回同じハプニング起こすのよ!?わざとやってんじゃないでしょうね!?」
「お前が下着姿で寝るような習慣があるなんて知らなかったんだから仕方ないだろ」
「言わないでよ!てかそもそもノックくらいしなさいよ!常識でしょ!」
「そんなことよりリッカ」
「そんなことって何よ!私の下着姿はそんなことなの!?」
「お前、ギプスは?」
俺の問いにリッカは自分の腕を見る。
「あれ、そう言えば取れてるわね。寝てる時に取れたのかしら?」
「いや、それで腕は大丈夫なのか?」
「ぜんぜん痛くないわね」
リッカは負傷していた腕をぶんぶんと振って見せる。
「なんじゃそりゃ、まるで魔法だな」
「あの温泉の効能なんじゃない?」
入って一晩で骨折が治る温泉があるなら医者も真っ青な気がするが、治ったなら良しとしよう。
「あ、そうだ、ライオネルとウィズさんがいないんだが――」
「いい加減にしろ!こっちは迷惑なんだよ!」
俺の言葉は外から聞こえてきた声によって遮られた。
「今の、エロマンダーの声?」
「らしいな。ただ事じゃない感じだし、ちょっと見てくる」
俺は部屋から出て、階段を急いでおり玄関へ向かう。玄関の扉は開きっぱなしになっており、その外にはライオネルとウィズの後ろ姿が見えた。その先には白いローブを着た男たちがいる。
「ですから、もう一度だけ教会を見せてくれるだけでいいんですよ」
ローブの男の一人がウィズに言ったその言葉から、こいつらの正体が分かった。
おそらく昨日ウィズが言っていた王都の研究者たちだろう。
「だからさっきから言ってるだろう?あんた達の様に興味本位で教会のものをいじったりしたらスローネの祟りがおこるって」
ウィズの言葉に男は肩をすくめ大げさに首を横に振る。
「お言葉ですが、ここ数千年という期間の間、スローネによって罰せられたという事例は存在しないと我々は知っています。つまりそれはただの迷信なんですよ」
「何言ってんだい!それはその数千年の間この村が平和だったという証明なんだよ!」
「はあ……もうこの老害に何を言っても無駄らしい。時間のももったいない。教会へ行こう」
男たちはそのまま立ち去ろうとする。
「おい、待て!」
それを呼びとめたのはライオネルだった。後ろからだと表情は見えないがその声には怒りがこもっていた。
そのままライオネルはずかずかとさっきの男の方へ近づき、全力でその顔を殴り付けた。
「ぐへあ!?」
男はそのまま後ろに倒れる。他の連中があわてて駆け寄る。
「ナーヴ!大丈夫ですか!君!いきなり何をするんだ!」
「何すんだじゃねーよ。婆さんのことをバカにしやがって!こいつがどれだけこの村のことを思ってるかも知らない癖に!」
そのままライオネルは再びナーヴと呼ばれた男に掴みかかろうとする。
「ライオネル!やめなさい!」
それを制止したウィズの迫力に、その場にいた誰もが言葉を失う。
「村の掟を忘れたのかい!?無益な争いはロクなことにならないんだよ!」
「で、でも婆さん!」
そんな二人のやりとりを見たナーヴは大きな声で笑う。
「それみたことか!今その男が私を殴ったが誰かがそいつを処罰したか?いいやしていない!それが神の裁きなど無い証拠なんだ!」
ナーヴはゆっくりと立ち上がり、そのまま教会へと向かっていく。他の研究者たちもそれに続く。
「お、おい!待てって!」
「お前が待て、ライオネル」
追いかけようとするライオネルを俺は呼び止める。
「ら、ライア!止めるなよ!あいつらをなんとかしないと!」
「今あいつらを力ずくで止めても、また改めてこの村に入ってくるだけだ。つまり、考えるべきはあいつらがどうやってこの村に入ってきているかと言う事だ。それが分からないと何度止めても同じことになる」
「で、でも!」
「ライア君の言うとおりだよライオネル!普通ならあの結界を研究者程度が破れる訳もないんだ、なにかあるんだよ」
ウィズの言葉にライオネルは少しの間俯くと、俺の方を見る。
「わかった。でもあいつらが教会のものをいじり出したら何が起きるか分かったもんじゃない。原因を考えるのはあいつらを追いかけながらじゃ駄目か?」
「流石に走りながら考えるってのはちょっと……」
「できるでしょ、あんたなら」
その声はいつの間にか玄関にいたリッカのものだった。流石に服は着ているようだ。下着のまま降りてきたらライオネルがどうなるか分かったもんじゃない。
「いや、できるってなんでお前がそんな自信たっぷりなんだよ」
「バカにしないでよ。あんたを鍛えた半年間であんたがどんだけ理屈っぽいか嫌と言うほど知ってるんだから。走りながら考えるなんて朝飯前でしょ?」
「いや、だが俺はこの村について殆ど知らないんだぞ?あの時とは状況が……」
「いいから、行くわよ!さっさとしないとあいつらなにするか分かんないわよ!」
そのままリッカは俺の手をひっぱり走り出す。
「エロマンダー、あんたもさっさと来なさい!置いてくわよ!」
「お、おう!……ってかその呼び方やめろって!」
ツッコミを入れながらもライオネルは後ろを走ってくる。
「ほら、走る方向とか周りの障害物とかは私に任せてあんたは考えなさい!」
「わかったよ。その代わりあんまり無茶なルートはやめてくれよ?」
俺は足だけを動かし、考えることにした。
なぜ研究者たちはリント村に入ることができたのか。
この問題を俺の持っている情報だけで解を出すにはまず状況の整理が必要だ。
一つ目。この村は結界により外部からは存在を知ることはできず、ただ草むらが広がっているだけに見える。この結界がどういう仕組みで、誰が貼ったものなのかは分からないが、ライオネルや村の住人は自由に出入りできるということから方法が分かれば誰でも入ることは可能ということだろう。
二つ目。研究者たちが結界を通り抜け村に入ったのは今回が初めてじゃない。ウィズも言っていたが連中は光属性魔法の研究の為に以前から村に入っていた。つまり、偶然結界を通ることができたという可能性は低い。そもそも偶然入ったなら、出る手段が分からないはずだ。
つまり、奴らは正攻法で結界を通り抜け、その手段をしっかりと把握しているという事になる。
どうやってだ?村の人物しか知らない結界の通り方を知る術とはなんだ?
もしかして正攻法では無く魔法攻撃で無理やりこじ開けたのか?
いや、それなら結界を作り直さなくてはならない。ウィズもライオネルもそんなことは言っていなかった。
となるとやはり突破手段は正規の手順に他ならない。
……まてよ?別に「あいつら」が手段を知っている必要は無いんじゃないか?
必要なのは手段を知ることでなく、村に入るという結果だ。
なら、方法はひとつだけある。
***
遠目から見た時に感じたように教会の外観はかなりの大きさを誇っていた。
だが、俺たちがたどり着いた時には研究者たちの姿は外には無かった。おそらく中で研究作業を始めているのだろう。
「どう、ライア?考えはまとまった?」
息を整えながらリッカ尋ねてくるリッカに対し俺は頷く。
「すげえなライア!こんな短い時間で分かったのか!」
嬉しそうな表情をするライオネルは全く息を切らしていない。サラマンダーってのは走っても疲れない種族なのか?ちょっとうらやましいかも。
「……とりあえず、中に入って連中を止めよう。俺の考えが正しければそこで今回の一件の理由も分かるはずだ」
「なんだよそれ?どういうことだ?」
首をひねるライオネルに何か言うわけでもなく俺は教会の扉を押す。
ものものしい音と共に扉は開く。
教会というからにはステンドグラスだので明るい装いになっているとばかり思っていたが、俺の目に映ったのは暗く、椅子や装飾品などが無造作に転がっている、華々しいイメージとは間逆の光景だった。
―――そして、さっきの研究者たちがまるで死んでいるかのように倒れていた。
「お、おい!大丈夫かよ!」
ライオネルが近くに倒れていた研究者の一人に駆け寄るが、返事は無い。
「一体何が……?」
リッカも倒れている研究者に駆け寄り、顔をぺちぺちと叩く。だがやはり返事は無い。
どういう状況だ?流石にこんな事態になっているなんて事までは考えが至らなかった。というか至るわけもない。
「クックックック……」
そんな俺たちの前方、大きな男性の像の陰から不気味に笑う声が聞こえる。古ぼけてはいるが、あの像の男性がが恐らくライオネル達が言っていた光神スローネなのだろう。
「おそかったなあ、ライオネル」
陰から出てきた人物の姿が、窓からさす光に照らされあらわになる。
「お、お前……レオーネ!?」
姿を現したレオーネに対し驚きを隠せないライオネル。そしてそれはリッカも同じようで、俺に状況の説明を求めるかのように視線を向ける。
「そ、そっか!お前がこの研究者たちを追っ払おうとしてくれたんだな!」
ライオネルの言葉に反応するわけでもなく、レオーネは不気味な笑みを浮かべるだけだった。その様子にライオネルは戸惑いを見せる。
だから、俺は彼らの代わりに口を開く。
「今回の事の発端はお前だな?レオーネ」
「は?何言ってんだよライア?」
疑問符を浮かべるライオネルの姿は視界に入れず、俺はただレオーネの方を見て話す。
「要点はたったひとつだ。何故研究者たちはこの村に入れたのか。この村は結界で守られていて、外からは存在を確認することすらできない」
「確かに、私たちもエロマンダーの案内が無ければ入れなかったわね」
「つまり、本来なら研究者たちは村に入る術がない。だが、たったひとつ抜け穴がある」
レオーネを含め、この場にいる誰もが俺の言葉の続きを待っている。
「簡単な話だ。入り方が分からないなら知っている奴に聞けばいい。それがお前だ、レオーネ」
「……なるほどね。確かに村の住人はみんな自由に出入りしていたみたいだし、私たちの様に一緒に入ることができればなんの障壁もないわ」
正直それをレオーネだと特定できる材料は無かった。村の住人ならだれでもできることだったから。だが、この場にいたのがレオーネという事実が、こいつが主犯であることの裏付けになってくれた。
だが、俺が分かったのはここまでだ。レオーネの動機も、ここに倒れている研究者たちのこともなにひとつとして答えは出ていない。
「れ、レオーネ!なんとか言ってくれよ!」
ライオネルは必死にレオーネに呼びかける。それに対し、ようやくレオーネが口を開いた。
「俺は……神になる」
「は、はあ?お前、何言って……」
「ライアって言ったか?お前の言った通り、この連中を村に入れたのは俺だよ……全ては力を得るため……」
「……光属性魔法の事か?」
「そうさ!本当に光属性魔法を手に入れるべきなのはこの俺だ!なのにこんなゴミみたいな奴にその座を奪われた、その屈辱が分かるか!?」
レオーネの鋭い視線の先にいるのは当然ライオネルだ。
光属性魔法が欲しいレオーネ、光属性魔法を調べたい研究者たち。二者の利害は一致しているわけで、それがこの状況につながっている。
確かに動機は分かったが、倒れている奴らがどうしてこうなったかの説明にはなっていない。
「だから、俺はこいつらに教会を徹底的に調べさせた!その結果見つけたんだよ……スローネの力を……いや、それ以上の力を手に入れる方法をよぉ!」
そう叫ぶレオーネの周囲にまばゆい光の様なオーラが出現する。
「な、なによこれ!どうなってんの!?」
リッカの近くに倒れていた研究者が、いや、他の奴らからも何か光の線の様なものがレオーネに向かって伸びてゆく。その線はレオーネに近づくほど太くなっていき、それと同時に連中の体が発光し、消えて行った。
「まさか……こいつらの魔力を、肉体ごと……」
「その通り!必要な条件は大量の魔力!そのすべてを取り込むことで、この村を守り続けてきた神のしもべ、神獣の力を得ることができるのだ!」
「神獣……?なによそれ……」
「さあ!時はきた!俺は今、全てを超える力を手に入れる!クククク、アーハッハハハハ!」
レオーネのオーラがどんどん輝きを増していく。その影響か、教会の柱がみしみしと音を立てる。
「こ、このままじゃ教会が!」
ライオネルの言葉は、膨大な力に耐えきれず大きな音を立てて倒れて行く柱たちによってかき消される。
「ははははは!……あ、あぐっ!?」
そんな中、力を増幅させていたレオーネの笑い声がいつの間にかうめき声に変わり始めていた。
「ぐ、ぐあああああああああ!」
その苦しみ方は尋常ではなかった。俺が以前高熱で傷口をふさいだときでさえ、こんな苦しみ方はしなかった。それはつまり、これが異様な状態であることを示している。
「れ、レオーネ!大丈夫か!」
「ば、バカ!エロマンダー!」
リッカの制止を振り切り、ライオネルはレオーネの方へと走ってゆき、その肩を掴み、揺するが、レオーネは苦しそうな声を上げ続けるだけで、もはやライオネルの事を認識すらできていないようだった。
そして、さらなる異変が起きた。
レオーネのから出ていた光のオーラが、まるで日食の様に黒く塗りつぶされていったのだ。
―――あれは……なんだ?
―――あれは……忌むべき力……。
―――あれは……この世界にあってはならないもの……。
そんな声が頭の中で響いたのと、俺が魔法剣を抜いたのは同時だった。すぐに魔法石を起動させ、剣に炎を宿す。
「ライオネル!そこどいてろ!」
そう叫ぶや否や、俺は全力でレオーネに向かって突進する。
がらがらと崩れて行く教会、轟々と音を立てる俺の炎、音こそしないが増幅する黒いオーラ。
まるでこの世の終わりの様な光景の中、俺はレオーネに向かって剣を振り下ろす。
その刀身がオーラに触れた瞬間、ものすごい爆音と共に辺りの全てが吹き飛んだ。
当然、俺やリッカ、ライオネルも例外では無い。
吹き飛ばされる中、かろうじて見えたのは禍々しく黒い化け物が飛び立つ姿だった。