ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件   作:たけぽん

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20. 神獣

「……と言うわけなんです」

 

ウィズの家に戻り、ダイニングを囲む俺たちは事の全てを彼女に伝えた。レオーネが研究者たちを村に招き入れたこと、そして光属性魔法を手に入れようと生贄をそろえ、その力が暴発し、結果さっきの爆発が起きたと言う事。

そのすべてに対し、ウィズは一言も口をはさまずにただうんうんと相槌を打つだけだったが、俺が話終わったのを見てゆっくりと口を開いた。

 

「レオーネは、神獣の器にはなれなかったということだねえ」

「その、神獣ってなんなんですか?」

「そうだぜ婆さん!そんな話一度もしてくれなかったじゃねえか!」

 

リッカの問いに、ライオネルも身を乗り出す。

 

「お前さん達も知っている通り、この村では光神スローネが祭られている。太古の昔、スローネはその光の魔法を使い、神々の争いを収め、その後はこの地で静かに暮らしていたと言う伝説が残っているんだよ。そしてその伝説の中で、スローネにつき従い、彼の生涯の友ともいえる獅子がいた」

「それが……神獣……なの?」

「そう。その獅子は金色の雄々しき姿をしていて、スローネと共に、人々の心をその光で癒したという。そしてスローネが戦場に赴けば、獅子もまた共に出向いたらしい。そんな神に仕える獣を、人々は神獣と呼んだ」

 

金の獅子。そして人々の心を癒す光……。あくまで伝説のはずだったその神獣がレオーネの行為によって発現したと言う事だろうか。

 

「ウィズさん。それで、神獣の『器』というのはどういう事ですか?」

「この村では選ばれたものがスローネの加護を受け、光属性の魔法を使えるようになるというのはみんな知っているだろうけど、加護を受けずにその力を手に入れる方法がある。ただそれは、『生き物の命を奪わない』という掟を大きく破ること、すなわち禁忌として歴代の大司祭様と一部の人間しか知ることを許されなかった。それが、神獣の器になる事なんだよ」

「つまり、レオーネがやったように大量の魔力を生物から吸い取り、その身に宿すことが、神獣を自分の中に取り込む儀式って事ですか?」

「スローネの加護と違ってあくまで伝説さ、試した奴は一人もいなかったんだ」

「前例がないから確かめようが無かったということですね」

 

 

俺の言葉にウィズはゆっくりとうなずく。

 

「でも、レオーネは儀式に失敗した。器ごと壊れてしまったんだよ」

「ま、待ってくれよ婆さん!それじゃあレオーネは死んじまったのか!?」

「そうだよライオネル。あいつの心も体も、消え去っちまったのさ」

「う、うそだ……そんな……」

 

がっくりと膝を落とすライオネル。そしてウィズも静かに涙を流している。それっきり、俺たちはずっと黙っていた。

仲たがいしていたとはいえ、突然の家族の死。誰だって悲しくなって当然だ。

 

「まって」

 

そんな沈黙を破ったのはリッカだった。

 

「なんだい……?」

「それじゃあ、あの時レオーネのオーラが黒くなったのは何故?あの黒い化け物はなんだったの?」

「なんだって!オーラが黒くなった!?」

 

ウィズが声を荒げる。

 

「ええ、あいつの纏っていた光のオーラが突然黒くなって、そしたらあいつが苦しみ出して、ライアが剣を振りおろして……」

「黒い化け物ってのはなんだい!?ライア君も見たのかい?」

「はい。俺も爆発の中、黒くて禍々しい化け物のようなものを見ました」

「そんなバカな……神獣の儀式でそんなことが起るはずが……」

 

 

ウィズがぶつぶつと言っていると、唐突に部屋の中が暗くなった。

いや、部屋の中だけでは無い。窓の外、空一体が真黒な雲に覆われ始めたのだ。

そして、どこからともなく唐突に大きな声が辺りに響き渡る。

 

『愚鈍なる民たちよ……我は眠りから醒めた……』

 

「この声、レオーネ!生きてたのか!?」

 

『我は貴様らに何度も恵みを与えてきた……それを貴様らは無駄にし、それをよしとしてのうのうと生き続けてきた……その結果を踏まえ、我は一つの結論を出した』

 

結論……?いや、それ以前にこいつは誰だ?確かに声はレオーネに似ている。だが、話し方は全く別人だ。

 

『我はこの世界を……貴様らを破壊することにした……』

 

「せ、世界の破壊ですって!?なにバカなことを……」

 

リッカの言葉が終わる前に、空から降り注いだ雷が村の倉庫と思われる建物に直撃した。

倉庫は一瞬にして消し炭となり、その周辺の雑草がチリチリと燃えているのが見える。

これがおふざけでも夢でもないことを証明した……と言う事だろう。

 

 

『だが、我も復活して早々に、全てを無にして暇になるのも少々惜しい……。よって貴様らにチャンスをやろう。今日の日没まで北の洞窟にて、我に歯向かう愚か者どもの相手をしてやろう……』

 

「随分な自信じゃない……」

 

苦笑いするリッカの声はいつもの数倍弱弱しかった。リッカに限らず、この場にいる誰もがこんな反応になるだろう。村のシンボルである教会が崩壊し、さらには急にたちこめる暗雲に世界の破壊をもくろむ謎の声。恐怖を抱くには十分すぎるほどだ。

 

『おっと、まだ名乗っていなかったな……では最後に名乗ろう……』

 

 

『わが名は……神獣、【クリューソス】』

 

その名乗りに、俺たちは凍りつく。あくまで伝説だと、ウィズは言っていたから。

でも、たった今、伝説は真実へと姿を変えてしまった。

 

 

『では愚なるものたちよ!さらばだ!』

 

その言葉と同時に暗雲は消え去り、空は元の色に戻っていった。

 

「な、なんてこったい……本当に神獣が……」

 

椅子から立ち上がったウィズはそのままふらふらと後方へと倒れてゆく。

 

「婆さん!」

 

慌ててライオネルがその体を支えるが、ウィズは気を失ってしまったようでピクリとも反応しない。ライオネルはその体をゆっくりとソファーに寝かせる。

やはりそれだけレオーネの死と、神獣の言葉はウィズの精神にショックを与えたということだろう。

 

 

「ライア……どうすんの?」

 

俺に問いかけるリッカの声は震えていた。神獣が本気で世界を破壊しようとしているのか、そうだとしてそれが可能なほどの力の持ち主なのか、全てが未知数だが、先ほどの雷やその声から伝わってくる意志の強さがよりその言葉に信憑性を与え、それゆえに恐怖を掻き立ててくる。

正直、表には出していないだけで俺もかなりの恐怖に煽られている。額からは冷や汗が流れてくるし、なんならウィズの様にこの場に倒れ伏したいほどだ。

 

でも、このまま世界を破壊させるわけにはいかない。こんなところで死にたくは無いし、俺の記憶探しの旅は始まったばかりだ、その目的を全うせずに死ぬのは望むところでは無い。

それに、シャルや母さんも守らないといけない。

 

 

「……リッカ。腕は本当に痛まないのか?」

「え?ええ、もうすっかり……」

「なら、行くぞ」

 

俺の言葉に一瞬呆気にとられたリッカだったがすぐに薄い笑みを浮かべる。

 

「そうよね。私あんたに山ほど貸しがあるんだから、全部返してもらうまで死ぬなんてまっぴらごめんだわ」

「そんなに借りを作った覚えは無いけどな」

 

冗談めいたやり取りも長くは続かず、リッカは真剣な表情で口を開く。

 

「それで……勝算はあるの?」

「わからん。神獣の力量も戦い方も未知数なわけだからな。ただ、あえて言うなら、奴を止められるのは今しかない」

「なるほどね、あいつはさっき眠りから醒めたって言ってた。それならまだ完全に力を発揮できない状態である可能性が高いってことね」

 

そう、この仮説が仮に外れていたとしても、やつの居場所が特定できているうちに始末するべきだ。事態が最悪の方向に向かう前に。

 

「じゃ、いきましょ」

「待ってくれ!」

 

必死な声で俺たちを呼びとめたのは、ライオネルだった。

 

「なによエロマンダー。聞いてたでしょ?私たちはこれから……」

「俺も連れてってくれ!」

 

彼は深く頭を下げる。

 

「俺は……多分だけどレオーネは本当は人々を生贄にしたり、動物を殺したりしたかったわけじゃないと思うんだ……きっと神獣に操られてたんだよ!」

「何故そう思う?」

「だって、昔のレオーネはあんな奴じゃなかった!意地っ張りだったけど本当は優しくて、俺もみんなもあいつが大好きだった!だから……」

「エロマンダー……」

 

リッカが俺に無言で訴えかけてくる。ライオネルの気持ちを汲んでほしいのだろう。

だが、ライオネルに戦うすべは無い。ウィズが言っていたように、魔法も、武器も、使えないのだ。

俺とリッカだって神獣とまともに戦えるほどの力があるかと言えば少なくとも首を縦に振るのは難しい。そこにライオネルが加わっても見込みはほぼない。

 

 

 

――だがそれは、現状を表すだけの事実にすぎない。

 

事実や正論だけで物事が解決するならだれも苦しまない。でも、人はだれでも苦しみながら生きている。それは、それらだけで物事が解決しないということの証拠だ。

そしてライオネルは、魔法も武器も使えず、村の人々からは落ちこぼれと蔑まれ、それでも諦めずに修業の日々を送っていた。

それを知っていて、ここで置いて行くという選択肢はあるのだろうか。

 

 

 

「ライオネル。レオーネが神獣に操られていたと言うのはお前の想像であって、証拠になりえるものは何もない」

「ちょ、ちょっとライア!」

 

俺の視線は俺に反論するリッカではなく、ライオネルに向けられている。俺の言葉の意味は理解しているようで、悔しそうに唇を噛んでいる。

 

「……だよな。やっぱり――」

「だが、仮説としては悪くない」

「え?」

「レオーネがお前にコンプレックスを抱いていたという事はウィズさんの話からも伺える。ならばその闇を神獣が利用しようとしたとしてもなんらおかしくはない」

「ら、ライア……」

「一緒に行こう。そして真実を確かめるんだ」

「お、おう!ありがとう!」

 

俺は窓の外を見る。太陽はまだしっかりとその存在を主張している。タイムリミットまではまだ間に合う。

 

「行こう。そして神獣を止める!」

 

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