ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件   作:たけぽん

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21. 優しい勇気

2時間ぐらいだろうか。俺たちは休憩をはさみながらも走り続け、ようやく神獣の言っていたであろう北の洞窟へとたどり着いた。

リッカのマテリアルマジックで移動できれば楽ではあったが、流石に3人まとめて移動するというのは耐久的な意味で彼女の腕が何本あっても足りないし、以前の様に戦闘時に魔法石の限界が来たら元も子もないので断念した。

 

「てか、これって洞窟って言うの?」

 

リッカの疑問も当然、そこにあった……というかそびえ立っていたのは俺たちが思い浮かべるような洞窟なんかでは無く、リント村にあったのと瓜二つの教会だった。出発する前に確認した地図では確かに洞窟と表記されていたのだが、何かの間違いだろか。

 

「どうみても洞窟では無いだろ……」

 

苦笑いしながらも、そこで新たな疑問が生まれる。

 

――なんでこんなところに教会が?

 

見た感じ近くには人が住んでいるような街や村はない。そして、この教会の扉や外壁、その他すべての部分ががまるで作りたてのようなつやと輝きを誇っている。ということは、この教会は全く利用されておらず、かてて加えて最近作られたものということになる。

しかも、そんな場所を神獣は『北の洞窟』と言っていた。もはや何が何だか分からないくらいの情報量だが、それでも神獣がここを指定している以上、一応中を確認した方がいいだろう。

 

「取りあえず、中の様子を……」

 

俺の話が終わる前に、教会の扉が勢いよく開かれた。突然の事にひるむ俺たちに対し、教会の中から声が聞こえてきた。

 

『来たか……愚かなるものたちよ。入るがいい、我の聖域へ』

 

それは先ほどの神獣の声だった。さっきとは違い、俺たちへ向けての言葉らしい。

 

 

「どうやら、ここで間違いないらしいな。……随分立派な洞窟だ事で」

「洞窟って言葉は随分定義が広いのね……」

 

悪態という名の強がりを吐きながらも俺たちは扉をくぐり、教会内部へと足を進める。

 

リントの荒れ切った教会とは違い、この教会はしっかりと装飾されており、ピアノまで設置されている。

そして、俺たちが入ったのと同時に、扉が勢いよく閉じる。それにより、外からの光が遮断され、教会内部は薄暗くなる。

 

が、すぐに祭壇の蝋燭に明かりが灯り、それを皮切りに壁際に設置されていた蝋燭にも次々と明かりが灯ってゆく。

 

「どこだ神獣!さっさと姿を見せやがれ!」

 

ライオネルの怒鳴り声に反応してかは分からないが、祭壇の前に強烈な光を放つ球体が現れる。その光は徐々に黒く染まっていき、同時にだんだんと形がはっきりとしてきた。

 

そして、いよいよ神獣が姿を現した。

 

その姿は、例えるなら人と獅子のハーフの様だった。

体格は3メートルほどあり、それは大柄なライオネルが小さく見えるほどで、その体を立ったの二本の足で支えている。さらに、上半身には獣という言葉通りの体毛が生えており、発達した筋肉を覆っている。

そして、その顔は人と獅子の要素を両方取り入れたようなものになっており、まるでたてがみのような髪形をしている。

 

「こいつが……神獣……」

 

だが、ウィズが言っていた神獣は金色の姿のはず。それなのに目の前にいる怪物は上から下まで真黒だ。こいつがさっき俺とリッカが見た黒い化け物か……?

 

いや、さっき見たのはこいつじゃない。確かに黒いがこいつとは別の何かだ。だが、その何かが分からない。

 

 

「『神獣』、か……。まあ、そんなことはどうでもよいか……貴様らが我と戦うという事だな?」

 

俺たちはそれに答えない、いや答えられなかった。それほどまでに神獣のプレッシャーは強烈だった。

 

「たった三人とは、我も舐められたものだな」

 

薄い笑みを浮かべつつ、神獣は前方に手を伸ばす。すると何もなかった空間に突然黒い穴が出現し、やつはそこに手を突っ込む。

そしてその穴から取り出されたのは、一本の黒い剣だった。塗られている黒、というよりは使い古されてその色になっているように見える。

 

 

「もう、なんでもありね……あいつ」

 

リッカは苦笑いしている。神に常識は通用しないということがはっきりと分かっただけマシだろう。

 

「ふむ……やはりな……」

 

神獣はその剣を眺めながら何かを呟いていたが、すぐに剣を構えた。

それに反応するように、俺は剣を抜き、リッカは弓を構える。ライオネルは、そんな俺たちの隣で一応戦闘態勢をとる。

 

「神獣、聞いていいか?」

「ほう、この状況で我に質問するような余裕があるとはな」

 

正直余裕なんて一ミリも無いが、確かめておかなければいけないことがあるのは事実だ。

 

「まず一つ。世界を破壊するというのは本気か?」

「無論だ」

「あんた神に仕えてたんだろ?なんでそんな考えに至る?」

「高みにいる者にも、それなりの苦悩があるのだよ」

 

答えになってないじゃねーか……。

 

「じゃあ二つ目。レオーネをそそのかしたのはあんたか?」

「レオーネ……ああ、あの少年か……そうだな、我がこの世界に復活するためには儀式が必要だった。だが我にはこの世界の魔力を集める術がなかった。だからこそ、あの少年が必要だった」

「なんだよそれ!お前の勝手な都合でレオーネを操って、そして死に追いやったってことじゃねーか!ふざけるなよ!」

 

怒りをぶつけるライオネルに対し、神獣はにやりと笑う。

 

「確かに我は少年に語りかけた。だが、それを望んだのは少年本人だ。彼は力を欲していた……そうさせたのは他でもないお前への深い心の闇だ。果たして非どちらにあるのだろうな?」

「それは……」

「さて、質問は終わったか?なら、そろそろお前たちには消えてもらおう」

 

一瞬、ほんの一瞬の沈黙が訪れる。だから俺はその一瞬を思考に費やし、一つの矛盾点を見つけた。

まず、神獣が今目の前に存在している以上多少の脚色はあれど光神スローネの伝説は史実として存在するわけで、そのスローネは光属性魔法を使う資格をライオネルに与えた。

そしてレオーネはそれをコンプレックスとし、神獣はその影を利用してこの世界に復活したと言っていた。

だが、ウィズの話した伝説では神獣はその名の通り神であるスローネと深い絆で結ばれた存在だった。

それなのに、両者のしたことはまるで整合性が取れない、全く方向性の違う行動だ。

その矛盾点が、神獣の言動と関係しているのではないだろうか。

 

 

なら、この戦いでその真相にたどり着くまでだ。

 

「行くぞ!神獣!」

「来るがいい!愚なるものたちよ!」

 

その言葉を合図に、俺は勢いよく床を蹴り、神獣へと走る。だが、向こうはその場から動かず、ただ俺が近づいてくるのを待っているだけ。どうやら随分と舐められているようだ。

 

「さあ来い!最初の攻撃は貴様にくれてやる!」

 

余裕ってわけだな。なら、お言葉に甘えて一撃を浴びさせてやろう。

魔法剣にはめ込まれた魔法石を起動させ、剣に赤い炎を纏わせた俺はおもいきり跳躍し、神獣ののど元めがけて剣を振る。

 

だが、その一撃はのどもとへ届くより先に奴の剣によってがっちりと受け止められてしまう。

 

「こんなものか?」

「この……!」

 

一端後ろへ下がり、もう一度、今度は足元を狙って剣を振る。普通なら、この一瞬で足元まで剣を振ることはできないはずだ。

 

しかし、それは普通ならであって神の名を冠する化け物には通用しなかった。やつはわずかな間で首から足元まで剣を移動させ、今度は受け止めるのではなく、俺の剣に思い切りぶつけてくる。

その威力は俺が想像していたより遥かに強く、そして重かった。俺は後方へと吹き飛ばされ、背中を強く打った。勢いが勢いなだけあって一瞬まともに呼吸ができなくなったほどだ。

なんとか息を整えた俺が顔を上げると、その視界にはいつの間にか間合いを詰めてきた神獣が大きく剣を振りかざす姿が入ってきた。

 

「ライア!」

 

後方からリッカが弓を放ち、それは神獣の脇腹へと突き刺さる……はずだった。

なんと奴はそれを片手ではたき落としたのだ。だがそのおかげで剣を振り落とすタイミングが少しずれ、俺はなんとか回避することができた。

振り下ろした剣はそのまま教会の床に突き刺さり、その余波でその周囲に大きなひびが入る。同時に教会全体がぐらぐらと揺れ、祭壇が崩壊した。祭壇の蝋燭の火は、そのまま床に燃え移り、その炎が後ろから神獣を照らす。

 

「あんな攻撃、一度でもまともに受けたら確実に死ぬだろ……」

 

それどころか肉体が残るかも怪しい。

予想はしていたがものすごい実力差だ。こんなの王都の騎士団でも勝てないだろ……。

 

「どうした!もうお終いか!」

 

地面から剣を引きぬく神獣が煽ってくる。

 

 

「この野郎……だったらこいつはどうだ……」

 

俺は剣を鞘におさめ、精神を集中する。

 

「な、なんだ!?ライアの奴なんで止まってるんだ!?」

「あれをやる気ね……」

「え?あれって何?」

「いいから、どっか隠れてなさい!巻き込まれても知らないわよ!」

 

 

おそらくリッカ達が話しているであろう声も、今の俺には聞こえていない。俺は全身から魔力をかき集め、口にそれをため込む。

あいつにこれが効くかは分からないが、少なくともこれが、今俺ができる攻撃の中で一番威力が高いんだ。これに賭けるしかない!

 

 

「喰らい……やがれえええええ!」

 

たまった魔力を口から放出する。それはシルドでエンペラーコングを焼き払った青い炎となり神獣へと向かっていく。

 

「ほう、青き炎か。それもかなりの威力……ただの愚か者ではないようだな!ならば……我も応えよう!」

 

神獣は剣を降ろし、先ほどの俺と同様に目を閉じる。

おい、まさか……。

 

 

「はあああああああああ!」

 

怒号と共に奴の口からも炎が放出される。だが、その色は赤でも青でもなく、黄金に輝いていた。

そのまま二つの炎はぶつかり合う。俺は必死に魔力を循環させ炎の威力を高める。だが、黄金の炎はそんな俺の努力など無かったかのようにじわじわと俺の炎を飲み込み始める。

 

「どうだ!これが神の炎だ!」

 

確かに、ものすごい威力だ。熱量も俺の炎の何倍もある。

だが、俺はその炎に別のものを感じた。

 

「これなら……どうよ!」

 

再び後ろからリッカの放つ弓矢が飛んでくる。今度はさっきよりも風の魔力を大きく帯びており、その風は俺の炎を増大させる。シルドでも見せた俺たちの連携攻撃、これでも駄目なら正直望み薄だ。

 

ぶつかり合う二つの炎は、そこではじけた。その衝撃により俺は後方の柱に打ち付けられる。

 

「ライア!大丈夫!?」

 

駆け寄ってきたリッカの肩を借り、なんとか立ち上がる。

 

 

「ふん……やはり付け焼刃の技ではこんなものか」

「付け焼刃……だと……!?」

 

神獣の言葉に俺たちは驚愕する。あれが付け焼刃だというのなら、それとやっと互角の技しか出せない現状では……。

 

「我は、炎属性の魔法を使ったことは無かったが……なかなか面白い魔法だな」

 

使ったことが無い……?それはつまり復活する前の神獣には炎属性の魔力が無かったってことか?

 

 

「……そうか、なるほどな」

 

俺はにやりと笑う。

 

「どうした……なにを笑っている……」

「神獣、お前本当は復活なんてしてないんじゃないのか?」

「何?」

「どういう事よライア?」

「ウィズが言っていた神獣の力を得る禁忌の儀式。それは神獣の器となり、その力を身に宿すこと……だがレオーネは儀式に失敗した……なら、なんでお前はここに存在している?ここに存在しているお前はなんだ?」

 

リッカも、物陰に隠れているライオネルも、俺の言っていることが分からないという表情だ。だが、神獣だけはその表情をゆがませている。

 

 

「簡単な話さ。こいつは復活するためにレオーネに儀式を行わせた。それは裏を返せばそれ以外に復活する手段は無かったってことになる。そしてこいつは今ここに存在している。

つまり、儀式は成功してたってことさ」

「ってことは、今ここにいるのは……」

「そう、こいつはレオーネの体を器にしているだけのただの『意思』だ」

 

さっき二つの炎がぶつかった時に俺が感じたのは猛烈なデジャヴ。それはリント村についてすぐにレオーネともめた時に、あいつと炎をぶつけあった時の感覚と酷似していた。神獣が炎属性の魔法を使えたのはレオーネの体を器にしているから。

 

「つ、つまりレオーネは生きてるのか!?」

 

ライオネルの問いに、俺は首を縦に振る。

 

「ああ。レオーネの心はこいつに支配されているだけで、消えちゃいない。こいつを倒せば、レオーネを取り戻すことができるはずだ」

「そっか……そっか!レオーネは生きてるんだあああああああ!」

 

ライオネルは歓喜のあまり雄たけびを上げる。

 

「……フン、それが分かったところで、お前たちが我を倒すのは不可能だ!」

 

確かに、その事実は変わっていない。どうしたらいいんだ……。

 

「それにしても、せっかくの教会がぼろぼろだな……仕方ない。冥土の土産にいいものを見せてやろう!」

 

神獣が両手を宙にかざすと、辺りに散乱したがれきやガラスの破片が光り出し、その光はだんだんと大きくなっていく。余りのまぶしさに俺は思わず目を閉じた。それでも、尚、光が大きくなるのが分かるほどだった。

 

それから10秒くらい経っただろうか。俺はゆっくりと目を開ける。

 

「な……」

 

俺は自分が見ている光景を信じることができなかった。なぜならそれは、俺たちの戦いで大破したはずの教会が、それ以前の姿に戻っていたからだ。

 

「まさか……こんな一瞬で直したっていうの?」

「直したのではない。新たに創造したのだ」

「創造だと……?」

「貴様ら知らなかったのか?我の魔法属性は光。その力は創造の力!古より我はその力で人々を癒してきたのだ!」

 

光属性魔法の正体が創造の力……?それじゃあ、さっき剣が出てきた穴も魔法だったってことか。

 

「なあ、神獣。また質問してもいいか?」

「この期に及んでまだ質問か。よほど好奇心が強い奴の様だ。いいだろう。答えてやる」

「一つ目。お前は何故レオーネを器に選んだ?力を欲していたって点じゃそこにいるライオネルも同じだ。それなのにあえてレオーネを選んだ理由はなんだ?」

「それは……」

 

返答に詰まる神獣。そこで俺は全ての出来事をつなげることができた。

 

「二つ目。お前の主人であった光神スローネは後の者たちに掟として残すほど争いを好まない神だった。それなのにその友であるお前がそれに反する行い、世界の破壊を目的とするのは何故だ?」

「……」

「お前は、スローネに対して不満を持っていたんじゃないのか?神獣として彼に尽くしながらも、その主人であるスローネが全ての手がらを得て、皆に祭られている今の世界が嫌だったんじゃないのか?」

「違う……我はそんな矮小な存在では無い……!お前たちが……お前たち人間が元凶なのだ!何度も無駄な争いを繰り返し、尊い命を何度も奪い合い……我はそれを救おうとなんども努力した!だが、我の力ではどうしようもできなかった……」

 

だから、こいつはスローネに仕えた。その日々の中で、スローネが人々を救い感謝される中で、こいつはいつの間にかスローネに対し劣等感を抱き始めた。それはレオーネも同じだった。だからこそ、神獣はレオーネを器に選んだ。自分と似ているから。

 

 

「ええい!下らん話はこれで終わりだ!いまここで貴様らの息の根を止める!」

 

再び剣を構える神獣。俺もボロボロの体に鞭打って立ちあがり、剣を構える。リッカも弓を構え、再び戦いが始まろうとしていた。

 

「待ってくれ!」

 

だが、そんな俺たちの前に立ちふさがったのはライオネルだった。

 

「ちょ、ちょっとあんた何してんのよ!?早くどきなさいって!死ぬわよ!」

「悪い、でも、ちょっとだけ時間くれよ、な?」

「はあ?そんな時間あるわけ――」

「分かった。好きにしろ、ライオネル」

「ありがとう、ライア!」

 

感謝を表すとライオネルは神獣の方へと振り向く。

 

「神獣……いや、クリューソス。お前、本当は凄くいい奴なんだよな?」

「何を言っている……?言っただろう、我は貴様ら人間を見限った。ゆえに世界を破壊するのだと!」

「ちがうよ。それはお前の本心じゃない。優しいお前がそんなことするわけがない。お前がレオーネを器にしたのは、それでレオーネの望みを叶えてやりたかったんだろ?」

「……」

「やりかたはちょっと……てか、かなり酷かったけど。お前は自分と似ていたレオーネの苦悩を誰よりも解ってやれて、だからなんとかしてやりたかったんだ」

「ち、違う……」

「さっきライアが言ってた、スローネの残した掟、知ってるか?そのうちの二つは『無益な争いをしない』、『生き物の命を奪わない』。ほら、お前が言ってることと同じだろ?スローネはお前を本当に大切に思っていたんだよ」

「スローネが……我を……」

「そうだよ。だから、世界を破壊なんてしなくていいんだ。確かに、まだまだ争いは絶えない世の中だけどさ……それなら、俺が変えてやるよ!」

「お前が……世界を?」

 

ライオネルは大きく頷く。

 

「俺は魔法も使えないし戦う力もない。でも、ライアやリッカと一緒にいて、こいつらとなら世界を変えられるって本気で思ったんだ」

 

神獣、クリューソスの瞳から一筋の涙がこぼれた。

きっとこいつは、ライオネルの言葉をずっと待っていたんだ。でも、眠りにつきながらも人々が争い続ける様を見て、負の感情が募ってしまっていたんだろう。

 

「そうか……我は……」

 

その時、異変が起きた。クリューソスの肉体から黒いオーラが放出されたのだ。

 

「ぐっ、ぐああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

苦しみもがくクリューソスの姿はだんだんとレオーネの姿へと戻ってゆく。そして放出された黒いオーラはまるで獅子のような形へと変化していく。

 

「な、何よこいつ!どうなってるの!?」

「ハカイ……ハカイ……ハカイ……」

「こいつが真の元凶だ。正体は分からんが恐らくこいつが眠っていたクリューソスの負の感情を増幅させ、暴走させたんだ」

 

なんて悠長に言っている場合では無かった。獅子の形をした黒い化け物はライオネルを突進で弾き飛ばし、そのままリッカをつめで切り裂く。

 

「きゃああああああああ!」

 

そのままリッカが後方にふき飛ばされる。

 

「リッカ!」

 

心配してリッカの方を向いた矢先、化け物は黒い炎を吐きだし、それが俺の全身を包み込む。

 

「ぐああああああああああ!」

 

炎の中でもがき、なんとか振り払った俺は地面に膝をつく。もう既に俺たちに戦う力は残されていない。

 

 

「シネ……シネ……」

 

 

化け物は俺の方へと近づいてくる。もう俺にはそれを止めることも反撃する事も出来ない。

 

 

殺される。

 

「うおおおおおおおお!」

 

だが、そんな化け物の背後からライオネルが殴りかかる。化け物はその大きな声でライオネルの方へと向きなおる。

 

 

―――あいつ、さっき弾き飛ばされたよな?

 

 

化け物の放った攻撃で俺もリッカも満身創痍なのに、ライオネルだけ動くことができる?

この状況を説明できるものは……

 

 

『光属性の魔法は創造の力!』

 

 

『古より我はその力で人々を癒してきたのだ!』

 

創造の力で人々を癒す……それはつまり……

 

 

「ライオネル!魔法だ!魔法を使え!」

「え、ええええ!?いや、でも俺魔法なんて……」

「使えるんだ!お前は光属性の魔法を会得している!使えなかったのは、条件が整っていなかったからなんだよ!」

「は、はあ!?何言ってんだよ!?」

「何でもいい!修業の時みたいに集中して、力を放出するんだ!お前が、俺たちの最後の希望なんだ!」

「……わかった!やってみる!っておわああ!」

 

駄目だ、集中しようにも化け物がライオネル追い回しているこの状況では……。

 

「伏せて!」

 

諦めかけた俺の頭上を弓矢が飛んでいく。後ろを振り向くと、大きく息をきらし、衣服を血で染めるリッカがいた。

その弓矢は化け物の腹部に突き刺さる。とはいえ、今の一撃には魔力も宿っていない。ダメージにはならないだろう。

だが、そのおかげで化け物の注意はこちらへ向いたようだ。

 

「ライオネル、今だ!」

「お、おう!はあああああああああああああああ!」

 

 

意識を集中するライオネルの周辺に、あの時レオーネが見せたような光のオーラが出現する。そして、その光は放たれた。

 

「え?な、なに!?」

 

 

放たれた光は化け物を通り越し、こちらへ向かってくる。

そしてそれは俺とリッカの体を包みこむ。だがそれは俺たちにダメージを与えるものでは無かった。

 

「うそ……傷が……治ってく!」

「やっぱりな……」

 

これがライオネルの光属性魔法。効果は言ってみれば『力の創造』。要するに人の体力や活力をあらたに作り出し、回復させる魔法ということだ。それも効き目はシルドで使った人工魔法石の非では無い。

ライオネルが度重なるダメージに対しほぼ無傷だったのはサラマンダーゆえの丈夫さのほかに、この魔法が無意識に発動していたかに他ならない。そして村の人々がライオネルを試した時、さすがに傷だらけの人間なんてものは用意できなかったのだろう。だから、その魔法は発動しなかった。

 

「ナンダ……ナンダ……?」

 

化け物の方も流石に驚いたようで俺たちに対し目を丸くしている。

 

「さて、体も思うように動くなったわけだし……」

「そうね、今までの借りを倍返し……いえ、3乗にして返してやろうじゃない!」

 

再び剣を持った俺は力強く地面を蹴り化け物に向かう。そして魔法石を起動させ、赤い炎を纏わせる。

 

「はああああああああ!」

 

俺の斬撃は見事命中し、化け物はうめき声を上げる。どうやらレオーネという器を失い、さらにはクリューソスの負の感情というエネルギー源も失ったこいつは、さっきより数段力が落ちているようだ。

 

「喰らえええええ!」

 

そしてまた後方からリッカの矢が飛んでゆく。今度はしっかり魔法が付与されており、化け物の腹部に突き刺さる。

 

「ハカイ……ハカイ……」

 

焦り出したのか化け物の挙動がおかしくなる。

 

「今よ、ライア!」

「いけえええええええ!ライアあああああ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

俺はあらん限りの力を込め剣を振る。その刀身は、しっかりと化け物の腹部にあたり、そして切り裂いた。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

化け物の断末魔がそこら中に響き渡る。それと同時に、辺りがまばゆい光につつみこまれていった。

 

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