ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
気がつくと、そこにはただ真っ白いだけの空間が広がっていた。辺りを見渡してみるもリッカやライオネルの姿はどこにもない。
困惑している俺の目の前に、突然獅子が現れた。
「えーっと……」
さらに困惑する俺だったが、その獅子の金色のたてがみを見て理解した。
「クリューソス……」
「ありがとうライア。君のおかげで私は本当の自分を、そしてかつてスローネと過ごした日々の暖かさを取り戻すことができた」
「礼ならライオネルに言えよ。正直あそこであいつが止めに入らなかったら俺たちかお前のどっちかが死んでたんだぞ」
「そうだな……彼はスローネに良く似ている。きっと光属性魔法を正しく使ってくれるだろう」
クリューソスはとても柔らかな笑みを浮かべている。
「ところで、あの黒い化け物の正体は知らないのか?」
「……分からない。あの闇はいつの間にか私の中に存在していたのだ」
「そうか……」
「さて、そろそろ別れの時間だ」
「お前、消えるのか?」
「いいや、私は眠りにつくだけだ。でも、きっともう起きることは無いだろう。君や、ライオネルがいる限り」
そう告げるクリューソスの体はだんだんと消え始めて行く。
「ライア。君はとてもいい戦士だ。強く、賢く、そして正しい。その正義の心は、きっと世界をよき方向へと導くだろう」
「神に言われたんじゃ、謙遜もできやしないな」
「最後に、これを君に託そう」
消えゆくクリューソスの代わりに現れたのは一本の剣。それも、さっきこいつが使っていた黒い剣だった。
「それをどう使うかは君の自由だ。それじゃあな……」
そのままクリューソスの姿は完全に消えてしまった。それと同時に、白い空間も消えて行く。
「や、やったあああああ!俺たちの勝ちだああああ!」
次に目を開けた時、俺の目に映ったのは喜びの雄たけびを上げるライオネルだった。
「はあ、ほんと死ぬかと思った……」
そして隣にはへなへなと腰を下ろすリッカ。どうやら、先ほどの出来事はこいつらの記憶には無いらしい。神が作りし空間、ということだろうか。
「う、う……」
「あ!レオーネ!大丈夫か!」
祭壇付近で倒れていたレオーネのもとにライオネルが駆け寄る。
「ら、ライオネル……俺は……?」
「何も言わなくていいって!あ~ホントに良かった、良かったぜ~!」
「ちょ、く、くるし……」
半分首絞めの様な体制だが、ライオネルも、そしてレオーネも幸せそうな表情をしている。
「なんとかなったわね」
「そうだな」
「あいつが神獣の前に飛び出していったときはどうなることかと思ったけど」
リッカはあきれ顔でライオネルの方を見る。
「でも、あいつの勇気が、私たちを助けてくれたのね」
「それが、ライオネルの強さなんだろうな」
そう言って俺はリッカの方に拳を向ける。一瞬ポカンとしていたリッカだったが、すぐに俺の意図に気付いたらしい。
「ちょ、あんたねえ!あれは何でもないって言ってんでしょ!」
「なんだ、やらないのか?」
俺がニヤニヤしていると、リッカはそっぽを向きながら拳をぶつけてくる。結局やりたいんじゃねーか。
「そう言えばアンタ、その剣は何?」
リッカは俺の膝の上を指差す。そこにあったのは、さっきクリューソスが俺に託すといった剣だった。
「こっちは現実なのかよ」
「何言ってんの?」
「さあね……うぐっ!?」
何気なくその剣を触った瞬間、俺の頭に強烈な痛みが走る。それは、あの夜シルドで体験したものと同じだった。
それは、以前見たキッチンだった。周りの家具や装飾品から見て、あの時から時間はほとんど進んでいないようだ。
食卓に座る俺の目の前には6本のろうそくが刺さったケーキ。となりには金髪の少年。そして向かいには楽しそうに話す女性と新聞を畳む男性。
相変わらず、その人物たちの顔にはもやがかかっており、その声もノイズの様になっていて聞き取れない。
すると、女性が席を立ち、一分もしないうちに戻ってきた。手にはやけにでかい箱を持っている。
金髪の少年がそれを見て、俺の背中を優しくたたく。不思議に思った俺はその箱を開けてみる。
そこに入っていたのは、綺麗な赤色をした魔法剣だった。俺はそれを手に取ってみる。
それを見た金髪の少年が口を開く。
『良かったな、お前のこれからが楽しみだよ』
なぜか、その言葉だけ、俺は認識することができた。
***
それから一週間。リント村ではたくさんの事が変わっていった。
まず、教会の再建。とはいってもまだ散乱したがれきの撤去作業に村人たちは追われている。それでも、人々の活気は絶えることなく、むしろ士気は上がり続けている。
その理由は、ライオネルだった。暴れ出したクリューソスを止め、さらには光属性魔法を使いこなしたことから蔑まれていた彼の評価は一変し今では英雄とまで言われるほどだ。
俺としては少し調子のいい話だと思ったが、ライオネル本人はそんなことは微塵も思っていないらしく、ようやく自分の存在が認められたことにとても嬉しそうにしていたので、俺も余計な事は言わないことにした。
そして、あの時レオーネに魔力ごと吸収された王都の研究者たちもいつのまにか蘇ったらしく、今回の騒動を起こしたことを村人たちに詫びて今は教会の再建に協力している。手痛い思いをしたことが、彼らの考え方を変えたのかもしれない。とはいえ、彼らが蘇った理由に関しては明確な事は分かっていない。だが、もしかしたらクリューソスが彼らの存在を再び創ってくれたんじゃないかと、俺はそう思っている。
そんな一週間もあっという間に過ぎ、俺とリッカが村を出る日がやってきた。
村の入り口には人々が集まり、俺たちを見送ってくれる。
「ライア君。リッカちゃん。本当にありがとうねえ。あんたたちのお陰で私たちは救われたよ」
感謝の言葉を告げるウィズは、右手を差し伸べてくる。
「いえ、俺たちだけの力じゃありません。ライオネルがいたから、あいつの他者を思いやる優しさがクリューソスの闇を払ったんです」
俺は左手を伸ばし彼女と堅く握手する。
「そういえば、エロマンダーは?」
リッカが辺りを見渡す。そういえば、たしかにライオネルの姿は無い。
「ああ、ライオネルなら……」
ウィズの言葉が終わる前に、どたどたと大きな音を立ててライオネルが走ってくる。
「はあ、はあ……間にあったああ。うっかり寝坊しちまってさ、あはは」
「あははじゃないよバカ者!」
ウィズに叩かれるライオネルの姿を見る村人たちは笑みを浮かべている。
痛そうに頭を押さえるライオネルだったが、すぐにはっとして俺たちの方へ駆け寄ってくる。
「もう、行くんだな」
「ああ、俺たちの旅はまだ始まったばかりだからな」
「そっか。……ありがとな。お前たちのおかげで、俺はこの村がもっと好きになれた。だから、えっと……達者でな!」
「アンタはどうすんの?」
「え?」
リッカの問いに、ライオネルは間抜けな声を上げる。
「あんた、自分で言ったんじゃない、世界を変えるって。具体的にどうするか決めてないわけ?」
「そ、それは……えーっと……」
「決まってないなら、俺たちと一緒に来ないか?」
「え?」
「俺たちの旅の目的は俺の記憶を取り戻すことだけど、その道のりは長い。これからもいろんなところを巡る。その中できっと苦しんでいる人がたくさんいるはずだ。それを救っていくことが、お前の言う、世界を変えることに繋がるんじゃないかと俺は思うんだ」
「そ、そうかもしれないけど、でも……」
ライオネルは言い淀む。村を離れるのが不安なのだろう。せっかく認めてもらった自分の居場所から出て行くというのは相当の勇気と覚悟がいる。半年前の俺も、シャルや母さんと離れ、村から出て行くことにためらいを感じていた。
「ただ、これはあくまで提案だ。どうするかはお前の判断に任せる」
「俺は……」
「行けよ、ライオネル!」
そう彼を鼓舞するのは、松葉杖をつきながらこちらへ向かってくるレオーネだった。
「れ、レオーネ!バカ野郎!安静にしてろって言っただろ!」
だが、レオーネはその言葉には返答せず、口を開く。
「お前の力は、魔法は、たくさんの人を救える。俺みたいなろくでなしを救ってくれたように。それに、そいつらなら、きっとお前の力になってくれるはずだ。村の事は心配すんな、体が良くなったら、俺がお前に変わりにこの村を守るからよ」
「で、でもよ……」
「行って来い!バカ兄貴!」
レオーネの言葉にライオネルは少しの間沈黙する。だが、すぐに答えが出たようで顔を上げる。
「わかった。俺、行くよ。たくさんの人を救うために!」
ライオネルはにかっと笑い、拳を大きく空にむかってつきあげる。
「こんな事もあるかと思って、ほら!荷物を用意しといたよ」
ウィズが村人の一人から渡された荷物をライオネルに放る。ライオネルはそれをキャッチすると、ウィズ達に深々と頭を下げる。
「10年間、お世話になりました!きっと世界を変えて、今より成長して帰ってくるぜ!」
その言葉に、その場にいた誰もがライオネルにエールを送る。これが、ライオネルが頑張って手に入れたモノなのに他ならない。
「それじゃあ、行こうぜ。ライア、リッカ!」
ライオネルが開いた結界の入り口から、俺たちは村を出る。
「そういえば、一つ疑問なんだけど」
歩きながらリッカが呟く。
「なんで私の腕、治ったのかしら?」
「ああ、それはきっとあの温泉の力だろうな」
「どういうこと?」
「あの温泉、ライオネルが毎日行ってたんだろ?多分ライオネルの魔力が湯に影響を与えたんだろうな」
「なるほどねえ、ほんと凄い魔法ね」
そう言ってリッカが後ろを歩くライオネルの方へ振り向く。
「お、おう……」
そんなライオネルは、だらだらと鼻血を流していた。理由は、言うまでもないか。
「こ、この……エロマンダー!」
バチン、と乾いた音が辺りに響いた。