ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
23. はりぼての剣
リント村を後にしてから2週間。ライオネルを加えて再び旅を始めた俺たちにはなんとかしなければいけない問題が一つあった。
「はあ……はあ……」
近くを流れる川の音、そして照りつける太陽のもとで、俺たちは草原を進んでいた。
そんな中、俺とリッカの後方を歩くライオネルは既に死にそうなぐらい息を切らしている。
「ライオネル、そろそろ変わろうか?」
「だ、大丈夫だって……まだ、あと5秒くらいは……」
5秒という言葉の通り、ライオネルは地面に倒れ込む。
「ちょ、ちょっとエロマンダー!だから言ってんでしょ、限界が来る前に言えって!」
呆れた顔をしながらリッカがライオネルに水の入ったボトルを渡す。それを受け取ったライオネルは蓋をあけ、ぐびぐびと飲み干す。
「これ、どうしようかしら……」
リッカが指差すのはライオネルが背中にくくり付け運んでいた黒い鞘に収められた黒い剣。
あの時クリューソスに託されたこの剣だが、やたら重くて俺もリッカも、そして一番力のあるライオネルでさえ満足に振ることすらできなかった。
しかし、クリューソスの意図は分からないが彼がこの剣を託してくれたのには何か意味があるはずだ。それゆえにこの剣を質屋に売るなんて選択肢は無かった。
だからこの2週間、俺たちは交代しながらこの剣を運んでいるのだ。
「どうするって……クリューソスが俺たちに託してくれたんだぞ!ずっと持ってるに決まってんじゃねーか!」
ボトルを持ったまま立ち上がるライオネル。
最初こそライオネルの回復魔法を使えば半永久的に体力を持続しこの剣を運ぶことが可能だと思っていたのだが、どうにも彼の魔法は自分の魔力を回復することはできないらしく、そのまま続けていたらライオネルが動けなくなりそうなので却下となった。
まあ、回復魔法で自分の魔力を回復できたらそれこそ永久機関だ。世の中そう都合よくはいかないらしい。
「でも、この剣、少なくとも私たちじゃ実戦には使えないじゃない」
「まあ、そうだけどよー」
しかもこの剣、ただ重いだけでなく魔法石をセットするためのくぼみがどこにも無いのだ。現存する魔法学の本や歴史書の中では、武器に宿せる魔力は魔法石によるものだけだとされている。つまり、スピリチュアルマジックは付与できないという事だ。
だからこそ、俺たちはこの剣を完全に持て余しており、このまま運び続けるのも難しい状況なのだ。
荷馬車や手押し車も考えたが、それらは結構なお値段で、それは旅立つ時に村のみんなから貰ったお金の約8割を消費してしまうほどだ。先の見えない旅でそんな無謀な買物をするわけにもいかず、今に至る。
「俺たちの知識じゃお手上げ、ってのが現状だな」
俺はライオネルから剣を受け取り、再び歩き出そうとする。
「そうよ!」
だが、突然リッカが大きな声を出したせいでバランスを崩し、地面に倒れ込む。
「……なにしてんの?」
「誰のせいだよ……」
「ま、それはどうでもいいんだけど」
このアマ……。だが、俺は怒りをぐっとこらえリッカの話に耳を傾ける。
「私たちじゃどうしようもないなら、専門家に聞けばいいのよ!」
「つまり、武器職人に聞けと?」
「そういうこと」
「お~、リッカ頭いい~!」
取りあえず地図を取り出し確認する。この辺で武器職人のいそうな街は……。
「きゃああああああああ!」
突如、俺たちの耳に女性の悲鳴が聞こえてきた。それはふざけて叫んだ声などでは無く、今その人物が危機に直面している事が伝わってくるものだった。
「今の声、あっちの川の方からよ!」
「行くぞ!」
俺は隣にいたライオネルに剣を渡し、川の方へと走り出す。リッカもすぐその後をついてくる。
「え?お、おい!なにちゃっかり俺に持たせてんだよ!ま、待てよ~!」
ただ一人取り残されたライオネルが後ろから何か叫んでいるが、あいつならすぐに追いついてくるだろう。なにせこの2週間の半分はライオネルがあの剣を運んでいたのだから。
声をたよりに川辺へ出た俺たちの目に映ったのは、10代くらいの青い髪をした女の子が三匹のゴブリンに取り囲まれている姿だった。ゴブリンの手には大きな斧が握られている。
そして今まさにそれが少女に振り下ろされようとしていた。
「この……ふざけんじゃないわよ!」
真っ先に動いたのはリッカだった。流石に一瞬で弓を構えることはできなかったようだが、ブーツにはめ込んである魔法石を起動させ、ゴブリン達の方へ思い切り蹴りを入れる。その足からは大きな風が放出され、そのままゴブリンの一体を川へ吹き飛ばした。
それに驚いたゴブリン達は俺たちの姿を認識するとこちらへと向かってくる。川から出てきたもう一体も同様にこちらへ向かい走ってくる。
「ジャマシヤガッテ……コロシテヤル!」
「んじゃライア、後よろしく」
俺の肩を軽くたたくとリッカはその場を離れて行く。
「……?バカメ!ヒトリジャオレタチヲタオスノハムリダ!」
「ほんと、普通この状況で俺一人に任せるか?……まあ、いいけどさ……」
眼前に迫るゴブリン達に対し俺は魔法剣を抜く。そしてそのまま魔法石を起動。もうこの動作にもだいぶ慣れたのでその動きはかなりスムーズに行われた。
「ハアアアアア!」
斧を振りかざすゴブリン達に対し俺は思い切り剣を振る。その一撃は奴らの攻撃よりワンテンポ早く腹部にヒットする。俺は同時に炎の威力を強めた。
「グアアアアアア!」
そのまま三匹のゴブリンは吹き飛んでいく。流石に殺すのは気がひけたので加減はした。
「クソ!オボエテロヨ!」
奴らはなんとか立ち上がりそのまま走り去っていった。
それを見送る俺の手元でガラスが砕けるような音がした。
「……限界が来たか」
そのまま地面にばらばらと崩れ落ちて行く魔法石はその赤さを失っていった。
結構長い間使ってたからな。一応感謝を述べておこう。
「す、すごい!」
襲われていた少女がいつの間にか俺の目の前まで迫ってきていた。その瞳の輝きは、まるで赤い魔法石の様だった。
「あなた達、魔法が使えるんだ!しかも、剣の扱いがすごく上手!まるでお姉さまみたい!」
「お、おう……とりあえず一端落ち着いてくれ」
「……!ご、ごめんなさい!」
俺との距離が近すぎることに気付いたのか少女は顔を真っ赤にして謝ってくる。
「そ、そうだ、私ったらお礼も言わないで……助けてくれてありがとう!わたしはロゼ!ロゼ・マーシャルスミス!」
「俺はライア。で、こっちがリッカだ」
「ライアさんにリッカさんね!よろしく!」
ロゼは俺の手を握り上下にぶんぶんと振り続ける。
「おーい!ライア!」
ようやく追いついてきたライオネルは大分息を切らしている。
「おう、ご苦労さんライオネル」
「ご苦労じゃねーよ!……いや、それより大丈夫だったのか?」
「ああ、この通り無事だ」
「なんだ、良かったぜ~。ん?その子は?」
ロゼの存在に気付いたライオネルと目があった彼女は、びくっとして俺の後ろに隠れる。
「どうした?」
「あ、あなた、サラマンダー?」
恐る恐るといった感じだ。
「え?ああ。まあそうだけど?」
「大丈夫だロゼ、こいつはけっこう厳つい見た目だけど凄くやさしい奴だから」
「ほ、ほんとに?」
「ああ、保障するって」
俺の言葉に、ようやくロゼはライオネルへの警戒心を解いたらしく近づいて行く。
「わ、わたしはロゼ・マーシャルスミスです」
「俺はライオネルだ!よろしくな!」
「ロゼちゃん、気をつけなさい、そいつかなりのスケベ野郎だから」
「お、おい!初対面の女の子に悪印象植え付けんな!」
「なによ、エロマンダーのくせに」
ああ、またいつものが始まった。思わずため息をつく俺とは対照に、ロゼはくすくすと笑っている。
「三人とも、すっごく仲がいいのね!」
ま、まあそういう事にしておこう……。
「あ、そうだロゼ。この辺で武器職人がいる街をしらないか?」
「武器職人?あなたたち武器を買いに行くの?」
「あ、いや、そうじゃなくて、ほら、ライオネルの持ってる黒い鞘の剣。あれについて情報が欲しくてさ」
「剣?」
ロゼはライオネルの持つ剣をまじまじと見ると、少し得意気な表情をする。
「なるほどね、じゃあ助けてくれたお礼に世界で一番の武器職人に会わせてあげるわ!」