ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件   作:たけぽん

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24. 職人の街

ロゼに連れられて歩くこと数十分、俺たちがたどり着いたのは一つの街だった。これまでシルドやリントを尋ねてきたが、ここはそのどちらとも違う。具体的には、凄くうるさい。

歯車が回る音、何か堅いものを叩く音、炎が燃える音、とにかく、人の声よりそういった作業音の様なものがひっ切りなしに鳴り続けている。

 

「ようこそ!職人の街、『メイスランド』へ!」

 

ロゼは周りの音に負けないくらいの声を張る。

 

「メイスランド……だからこんなに音が鳴ってるのか」

「そう!ここにはミスレシア王国の中でも指折りの職人たちが店を出してて、王都の騎士団からの注文だって来るんだから!」

「その言い方だとロゼちゃんはここの住人なの?」

「そうよ!とはいってもわたしは職人のお手伝いしかやったことないけど……」

 

そんな話をしながら門をくぐって街の中へ入り道に左右に並び立つ数々の店の前を横切っていく。見た感じほとんどすべてが武器屋の様で、俺たちの様に外部から来たと思われる客たちが、陳列されている商品を見ながら店員と話している。そんな中ロゼが一軒の店の前でとまる。

 

「ここが世界一の武器職人のいる店、『エトワール』よ!」

 

店の中からは他の店より大きな音が鳴っている。話に聞く世界一の武器職人がこの扉の向こうで作業しているのだろう。

やばい、ちょっと楽しみになってきた。実際に武器が作られてるところを見られるなんて滅多にない経験だろうし。

 

「ただいまー!」

 

勢いよく開かれた扉の向こうでは、作業服に身を包み、槌をうつ……青い髪の女性がいた。

その髪は、ロゼの髪の色とよく似ているがそれよりも長く、赤い瞳と整った顔立ちも相まってとても大人っぽく見えた。

 

 

「あら、ロゼ。お帰りなさい」

 

女性は作業を中断し、ロゼに微笑みかける。そしてすぐに俺たちの方へ視線を向ける。

 

「お姉さま、この人たちはわたしがゴブリンに襲われてたのを助けてくれたの!右から

ライアさん、リッカさん、ライオネルさんだよ!」

「あらまあ、あなたゴブリンに襲われたの?怖かったでしょう?……あ、私はロゼの姉のヴァイオレットと言います。妹を助けてくれてありがとうございます」

 

ヴァイオレットはゆったりとした感じで礼を言ってきたが、ライオネルの姿を見て、目を見開いた。

 

「どうかしましたか?」

「え?ああ、いえ、何でもありませんよライアさん。……そうよね、あれはもう昔の話なのよね」

 

最後の方はかなり小声だったので聞き取れなかったが、取りあえず俺は用件を伝えることにした。

 

「えっと、実は見てほしい剣があるんですけど、ここの店長さんは留守ですか?」

「え?何言ってるのさライアさん!目の前にいるじゃん!」

「え?」

「ひょっとして……」

「この姉さんが……店長なのか!?」

 

ゆっくりとお辞儀をするヴァイオレットに俺たちは驚きを隠せなかったが、良く考えてみれば武器職人が男というのは固定概念だ。女性の職人がいても問題は無いし、不思議でもなんでもないのだ。

 

「すみません、つい……」

「いいんですよ。もともと職人と言えば男性のイメージが強いですからね。私の方が異端なだけですよ」

 

謝罪しようとする俺に対しヴァイオレットは優しく微笑む。

 

「それで、見てもらいたい剣とは?」

「あ、ああ。これです」

 

近くにあったテーブルにライオネルから受け取った剣を慎重に置く。ライオネルはよっぽど疲弊しているようでその場に座り込む。

 

「あら、みなさんお疲れの様ね。それじゃあ剣は後にしてお茶にしましょうかしら」

「いや、そんなお構いなく……」

「大丈夫だよライアさん!お姉さまの淹れるお茶、凄く美味しいんだよ!それにわたしもっとライアさん達とお話ししたい!」

 

袖をひっぱってくるロゼ。リッカの方を見ると『しょうがないわね』というような表情をする。

まあ、ここまで来るのにかなり歩いたし、何よりライオネルがぐったりしているな。休息は必要だろう。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「はい。それじゃあロゼ、みなさんを2階に案内して」

「はーい!」

 

片付けを始めるヴァイオレットに軽く会釈して、俺たちはロゼの後ろについて奥にある階段を昇っていく。その踊り場に、一枚の絵が飾ってあった。それは肖像画の様で、赤い目をした男性が描かれている。

 

「ロゼ、これは?」

「これは、わたしたちのおじいちゃんの絵だよ。今はもういないけど、凄く強い剣士だったんだよ!」

「へえ……」

 

肖像画の下には銀色のプレートが付いており、『アルフレッド・マーシャルスミス』と記されている。これがこの男性の名前なのだろう。

踊り場で立ち止まっているわけにもいかないので、俺たちは再び階段を昇り、2階へとたどり着く。武器の材料や作業のための機材がごたごたと並んでいた1階と比べて、2階はまるで別世界だった。花のような甘い香りに、綺麗ながらも落ち着いた装飾。ダイニングには青い花の生けられた花瓶が置かれている。

 

「さあさあ、皆さん座って!」

「ありがとう」

 

俺たちの為に椅子を引いてくれるロゼにお礼をしながら席に着く。

 

「お姉さまももう少ししたら来るから、それまでこれ食べてて!」

 

ロゼは戸棚から茶菓子を出し、俺たちの前に並べる。

 

「ロゼちゃん、一つ聞いてもいいかしら?」

「ん?なに、リッカさん?」

「あなたとヴァイオレットさんは、二人でここに住んでいるの?他に家族は?」

 

その問いにロゼは少し困った様子になりながらも返答する。

 

 

「他には誰もいないよ。ここに住んでるのはわたしとお姉さまだけ」

「そ、そう……」

「あ、べ、別に怒ってないから、大丈夫だよ!お姉さまと一緒だからさびしくもないし!」

 

あわてた様子のロゼを見て、ふと懐かしく思った。

それはなんだか彼女がシャルに似ていると思ったからだ。だが、それを言うとどうせリッカにシスコンだ何だと言われるので黙っておこう。

 

「あ、わたしちょっとお手洗い行ってくる!」

 

ロゼが席を立った後、不意にリッカが口を開く。

 

「珍しいわよね、あの姉妹、名字があるんだ」

 

そういえばそうだ。ミスレシア王国ではほとんどの民に名字に当たるものはない。記憶の無い俺はともかく、リッカやライオネル、そしてシャル達にも無い。

以前読んだ本には、名字があるのは貴族や王族の様な位の高い人物と、古くからこの国に住んでいる一族だけだと書いてあった。

 

「まあ、そういう人もいるだろ」

「そうよね……」

「ただいまー!」

 

そこでちょうどロゼが戻ってきたので俺たちは話題を打ち切る。

ふと、部屋の隅に目をやるとそこには大きなガラスケースが置いてあった。中に入っているのはかなり使い古されたであろう魔法剣と、大きな盾だった。

 

「ロゼ、あれは売り物?」

「ううん。あれはお姉さまのだよ」

「え、あの姉さんがあんなでかい武器を使うのか!?」

 

ライオネルは驚きの声を上げているが、そういえばさっきロゼは俺の戦いを見てヴァイオレットの様だとか言っていた。

それにしたって、あの温厚そうなヴァイオレットが剣と楯をつかって戦う姿なんて想像もできない。

 

「もうずっと昔の話ですよ。10年も前……」

 

いつの間にか2階に上がってきたヴァイオレットが微笑む。それはとても懐かしそうで、それでいて儚げな笑みだった。

 

「10年……」

「前……」

「え?どうかしたか?」

 

リッカとライオネルが同時に何か呟いていたようだがよく聞き取れなかった。

 

「さて、それじゃあお茶を淹れましょう。皆さんゆっくりしていってくださいね」

 

そんなわけでお茶会が始まる。ひとまずヴァイオレットのいれてくれたお茶を飲んでみる。

う、うまい。お茶ってこんなに美味しく淹れる事ができるのか?ぜひともその秘訣を知りたい。

 

「あの、このお茶――」

「改めてお礼を言わせてもらいます。ロゼを助けてくれてありがとうございます」

 

俺の探究心はヴァイオレットによって遮られる。まあ、別にお茶の話は後ででもいいか。

 

「いえ、そんな、頭上げてくださいよ。ゴブリン3匹に襲われてる人がいたらだれでも何とかしようと思いますよ」

「3匹?」

 

首を横にかしげるヴァイオレット。え?なんかおかしいこと言ったか?ただ事実を伝えただけなんだが。

 

「何かおかしい点がありました?」

「え?ええ。そうですね。ゴブリンというのはかなり欲深い生き物で、自分の獲物を他の仲間と分け合う事は絶対にしないんです。だから基本、ゴブリンに襲われるときは1対1で、周囲で他のゴブリンが見張りをするはずなんですが……」

「でも、あのゴブリン達確かに3匹だったわよね?」

 

 

俺はリッカの問いに無言で頷く。そうか、モンスターにもそういう習性とか考え方があるのか。表紙が気持ち悪くてモンスターの情報が載ってる本は買わないようにしてたんだが、結構興味深いな。今度買っとこう。

 

「そうですか……まあ、ゴブリンも生き物です。習性や思想が変化してもおかしくは無いかもしれませんね」

 

なるほど、そういう考え方もあるのか。

 

「ねえねえ、それよりライアさん達はどこから来たの?なんで旅してるの?」

「えーっと……」

 

興味津々のロゼに圧倒されつつも、俺は自分の記憶探しの旅について話すことにした。

 

 

***

 

「……というわけでして」

 

村を出てからここに来るまでの話が終わった時、ヴァイオレットとロゼはポカンとしていた。

そりゃまあ魔法によって砕かれたらしい記憶に光属性魔法に神獣から託された剣だなんて誰が聞いてもこんな反応になるだろう。

 

「えーっと……」

「す」

「す?」

「すごーーーい!ライアさん達すごすぎ!まるで勇者みたい!」

 

ロゼの第一声は俺の予想とは真逆だった。もっと話の真偽を疑われるのかと思っていたからだ。

 

「し、信じるの?今の話?」

 

流石にリッカも驚きを隠せないらしい。

 

「ええ!嘘なの!?」

「い、いや。事実よ……」

「やっぱりすごい!ね、お姉さま!?」

 

ロゼの言葉にヴァイオレットはゆっくりとコップを置き、俺の目を見る。

 

「ええ。すごいですね」

 

なんだかロゼとは対照的な反応だが、彼女も俺の話を疑ってはいないようだ。

 

「あ、あの、なんで俺の話を信じられるんですか?もちろん嘘は言ってないんですけど、それにしてはあっさり過ぎるというか……」

 

彼女たちは顔を見合わせる。そして、すぐにこんなことを言ってきた。

 

「そういう世の中ですから」

「そういうことがあっても全然不思議じゃないよね!」

 

なんだかまるでそういう非日常的な出来事を経験してきたかの様な反応だ。その返答に今度は俺たちが顔を見合わせてしまう。

 

「それにしても、あの黒い剣、神様から託されたとあればとても興味が湧いてきましたね」

 

ちょうどそこで壁に掛けられていた鳩時計が3時を告げる。

 

「そうだ、ライアさん。剣を見るのは構いませんが、一応仕事なので代金を頂かないといけません。お金は大丈夫ですか?」

 

俺は苦笑いを浮かべる。そうだ、職人に見てもらうという事は当然代金が発生する。勢いでこの街まで来てヴァイオレットに依頼してしまったが、相手はロゼいわく世界一の職人。

相当お高いはずだ。

 

「え、えーっと……」

「でしたら、代金の代わりに私からあなたに依頼をしてもいいですか?」

「依頼?」

「ええ、別に仕事の見返りにもらうのがお金じゃないといけないという決まりはありません。互いに得るものがあればいいんですよ?」

 

等価交換ということか。だが、ヴァイオレットの仕事に見合う働きなんてできる気がしない。

 

「えっと、何をすれば?」

 

だが、取りあえずその依頼の内容を聞くことにした。

 

「ロゼと剣で対決してくれませんか?」

「え?」

「はい?」

「はああああああああ!?」

 

 

俺たちの声が重なるのも無理は無い。剣での対決という内容はまだしも、その相手がロゼ?

 

「あー!ライアさん、今わたしが剣をつかうなんてあり得ない、みたいに思ってたでしょー!」

 

頬を膨らませながらロゼが詰め寄ってくる。

 

「あ、いや。ご、ごめん、意外だったからさ」

「でもロゼ、お前ライアと戦えるのか?こいつ、強いぞ?」

「強い人とやるから意味があるんでしょ、もう!」

 

ヴァイオレットに説明を求める視線を送ると、彼女は笑う。

 

「ごめんなさい。説明不足でしたね。こう見えてもロゼはかなり剣の腕は立ちますよ。大丈夫、実剣でやれなんていいませんから、ただの模擬戦のつもりでお願いできませんか?」

「そ、それならいいですけど、ヴァイオレットさんはお代がそれでいいんですか?」

「ええ、私もライアさんの実力を是非見たいですし」

「そうですか……」

「あと、敬語や敬称はなくても結構ですよ。ロゼの恩人さんたちですし」

 

微笑むヴァイオレット、そしてその隣ではロゼがやる気満々で準備運動を始めていた。

 

 

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