ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件   作:たけぽん

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25. 夕陽のもとで

「二人とも、準備はいい?」

 

夕刻、太陽がだんだんと沈み始め空と大地を赤く染めて行く中、俺たちはメイスランドから少し離れた草原へと移動していた。

理由はもちろんヴァイオレットから依頼されたロゼとの剣の模擬戦のため。審判はリッカがやってくれることになり、ライオネルとヴァイオレットは少し離れたところから観戦している。

 

「頑張れよーライア~!」

 

ライオネルのエールに軽く左手を振り、右手に持った練習用の剣を眺める。練習用という言葉通り刃は無く、材質は木だ。そして柄の部分には魔法石をセットするためのくぼみがある。この剣はヴァイオレットが作ったらしく、その完成度を見るだけで彼女が職人として優れていることがはっきりと分かった。

 

「ライアさん、よろしくお願いします!」

 

元気よくお辞儀をしてくるロゼも俺と同じ剣を持っており、互いの武器の差は無い。

 

「ああ、よろしく」

 

俺はポケットからシルドで貰った水属性の魔法石を取り出し、剣にセットする。シルフ産という希少な品を使うのはもったいない気もするが、現状これしか魔法石は無いし、魔法石なしで戦うというのもロゼに失礼だろう。

 

「それじゃあ、3数えたら始めるわよ?」

「おっけー!」

「了解」

 

俺たちの返事の後、リッカがカウントを始める。

 

「3」

 

俺は剣を構え、ロゼの方へ視線を向ける。ロゼも同じく剣を構え、俺の姿をしっかりとその目に捉えている。

 

「2」

 

そういえば、誰かと一対一で剣の勝負をするのは初めてかもしれない。半年前のレイモンドとの戦いは結局マテリアルバーストで決着してしまったし、その後もエメラルドウルフだのウインドコングだの果てには神の使いと、人間とは全く違う奴らとばかり戦ってきた。

そういう面では、俺はロゼに勝てるか怪しいもんだ。

まあ、模擬戦だし勝ちに行く必要は無いんだが。

 

「1」

 

おっと、余計な事を考えるのはやめよう。勝負に集中だ。

 

「ゼロ!」

 

その掛け声と共に俺は地面を大きく蹴り出す。それと同時にロゼもこちらへ向かってくる。スタート地点での俺たちの距離は10メートル程度。それなら身長の高い俺の方が先に向こうとぶつかるだろう。だが、それでは体力の無駄遣いだ。ここは少しペースを落としてロゼに走ってきてもらおう。

 

「いっくよおおおお!」

 

スピードに乗ったロゼが上から剣を振る。俺はそれに答えるように下から剣を振る。二本の剣がぶつかった瞬間、びりびりと腕に強い衝撃が伝わってくる。

2回、3回と剣をぶつけ合った後、俺たちは互いに体制を立て直すために後退する。

 

 

「やっぱり凄いね、ライアさん!」

「そっちこそ、凄い突進力だ」

 

短い言葉を交わすと、再び互いの距離を詰める。何度か剣をぶつけて分かったことだが、ロゼの長所は一撃の重さ。小さな体からは想像もできないほど重い一撃を繰り出してくる彼女の力には俺も勝っているとはいい難い。

だが、一撃が重い代わりに攻撃後にわずかな隙ができる。もちろん彼女は機敏な動きでそれさえもカバーしているが、それでも隙はある。なら、有効なのは連撃に他ならない。

 

「てりゃあああああ!」

 

小競り合いの末、ロゼが繰り出す一撃をすんでのところでかわし、俺は剣を振り下ろす。

だが、それはロゼの機敏な反応によってガードされる。

一度のガードは想定済み。俺はそこから短い間隔で剣を何度も打ちつける。

だんだんとロゼの反応が鈍っていき、そのまま俺は大きく剣を振り、ロゼを後方へ吹き飛ばす。

 

「「はあ…はあ…」」

 

互いに息を切らしながら俺は悟る。おそらく、次の一手で決まるはず。次の一手できっとロゼはまだ見せていない魔法攻撃を繰り出してくるはずだ。なら、俺も……!

 

 

「とりゃあああああああああ!」

「はあああああああああああ!」

 

 

再び距離を詰める間に俺は魔法石を起動させる。すると、その刀身をまるで滝が流れるような勢いで水が包み込む。これが、水の魔法石の力か。

 

そして、再度、俺たちの剣はぶつかり合う。ロゼの剣からも魔法が出る。そう確信していた。

 

「きゃあああああああああ!」

 

だが、ロゼの剣は魔法を発することもせず弾き飛ばされ、彼女自身も後方へと尻もちをつく。

 

「そ、そこまで!」

 

審判のリッカの声に俺は剣を持った手を降ろす。

 

「え?……え?」

 

俺は今自分が勝ったという結果よりも、その要因の方に驚きを隠せなかった。

魔法を使わなかった?もしかしてテンションが上がりすぎて魔法石をセットし忘れたのか?

次々と疑問を浮かべる俺の方に歩いてきたロゼがしっかりお辞儀をする。

 

「ライアさん、ありがとう!また機会があったら手合わせお願いします!」

「あ、う、うん。いや、でもロゼ、魔法……」

「ライアさん!!」

 

突然の大きな声に俺はビクッとして振り向く、そこには赤い瞳をギラギラと輝かせるヴァイオレットがいた。

 

「な、何だよ――」

「凄いです!あなたの剣技、見ていてうっとりしてしまいました!もう凄い凄い!本当に凄い!」

 

まるで子どもの様にはしゃぐヴァイオレットは完全にキャラが崩壊しているが、妹であるロゼを見る限り、幼少期は彼女もこんな感じだったのかもしれない。

 

「是非!私にあなたの剣を作らせてください!」

「は、はあ?」

 

俺の疑問もお構いなしにヴァイオレットは俺の手を両手で握り、さらに目を輝かせる。

 

「あなたが今使っている魔法剣よりずっと性能がいいものを作って見せます!ぜひ作らせて下さい!」

「で、でもお前には黒い剣の解析も依頼してるし……」

「問題ありません!3日も徹夜すればどちらもこなせます!」

「いや、そんなに無理せんでも……」

 

勢いに押されて少し困惑したが、よく考えれば彼女ほどの職人に武器を作ってもらえるなんてすごく光栄なことじゃないだろうか。

 

「じゃ、じゃあお願いしようかな……」

「はい!承りました!」

 

ヴァイオレットは凄いやる気だ。こりゃ相当凄いのができそうで今から楽しみだな。

ふと、空を見上げると太陽はそろそろ一日の仕事を終えるようだ。

 

「そろそろ街に戻ろう。俺たちの今日の宿も探さないとだし」

「そうね……ところでメイスランドに宿泊施設ってあるの?」

「え?ねーのか?」

 

俺たちは顔を見合わせる。そういえばあの街にあった建物はほとんどが職人の店だった。あの中に宿があったかと聞かれれば首を横に振ることになる。

だがそれはあくまで俺の見た限りの情報でしかない。

無言でヴァイオレットたちの方を見てみる。俺たちの目に入らなかっただけで街の住人ならきっと知っているはずだ。

 

「えーっとですね、宿泊施設自体はあるんですが……かなりお値段しますよ?」

「ええ……」

「もともと宿の想定しているお客様というのが王都の騎士団や貴族の方々でして」

 

確かに、いわれてみれば街の通りにいた外部からの客はそのほとんどが裕福そうな身なりをしていた。というよりそもそも武器を必要とするのはそういう類の人たちだ。だれもただの村人が武器を必要とするなんて想定していなくて当然かもしれない。

 

「じゃあ、また野宿にするか」

「えー!でもそんなの危ないよ!もしかしたらさっきのゴブリンたちがうろついてるかも知れないよ!」

 

ロゼの言うとおりかもしれない。起きている時ならまだしも、寝ている時に襲われたら抵抗するすべもない。

 

「そんなの、交代で見張りを立てればいいじゃない」

「なるほど、その手があったか」

「まーしょうがねーな。じゃあじゃんけんで順番決めよーぜ!」

「もしよろしければうちに来ませんか?」

ぶんぶんと腕を振りじゃんけんする気満々のライオネルだったが、ヴァイオレットの言葉にかるくずっこける。

 

「大丈夫か、ライオネル」

「お、おう……大丈夫」

 

 

取りあえず話を進めるために、ヴァイオレットに続きを促す。

 

「あの神様の剣の解析と新しい剣を作るのに結構お時間をいただくことになりますし、もともとあの家は私たち二人だけでは持て余していたので、あいてる部屋もあります。なので、仕事が終わるまで居てくださっても構いません」

「そーだよ!そのほうがきっとぐっすり眠れるよ!それにね、わたし、ライアさんたちとしたいことあるの!」

 

二重三重に世話になることに少しためらったが、せっかくの厚意を無下にするのも申し訳ない。なので、俺たちはお言葉に甘えることにした。

 

 

 

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