ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件   作:たけぽん

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26. 談笑

「えーっと、うちなる魔力、スピリチュアルマジック」

「はい」

 

俺は数秒で獲物をとらえ、はじく。

 

「次、まるで宝石、魔法石」

「はい」

 

また、はじく。

 

「……研究者、オリバーシルキ――」

「はい」

 

再度、はじく。

 

「うわー!これでもう札なくなっちゃたよー!ライアさん強すぎー!」

 

ヴァイオレットたちの家に戻った俺たちは夕飯の後、ロゼがやりたがっていた『ミスレシアかるた』というゲームをやっていた。ちなみに現在俺とロゼとライオネルで読み役と取り役を交代しながら進めて5順目。戦績は俺がだんとつの一番、次にロゼ、最下位はライオネルとなっている。

 

「ライア、お前すげーな。最後の方なんて読み終わる前に取ってたじゃねーか」

「ふっ、まあな」

 

読み札を整頓するライオネルの言葉に俺は少し得意気に笑う。

 

 

「あんたねえ、少しは手加減とかしなさいよ、大人げない」

 

ソファで本を読んでいたリッカも流石に呆れているが、俺は手加減なんてする気は無い。村でシャルと勝負事をした時も一度だって手を抜いたことは無い。

……まあ、シャルは毎回涙目になってたけど。

一応ロゼの様子を伺うが、特に怒るわけでも悲しむわけでもなく、楽しそうにしている。

 

「ライアさん頭いいんだね!剣も強いし、文武両道ってやつ?」

「いや、たかがかるたでそこまで持ち上げるの……?」

「何だよリッカ、そんなこと言うならお前もやるか?」

「絶対やらない。どうせあんたが調子に乗るだけだし」

 

そんな他愛の無いやり取りの最中、洗面所の扉が大きく開かれる。

 

「どう、ロゼ?かるたの調子は?」

 

だが、全員の意識はそこから出てきたヴァイオレットの言葉、というより、その格好の方に向けられていた。どうやら風呂に入っていたらしく、生まれたままの姿にバスタオルを一枚巻いただけ。タオル越しでもはっきりとわかる豊満な胸部やそこから腰にかけてのくびれが目立ち、さらには色気たっぷりのふとももが惜しげもなく晒されている。

 

「おおおおおお姉さま!なんて格好してるのさ!キャー!ライアさん、ライオネルさん見ちゃだめだよー!」

 

俺は慌てて後ろを向く。ライオネルの様子を伺ってみると案の定鼻血を噴き出しており、そのまま気を失いその場に倒れ伏してしまった。

 

「ちょ、ちょっとあんたねえ!男がいるんだから気をつけなさいよ!」

 

そういうあなたも寝るときは下着姿ですよね、いえ、何でもないですから睨まないでくださいリッカさん。

 

「ええ?でもわたしお風呂の後はしばらくこうして涼むのが好きなんですけどねえ」

「好きとか嫌いじゃなくて、あんたに羞恥心は無いの!?」

「別にいいですよね?ライアさん?」

 

おい、急に俺を巻き込んできたぞ。なんだかリッカ達の視線も集まってくるし、こ、怖すぎる。助けを求めようにもライオネルは既にお花畑に旅立ってしまっているわけで、一体どうすればいいんだ……。

 

「え、えーと……」

 

なんとか声を振り絞る。頑張れ俺。

 

「まあ、正直これから何日も繰り返されるのは勘弁してほしい……です」

 

よくやった俺。と思ったのだが、なぜかリッカだけがさらに険しい表情になっている。

 

「ど、どうしたリッカ?」

「別に?ただ私の時と随分反応がちがうなーと思っただけよ」

「え?」

 

リッカ、お前それただ爆弾投下しただけなんだが。

 

「ええええ!ライアさん、リッカさんの裸を見たことあるの!?もしかして二人ってもう経験ず――」

「ちちちち違う!違うわよロゼちゃん!あれはただの事故というかなんというか、だからそういう事じゃなくて、私はまだ処女……!」

 

慌て過ぎてとんでもないカミングアウトをしてしまったことに気付き、リッカは顔を真っ赤にする。ライオネルの意識があったら花畑じゃなくて天に召されていたことだろう。

 

「さて、俺も風呂入って寝ようかな」

「こ、こら!逃げるなライア!」

 

後ろでリッカが騒いでいるが聞かなかったことにしよう。

 

***

 

その日の夜。全員が風呂に入り、そして眠りについていた。ただ一人、ライオネルだけは倒れたままうんともすんとも言わなかったので無理やりベッドに運び、安らかに眠ってもらった。部屋が余っていると言っていた通り、ヴァイオレットとロゼの寝室意外にも部屋が二つ用意されていた。なのでいつものごとく、俺とライオネルで一室、そしてリッカが一室という振り分けになっていた。

幸いにも今日はライオネルのいびきは聞こえてこない。こうなってくると本当に生きているかが不安になってくるな。

ともあれ、状況的には寝るのに適した状態なのだが、俺は眠れないでいた。実のところ、この二週間熟睡できたためしがない。それは、一つ気になっていることが合って、夜、活動することが無くなった時に、その事をずっと考えてしまうからだ。

 

 

「うーん……」

 

右に寝がえりを打ってみる。変化なし。

 

「うーん……」

 

続いて左。変化なし。

駄目だ、寝れない。すこし外の風に当たってくるか。

俺はライオネルに配慮しこそこそと部屋を出て、階段を下りる。途中で踊り場のアルフレッド・マーシャルスミスの肖像画に軽く恐怖を抱く。いや、絵だってわかってても暗闇でその赤い目はやめていただきたい。絵に文句言ってもしょうが無いのはわかってるけどさ。

そして一階に下りてるみると、小さな机の上に突っ伏して眠っているヴァイオレットの姿があった。机の上には例の黒い剣と、それを調べるためであろう小道具が乱雑に置かれている。どうやら寝落ちしてしまったらしい。

俺は近くのものかけに干してあったタオルケットを手に取り、ヴァイオレットの肩にかけようとする。

 

「ん……んん」

 

だが、俺がタオルケットをかけた瞬間、ヴァイオレットが目をこすりながら顔を上げ、俺と視線がばっちり合う。その距離僅か数センチ。

 

「ライアさん……?」

「お、おはよう」

「……、もしかして、夜這いですか?」

「違う、断じて違う。外に行こうとしたらお前が寝てて、それで」

「眠ってる私にいたずらしようとしたんですね?」

「俺の話を聞いてくれ……」

「ふふ、冗談ですよ」

「からかうのはやめてくれよ……」

 

苦笑いする俺に、彼女は隣の席を促す。まあ、ヴァイオレットと話すのも気を紛らわすにはいいかもしれない。なので俺は有難く隣に座ることにした。

 

「剣の方、なにかわかったか?」

「うーん。まだはっきりとは分からないんですが、少し気になった点はありましたね」

「というと?」

「この剣の黒い色ですが、塗装してこの色になったわけでは無さそうなんです。同時に古くなって錆びたとか、血でそまったとか、そういうわけでもない」

「どういうことだ?もとがこの色じゃないなら黒くする方法はそれくらいしかないじゃないか」

 

俺は剣の刀身をじっと眺める。何回見ても真黒だ。これが今あげられた意外の理由でついた色だとしたら、一体どういうことなんだろうか。

 

「そして、魔法石をはめる部分が無い事も気になります。確かに、古い時代の剣には魔法石をはめるくぼみは無いのですが、神様が使っていたという話を聞く限り、もっと違う理由で用意されていないように感じます」

「なるほど……」

「現状ではそれくらいですかね」

 

ヴァイオレットは剣を撫でながら、すこしさみしそうな表情を浮かべている。

 

「そういえば、ライアさんは眠れないようですね。何か、悩みがあるんじゃないんですか?」

「え?そ、そうだけど、よく分かったな」

「私でよければ聞きますよ?」

「そう……だな。誰かに言えばすっきりするかもしれないな」

 

柔らかな笑みで促すヴァイオレットに、俺は話始めた。

 

「昼間も説明したとおり、俺は世界中に散らばった自分の記憶を探すために旅をしている。ここまで来る途中で取り戻した記憶もいくつかある。それ自体は喜ぶべきことなんだけど、問題は取り戻した状況なんだ」

「状況?」

「前にオルドっていう医者の診察を受けた時、俺の記憶は記憶をあやつる魔法によって砕かれた可能性があるって言われてさ。どうもそれらの記憶は人やモンスター、この世に存在するものに埋め込まれているみたいなんだ」

「……」

「でも、俺が今まで戦ってきた相手はみんなどこか性格が歪んでいたり、心に抱える負の感情が強くなったりしていた。そういうのを見て思ったのが、俺の記憶にはなにか良くない力が付与されているんじゃないかってことなんだ」

「つまり、ライアさんが悪い人だったんじゃないかと?」

「まあ、端的に言えばそんな感じ」

「……そうですか」

 

そこで話は途切れ、沈黙が訪れる。

だが、すぐにヴァイオレットが口を開く。

 

「私は、そうは思いません」

「え?」

「ライアさんはシルフという種族をご存知ですか?」

「まあ、本で読んだ程度だけど。水属性魔法を得意とする種族だよな」

「そして、彼らはもうひとつ、人の心を見る力をもっていたんです」

 

人の心を……見る?そんな話はどの本にも書いてなかったはずだが、なんで彼女はそんなことを知っているんだ?

「それは、私がシルフと人間のハーフだからです」

「……!」

 

ヴァイオレットの出自もそうだが、たった今俺の思考が読まれていたことに驚きを隠せなかった。

 

「こんな感じのことができるんですよ。もっとも、私はハーフなので思考全てを読みとれるわけではありません。ただ、その人がウソをついているな~とか、焦っているな~とかそれくらいの事しか分かりません」

 

昼間に俺たちの話をあっさり信じてくれたのはその力のおかげだったのか。妹であるロゼもその力をもっていたからあんなにすんなり俺たちに打ち解けていたのだろう。

 

「でも、私が今日出会ったライアさんの心はとてもきれいに感じました。まるで透き通ったガラスのように。悪い心なんて微塵も感じませんでしたよ?」

「そう……なのか」

「私が思うに、記憶を埋め込まれた相手の感情が変化するのは記憶を砕く魔法そのものの仕業ではないかと。……まあ、あくまで素人の考えですけどね」

「……いや、十分あり得る仮説だ。ありがとう、少し気が楽になったよ」

「眠れそうですか?」

「多分ね」

「必要でしたら添い寝してさし上げても」

「遠慮しときます」

 

そんな冗談を交わし、俺たちは笑い合う。

 

「……誰だ!」

 

だが、そんな中唐突に誰かに見られている気がした。普通ならこんな時間に客が来るわけもないし、一体に何者だ?急いで店の扉を開け外に出て辺りを見渡すも、人らしき姿は見当たらなかった。

 

「ライアさん?」

「……いや、気のせいだったみたいだ。騒いでごめん。そろそろ寝るよ」

「そうですか。私はもう少し剣を調べてみます」

「あんまり無理しないでくれよ?おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

 

ヴァイオレットがふたたび机に向かうのを見てから俺は部屋に戻り、眠りについた。

 

 

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