ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
「ライア!起きなさい!ライア!」
翌日の朝、俺の意識は必死に体を揺すってくるリッカによって覚醒した。目をこすりながら体を半分起こし、棚の上の目覚まし時計を見てみるもまだ早朝だった。
「……なるほど、夢か」
「夢な訳無いでしょ!」
リッカが勢いよく頬をつねってくるので、流石に二度寝はできなかった。
「わかった。起きる。起きるから手を離してくれ。頬がちぎれるだろ」
ようやく解放された俺は頬をさすりながら大きく伸びをして立ち上がる。
「それで、こんな朝っぱらからどうしたんだ?」
「ロゼちゃんがいないのよ!」
いない、というのはニュアンスからしてこの家に不在という意味ではなく、消息が分からないという事だろうか。
「……なにか手掛かりは無いのか?」
「手掛かりっていうか、あの剣も無いのよ!」
「は?そりゃどういう――」
「いいからさっさと着換えて一階に下りてきなさい!いいわね!」
正直寝起きからそんなにばりばり活動できるほど朝には強くないのだがどうやら事態は一刻を争うらしい。
「わかった。すぐ行く」
「20秒で来なさいよ!」
そのまま部屋を出て行くリッカを見送った後、俺はすぐに着替えを済ませ、魔法剣を手にして部屋を出ようとする。
「あ、そうだライオネル起こさないと」
未だベッドの上で寝息を立てるライオネルの体を揺すってみるも、全く起きる気配ない。顔をぺちぺちと叩いてみるがやはり反応が無い。昨日のダメージがでかすぎたようだ。仕方ないので棚に置いてあった裏紙に書き置きをのこし枕元においてから部屋をでて、一階へと降りる。
「遅いわよライア!20秒って言ったじゃない!」
「無茶言うなよ。……それで、一体何が起きてるんだ?」
ちょうどその時、ヴァイオレットが外から店内に戻ってきた。いつもの笑みではなく、かなり緊迫した表情をしている。
「ごめんなさいライアさん。しっかり鍵を閉めてから寝たはずなのですが……朝起きたら剣が……」
「剣もそうだがそれよりロゼが居ないってのは?」
「朝起きたら姿が無くて、近くの職人仲間にも聞いたんですが見ていないと……」
ロゼと剣が姿を消した。誘拐事件か?いや、でもそれなら剣を持っていく必要はない。そうなると剣とロゼは別問題か?
「あと、今朝から街中の店から物が無くなってて……」
ロゼが剣含めそれらのものを持ち出す理由が無いし、これは空き巣か?
「ヴァイオレット、他の店から無くなったのはどんなものだ?」
「ええっと、ほとんどが武器のパーツや鍛冶道具ですね」
「それ、おかしくないか?」
「おかしい?」
「ああ、この街で盗難がおきるとしたら普通に考えると対象は武器や防具、または現金のはずだ。それなのに剣が無くなったのはこの店だけで、後の店は単体じゃ意味を成さないものばかりだ」
「つまり、犯人の狙いはあの剣で、あとはカモフラージュってことですか?」
「おそらくな」
だが、それでもやはりロゼがいなくなった理由と繋がらない。ロゼが空き巣に入った犯人だとも思えないし、ひょっとして犯人とばったり遭遇して連れて行かれたのか?いや、そうと決めつけられるような確証もない。
「とりあえず、街の中と周辺を探してみよう。もしかしたら犯人もロゼも近くにいるかもしれない」
「わかりました。私は街の方々に聞いて回るので、お二人は周辺を見てきてもらってもいいですか?」
「そういえば、エロマンダーは?」
「ライオネルは……ピクリともしなかったな」
「あのスケベ野郎……あとで制裁ね」
拳を鳴らすリッカを見てライオネルに同情の念を送りながら、俺は行動を開始した。
「おーいロゼー!」
「ロゼちゃーん!」
街を出て、俺たちが歩いてきた草原を逆走しながらロゼの姿を探す。だが、林にも川辺にも彼女の姿は見当たらない。
「……こっちには居ないかもしれない。街の反対側の方も探してみよう」
「……そうね」
そう答えるリッカの表情はどこか暗かった。
「リッカ?体調でも悪いのか?」
「シルフ」
「え?」
「ヴァイオレットとロゼはシルフと人間のハーフなのよね?」
なんでそれをこいつが知っているんだ?ヴァイオレットが話したのか?
「ひょっとして、盗み聞きか?」
「別に、ただ夜中お手洗いに行こうしたらあんた達の話声が聞こえただけ」
それを聞いてる時点で盗み聞きの様な気もするが、今はそんなことは些細なことか。
「それで、あいつらの出自がどうかしたのか?」
「10年前」
「?」
「10年前、この国の南側で争いが起きたの」
そんな事実は俺の部屋にある歴史の本には全く載っていなかったが、リッカの表情からして、ウソを言っているわけでもなさそうだ。
「まあ、争いと呼べるかも微妙なところね。ただの侵略と言った方が正しいかも」
「侵略?」
「謎の武装集団が、街という街を襲っていたのよ」
そんな武装集団がいるならもっと大々的に知られていてもおかしくないし、北側に進行してこないのもよくわからないが、取りあえず続きを促す。
「この国の南側に住むのはサラマンダーの一族だけど、当時その近くの島国にすんでいた種族がいた。それがシルフよ」
「それで?」
「もともとシルフとサラマンダーは思想の違いから不仲だったんだけど、その武装集団と戦うために手を組んだの。そして、ここからは私のうろ覚えなんだけど、その中にマーシャルスミスって名前の一族が居たはずなの」
そういえば、ヴァイオレットは10年前に剣と楯を使っていたと言っていた。それはつまり、彼女もその武装集団との戦いに参加していたという事だろう。
「それで、その戦争はどうなったんだ?」
「それは……」
「?」
「憶え…分からないわ。10年の前の出来事だし。でも、すくなくとも今は何も起きていないはず」
「……そうか。で、その話とロゼのこととの関係は?」
「もしかしたら、その武装集団がふたたび動き出して、当時歯向かってきたシルフを制裁しようとしているのかも……って」
それは流石に考えすぎじゃないだろうか。話によれば武装集団が暴れていたのは南側で、しかも今現在はそういった争いは起きていない。ならば武装集団はきっとサラマンダーとシルフの連合軍によって壊滅したと考えるのが自然だろう。もっとも、それが記録として残っていないのは気になるが。
「……考えすぎよね。ごめん、無駄な時間とらせて」
「そうだな、流石にそこまで大ごとでは無いだろ。それより誘拐とか身代金目的とかのほうが濃厚だ」
仮に武装集団の仕業だとして、あの家に俺たちのような身元不明な客人がいるときよりロゼが一人でいるところを狙ったほうがはるかに効率がいい。
しばらく歩くと、なにやら大きな荷物に寄り掛かり途方に暮れている老人がいた。
急いではいるのだが、流石に無視していくのも気が引ける。取りあえず声をかけてみよう。
「おじいさん。こんなところで何してるんですか?」
俺の呼びかけに老人はゆっくりと顔を上げる。その表情は青ざめていて、よく見ると手足ががたがたと震えている。
「わ、ワシの馬車が……」
「馬車?」
辺りを見渡すも馬車らしきものは無い。
「馬車がどうかしたんですか」
「じ、実は……今朝方、この先のメイスランドに荷物を届けようと馬車を走らせていたら、大きな袋を担いだゴブリン達に襲われて……馬車を奪われたんです……」
「ゴブリン……?そのゴブリン、どっちから来ましたか?」
老人は喋る気力もないのか弱弱しく指で示す。その先にはメイスランドの門が見えている。
もしかして、昨晩感じた視線はそのゴブリンか……?やはりロゼは盗みを働くゴブリンと鉢合わせして誘拐されたということか。
「それで、ゴブリン達はどっちへ行きましたか?」
またもや老人は指で示す。今度はその先に川上に見える山があった。
「なるほど、ありがとうございます」
俺は老人にお礼を言ってから、空に向かって手のひらをつきあげる。
「おじいさんはここにいてください。すぐに助けを呼ぶんで。あと、ここに来た人たちに俺に伝えた事をもう一度伝えてやってください」
そしてそこから上空へむけてスピリチュアルマジックを放った。これで街の人たちに伝わるはずだ。その炎を1分くらい放射した後、俺たちは川上の山へと向かった。
***
川上の山のふもとを進むと、大きな滝が見えてきた。そして同時に人が通れそうな道はそこで途絶えていた。
「こっから先には行けなさそうだな……」
「別のルートを探すしかなさそうね」
辺りを見渡す。だが、どこにも道らしきものは見当たらない。
「でも、ゴブリン達が馬車を使ったなら俺たちと似たようなルートしか通れないはずだよな?」
一端引き返そうかと思った時、草むらの方から動物らしき鳴き声が聞こえてきた。そちらへ駆け寄ってみると、今にも死にそうな2頭の馬と、バラバラに砕かれた馬車の破片が散らばっていた。
「……むごいな」
すぐに馬は息を引き取った。その姿に黙とうをささげてから、俺は再び周辺を見渡す。ここで馬車を手放したという事はやつらはこの周辺をまだうろついているはずだ。
「ライア、あれ!」
「滝がどうかしたのか?」
「横から見てみると、裏に洞窟みたいなのがあるわ!」
それに従い滝を横から見ると、なるほど確かにその先には空洞ができている。もしかしたら奴らはこの先にいるかのかもしれない。
「行ってみよう」
「そうね」
俺たちは川へ入り、滝の裏の洞窟へと足を進める。洞窟の中は真っ暗だったので取りあえず手から炎をだして松明がわりにして進む。
「どこまで続いているのかしら……」
進んでも進んでも、一向に先が見えてこない。
「ひょっとしたらこの通路、ただ山の向こう側に出るだけか?」
「何よそれ、ただの骨折り損じゃない」
「いや、あくまで仮定の話だ」
それからは特に会話もせずにただひたすら道を進んで行く。10分くらい歩いたところで、ようやく開けた場所へ出ることができた。
そこは薄暗く、その暗い中を松明の炎が煌々と照らしていた。そしてその中心部では数十匹のゴブリンが酒を飲みながら談笑していた。
そこから少し離れたところには、あの黒い剣が深く地面に突き刺さっており、その横に縄で縛られ、意識を失っているロゼの姿もあった。
俺たちは急いで岩陰に隠れ、奴らの様子を伺う。
「いやーそれにしても、頭が良くなるって凄く気持ちいいんだな!」
「全くだ!今まで自分の欲にかられて効率の悪い狩りをしていたと思うと泣けてくるぜ!」
「それもこれも全部『あの人』のおかげだな!」
そんな会話が成されていた。だが、その意味が良く理解できない。『頭が良くなる』とはどういう事だ?生物は生まれた時からある程度知能の水準が決まっている。それを種族単位で成長させるには何万年という時間が必要なはずだ。だが、確かにあのゴブリン達は昨日出くわしたゴブリンより流暢に話している。それはつまり知能が向上しているという事に他ならない。
そして、『あの人』とは……?
「ようお兄さん方、盗み聞きとはいい趣味してるねえ」
とっさに振り向いた途端頭に強い衝撃が走る。そのまま薄れて行く俺の意識の中で、俺の視界に入ったのは赤黒い髪の毛の大男の姿だった。