ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件   作:たけぽん

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28. マーシャルスミス

「……ん」

 

目が覚めた時、俺は体が自由に動かないのを感じた。かろうじて動かせる首を動かして確認すると、首から下は 縄のようなもので堅く縛られていた。そしてその隣では意識を失っているロゼが倒れていた。

……確か俺は、ゴブリン達を追いかけてこの洞窟にはいって、やつらの会話を岩陰から――。

「いって……!」

 

そこまで思いだしたところで俺は頭を強く殴られて気絶していたことに気付いた。

 

「ちょっと!離しなさいよ!」

 

声の方に首を向けると、それはリッカがゴブリン達に囲まれている姿だった。

俺の様に全身を縛られているわけではないが、手足には俺のと同じ縄ががっちりと縛ってあった。

 

「へへへ……なかなか可愛い姉ちゃんじゃねえの」

 

ゴブリンの一人がリッカの頬を手のひらで軽く撫でる。

 

「この……!汚い手で触るな!」

「おやおや、だいぶ口の悪い姉ちゃんだ」

「でも、流石にわかるよな?この状況で次に何されるかってことは……」

「ひっ……」

 

リッカは恐怖を浮かべている。

この……知能はあがっても結局本質は変わらないのかよ。

 

「フレイムの旦那!本当にこの女は俺たちにくれるんですか?」

 

ゴブリンが問いかけるのは俺のすぐ近くの小さな岩に腰掛けた一人の男だった。さっきも少しだけ見たが、赤黒い髪と褐色の肌、ライオネルと同じサラマンダーの一族だ。

 

「ああ、俺が欲しかったのはそこの黒い剣と青い髪の女だけだ。後のものは全部お前らの好きにしろ」

 

どうやら、こいつがゴブリン達にロゼをさらわせた張本人らしい。だが、一体目的は何だ……?

 

「ありがとよ旦那!それじゃあ、頂きますかね!」

「きゃっ!ちょ、やめなさい!離せ!この……!」

 

じたばたと暴れるリッカだったが、手足が縛られているせいでまともに抵抗できない。

そして上着とシャツがびりびりと音を立てて破られる。

 

「うへへ……つやつやだ……」

「や、やめ……」

 

ゴブリンの手がリッカの下着に伸びる中、唐突にフレイムと呼ばれたサラマンダーが口を開く。

 

「おいおい兄ちゃん、自分の女が犯されそうって時に傍観とは大した奴だなあおい?」

 

フレイムの言葉にゴブリン達が一斉に俺の方へと視線を向ける。

 

「……自分で縛りつけといてそのくせ褒めてくれるなんてお前こそ大した奴だな」

「こいつ……意識が戻ってやがったのか!」

「な、なに心配はいらねえ、あの状況じゃ何もできねーよ……」

「それは……どうかな?」

 

 

俺は全身から魔力を放出しその炎で縄を燃やし、振り払って立ち上がる。

 

「な、何だ今の……体から炎が……?」

「しかも、何か青くなかったか?」

 

驚愕するゴブリン達は無視して俺はフレイムに向き直る。

 

「やるなあ、兄ちゃん。サラマンダーでもないのに青い炎が使えるなんて、びっくりしたぜ」

「それならもう少し驚いた表情をしてほしいもんだな」

「で、彼女のピンチにカッコつけて復活したわけだが、その後どうするんだ?」

「決まってるだろ。リッカもロゼも、あの剣も全部返してもらう」

「おーっとそれは困るなあ。お前の彼女はともかくそこのシルフと黒い剣はわたせねえ。どうしても返してほしいってんなら……」

 

フレイムが右手を上げると、ゴブリン達は足元から斧を持ち上げ、戦闘態勢に入る。どうやら定番の実力行使らしい。しかもゴブリンにとってもフレイムにとっても俺がここにいることに何の価値もない。つまりは、殺してもいい存在と認識されているわけだ。

 

「いけ、お前ら!」

 

奴の合図でゴブリン達は一斉に俺めがけて突進してくる。俺は魔法剣を抜こうと思ったが、その腰に剣の姿は無い。

 

「あーわりい、この剣が無いと戦えないか?」

 

フレイムが俺から奪ったであろう魔法剣を手の上でくるくると回す。

この野郎、はなからまともに戦わせてもくれないってわけか。一応魔力は体内にまだまだ残ってはいるが、相手の数が多すぎる上に広範囲に魔法を打てばリッカとロゼも巻き添えを食う。なら、どうすれば……?そこで俺は、ロゼの横に刺さっている、黒い剣の存在を思い出す。

現状、使えそうな武器はこれしかないが……。

数秒の思考の後、俺はフレイムの眼前に手をかざし、攻撃を装う。それを警戒してやつが大きく後ろに下がった瞬間をねらって、俺は行動を開始する。

地面に刺さった剣を引き抜き、なんとか持ち上げる。やはりものすごい重さだ。まともにふれるかも怪しい上にこいつには魔法を付与することもできない。

だが、ここでこの剣を使わない選択肢もないだろう。

 

 

「はああああああ……!」

 

俺はなんとか剣をもちあげ、構えをとる。すぐに、走ってきたゴブリン達の斧が振り下ろされる。

それをなんとか刀身で受け止め、両手を使って剣を振り、奴らを弾き飛ばす。だが、それもつかの間、後ろから次の奴らが来る。

 

俺は無我夢中で剣を振り、なんとかその攻撃をいなし続ける。だが、問題なのは俺に奴らを倒す決定打が無いことだ。なにか、無いか……?

 

「……!これだ!」

 

俺は手のひらから洞窟の天井に向かって炎を打ちあげる。

 

「な、なんだ!?なにを……!」

 

ゴブリン達はとっさに俺の放った炎の方を見る。

作戦成功だ。

 

「バカ野郎ども!それはブラフだ!」

 

フレイムの忠告も既に遅い。俺はゴブリン達にできた大きな隙を最大限活用し、奴らに突進する。

 

「し、しまっ……!」

「はああああああああああああ!」

 

俺の放った斬撃はゴブリン達全員にヒットする。首を落とされたものが半分、そして片腕を落とされたものが半分ってところか。

 

「ぐああああ!いてえ!いてえよおおおお!」

 

なんとか生きていたゴブリン達が地面に倒れ伏し悶えている。

 

「フレイムの旦那!助けてくれえ!」

「バカ!お前は死んでろ!フレイム様!俺を助けてくれ!」

 

そんな醜い争いを繰り広げるゴブリン達をフレイムは儚げな表情で眺める。

 

「なるほど、よくわかった」

「フレイム様……!」

「結局力を与えても、下等生物は下等生物ってことがな」

「な、なにを……?」

「消え去れ、下等生物!」

 

 

フレイムの手から俺同様に青い炎が噴射され、それはゴブリン達を焼きつくす。ゴブリン達の断末魔が辺りに響き渡る。

 

「ん……ライアさん……?」

「ロゼ!気がついたか!」

「わ、わたし……店に入ってきたゴブリンに襲われて……。そ、そうだ!あの剣は!?」

「この通り、俺の手元だ」

「よ、よかった……」

 

ロゼはほっと息を吐く。そんな中、フレイムが渇いた拍手をする。

 

「いやあ、すげえな兄ちゃん。見事な作戦だった。そりゃあ、だれだってそっちに注意向けちまうわ。それも知能がついたばかりの雑魚ならなおさらだ」

「知能……。やはりお前があのゴブリン達に何か細工したのか?」

「さあね。そいつをお前に教える必要はねえよ。それよりどうだ、俺と勝負しねえか?」

「勝負だと?」

「もちろん、この魔法剣は返してやるよ。それなら全力で戦えんだろ?」

 

フレイムは俺の足元に魔法剣を放る。俺は黒い剣を足元に置き、魔法剣を拾い上げ鞘から抜く。

 

「わかったよ。どの道このまま返してくれるつもりは無いんだろ?」

「ご名答」

 

フレイムもまた、自分の剣を抜く。それは俺の使う魔法剣より何倍もの大きさを誇っていた。

 

「さて、一応決闘の礼儀として、名前くらいは名乗っておこうか。俺はフレイム。フレイム・レッドイグニスだ」

「名前上から下まで炎だらけじゃねえか……」

「イケてるだろ?」

「……俺はライアだ」

「そうかい、よろしくなライア。……まあここでお前は死ぬんだからよろしくもクソもねーか……なっ!」

 

くだらないやり取りはそこで終わり、フレイムが大きく地面を蹴ってこちらへ突っ込んでくる。あんなバカでかい剣を持って良くそんなスピードが出せるな。

 

「おらよおお!」

 

スピードに乗ったまま繰り出される一撃を、俺はなんとか受け止める。

 

「ぐあ……!?」

 

だが、それは判断ミスだった。あまりに重すぎる攻撃に対し、俺の腕は悲鳴を上げ、骨がきしむ音までした。

俺は余りの痛さにその場にうずくまる。

 

「はっ!随分短い決闘だったなあ!」

 

再び繰り出される攻撃を、俺はすんでのところで回避する。だが、腕が痛すぎてもうまとも剣を触れるか怪しいところまで来ている。

 

「どうした?もう剣は振れねえってか!?」

 

大丈夫だ、剣が駄目でもまだスピリチュアルマジックがある……。

 

「う……!?」

 

そのまま魔力をためようと思った瞬間、急に頭が痛みだす、その痛みは例の記憶が復活する時の痛み。それも今まで体験した痛みの数十倍もの痛みだ。

俺はそのまま頭を抱える。次々に頭の中に情報が入ってきて、脳がそれを処理しきれていない。

 

「ま、まさか……うぐっ!」

 

まさか、さっき倒したゴブリン全員から……?

駄目だ、もう意識が飛びそうだ……。ごめん、ロゼ、リッカ……。

 

「じゃあ、死んでもらおうかあ!」

 

俺は死を覚悟して目を閉じる。だが、振り下ろされた大剣は、鈍い音とともにはじかれる。

 

「な、なにが……?」

 

 

かすむ視界の中に見えたのは、長く、青く、そして美しい髪だった。

 

「お姉さま!」

 

ロゼが歓喜の声を上げる。ヴァイオレットだ。今の音はヴァイオレットがその大きな盾でフレイムの一撃をガードした音だったのだ。

 

「大丈夫ですか、ライアさん!」

「あ、ああ、おかげで……」

「ここは私に任せてください。あちらにライオネルさんがいます。ロゼ!ライアさんをそこまで連れて行ってあげて!」

「はい!お姉さま!」

「ライア!こっちだ!」

 

ロゼの肩を借りて、俺はライオネルのもとへ運ばれる。

 

「ったく、無茶しやがって。どこをやられた?」

「う、腕と……あと、頭が……」

「わかった。大人しくしててくれ。今なおしてやる」

 

ライオネルは目を閉じ、意識を集中させる。すぐにその手から光のオーラが現れ、それは俺の全身を包み込む。

 

「凄い……これが……光の魔法……」

「どうだ、ライア?」

「腕は……大丈夫だ……」

 

だが、頭痛は全くおさまらない。

 

「ロゼ、ライオネル。俺は大丈夫だから、あそこで縛られてるリッカを助けてやってくれ……」

「……わかった。その代わり、無茶すんなよ?」

 

ライオネル達はその場を離れ、リッカの方へと走っていく。取りあえず、これでリッカは大丈夫。後は、フレイムと戦っているヴァイオレットだが……。

 

「おらおらおらあ!」

 

 

フレイムが繰り出す連撃を彼女は見事に盾で防いでいる。なんて堅さだ、あんなのもし敵だったら俺は破れないぞ……。

 

「守ってばっかじゃ勝てねえぞ!おらあ!」

「なら、喰らいなさい!」

 

最後の一撃をいなし、ヴァイオレットは右手の剣を振り上げる。よし、このタイミングなら確実に大ダメージを与えられる!

 

「ぐあッ……」

「な……?」

 

その剣は確かにフレイムを切り付けた。だが、それにしては奴が受けている痛みが少ないように見える。どういうことだ?

 

「なるほどお……やっぱり、お前は魔法が使えねえみたいだなあ」

「使え……ない?」

「そうだぜライア!10年前の戦争、その時にサラマンダーとシルフの連合軍が設立され、その中心にいたのが、このマーシャルスミスの一族だ!」

「……」

 

ヴァイオレットは黙ったままだ。

 

「そして、マーシャルスミスの一族は戦いの最中、敵に呪いを受けた!」

「呪い……?」

「そう、それは『魔法が使えない』呪いだ。マテリアルだろうがスピリチュアルだろうが、こいつら一族は使えねえのよ!」

 

だから、あの模擬戦でロゼは魔法を使わなかった。それは、使えなかったからに他ならない。そんな呪いが使えるような奴がその武装集団にはいたのか。

 

「……例え魔法が使えなくとも、あなたが私に攻撃を通すのは無理です!」

「そうだなあ、その盾は邪魔くせえなあ……なら、こいつはどうだ!」

 

フレイムが天井に向かって炎をはなつ。

 

「何を……?」

「ブラフだ!ヴァオレット!」

「おせえんだよ!」

 

ヴァイオレットの隙をついてフレイムは斬撃で盾を思い切り吹き飛ばす。

 

 

「きゃっ!」

「ありがとよライア。お前の真似で助かったぜ?」

「くそ……」

「……まだよ、まだ終わりません!」

 

ヴァイオレットは立ち上がるが、立場は一転してしまった。あの強固な守備ができない以上フレイムの一撃を受けきるのは不可能。さらに魔法を付与できなければ奴にダメージを与えることも難しい。

この状況で彼女が勝つにはどうすれば……。

 

「……!」

「あばよ!マーシャルスミス!」

「くっ……!」

「ヴァイオレット!剣だ!足元の剣を拾え!」

 

俺は頭の痛みを押し殺して叫ぶ。それに反応したヴァイオレットが足元からさっき俺が使った黒い剣を拾い上げる。

 

「なっ……なにい!?」

 

そのまま彼女は黒い剣を振り上げ、フレイムの剣をはるか後方へと飛ばした。

やはり。あの剣は重すぎて俺たちには思うように扱えなかった。だが、逆に言えば使いこなせればその重さも相まってかなりの威力を発揮する。

あの模擬戦でのロゼの力、そしてヴァイオレットの大きな盾。そこから考えるにマーシャルスミスの一族は大きな武器を操るための力がしっかり備わっている。

 

「さあ、これで形成は逆転しました。あなたの負けです」

「ふっ……そうだな。今回は、俺の負けにしといてやるよ」

「今回?あなたに次回なんて……」

 

 

「やれやれ……世話が焼けますねえ」

 

 

どこからともなく声がしたと思ったら、唐突にフレイムの周りに嵐が巻き起こる。ヴァイオレットはそれに吹き飛ばされる。

 

「あ、アンタ……」

 

嵐の中から出てきた人物に、俺とリッカは戦慄する。

 

「お久しぶりですねリッカ。そして、ライアさん」

「シェパード……」

 

そのスーツ、そしてシルクハットは半年前にシャルをさらったレイモンドの右腕だったエルフ、シェパードだった。

 

「よお、シェパード!」

「フレイム、私を移動の為の便利アイテムにするのはやめていただきたいですね」

「かてえこと言うなって!」

「それで、今回はここで引き上げますか?」

「そうだな。正直こんな人数を相手にするのはめんどうだしな」

「そうですか。では、行きましょう」

 

シェパードはフレイムの右手を掴み、シルクハットをこちらに向ける。

 

「では、ここで失礼いたします」

「ま、待ちなさい!あんたにはまだ……!」

 

リッカの声はシルクハットから巻き起きる嵐によってかき消され、そのまま嵐が去った後には、奴らの姿は無かった。

 

「またいずれ会いましょう。リッカ、そしてライアさん」

「次は決着付けようぜ、マーシャルスミス!」

 

ただ、そんな声だけが響くのみだった。

 

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