ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
ロゼと黒い剣、そして盗まれた品々を取り戻し街に戻った俺たちだが、今回の出来事の全貌は全く分からなった。
そんな間も時間は流れ、気付けば3日が過ぎていた。
朝食の席ではライオネルとロゼが中身の無い話で盛り上がっているが、それはこの場をとりつくろうための言葉であることに変わりなかった。
「結局、なんだったんだろうな」
そんな俺の呟きは運悪く全員の耳に入ってしまったらしく、沈黙が訪れてしまう。
フレイムの目的は、ロゼとあの黒い剣だと言っていたが、結局それで何をしようとしていたのかもわからないし、あの場にシェパードがやってきたことも、ゴブリンの知能が急激に上がったのも全てが謎のままだ。
そして、ヴァイオレット達の事も、また謎に包まれている。
「ここは、一つずつ考えて行きませんか?」
沈黙を破ったのは、ヴァイオレットだった。
「まず最初に、あのゴブリン達がこの街に侵入した経路ですが、街には門が合って、しっかり門番もいます。あの朝、門番は『気付いたら朝になっていた』と言っていました。この街の門番さんはとても優秀で、今まで不審人物の侵入を許したことはありませんでしたし、ただの居眠りだとは考えにくいです」
つまりは、門番の意識を意図的に失わせなければそもそも侵入すらできない訳だ。
「ワンスマジック……」
リッカが呟く。
確かに、人によって全く異なる能力が発現するワンスマジックならば、いわゆる「催眠」というものもあるかも知れない。
「あのゴブリン達にはそこまでの能力は無さそうだったけどな」
「じゃあ、あのシェパードってやつか?」
「違う……あいつじゃない……」
「え?」
なぜリッカはそれを断言できるのだろうか。誰もがそう思った。
「なんで、言いきれるんだ?」
「……!そ、それは……前に見たことがあるから……よ」
そういえばいつかの夜、こいつはワンスマジックを見たと言っていた。それがシェパードのものということは、恐らくレイモンドのもとにいた時に見たのだろう。
「じゃあ、あのフレイムっていうサラマンダーの人かな?」
「ライオネルさんは、サラマンダーの生まれですよね?彼を知っていたりは?」
「いや……知らない。俺は6歳の時にリント村に拾われて、それ以前の事は憶えていない。でも、当時はそれを思い出して取り乱してたらしいけど」
だが、消去法で言えばフレイムが催眠の力を持っていたという線が濃厚だ。
「では次に、何故彼らはロゼとあの剣を持ちだしたのでしょうか?」
「ロゼに関しては、フレイムがシルフに対して何か思う事があったんじゃないのか?」
「それは、10年前の事でってこと?」
「多分……。なあヴァイオレット、10年前に一体何があったんだ?」
ヴァイオレットは少し俯いた後、意を決したように口を開く。
「正直に言ってしまえば、わからないことが多いです。10年前、当時私はまだ14歳
で、戦いには参加しましたが内部事情は教えてもらえなかったんです。ただ、確かなことは、その戦いでマーシャルスミスの一族は私とロゼをのこして全滅し、さらには一族単位で呪いを受け、魔法が使えなくなったこと。そして、その戦いの後、サラマンダーとシルフの溝はさらに深まったということです。」
「溝が深まった理由はなにかあるのか?」
「分かりません。ただ、もとから不仲だった両一族が無理に結束したわけですし、なにか問題があったのでしょう」
それに関しては、当時子どもだったヴァイオレット達には知る由もないか。
「で、結局クリューソスの剣は?」
ライオネルが話を軌道修正する。
「剣が盗まれたその夜、ゴブリン達は既にこの街に潜入していたんだと思う。何か良くない気配も感じたしな」
「その時に私とライアさんが剣の話をしていたのを聞いて、と言う事でしょうか?」
だが、それにしては今回の一件は用意周到すぎる気がする。ゴブリン達の知能が上がり、さらにフレイムの傘下に入り、俺たちがあの剣を持ってこの街に入るタイミングが全て偶然一致したとは考えにくい気がする。
「それじゃあ、あのゴブリン達の知能が上がっていたのは?」
リッカが少し不快そうな表情で問う。あいつらに襲われたことがよっぽど気持ち悪かったのだろうか。
「ゴブリンの知能と関係しそうな要因は、たぶん一つしかない」
「それは?」
「俺の記憶だ」
あの時感じた頭の痛みはやはり記憶が戻る時のものだった。実際に、あの後俺の中には取り戻した記憶がいくつかある。ただ、それらは街を歩いている記憶や、食事をとっている記憶ばかりで俺の正体に繋がるものでは無かった。
「いままで、俺の記憶は魔法によって無作為に散らばっているのだと考えていた。だが、もしかしたらその一部は、なにか物質的なものになっていて、それを集めている何者かがゴブリンに埋め込んだのかもしれない」
「シェパードやフレイムがってこと?何のために?」
「それは……わからないけど」
そもそも俺の記憶を埋め込んで知能があがるというシステムもよくわからない。
「結局、分からねーことだらけだな」
ライオネルは残念そうに食パンをかじる。
「いや、もしかしたら知ることができるかもしれない」
「どうやってよ?」
「行くんだよ。南側へ」
その言葉に、再びまわりが凍りつく。
「あ、あんた本気なの?」
「本気に決まってるだろ。今回の一件は全部南側の出来事と関連してる。それなら、現地に行けば何か分かるはずだ」
「で、でも……」
「俺は賛成だ」
真っ先に同意してくれたのはライオネルだ。
「俺はよく覚えてないけど、10年前に何かがあったからリントに拾われたんだ。だから、たとえそれが良くないことでも真実を知りたい」
「……わかったわよ」
方針は決まった。後は、そこまでたどり着くだけだ。
***
それから2日。俺たちは南側に向けて出発することにした。『エトワール』の前ではロゼが俺たちを見送ろうと出てきてくれた。
「ライアさん、リッカさん、ライオネルさん。頑張ってね!」
「ああ、ロゼも剣の修行頑張れよ」
「うん!いつかライアさんより強くなる!」
俺基準だとすでにロゼは互角だから、すぐに追い抜かれそうだな……。
「すみません、お待たせしました!」
バタバタと階段を下りてくる音の後、玄関の扉が開く。
「おはようヴァイオレット」
「おはようございます、ライアさん。えーと、まずこの剣に関してですが……本当に精巧に作られていて殆ど情報は得られませんでした。ただ……」
「ただ?」
「ここ、少しだけ黒い色が消えてるんです。もしかしたら、この前の戦いが関係しているのかも……」
指差された個所を見てみると、確かに黒一色だった刀身に少し白い部分ができている。
「余りお役に立てなくてすみません……」
「いや、むしろこれだけでも前に進んだ方だよ。お前に見せなかったら結局この剣を持て余すだけだったし」
「それはよかったです。……あと、これ」
ヴァイオレットはもう一本、鞘に納められた剣を手渡してくる。それを抜いてみると、今まで使っていた物より重量感があり、その刀身は緑色に塗られていた。
「結構素材集めが大変でしたけど、かなりいい出来だと思います。名前をつけるなら『緑星の剣』……ですかね?名前の由来は素材に使われている緑星石という鉱石から」
緑星石という名前は昔本で読んだ気がする。光に当てるとまるで夜空の星の様に輝く緑色の鉱石で、ヴァイオレットの言葉通りかなり希少な素材だったはず。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
「あんた、これで剣二本だけどどうすんの?邪魔じゃない?」
確かに、腰に二本もさしたら流石に重いかもしれない。それに二本あっても、戦闘時には一本しか使わないし。
「なら、ロゼにあげるよ」
俺は今まで使っていた青い魔法剣をロゼに手渡す。
「え!いいの!?」
「市販だし俺のお古だけど、もしよかったら」
「わー!ありがとうライアさん!わたし大切にするね!」
ロゼはぴょんぴょんと跳ねまわる。
「それで、ライアさん。こっちの剣のお代なんですけど……」
「あ」
そういえば、黒い剣の方はロゼとの模擬戦でお代に代えさせてもらったけど、こっちの剣の方はなにも言って無かったっけ……。
「あーそ、その……」
「よろしければお代のかわりに、私と剣で戦ってくださいませんか?」
「え?」
俺は一瞬ヴァイオレットの言葉の意味が理解できなかった。
「その剣の試し振りだと思っていただければ結構です。もちろん、試合形式は寸止めで結構です」
「そ、それならいいけど、それでお代になるのか?」
「もちろん。ちゃんと後で説明もしますから」
***
そして再び場所を草原に移し、今度は朝日のもと俺とヴァイオレットの試合が始まろうとしていた。
「二人とも、準備はいい?」
再び審判を務めるのはリッカだ。
「はい。大丈夫です」
剣と楯を構えるヴァイオレットはにこやかに頷く。
「……ちょっと待ってくれ」
「え?ちょ、ちょっとライア!」
俺は急いで観戦しているライオネル達のもとへ駆け寄り、すぐに戻ってくる。まあ、すぐにという言葉は誤りかもしれないが、一応迅速に戻ったつもりだ。
「ヴァイオレット、これ使えよ」
俺が手渡したのはあの黒い剣。おそらく、彼女にはこっちの方が使いやすいはずだ。
「で、でもこれは……」
「いいから、ほら、始めるぞ!」
俺はリッカにアイコンタクトをとる。
「それじゃあ、3数えたら始めるわよ?」
「了解だ」
「は、はい。大丈夫です!」
優しく吹く朝の風が、草原の草や花を揺らす中、俺は剣を構える。
「3」
そして向こうにいるヴァイオレットの姿をしっかりと視界に入れる。
「2」
それはヴァイオレットも同じで、盾と剣を構え、俺を凝視する。
「1」
あとは、カウントを待つだけだ。
「ゼロ!」
ゼロのカウントと共に、俺は強く大地を蹴って走り出す。それとは対照的にヴァイオレットはその場に構えたまま。思った通り、彼女の戦術はカウンター攻撃の様だ。盾で俺の攻撃を止め、その隙を剣で突く。実に理にかなった戦法だ。
「はああああああ!」
だが、カウンターされるのがわかっていてもこちらから仕掛けないことには勝負は始まらない。
「はあっ!」
当然、その一撃は盾によって防がれる。そしてそのままカウンターの一撃が振り下ろされようとしていた。だが、カウンターされるとわかっていればかわせない事もない。情報的アドバンテージはこちらにある。
「せいっ!」
だが、その考えは甘かった。一撃一撃の後に隙ができていたロゼとは違って、ヴァイオレットはその細い体からは想像もできないほどの力を使って再び剣を振ってくる。
「くっ!」
その攻撃を剣で受け止める。以前フレイムと戦った時の事も踏まえて、受け止めながら、ゆっくりとそれを受け流す。
「きゃっ!」
そのままよろけたヴァイオレットに対し俺は一撃を放つ。だが、再び楯に阻まれる。
流石に反撃を何発も受け流せるほど余裕は無いので、俺は後退して体制を立て直す。
「なるほど、頭を使ったライアさんらしい戦い方ですね」
「本当ならさっきの一撃で決まってるはずだったんだけどな。流石に堅過ぎて笑えないぜ」
「では、今度はこちらから行きます!」
今度はヴァイオレットの方から向かってくる。それを見て俺は周りにばれない程度に口角を上げ、剣にセットした水の魔法石を起動させる。
「てえええええい!」
来た。おそらく彼女の渾身の一撃。だが、渾身の一撃だからこそ、その意識は攻撃に向けられる。人間は右を見ながら左は見れない。つまり、この一瞬だけが、彼女に勝てるチャンスでもある。
「はああああああ!」
俺は彼女の剣をぎりぎりでよけ、そのまま低い位置から彼女ののど元めがけて剣を振る。
「そ、そこまで!」
リッカの声に俺たちの動きは止まる。
「はあ……はあ……」
流石にヴァイオレットも俺も息を切らして地面に腰を落とす。
「流石ですね……カウンターにはカウンターと言うわけですか」
「カウンターって呼べるほどのものでもないけどな……」
「途中の煽りも、私に攻撃をさせるためだったんじゃないですか?」
「さあ……どうだろうな……?」
息を整えながら俺は彼女に右手を差し伸べる。彼女はその手を左手で握り……そのまま俺を押し倒した。
「ちょ!な、なにしてんのよアンタ!」
リッカの声は聞こえていないのか無視しているのか、ヴァイオレットはそのまま体を密着させてくる。汗と香水の匂いが程良く交わり、なんだか変な気持ちになってくる。同時にその豊満な体が俺の全身に密着し、ものすごく暑い、そして柔らかい。
「ふふ……最後に、少しだけですよ~」
小悪魔の様に耳元で囁きながら、彼女が満足するまで俺はしばらくの間煩悩と戦い続ける羽目になった。
「いつまでやってんのよ!」
「あれえ?リッカさん、やきもちですか?」
「なっ!そ、そんなわけないでしょ!ほら、さっさと離れる!」
リッカにひっぱり起こされながらも、満足した様子のヴァイオレットは起き上がり、俺の手を引いて立ち上がらせてくれる。
「ありがとうございました。ライアさん。今の一戦で確信できました。あなたの剣にはやはり正しい心が宿っていると」
「お前……そのために?」
「夜はしっかり寝ないと、ですからね」
あの夜、俺が話した悩みを武器職人という位置から彼女なりに考えてくれたのだろう。
ヴァイオレットの言葉に俺は少し口角を上げる。
「さ、これで剣のお代はもらいました。それじゃあ、ここでお別れですね」
「そう……だな」
握っていた手を離し、俺は世話になった礼も込めて感謝を述べようとする。
「お姉さま!」
そんな中、唐突にロゼが口を開く。
「何?どうしたのロゼ?」
「今のライアさんとお姉さまの勝負、凄かった!わたしが小さい時に見たお姉さまの剣もそうだったけど、今日のお姉さまの剣はもっと輝いて見えたの!」
ロゼは少し興奮気味になっている。
「えっと……?それで結局何が言いたいのかしら?」
「わたし、武器をつくるお姉さまも好きだけど、剣を持って戦うお姉さまはもっと好きなの!だから、だからね……」
少し俯いてから、ロゼは顔をあげる。
「お姉さまもライアさん達と一緒に行ったらどうかな?」
ロゼの言葉に俺たちはは驚きのあまり何も言えなかった。
少し間を置いて、ヴァイオレットはため息を吐く。
「あのね、ロゼ。わたしはあなたの姉であるのと同時に保護者でもあるのよ?あなた一人置いて旅になんていける訳無いでしょう?」
「でも……ライアさん達が南に行くなら、きっとわたしたちの一族のことも何か分かると思うの!お姉さま、昔はそれをとても知りたそうにしてたのに、私がまだ小さかったから、遠慮してたんでしょ?」
「そ、それは……」
「私だってもう15歳だよ?いつまでもお姉さまに頼ってもいられない。だから、お姉さまも、自分のしたい事をしていいんだよ?」
その言葉に、ヴァイオレットは困った様子だった。それもそうだ、ヴァイオレットがここを離れるという事は、ロゼはあの家で一人でいなければならないのだ。それに、フレイム達の狙いがまだロゼに定まっているとしたら、また危険な目に会うかもしれない。
「お姉さまの言いたいことは分かるよ。でも、それでもわたしは行ってほしいの!お姉さまが帰ってくるまで、わたしあの家を、店を守るから!近所の職人さん達に武器の事教えてもらって、剣の修行もして強くなる!だから……」
ロゼは必死に自分のいいたいことをヴァイオレットに伝える。彼女はその話を最後までしっかり聞いて、ロゼの頭をなでる。
「いつの間にか、すっかり頼もしくなったのね、ロゼ」
「お姉さま……」
「そうね、私はあなたを少し子ども扱いしすぎていたわ。……わかったわ。きっと真実を確かめて帰ってくるから、しっかりやるのよ?」
「はい!お姉さま!」
ヴァイオレットは俺たちの方へ向き直る。
「そういうわけで、私も仲間に入れてもらえますか?」
「ああ」
「そうね」
「異議なし!だぜ!」
ライオネルとリッカも笑顔で頷く。
「そうだ、せっかく仲間になるならあんたがクリューソスの剣を使ってくれよ!」
「え、でも、いいんですか?ライオネルさんかなり大事にしていらっしゃったのに」
「もともと俺は武器は使えないし、ライア達も持て余してたんだ。な?いいよな?」
ライオネルの言葉に俺は頷く。
「そうだな、この剣を使いこなせるのはお前しかいない。クリューソスもきっと、誰かにこの剣を使ってもらうために託してくれたんだろうしな」
俺は黒い剣をヴァイオレットに手渡す。
「分かりました。しっかり預かります。そして、これからもよろしく、ライアさん……いえ、ライアくん!」
ヴァイオレットの笑みは、朝日に照らしだされとても美しく、そして気高く見えた。