ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
あれからどれだけ時間が経っただろうか。そもそも俺は生きているだろうか。レイモンドが使ったあのナイフには炎属性の魔法石が使われていた。事実、あの斬撃には焼けるような熱さを感じたのだから。ナイフ程度の刃物の一撃だとしても魔力を持った一撃だ。ただの農民を殺すくらいなら容易いだろう。
と、言う事は。
「死んだか」
「いや、生きてるから」
「……!?」
いつからか分からないが俺の意識は覚醒していたらしい。そして、いつの間にか声に出ていたらしく、誰かがそれに返事までしてきた。
取りあえず朝起きる時のように体を起こす。
「ぐあ……!?」
だが、忘れていた。俺は背中を切られたのだ。しかもかなり深く。それなのにいつも通りの起き上がり方をすれば激痛が走るのは当然だ。
「ちょ、ちょっと寝てなさいよ。あんたかなり重症なんだから」
そう言って俺を再び寝かせたのはリッカだった。
「ここは……?」
「さっきいた場所からちょっと離れたところの洞窟よ」
「お前が……俺を運んだのか?」
「だって、あのままおいてったら確実に死ぬじゃない」
リッカが?彼女の体の作り、あの細い腕で……?
だが、その疑問はすぐに解消された。
「風の魔法か」
「……良く分かったわね」
そう答えるリッカの視線は彼女のブーツへと向けられる。このブーツ、よく見るとかかとの部分に不自然なくぼみがある。おそらくここに魔法石をはめ、風の魔法で体を浮かせたり移動できるのだろう。さっきものすごい勢いで俺にむかって飛んできたのも、その魔法の出力を全開にしていたためだろう。状況からして、レイモンドもその魔法で移動してきたということになる。
「あんた、どっかで魔法の勉強してた?それとも学生?」
「学生が……昼間から野菜売って歩いてるわけないだろ」
「ああ、あのかご、野菜が入ってたんだ。じゃああんた、このへんの村人?」
「そうだ」
「それにしては魔法、知ってるんだ」
「本で……読んだ程度だけどな」
ふと、周りを見渡す。シャルはどうしただろう。リッカがいるから人見知りが発動して黙っているのか?
……!……違う。あの時……。
「そうだ、シャルが!……あぐっ!」
再び起き上がろうとするが背中の痛みがひどすぎてもはやそれすら叶わない。
「ごめん、わたしのせいで……」
リッカが頭を下げてくる。
「取りあえず頭を上げろ……今は……そんな言葉より状況説明が欲しい」
「状況説明って……したところでなんになるって――」
「いいから……さっさとしろ……!」
「……!分かったわよ……」
リッカはしぶしぶと話しだした。
「まず、さっきの男はレイモンド。ここより少し離れた地域で何でも屋……って本人は言ってるけど略奪や強奪、殺しや裏取引なんかをやってるギャングのボスよ」
相当やばい奴じゃねえか……。取りあえず無言で続きを促す。
「そんで、私はそいつのもとで働いてた」
「お前も……殺しを……?」
「そうよ。私にもいろいろ事情があってね。でも、さすがにあいつらのやり方についていけなくなった。だから、逃げ出した」
そういえばさっきの二人の会話のなかには辞任がどうとかいう話がでていたな。
「でも、レイモンドは裏切り者を絶対に許さない。今までもアイツに反抗したり逃げ出した奴は全員殺された」
「それで……さっきに至るわけか」
「そういうこと」
「あれから……どれくらい経った……?」
「4時間くらいね。ただの農民にしては起きるの早くて少し驚いたわ」
4時間……。俺たちがリッカに会ったのは昼ごろ。それから4時間……まずい。レイモンドはたしかリッカに日没まで待つと言った。それまでに戻ってくれば今回のことは不問にすると。そしてシャルは人質として連れて行かれた。つまり、日没まではレイモンドがシャルを殺すことはないがそれ以降は何をするか分かったもんじゃない。
「ぐっ……」
俺はふたたび体を起こす。
「ちょ、だから言ってるでしょ!あんたは動ける体じゃない!さっき街の医療機関に連絡をとったからそれまで……」
「ふざけるな!」
「っ!?」
「シャルは……俺の妹だ、大切な家族なんだ!それを放っておいて自分だけ助かるくらいなら死んだ方がましだ!」
「で、でもアンタ……」
「あの時……シャルは俺を守ってくれた。いつも気弱で俺と母さん以外の人間と向き合って何かを言おうとしたことなんてなかったアイツが、レイモンドに敵意を向けた!それはアイツが心の奥底に持っていた勇気なんだ!だから、今度は俺が勇気を見せる番なんだ!」
そこまで一気にまくしたて、俺は荒い息をする。
「その傷じゃあまともに動くことすらできないじゃない……」
「お前……レイモンドの組織にいたなら……アイツの使っていた炎の魔法石とナイフを持ってるよな?」
「も、もってるけど……?」
「なら……それを使え、高熱で俺の背中の傷口を塞ぐんだ」
「は、はあ!?あんた何言って……」
「はやくしろ!」
そう言って俺は破れた上着を脱ぎ捨てリッカに背中を向けた。
「ほ、本当にやるの?下手すりゃまた意識が飛ぶかもしれないわよ?」
「構わない……さっさと……やれ」
「……」
リッカはそれ以上何もいわず、上着の内ポケットからナイフを取り出した。すぐに魔法が発動したらしく、金属が熱された時に聞こえるパチパチというおとが聞こえる。
「いくわよ?」
「こい……」
俺の返事と同時にリッカがナイフの面で俺の傷跡をなぞる。さっきレイモンドに切られた時なんか比にならないくらいの痛みが俺をおそう。
「ぐ……ぐああああああああああああああああ!」
痛い、熱い、体が、脳がぶっこわれそうだ。でも……シャルを救えるなら……アイツの勇気に応えられるなら……安いものだろ……。
数十分後。止血を終えた俺は洞窟をでて歩きだす。日はゆっくりと沈みかけている。急がなくては。
「ちょっと待ちなさいよ!」
後ろからリッカがおいかけてくる。
「なんだ?」
「なんだじゃないわよ。そもそもあんた、戦えるの?魔法は使えるの?」
「農民が戦闘用の魔法を使いだしたらあっという間にクーデターが起きるだろ」
「つまり戦うすべがなにもないってことでしょ?どうすんのよ!確実に殺されるわよ!?」
「それでも……俺はいく」
再び俺は脚を動かす。
「待ちなさいって!」
「なんだ、こっちは時間が無くて焦ってるんだ。これ以上話してる時間はない」
「そうじゃなくて!」
リッカが俺の隣まで走ってくる。
「わたしも行くっていってんの」
「あいつらのところに戻るのか?」
「まさか、そんなの二度とごめんよ。ただ……」
「ただ……?」
「重度のシスコン患者の手伝いってボランティアに参加するだけよ」
そう言ってリッカは俺に上着を渡してくる。
「さっきレイモンドの前で腰抜かしてた奴が良く言うな」
「なっ!あれは別にその……目の前に死に急ぎ野郎がいたから絶句してただけよ!」
「はいはい。そうですか」
「そう言えば聞いてなかった。あんた、名前は?」
「……俺は、ライア」
「そう。じゃあ行くわよライア。私につかまって」
「え?」
「言っとくけど、アイツのアジトかなり遠いわよ。そこまで飛ばしてくから振り落とされないでよ?」
「は?いや、お前、飛ばしてくってもしかして――」
俺の言葉を待たずにリッカは俺の手を握る。そして、ブーツにはめ込まれた魔法石の魔力を開放し、飛び立った。