ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件   作:たけぽん

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五章
30. 奇妙な依頼


「ど、どうすんの……?」

「どうするったって……なあ?」

 

 

メイスランドを旅立った俺たちには再び大きな課題、というよりは危機が訪れていた。

 

 

「すまない……俺の考えが甘かったせいで……」

「ライアくん一人のせいではありませんよ。私が用意しておけばよかったんです」

 

ヴァイオレットが落ち込む俺の肩を叩く。

 

「そうだ、くよくよしている場合じゃない。今最も重要な事はみんなわかってるよな?」

 

 

俺の言葉にみんなが頷く。

そう、今俺たちが抱える問題とは……

 

「「「「お金が……ない」」」」

 

そう、村を出てからここまでいろいろなことがあった。その中では宿に泊まったり食事をとったり、本や衣服、生活用品、その他もろもろを買ったりして生活してきた。だが、それらに共通するのは、全て手に入れるためには対価、お金が必要だという点。そのために村のみんなが旅立つ際にたくさんのお金をくれた。だが、ついにそれが尽きようとしてるのだ。すっからかんというわけではないが、あと一回宿にでもとまればそこをつく程度しか残っていない。

流石にこの状況では南側に行く前にのたれ死んでしまうだろう。

 

「お金を稼ぐためにはどうするのがいいと思う?」

「そりゃあ、働くしかないでしょ」

「どこで?」

「そ、それは……」

 

リッカが言い淀むのも仕方ない。確かに働くというのがお金を稼ぐのにもっとも近い手段だが、問題の働き口がどこにあるのかわからない。そして、今現在俺たちが歩いている荒野の周辺には街も村もない。このままだと働き口を探している間に餓死しそうだ。

 

「一応、王都には職業紹介所というところがあって、外部からやってきた人たちに仕事を紹介していると聞いたことがありますよ」

「お、それだ!王都行こうぜ!」

「あのねえエロマンダー。王都は国の中心部に位置してて、今私たちがいるところからだと少なくとも1週間は歩かないとつかないわよ?それまで飲まず食わずってわけにはいかないでしょ?」

「うーん……地図だとここから北へ行けば一応小さな街があるらしいぞ」

 

地図を指でなぞりながらみんなに提案してみる。

 

「却下ね。私たちは南に向かってるのよ?ここから北へ行ってお金を稼いでも、結局南に行く途中で金策尽きるわ」

「そうですね、それに小さな街ですと働き口も埋まってそうですし……」

 

つ、詰んだ……。俺たちの旅はここでおしまいなのか?

俺が地面に膝をついたその時、遠くの方からなにか大きな音がこちらへ近づいてきた。

 

「何?この音?」

「何か大きなものが近づいてくる音ですね」

「ひょっとして、モンスターか!?」

 

ライオネルの言葉に俺たちは身構える。

だが、その心配も必要無かった。音の正体はただの馬車だったのだ。

 

「なんだ、馬車かよー」

 

そのまま通り過ぎると思った馬車だったが、何故か俺たちの近くで御者が馬を止める。俺たちが唖然としていると、馬車から一人の男が降りてくる。丸まった背中に、黒いタキシード、そして丸メガネをかけており、身長はかなり低い。だが、とても優しそうな笑みを浮かべている。その男は俺たちのほうへ近づくと、ゆっくりと口を開く。

 

「おやおや、旅の方たちですか。こんな何もない荒野でどうしたんですか?」

「えーっと、その……まあ、ちょっと困った事態になってまして」

「ほう、その事態とは?」

「端的に言うと、金欠です」

「ほほ、それは大変ですな~」

 

ずっと笑みを絶やさないせいでこの男が本当に同情しているのか怪しいところだ。

 

「まあ、そういうわけなんで、それじゃあ」

「待ちなさい、お兄さん。金欠だというのならいい話がありますよ」

「はい?」

「実はですね、ここから少し東に行ったところにある小さな街で、武道大会が行われるんです。どうでしょう、参加しませんか?」

 

なんか胡散臭いこと言いだしたぞ。ただでさえ金欠なのにそんな大会なんて出ている余裕はない。断ろう、そうしよう。

 

「いや、悪いんですけど――」

「優勝賞品は金一封なんですがねえ」

「なん……だと……」

「どうでしょう、もしあなた方が出場するというのならその街までこの馬車で送迎いたしますよ?」

 

金一封はとても魅力的だが、なんだか話ができすぎていないか?俺たちが偶然路頭に迷っている時に偶然いい話が舞い込んでくる。

それゆえ、少し訝しげな目で男を見る。

 

「そもそも、俺たちがその大会に出て、あなたになにかメリットがあるんですか?」

「もちろんありますとも」

「それは?」

「えー……内緒です☆」

「よし、みんなさっさと働き口探しに行こうぜ」

「ま、待ってくださいな!」

 

男は立ち去ろうとする俺のコートの裾をひっぱってくる。

 

「あーもう、しつこいぞ!」

「分かりました!ちゃんと説明いたしますから!」

「最初からそうしろよ……」

 

男はようやく俺のコートから手を離し、咳払いをする。

 

「じ、実は、私は王都のとある貴族に仕えているのですが、そのご主人が武道大会で優勝できるくらいの実力の戦士を探しているんです」

「王都に住んでいるなら騎士団や憲兵団に頼めばいいんじゃないんですか?」

「そ、それが騎士様では駄目だと申されたのです」

「そりゃまたなんで?」

「そ、それは言えないのですが……。た、ただ!この仕事を完遂しないと給料がカットされてしまうんです!お願いします!助けて!」

 

もう最初のイメージが完全に崩壊しているが、どうやらこの爺さんは非常に困っているご様子だ。

 

「でも、別に俺たちが参加しなくても誰かしらが優勝するでしょ。その人に頼んだらどうですか?」

「それが……ご主人は若い戦士じゃないと駄目だと……大会が行われる街に必ず若い戦士がいるとも限らないじゃないですか……」

 

つまり、こいつの主人は若くて強い戦士を探している。そしてその強さの証明として武道大会で優勝という実績が欲しいということだろうか。

 

「武道大会なら他の街でもやるのでは?」

「近日行われるのは今回の大会だけでして……」

「じゃあもう適当な奴捕まえて優勝者ですって捏造するとか」

「そ、そんな!もしばれたら減給どころかクビになっちゃいますよ!」

 

それもそうか。

 

「ライア、いいんじゃない?行きましょうよ、武道大会。私たちの目下の課題は金欠からの脱出なんだし、その貴族とやらのお眼鏡にかなえばもっとお金が手に入るかもしれないわ」

「そうだぜライア!この爺さんも困ってるみたいだしよ!」

 

 

リッカとライオネルは乗り気になってしまっているようだ。仕方ないので俺は決定権をヴァイオレットに委ねることにして視線を向ける。

 

「ライアくん。南に行くという目的からは遠ざかってしまいますが、やはりお金の問題を先に解決するべきです。それに、この方は心の底から困っているようですし、邪念も感じません。警戒しなくてもいいでしょう」

「……そうだな。そうするか」

「ありがとうございます!それじゃあ、早く乗ってください!あ、お荷物は荷台においていただいて大丈夫です!」

 

爺さんは急いで俺たちを馬車に促す。俺たちはそれに従い馬車に乗り込む。

 

「それでは!行きましょう!」

 

その言葉に御者が馬に鞭をうち、馬車はがたがたと走り出した。

 

 

***

 

馬車に揺られること2時間。俺たちは武道大会が行われるという街へたどり着いた。爺さんの言葉の通り、本当に小さな街で、シルドやメイスランドと比べてもその差は歴然だ。

入口の看板には『ようこそ!プラリアの街へ!何もないけど見ていって!』という自虐の混じった案内が書いてあった。

本当にこんなところの武道大会の優勝者を連れて行くのかこの爺さんは?

 

「武道大会の受け付けはこちらになりまーす!」

 

街の真ん中にある会場と思われる建物の前で受付嬢たちが声を張っている。

 

「ささ、みなさん、早くエントリーして下さい!」

 

爺さんに背中を押されながら、俺たちは受付の列に並ぶ。小さな街の大会にしては結構な人数がならんでいるな。やっぱり金一封が狙いだろうか。

 

「そういえば、武道大会って言ってたけど武器は使えるのかしら?」

「確かに、どうなんですか?爺さん」

「ええっとですね、ちょっと待ってくださいな」

 

爺さんはポケットからチラシの様なものを取り出し慌てて確認する。

 

「あ、はい。武器の使用はオッケーらしいです。ただ、受付でチェックがあるみたいですが」

「へー。それじゃあ本当に何でもありの試合になりそうね」

 

 

そんな話をしていると、列は前に進み、俺とリッカが受付してもらう番になった。

 

「はい、お名前は?」

「えーっと。ライアです」

「ライアさん、ですね。武器は使用なされますか?」

「あ、はい。剣を」

「それでは受付後、建物の中で武器のチェックを受けてください」

「はい。わかりました」

「それでは、受付はお終いです」

 

なんだかすごい大雑把な受付だが、まあ、この街の規模からしてそんなもんかな?

 

「へいへい、可愛いお姉ちゃん!」

 

受付から離れようとすると、隣で受付していたリッカの横に奇抜なヘアスタイルの男がへばりついている。

 

「……なにあんた?」

「俺の名前が知りたいかい?そうか、なら仕方ないねえ。俺はブラージ。ブラージ・フォンシュナイダー。この大会で優勝する男さ!」

「へー、すごいわね」

 

明らかに無関心なリッカに対しブラージはさらに言葉をかける。

 

「お姉ちゃん、大会に出るのかい?やめといた方がいいよ、こんなにかよわい女の子が戦うなんて、そんなの俺は認められないね」

「あ、私弓使うんで。あと、このブーツも」

 

リッカはというと、ブラージを完全に無視して受付を進めている。

 

「ねえ、だからさ。大会に出るのはやめて俺の応援してくれないかな?君の応援があればただでさえ高い俺の優勝の確率がはさらに跳ね上がるってもんよ」

 

リッカはもう完全に視界にブラージを入れていないらしく、受付を済ませ、俺の方へやってくる。

 

「そっちは終わった?」

「え?あ、ああ。終わった。あとは武器のチェックだけ」

「そう。ま、もし対戦することになったらその時はよろしくね」

「そういやお前と対戦するって今までなかったよな。村で過ごした半年も、お前は常に指導する側だったし」

「言っとくけど、負けないわよ?」

「こっちだって、勝負事で負けたくは無いな」

「ちょ、ちょちょちょっと待ったあ!」

 

俺たちの会話に横やりを入れてくるブラージは、俺の方を激しく睨みつけている。

 

「なんだあお前!人が目をつけた女の子を奪うなんてそれでも男か!」

「え、えーと……」

「さ、行きましょライア」

 

リッカが俺の手を引く。それを見てブラージはさらに大きな声を張り上げる。

 

「この野郎!一体どこの家の生まれだ!名を名乗れ!」

 

正直これ以上何を言っても火に油なんだが、流石にここで俺まで無視を決め込むのはこいつが不憫だ。

 

「俺は、ライア」

「名前じゃねーよ!名字を名乗れって言ってんだよ!」

「名字はない。出身は小さな村だ」

「は?」

 

拍子抜けとばかりにブラージは口をポカンと開ける。が、すぐに大きな声で笑い出す。

 

「は、はははは!何だお前、どこの貴族かと思ったらただの田舎ものかよ!いいか、予言してやる、お前みたいな雑魚は一回戦で確実に落ちるってな!勝つのは俺みたいな貴族の出身なんだよ!」

「お、おう……そうですか」

 

何と反応していいのか分からず、変な解答をしてしまう。

 

「そうだ、こういうのはどうだ?もしお前が一回戦を突破できたら何でも言う事聞いてやるよ、その代わりお前が一回戦で落ちたらその子は俺のもんだ!」

「いや、それ全然釣り合ってな――」

「いいんじゃない。私はそれでいいわよ」

「お、おいリッカ!」

 

なんでこいつはこんな見え見えの挑発に乗っかるんだ。

 

「決まりだな!それじゃあ、俺との楽しい生活を楽しみにしててね、可愛いこちゃん!」

 

投げキッスをして去っていくブラージを俺たちは無言で見送る。

 

「さ、武器のチェックに行きましょ?」

「いや、お前、そんなことよりさっきの――」

「ああいうのは一度どん底まで叩き落としてやるべきなのよ」

 

あくどい笑みを浮かべるリッカに、俺は返す言葉も無かった。

 

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