ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
「それでは!第33回、プラリア武道大会を開始します!」
マイクを持った司会者の宣言に、どこから集まったのかわからないくらいの大観衆が歓声を上げる。
俺とリッカ、そしてヴァイオレットは武舞台のうえで他の選手と共に並んで立っている。
ライオネルは爺さんと一緒に観客席にいると言っていたが、この人数だと探すのも難しい。
「まず、ルールを説明いたします!この大会では、武器、魔法等の使用制限は一切ありません!思う存分戦ってください!そして勝利条件ですが、相手が投了したとき、または相手が試合続行不可能となった時の2つとさせていただきます!制限時間は20分。それ以内に勝負がつかない場合は両者失格となります!」
なるほど、大分シンプルなルールだな。
「そして、反則行為として、外部からの意図的な干渉による勝利、または相手を殺すことは即失格となりますのでご注意ください!」
これで殺し合いにはならないってことか。それは安心だ。
「それでは、説明はここまでにして、お待ちかねのトーナメント表の発表です!ばばーん!」
司会のセルフ効果音と同時に壁際のトーナメント表にかかっていた幕が取り払われる。
参加人数は、全部で30人。結構多いな。
自分の名前を探すために右から見て行くと、リッカの名前があった。相手は……知らない人だ。次にヴァイオレットの名前を見つける。対戦相手は……ジャーロン・プロメチウム。全然知らん。
そのまま一番左まで進むと、ようやく俺の名前が見つかった。左端ってことは第一試合か。相手は……ブラージ・フォンシュナイダー……まじかよ。
「はっ!まさか一回戦第一試合であたるとはなあ!覚悟しろよ田舎者!大観衆の前で恥かかせてやるぜ!」
めんどくせー。どうしよう、凄くやる気が出ない。
「それでは、これから一回戦を始めます!まずはブラージ・フォンシュナイダー選手対ライア選手!どちらも初出場、一体どんな戦いを見せてくれるのか!では、武舞台の上の選手皆さん!移動をお願いします!」
司会の声に選手たちは俺とブラージを残して武舞台から降りて行く。
「それでは、お二人とも準備はよろしいですか?」
「いつでもいいぜ!」
「大丈夫です」
「それでは3カウントの後、試合を開始いたします!」
カウントを聞くために、観客たちもこの一瞬だけは静まり返る。
「3!」
俺は緑星の剣を抜き、ゆっくりと構える。
「2!」
ブラージも、俺の剣と同じくらいのサイズの剣を抜く。その刀身は金ぴかで、柄の部分には宝石のような装飾が成されている。
「1!」
そして、俺たちは互いの姿を視界に入れる。性格はともかく、自分から優勝候補と言っていた奴だ。相当実力があるに違いない。最初から全力で行く!
「ゼロ!」
その言葉と同時に俺は武舞台を大きく蹴って走り出す。
「はああああああ!」
そしてそのまま魔法石を起動させ、剣に水の魔力を宿す。
さあ、どう出てくる!?
「え、ちょちょちょ!」
何だ?全くこちらへ向かってこないぞ?もしかして、ヴァイオレットの様なカウンター戦術なのか?
「うおおおおおおお!」
だが、そんなことでひるんでいては勝つことはできない。俺は自分の剣をブラージに思いきり振る。
「ぐ、ぐあああああああああああ!」
「え?」
ブラージはそのまま後方へ吹き飛び、武舞台の外、観客席の壁に激突する。
「ブラージ選手!生きていますか!」
「は、はが……」
ブラージはなんとか声を振り絞っている。どうやら殺してしまった訳ではないようだ。良かった……。でも、これってどういうことなんだ?
「勝者、ライア選手!なんと開始10秒での決着!これは大会新記録!恐るべき剣技でしたあああああ!」
大歓声の中、俺はポカンとしていた。
「え?……え?」
そんな俺の事などつゆ知らず、2試合目の選手たちが武舞台へと上がってくるのだった。
***
俺とブラージの試合の後も一回戦の試合は次々と行われていく。だが、正直な話この武道大会に出てくる選手たちはお世辞にも強いとは言えなかった。俺が今まで戦ってきたどの相手と比べても実力差は歴然だった。武器の使い方も、それに伴う魔法の使い方もそうだし、なにより驚いたのはスピリチュアルマジックを使うものが一人もいないことだった。 それゆえ、一回戦の試合が半分くらい終わったところで俺は会場の外の木陰で休息をとることにした。リッカやヴァイオレットの試合を見ても良かったのだが、まあ、十中八九彼女たちが勝つだろうし、それなら勝ちあがってくる彼女たちとの試合に向けて少しでもリラックスしておきたい。
ただ休息を取るのも暇なので、選手控室のロッカーから持ってきた自分の荷物の中から適当な本を取り出してパラパラと読む。
20ページほど読んだところで、俺は誰かの視線を感じ、顔を上げる。その視線は、俺から5メートルくらい離れたとこにいる、フード付きのローブを羽織った人物から向けられているようだ。まあ、フードを目元までかぶっているから視線が向いていると断定はできないが、今ここにいるのは俺とその人物だけなので恐らくはそうだろう。
その人物はゆっくりと俺に近づいてくる。そして、俺のもとで足を止める。座ったままというのも何なので俺もそれに応じて立ち上がる。
「えっと……?」
「……」
だが、一向に話してくる気配が無い。何だこいつ?身長は俺と同じくらいで、ローブのサイズからして体系はやせ形だろうか。……うん。全く何の手掛かりにもならん。
「君は、なんで戦うの?」
ようやく出てきたのはよくわからない問いだった。だが、声色からしてこいつが男性だということは分かった。
「なんでって……そりゃあもちろん賞金目当てに」
「そうじゃなくて、もっと広い意味でだよ」
広い意味というのはこの大会だけでなく、今までの全ての戦いの事を指しているのだろう。それとも人は何故戦うかという哲学的な話なのか?
「思いつかないかい?」
俺は少し考える。半年前にシャルを取り戻すために戦ってからの事を思い返す。
「……まあ、少なくとも今まで俺が戦ってきたのはそうしないと俺や親しい者たちが危険な目に会うから……かな」
なんで初対面の相手にこんな事をすんなりと話しているんだ俺は。だが、不思議とこの男にはそれを言う事に抵抗が無かった。
「誰かの為に……か。それで君は何を得られるの?」
「得られるって……別に何か見返りを得ようとして戦ってるわけじゃないし」
「……そっか。君はまるで勇者の様な思想を持ってるんだね」
「勇者ってのは大げさだろ、俺はただの小さな村出身の村人だよ」
「……そうか」
「てか、結局お前はだ――」
俺の言葉は突如会場から沸き起こる声によってかき消される。自然と俺の視線は会場へと向けられる。
「だれか怪我でもしたのかな?」
会場の方から視線を戻すと、フードの男の姿はどこにもなかった。
「……なんだったんだ?あいつは」
「ら、ライア!大変よ!」
頭を捻っていると、会場からリッカが血相を抱えて飛び出してくる。
「どうしたんだリッカ?」
「いいから、早く来なさいよ!」
そのまま手をひっぱられ、俺は再び会場の中に入る。
「なんだよ?もう一回戦全試合終わったのか?」
「違うわよ!今ちょうどヴァイオレットの試合なんだけど……」
リッカの言葉が続く前に、俺たちは通路を通過し、武舞台の前にたどり着く。
そこで俺が目にしたのは、武舞台に膝をつくヴァイオレットの姿だった。
「勝者、ジャーロン・プロメチウム選手!見事な剣技!凄い!本当にすごい!」
「ヴァイオレットが……負けた?」
あのヴァイオレットが負ける?あの堅い防御が破られたってことか?今回の参加者のレベルならヴァイオレットが圧勝してもおかしくないはずなのに。
俺が戦慄していると、武舞台から降りてくるジャーロン・プロメチウムと視線が合う。背丈は俺より少し高くて、灰色の髪に、灰色の目、そしてその腰には白い剣が収められている。
「……」
「……どうも」
無言で突っ立っている俺に会釈をして、ジャーロンは控室へと消えて行った。
それを見送ってから、俺たちは武舞台を後にするヴァイオレットのもとへ駆け寄る。
「大丈夫か、ヴァイオレット」
「え、ええ。大丈夫です。特に大きな外傷はありません」
「お前ほどの奴が負けるなんて、あのジャーロンって奴はそんなに凄いのか?」
「はい……。恐るべき剣技でした。それも、一度も魔法を使わずに……」
魔法を使わずにヴァイオレットを倒しただと?それが本当なら彼は相当の実力者という事になる。
「見てたけど、ヴァイオレットだけじゃない。私もあんたも勝てる見込みはなさそうだったわ」
あのリッカが自分が勝てないと断言するなんて、天地がひっくりかえってもあり得ないはずなのに、ジャーロンの戦いはそれほど圧倒的だったのか。
「次の試合を行います!選手は武舞台へ!」
「私の番ね」
リッカが弱弱しく弓を持って武舞台へ向かう。そんなに戦意を喪失するほどなのか。
「分からなくなってきましたね」
ヴァイオレットの言葉に俺は頷く。
「ああ。この大会、相手を見くびっていては痛い目を見そうだ。ジャーロンのほかにも腕が立つ奴が潜んでいるかもしれない」