ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件   作:たけぽん

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34. 遅れてきた乱入者

「決まりました~!優勝はライア選手!見事な逆転劇だ~!」

 

ふと、聞こえてきたのは、俺の勝利を告げる司会と、それに対する観客たちの声だった。

 

「……えっと」

 

なんとか先ほどの試合内容を思い出そうと試みるが、リッカが俺に何かを告げたところから全く覚えていない。ただ、勝ったという事実だけが認識できた。

 

「やったぜライア~!」

 

ライオネルが観客席から飛び出し、武舞台まで駆け上ってくる。

 

「お、おう。やったぜ……」

 

だが、もう俺には自分の体を支えるための力も残っていないらしく、そのまま武舞台に倒れ伏す。

 

「お、おい!ライア!」

「エロマンダー!回復!」

「お、おう!って、こんな大勢の前でエロマンダー言うな!」

 

文句を言いつつも、ライオネルはすぐに回復魔法をかけてくれた。だんだんと傷が癒え、10秒もしないうちに俺は起き上がる。

 

「ライオネル、ジャーロンの方も頼む」

「おう、わかったぜ!」

 

ライオネルはジャーロンの方へと駆け寄り、魔法をかける。その間、俺は武舞台周辺を見渡す。どういうわけか、武舞台のタイルやその周辺に生い茂る芝が焦げている。もしかして、俺がやったのか?でも、炎の魔法石は切らしてたし……。

 

「いい試合だったね、ライア」

 

回復したジャーロンが俺に手を差し伸べる。俺はその手を掴み立ち上がる。

 

「それにしても凄かったよ。まさか武器にスピリチュアルマジックを宿すなんて。今まで誰も成し遂げることができなかった事を……」

「ま、まってくれ。俺が?武器に?」

「もしかして、憶えていないのかい?」

「あ、ああ。全く」

「なるほど……もしかしたらだけど、極限状態に陥った時に、人はそれができるのかもね」

 

そんなことを言われても、本当に憶えていないのだからどうしようもない。

 

「まあ、取りあえず対戦ありがとう。君の仲間にも、傷を治してもらったし……あれって5大属性には無い力だよね?いったいどういう……ってごめん。そんな話をする気分じゃないよね」

「ああ……。すまない」

「ううん。でももしまた会う事があれば、その時はゆっくり魔法について語り合いたいね」

 

そう言い残し、ジャーロンは武舞台を降りてゆく。それにしても、恐ろしく強い奴だったな……。

 

「それでは、この後表彰式と賞品授与を――」

 

司会の言葉の途中で、空から大きな音が響き渡る。その音は、だんだんと大きくなり、そして、武舞台の真ん中に、まるで隕石の様な勢いで何かが落下してきた。当然武舞台は崩壊し、その余波があたりに広がり、観客はパニックを起こす。

 

「な、なんだなんだ!?」

 

ライオネルが全員の気持ちを代弁してくれる。その疑問に答えるかのように辺りに舞う砂ぼこりが払われ、中から人影が出てきた。

それは、緑色の長い髪に、黄色く輝く瞳。そして、背中に大きな斧を携えた一人の女性だった。見た感じ、ヴァイオレットと同じくらいの年齢だろうか。

 

「ちよちょちょっと!なんですかあなたは!この武舞台に一体いくらかかってると――」

「邪魔です、どきなさい」

 

その女性は司会者を押しのけ落下地点から歩を進める。そして、俺の目の前で足をとめた。

 

「お前、名は?」

「……ライア、だけど」

「そうですか。私はミーア・サンダーグース」

 

唐突に始まった会話に俺は戸惑う。この女は何者で、一体どうやって、何の目的でここへやってきたのか。

 

「私と戦いなさい」

「え?」

「先ほどの戦いでお前が見せた青き炎を宿した剣技。それが本物か見極めさせてもらいます」

「い、いや。よく意味が――」

 

俺の言葉が続くより先に、ミーアが斧を振り下ろした。俺はライオネルを抱えなんとかそれをよける。

 

「お、お前!一体何を!」

「言ったでしょう。戦えと」

 

どうやら夢でも大会側のドッキリでも無さそうだ。このまま俺が戦わなければ何をし出すか分かったもんじゃない。

 

「ライオネル!観客を避難させて、お前たちもどこか安全な場所へ移動しろ!」

「で、でもライア!」

「こいつは本気だ!もし戦いの支障になるものがあれば容赦なく排除してくる!急げ!」

「わ、わかった!」

 

ライオネルは急いで観客席へと走っていく。

 

「的確な判断です。お前の言うとおり邪魔になる者は排除するつもりでした」

「お前の目的は何だ?なぜ俺に勝負を挑む?」

「先ほど伝えました。お前の剣が本物かどうかを見極めると」

 

その理由が知りたいんだが、素直に答えてくれはしなさそうだ。

 

「さあ、剣を抜きなさい」

 

その言葉通りに俺は剣を抜く。

俺とミーアは互いの様子を伺いながらじりじりと横に移動し、機を見計らってそのまま走りだす。こいつの武器は斧。それも以前戦ったゴブリンの物より遥かに大きく、そして良質なものだ。ならば繰り出される攻撃は一撃一撃が超重量級の威力のはずだ。だがパワー型の相手との戦いは俺も経験がある。重要なのはその一撃をまともに喰らわないこと。剣で防御しようがまともに喰らおうが、一撃を許してしまえばそこで終わる。

 

「はあっ!」

 

予想通りの大きな一撃。振り下ろされる斧をぎりぎりでかわし、俺は尚も走り続ける。流石にあいつもあのバカでかい斧を振り回しながら長時間動き続けることは出来ないはず。ならば狙うのは長期戦による向こうのスタミナ切れ。その後で攻撃に転じる。

 

「……なるほど、そこそこ頭が回るようですね」

 

まさか、この数秒で俺の作戦に気付いたって言うのか?

だが、仮に向こうが俺の意図に気付こうが攻撃しなければ勝つことはできない。それが崩れない限り、いずれは俺の計画通りに事は運ぶはずだ。

 

「……!な、何!?」

 

俺が瞬きした次の瞬間、俺の視界からミーアの姿は消えていた。

 

「後ろです」

「――!」

 

後ろから振り下ろされる斧を剣でいなしがらかわす。やはり一撃は重く、手がびりびりとしびれる。

いや、そんなことより今、どうやって俺の背後をとった?瞬きという一瞬の間に俺の視界からその外へ移動するなんてなにより今のは移動、というよりはまるでワープだ。

 

「なんだよ、今のは……」

「なんでしょうね。そこそこ回る頭で考えてはどうでしょう」

「この……!」

 

こうなった以上、もう俺から攻撃を仕掛ける以外道は無い。俺は魔法石を起動させ、剣に水を纏わせる。

 

「ほう……水属性ですか」

 

その言葉に反応する余裕もないので俺は思い切り地面をけってミーアへと切りかかる。

 

 

「無駄です」

「また……!」

 

またしても、ミーアの姿が消えた。だが、今度はその瞬間に何か音が聞こえた。何の音だ?どこかで聞いたことがある音だったが……。

 

そして再びミーアは現れる。今度は俺の上空へ。その攻撃をまたもギリギリでかわす。もし気づくのがあと一歩遅かったら俺の体は両断されていただろう。

 

「それなら、これでどうだ!」

 

俺は魔力を手に集中し、そのまま手当たり次第、全方向に炎の球を発射する。これなら、どこへ移動しようとどれかが当たるはずだ。

 

だが、その予想は大きく外れた。ミーアは消え、出現した位置に向かってくる炎の球に反応しまたすぐに消える。それを繰り返しながら、だんだんと俺との距離を詰めてくる。

しかし、俺は一つ気付いたことがある。ミーアが移動するとき、さっき聞いた音と共に、光が走っているのだ。

 

「なるほど、雷属性の魔法か」

「……なかなか早く気付きましたね。その点は評価しましょう」

 

どうやら正解らしい。ミーアの高速移動は、雷属性の魔法によるもので、おそらく自身の移動速度を稲妻のようなスピードまで高めるのだろう。しかも、それをまったく惜しげもなくつかっていることからして、マテリアルでは無くスピリチュアルマジックだろう。

 

「だが、気付いたところでお前に私を捉える事は出来ない」

 

ついに俺の目の前まで来たミーアが再び斧を振る。それを剣でガードするも、その重さに俺は後方の壁まで吹き飛ばされる。

 

「なぜ、使わないのですか?」

「使うって……なにをだよ?」

「青き炎を宿した剣です。もはや出し惜しみをしている余裕は無いはずですが」

「そういえばそんなこと言ってたな……」

 

生憎だが、俺にはその方法が分からない上にその時の事さえよく覚えていない。とはいえ、あいつの言うとおり、その技くらいしか俺に抗う術は無いのかもしれない。

あのジャーロンを倒した技だ、それくらいの期待はしてもいいだろう。

 

「くっ……!」

 

俺はなんとか立ち上がり、剣を構える。

 

「ようやくその気になりましたか。では私も、全力でその一撃に応えましょう」

 

斧を構えるミーア。どうやら高速移動による撹乱はしてこないらしい。

俺は魔力を集中し、それを剣に伝えようとする。正直やり方は一切分からないが、イメージとしては俺の魔力を剣に流し込む感覚のはず。

 

「行くぞっ!」

 

俺は限界が近い足を必死に動かし、ミーアへと向かっていく。むこうはその場にとどまり、俺の一撃に備えるようだ。

 

「はああああああああああ!」

 

俺は大きく剣を振る。

 

 

 

 

だが、その剣に炎は宿らなかった。

 

 

「……どうやら、偽物だったようですね」

 

そう呟いたミーアが斧を振り下ろしたところで、俺の意識は消えて行った。

 

***

 

「ライア!おいライア!」

 

目を開けた時、既に俺は武舞台があった場所から別の場所に移されていたらしく、無機質な白い天井と、俺の顔を覗き込むみんなの姿が視界に入る。

 

「みんな……」

「ライアくん!よかったです……」

 

そうだ、俺はミーアとの戦いで負けて、その後意識を失ったんだった。ゆっくりと起き上がってみるが、痛みは無い。ライオネルの魔法が傷をしっかり癒してくれたんだろう。

辺りを見渡すと、そこは選手控室で、俺は急遽用意されたであろう簡易ベッドの上にいた。

 

「被害者は……?」

「皆さん無事ですよ。ライアくんの迅速な判断のおかげです」

「はは……そりゃよかった」

「よくないわよ!」

 

リッカの声が狭い室内に木霊する。

 

「り、リッカ……?」

「あんた、私たちがどれだけ心配したか分かってんの!?音が静まって戻ってみたらボロボロになったあんたが倒れてて……死んじゃったんじゃないかって……。いい!?あんたの命はあんただけのものじゃないの!それを忘れないで!」

 

俺の命は、俺だけのものじゃない。

 

 

そうだ、もしもあの場で俺が死んでいたら、こいつらを旅に巻き込んだ意味そのものが無くなってしまう。俺の命は、こいつらやシャル、母さん、ロゼやウィズ、オルドそして今まで出会ってきた多くのものの為にあるんだ。

 

だからこそ、もう誰が相手だろうと負けるわけにはいかない。そのための強さが、俺は欲しい。

 

 

「……ごめん。俺は自覚が足りなかった。今後はもうこんなことが無いようにするよ」

「言ったわね?約束よ?」

 

俺が頷くとようやくリッカは落ち着いてくれたようだ。

 

 

「そういえば、ミーアはどうしたんだ?」

「あの女は、私たちが駆け付けた時にはもういなかったわ」

 

結局あいつの行動理由は全て不明だったな。俺の剣に宿るスピリチュアルマジックを見たかったらしいが……。そもそも、なんでそんなあり得るはずの無い事を俺は出来たんだ?

 

「あ、あのー……」

 

そこで今まで何も言ってこなかった爺さんが口を開く。

 

「それで、いつ頃出発できますかな?」

「出発?」

「ライアくん、忘れましたか?私たちがこの大会に参加したのは金一封のほかに、このおじさまの仕える貴族の要望に応えるためでもあったんですよ?」

 

そういえばそうだった。リッカと戦う辺りからすっかり忘れていたな。

 

「それで、出発は……」

「わかりました。すぐに出発できます」

 

 

いろいろ気になることはあるが、まずはこの爺さんとの約束を果たすのが先だ。

 

「ありがとうございます!すでに馬車の準備はできておりますので!」

 

爺さんは小走りで控室の扉を開け、俺たちを外へ促す。

 

「王都……か」

 

一体爺さんの主人がどういう理由で俺たちを必要とするのか、そしてそれが俺たちに出来ることなのか、まだ全貌は分からないが、王都に行くということは何か俺たちの運命を変える。何故か、そんな気がした。

 

 

 


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