ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
ライア達が出発してから20分後、リムロ街の外れにある廃工場、レイモンドのアジトではきらびやかな玉座の様な椅子に座るレイモンドと、その周りに集まるその部下たちが薄気味悪く笑っていた。
「ほらほら、リッカが戻ってくるに賭ける奴はこの箱の中に金を入れてくれ!」
「ばーか、あいつは戻ってこねえさ。可愛げのねえやつだがプライドだけは高いからな!つーわけで戻ってこないに賭けたほうが絶対にいいぜえ!」
「なぜ、リッカに猶予などお与えになったのですか?その場で殺してしまった方が良かったのでは?」
部下たちの賭博の様子を眺めながら笑みを崩さないレイモンドに、その右腕であるシェパードは問いかける。
「まあ、アイツ一人ならさっさとぶっ殺したさ。だが、一緒にいたこのお嬢ちゃんはいいえさになると思ってな」
レイモンドは玉座の左側に設置された鉄パイプで作られた牢屋を指差す。その中にはあの時人質としてつれさってきたシャルという少女がいた。
「出してよ~!助けてお兄ちゃ~ん!」
少女は鉄パイプをがたがたとゆすってもがき続けているが、少女の力で壊れるほど鉄パプもヤワじゃない。
「どういう意味ですか?」
少女の事はひとまず無視してシェパードは問い直す。
「おまえにゃ言って無かったが、リッカはガキが殺されることにたいして深いトラウマを持ってんだ。だからたとえ見ず知らずのガキと言えど自分のせいで殺されるとなりゃ助けようとするに決まってる。だからこそ、戻ってきたアイツの前でこのお嬢ちゃんを痛めつけるのさ」
「なるほど、リッカのトラウマをえぐり絶望の淵に追いやってから処刑するということですね」
「そういうことだ。そして、このお嬢ちゃんはもう一つ……」
レイモンドの言葉を遮るようにがたがたと扉が開かれ、部下の一人が息を切らして入ってきた。
「大変ですボス!リッカが戻ってきました!あと、謎の男も一緒です!」
「謎の男?」
シェパードは首をかしげる。
「お兄ちゃん……。お兄ちゃんだ!助けに来てくれたんだ!」
少女が嬉しそうに叫ぶ。それはさっきまでの恐怖と怒りに満ちた表情ではなく希望と喜びに満ちた表情へと変わっていた。
「ばかだなあお嬢ちゃん。あの小僧は俺の斬撃をもろに食らったんだ。死んで無くても少なくともここまで来る力は残ってねえだろうぜ」
「うっさい!くそじじい!お兄ちゃんはあんなへなちょこな攻撃ぜんぜん効かないんだから!」
レイモンドはそれには特に返事をせずにゆっくりと玉座から立ち上がる。
「野郎ども!獲物はたったふたりだ!さっさとつかまえて俺のところに連れてくるんだ!」
「へい!ボス!」
部下たちは勢いよく返事をすると入口へと走っていった。
「私も行きましょうか?」
「いいやシェパード、お前はここで俺と待機だ。そもそもお前が行ったらあっという間に終わっちまうだろ?リッカにはじわじわと死んでもらうんだからよぉ」
「わかりました。では、お茶でも淹れましょう」
***
「はああああああ!」
「ぐへえっ!」
また一人、これで何人目だろうか。レイモンドのアジトにたどり着いた俺たちを待っていたのは奴の部下たちだった。数を見るとざっと100人はいるだろうか。当然奴らとの戦闘になったわけだが、もう既に数十人がリッカの前に倒れている。
それはリッカのブーツにはめ込まれた魔法石による風をまとった蹴りの成せる技だった。
俺はというと、それを呆気にとられて見ることしかできなかった。初めて目の前で見る魔法をつかった戦闘。それは本を読んで想定していた物より遥かに激しい物だった。
「このままじゃ埒があかないわね……」
リッカの言葉ももっともだ。ここで律義に全員倒していてはタイムリミットの日没があっという間に来てしまう。
「ライア!つかまって!」
リッカが俺に向かって手を差し伸べる。おい、またか。
躊躇いつつもリッカの手につかまる。それと同時にリッカは風の魔法を最大出力で発動し俺たちは空へと舞い上がる。
……正直、かなり酔いそうだ。むしろここに来るまでに一回吐きそうになったくらいだ。そもそも自分の意思で魔法をコントロールしているリッカと違って俺には風の吹く向きも強さも、それによってどう移動するのかも全く分からないのだから。
それはともかく、手下たちの上空から3階の窓をけやぶって廃工場に侵入する。今見た感じだとこの廃工場は5階建てのようだ。おそらくレイモンドがいるのもそこだろう。
「ほら、いくわよ!」
リッカが俺の前を走って先導する。
「お前、やたらと強いんだな」
走りながらリッカにそんな話を持ちかける。
「言っとくけどわたし、今このアジトにいる人の中で2番目に強いから」
2番、と言う事はレイモンドに次いで組織のナンバー2だったということだろうか。
「あくまで人のなかでね」
「その言い方だとこの組織には人以外の種族もいるってことか?」
リッカは頷く。
「シェパードって言うエルフがいてね。わたしの風の魔法石はそいつが持ってきたエルフ産なの」
エルフ。かつての種族間抗争の中で高度に発展した知能と技術で戦場をまさに風のように吹き荒らしたと以前読んだ本には書いてあった。そして、今はなき勇者一族と一番最初に友好関係を結んだのもエルフだったらしい。
「それじゃあお前の魔法に関しちゃ向こうは完全に把握済みってことか?」
「そうなるわね。でも、打開策が無いわけじゃない。それが、これ」
リッカはベルトに差したナイフを指差す。
「あんたは魔法について詳しいみたいだから分かるだろうけど、風の魔法は火の魔法と相性が悪い。だから、このナイフを上手く使えばシェパードの魔法には対抗できるってわけ」
理屈的にはそれで正しい。だがこの場合問題なのは2つ。シェパードの力量が不明なことと、おそらくはレイモンドとも同時に戦うことになるだろうということ。こちらはリッカしか戦う力がない。手下ならまだしもボスとその右腕相手に2対一は厳しい。となれば。
「リッカ、そのナイフ俺に貸してくれ」
「え?」
「俺も戦う。そのための武器として貸してくれ」
「いや、でもアンタに渡したって……」
「戦力として不足なのは重々承知してる。でも、一応敵を2分することはできる。俺がシェパードってやつの気を引いているうちにまずはレイモンドを倒すんだ」
「アンタ……シェパードと戦って生きていられると本気で思ってる?」
「知るかそんなこと。俺はただより勝ちに近い方法を求めているだけだ」
「はあ……。頭が良いんだか悪いんだか……」
リッカはやれやれと言わんばかりに頭に手を当てるが、すぐに俺の方に視線をむける。
「分かった。アンタの作戦に乗るわ。そのかわり、絶対に死ぬんじゃないわよ」
「ただの農民に期待すんなって」
走っていた廊下の付きあたりに階段が見える。あの上に恐らくレイモンドがいる。そしてシャルも。
――俺は、絶対に取り戻して見せる。
「……!」
階段を上り切り目の前の扉を勢いよくけ破った俺たちの眼前に広がっていたのは、玉座に座るレイモンド、その横に立つシルクハットをかぶったエルフ。
そして
血を流して床に倒れ伏すシャル。
そんな光景だった。